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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と
33、療養って暇だね!
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怪我人ってなんて暇だろう。
そろそろ寝るのも飽きて、後2日で学外実習が終わりを迎える中、暇な僕はパタパタと意味もなく、ソファーの上で足を動かす。
そんな姿に苦笑しながらライモンド先生はその整えられた綺麗な手でピアノの白い鍵盤を打つ。
次に音楽隊で使う譜面の確認作業で弾いている筈なのに、ピアノを弾く姿とその音に色気を感じるのはおそらく、暇な僕の為だろう。
僕の為に全力で弾いてくれてるのだ。
今だって、少しでも気分転換になるようにと僕をベットから連れ出してくれている。
授業が終わり、みんなが来るまでやる事がない僕がついにテディベアのジェシルと対話し始めてしまったが故に気を遣って。
美しい調べに自然とフンフンッと鼻歌を乗せ、部屋から持ってきたジェシルとソファに寝転がる。
本当は歌詞を知っている曲だったから、歌いたくてムズムズしてる。
でも、やっぱり、歌うのが怖くて鼻歌で我慢した。
そんな僕を時折、調べを奏でるライモンド先生の夕陽色の瞳が映した。
僕を見つめるその表情は少し嬉しそうに微笑んでいるのに何処か寂しそうで胸がつきりと少し痛んだ。
「あら。ここの音おかしいわね」
ふと、調べが止み、ライモンド先生が鍵盤の一つを何度も弾きながら首を傾げた。
確かにその鍵盤が奏でる音だけ少しぼやけてる。
ライモンド先生はピアノの中を覗き、「あら。やっぱり」と呟いた。
「どうしたの?」
「ピアノが音を奏でる為に重要な弦が弛んでるのよ。…張り直して、調律しなきゃダメね。学園から工具、持って来てたかしら?」
「え? 先生、ピアノ直せるの? 直してるとこ、見たいっ!」
「いいわよ。…ただ転けないようにね?」
椅子から立ち上がり、僕の前まだ来るとライモンド先生はにっこりと僕に手を差し伸べた。
その手を取ると腰にするりとライモンド先生の腕が周り、僕が歩くのを補助する。
ピアノの長椅子に僕を座らせ、工具を手にするとピッタリと寄り添うように僕の隣に腰を下ろした。
蓋を開けられたピアノの中は銀色の線がまるでハープのように張り巡らされていた。
銀色の線はピアノ線と言って、金属で出来ているんだって。
鍵盤を弾くとこのピンっと張られたピアノ線が中のハンマーで叩かれ振動して、なんだかんだあって音が出るらしい。
なんだか良く分からないけど、凄いね!
ライモンド先生は中腰で弦の弛みを締め直すと、見た事のない不思議な道具を取り出して、ピアノの中のピンに当てる。
「ラニちゃん。そこの鍵盤、弾いて」
「これ?」
「もう少し右」
ライモンド先生の左手が僕の右手に重なり、誘導する。
すべすべで指一本一本が細く、綺麗なのにその手は僕より二回り大きい。
重なった大きいその手に包まれて、温かくてちょっと幸せだなと思っていると僕の指が鍵盤を弾いた。
「そう。上手。そのまま続けて」
ピアノに向けられる、いつになく真剣な眼差しは、男らしくてカッコ良く見える。
思わず、じっと見ていると僕の手に重なってた左手が僕の腰を掴み、さっきよりも身体が密着する。
ラベンダーの香りがする。
とても心地良いライモンド先生の匂い。
じんわりと伝わるライモンド先生の体温の規律よく脈打つ鼓動に目を細め、ポスンッとライモンド先生に頭を預けた。
「……ライモンド教授。失礼して。いいか?」
意識が夢の世界に傾いた瞬間。
突如、聞こえた声にビクリッと身を起こし、振り向く。
すると、扉の所でジェルマンが立っており、眉間に皺を寄せ、こちらを見ている。
「あら。何かようかしら?」
「こちらにラニ王子が。いらっしゃると聞き。お見舞いに。……ノックