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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と
30、友人は面倒な男の護衛対象(エリオット視点)
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『はじめまして。僕、ラニ。お友達になってくれたら嬉しいなっ!』
第一印象は男なのに人形みたいに綺麗な奴。
だけど、人形みたいな冷たさはなく、子犬のように人懐っこく、ころころ表情の変わり面白い。
ラニと仲良くなったのはたまたま隣の席だったから。
興味津々にあっちから楽しそうに話してくるんで親友になるにはあまり時間はかかんなかった。
アイツがモアナ王国の王子と分かった今でも、変わらず親友で王子と分かったからってこの先、アイツへの扱いを変える気は一切ない。
周囲も王子と分かった最初は扱いに困ったものの本人が王子然としない為、結局は同じ扱いなので変えなくても怒られる筋合いもない。
だが、それでも、やっぱ、ラニは王子なんだな…と、崖から落ち、ボロボロになったラニを見て思った。
絶対に守らなきゃいけない相手なんだと。
そして、なにより、俺が心底関わりたくない面倒臭い男の大切な護衛対象であるって事を。
「剣を取って先輩。まだやれますよね?」
地に這いつくばる北方騎士団の先輩方相手にそう笑顔で立てと催促する鬼畜を見て、切にそう思い直した。
ー 面ッ倒臭せぇ…
鬱蒼と木々が生い茂る森ん中。
何故、北方騎士団の先輩方が地に這いつくばる羽目になっているのかを端的に言えば、2年と4年の合同演習の山賊役だから。
もっと細かく言えば、2年が山賊に襲われた商隊役として4年の授業を見学。4年は剣の実戦演習として襲われた俺達を守る役。
「きゃー。先輩、カッコいい!!」
「シルビオ様ぁー」
淡々と4年の指示を取り、華麗に北方騎士団(山賊)を倒していく姿は男でも惚れ惚れする程、カッコ良く。野朗しかいないのに黄色い声援が上がる。
しかし、俺からしたら北方騎士団の先輩方が気の毒でしょうがない。
表向きは授業の一環。
しかし、実際は未来の騎士団長による北方騎士団の扱き直し。
要は北方騎士団の管轄であった別館の敷地内に狼藉者を侵入させた事への制裁。
そして、盛大な八つ当たりでもある。
ー 面倒ッ臭!!
思わず顰めそうになる顔を必死に無表情に整えて、巻き添えにならないようにルトゥフをケニーの背後に隠す。
シルビオ先輩は荒れている。
表面は涼しい顔して、実際は無茶苦茶憤ってる。
勘弁してくれと溜息をつき、荒れている原因であるラニが崖から落ちた日の事を思い起こす。
「どうしてここにファルハ人が…」
消えたエレンとかいう先輩に続き、エレンを待つと残ったラニまで失踪し、大捜索が始まった中、最初に見つけたのはファルハ人だった。
気を失い、木に縛られているファルハ人の一行を見つけた時は流石のシルビオ先輩の顔も青くなり、フィルバート殿下なんかはまっ青通り越して土色になっていた。
「まさかッ! ラニはファルハ人に…」
「落ち着いて、殿下」
「………」
「待て待てシルビオ先輩ッ。無言で剣持ってどこ行く気っすか!?」
「…ファルハの残党を探すに決まってる。お前はルトゥフ王子を連れて来い」
「時期尚早っすよ。探すんならラニにしてください」
完全に殺意だけで走り出そうとするシルビオ先輩の腕を掴んで、なんとか引き留めて。今にも倒れそうなフィルバート殿下の身体を支える。
「いいっすか。ここ見て。ここッ!!」
いつに無く冷静さを欠くシルビオ先輩にヤベェと思いながら、視線で昏倒してるファルハ人達の首を見ろと必死こいて伝える。
すると一瞬、俺を忌々しそうに見たが、ファルハ人の首を見ると冷静さが帰ってきた。
「……全員、首に紐で締められたような痕があるな」
「そうっすよ。そう! 結構な手練れが狼藉者のファルハ人を相手にして、態々、俺達が捕らえやすいようにここに括ってくれたって事っしょ? …そんな相手が狼藉者のファルハ人の仲間を逃すと思うっすか?」
「つまり、ファルハ人に拐われた可能性は低い…という事か」
「そうっ!」
「……その手練れがファルハ人で目標手前で仲間割れの線もあると思うけど?」
「………冷静でも面倒臭い」
「なんか言った?」
「いえ、空耳っすよ」
俺は絶対、ラニはファルハ人に拐われた線は薄いと思う。
誰か分かんないけど、おそらく、その手練れは味方だと思う。
だって、俺達に見つかりやすい所にファルハ人括り付けてあったしな!!
だが、真っ向から意見が食い違う。
基本、俺とこの人は相性が悪い。
俺もこの人が嫌いだが、おそらく、この人も俺が嫌いだ。
お互いに睨み合い(俺が負け気味)、どう動くべきか考えている時。
ふと、歌声が聞こえた。
不思議なメロディを奏でるその歌声はまるで湧き出たばかりの清水のように汚れがなく、澄んでいて、聞いていると耳が心地いい。
その歌声を聞き、殿下が「エレン…」と呟いた。
まるで、その歌に吸い寄せられるように殿下は道に綺麗に並ぶモッフモフな木々を掻き分け、進んでいく。
「うわっ!?」という殿下の驚きの声に慌てて睨み合うのをやめ、殿下の元に向かうとモッフモフな木の奥は崖だった。
「あんな所に柵が浮いてる。…雨で崩れたのか」
支えていた筈の地面が崩れ、宙に浮く柵を見て、殿下がそっと崖から距離を取る。
シルビオ先輩は殿下が落ちないように自身の後ろに下げ、崖の下を覗く。
歌声は崖の下から聞こえる。
シルビオ先輩は冷静に近くにいた騎士の1人にエレンという先輩を救助するようにと指示を出し、ぐしゃりっと自身の前髪を掴み、溜息をついた。
「エレンは見つかったけど、そうなるとラニは何処に…」
余裕のない紫紺の瞳が揺らぐ。
何時もは何でもかんでも余裕でこなし、自身のやる事に絶対の自信を持つシルビオ先輩。
そんな人がここまで動揺する。
この状況に、その心許ない姿にザワリッと不安が掻き立てられる。
ー ラニ。お前、無事だよな…
俺がごく庶民的な遊びを持ち出す度に、キラキラとあの深海色の瞳を輝かせて。満面の笑みを浮かべる友人の姿が浮かび、あの時間が壊れる恐怖が胸に走る。
「♩♬~…。♬♬♩~」
不意に恐怖に染まる胸にふわりと歌が響く。
その歌は先程の透き通るようなエレンの歌よりも少し低く豊かで不安が広がる心の奥底まで響く。
エレンが歌っていた歌とメロディは似ているのに、まるで暗闇の中で見つけた光のように「きっと、大丈夫だ」と思わせてくれるような不思議な歌。
今にも途切れそうな歌声で歌っているのに心強く響くその歌に歌になんて興味がない俺でも心惹かれる。
「…ッ。あの阿呆。心配掛けて」
さっきまで今にも倒れそうな程、憔悴しきっていたのに、その歌を聞いた瞬間、殿下はそう悪態をつくと、少し広角を上げた。
「俺達も崖の下に降りるぞ。説教だ。説教!!」
歌を聞いて急に元気になった殿下に困惑しながら崖の下に向かうと、案の定、エレンという先輩が崩れたのか土砂の上で座っていた。
第一印象は男なのに人形みたいに綺麗な奴。
だけど、人形みたいな冷たさはなく、子犬のように人懐っこく、ころころ表情の変わり面白い。
ラニと仲良くなったのはたまたま隣の席だったから。
興味津々にあっちから楽しそうに話してくるんで親友になるにはあまり時間はかかんなかった。
アイツがモアナ王国の王子と分かった今でも、変わらず親友で王子と分かったからってこの先、アイツへの扱いを変える気は一切ない。
周囲も王子と分かった最初は扱いに困ったものの本人が王子然としない為、結局は同じ扱いなので変えなくても怒られる筋合いもない。
だが、それでも、やっぱ、ラニは王子なんだな…と、崖から落ち、ボロボロになったラニを見て思った。
絶対に守らなきゃいけない相手なんだと。
そして、なにより、俺が心底関わりたくない面倒臭い男の大切な護衛対象であるって事を。
「剣を取って先輩。まだやれますよね?」
地に這いつくばる北方騎士団の先輩方相手にそう笑顔で立てと催促する鬼畜を見て、切にそう思い直した。
ー 面ッ倒臭せぇ…
鬱蒼と木々が生い茂る森ん中。
何故、北方騎士団の先輩方が地に這いつくばる羽目になっているのかを端的に言えば、2年と4年の合同演習の山賊役だから。
もっと細かく言えば、2年が山賊に襲われた商隊役として4年の授業を見学。4年は剣の実戦演習として襲われた俺達を守る役。
「きゃー。先輩、カッコいい!!」
「シルビオ様ぁー」
淡々と4年の指示を取り、華麗に北方騎士団(山賊)を倒していく姿は男でも惚れ惚れする程、カッコ良く。野朗しかいないのに黄色い声援が上がる。
しかし、俺からしたら北方騎士団の先輩方が気の毒でしょうがない。
表向きは授業の一環。
しかし、実際は未来の騎士団長による北方騎士団の扱き直し。
要は北方騎士団の管轄であった別館の敷地内に狼藉者を侵入させた事への制裁。
そして、盛大な八つ当たりでもある。
ー 面倒ッ臭!!
思わず顰めそうになる顔を必死に無表情に整えて、巻き添えにならないようにルトゥフをケニーの背後に隠す。
シルビオ先輩は荒れている。
表面は涼しい顔して、実際は無茶苦茶憤ってる。
勘弁してくれと溜息をつき、荒れている原因であるラニが崖から落ちた日の事を思い起こす。
「どうしてここにファルハ人が…」
消えたエレンとかいう先輩に続き、エレンを待つと残ったラニまで失踪し、大捜索が始まった中、最初に見つけたのはファルハ人だった。
気を失い、木に縛られているファルハ人の一行を見つけた時は流石のシルビオ先輩の顔も青くなり、フィルバート殿下なんかはまっ青通り越して土色になっていた。
「まさかッ! ラニはファルハ人に…」
「落ち着いて、殿下」
「………」
「待て待てシルビオ先輩ッ。無言で剣持ってどこ行く気っすか!?」
「…ファルハの残党を探すに決まってる。お前はルトゥフ王子を連れて来い」
「時期尚早っすよ。探すんならラニにしてください」
完全に殺意だけで走り出そうとするシルビオ先輩の腕を掴んで、なんとか引き留めて。今にも倒れそうなフィルバート殿下の身体を支える。
「いいっすか。ここ見て。ここッ!!」
いつに無く冷静さを欠くシルビオ先輩にヤベェと思いながら、視線で昏倒してるファルハ人達の首を見ろと必死こいて伝える。
すると一瞬、俺を忌々しそうに見たが、ファルハ人の首を見ると冷静さが帰ってきた。
「……全員、首に紐で締められたような痕があるな」
「そうっすよ。そう! 結構な手練れが狼藉者のファルハ人を相手にして、態々、俺達が捕らえやすいようにここに括ってくれたって事っしょ? …そんな相手が狼藉者のファルハ人の仲間を逃すと思うっすか?」
「つまり、ファルハ人に拐われた可能性は低い…という事か」
「そうっ!」
「……その手練れがファルハ人で目標手前で仲間割れの線もあると思うけど?」
「………冷静でも面倒臭い」
「なんか言った?」
「いえ、空耳っすよ」
俺は絶対、ラニはファルハ人に拐われた線は薄いと思う。
誰か分かんないけど、おそらく、その手練れは味方だと思う。
だって、俺達に見つかりやすい所にファルハ人括り付けてあったしな!!
だが、真っ向から意見が食い違う。
基本、俺とこの人は相性が悪い。
俺もこの人が嫌いだが、おそらく、この人も俺が嫌いだ。
お互いに睨み合い(俺が負け気味)、どう動くべきか考えている時。
ふと、歌声が聞こえた。
不思議なメロディを奏でるその歌声はまるで湧き出たばかりの清水のように汚れがなく、澄んでいて、聞いていると耳が心地いい。
その歌声を聞き、殿下が「エレン…」と呟いた。
まるで、その歌に吸い寄せられるように殿下は道に綺麗に並ぶモッフモフな木々を掻き分け、進んでいく。
「うわっ!?」という殿下の驚きの声に慌てて睨み合うのをやめ、殿下の元に向かうとモッフモフな木の奥は崖だった。
「あんな所に柵が浮いてる。…雨で崩れたのか」
支えていた筈の地面が崩れ、宙に浮く柵を見て、殿下がそっと崖から距離を取る。
シルビオ先輩は殿下が落ちないように自身の後ろに下げ、崖の下を覗く。
歌声は崖の下から聞こえる。
シルビオ先輩は冷静に近くにいた騎士の1人にエレンという先輩を救助するようにと指示を出し、ぐしゃりっと自身の前髪を掴み、溜息をついた。
「エレンは見つかったけど、そうなるとラニは何処に…」
余裕のない紫紺の瞳が揺らぐ。
何時もは何でもかんでも余裕でこなし、自身のやる事に絶対の自信を持つシルビオ先輩。
そんな人がここまで動揺する。
この状況に、その心許ない姿にザワリッと不安が掻き立てられる。
ー ラニ。お前、無事だよな…
俺がごく庶民的な遊びを持ち出す度に、キラキラとあの深海色の瞳を輝かせて。満面の笑みを浮かべる友人の姿が浮かび、あの時間が壊れる恐怖が胸に走る。
「♩♬~…。♬♬♩~」
不意に恐怖に染まる胸にふわりと歌が響く。
その歌は先程の透き通るようなエレンの歌よりも少し低く豊かで不安が広がる心の奥底まで響く。
エレンが歌っていた歌とメロディは似ているのに、まるで暗闇の中で見つけた光のように「きっと、大丈夫だ」と思わせてくれるような不思議な歌。
今にも途切れそうな歌声で歌っているのに心強く響くその歌に歌になんて興味がない俺でも心惹かれる。
「…ッ。あの阿呆。心配掛けて」
さっきまで今にも倒れそうな程、憔悴しきっていたのに、その歌を聞いた瞬間、殿下はそう悪態をつくと、少し広角を上げた。
「俺達も崖の下に降りるぞ。説教だ。説教!!」
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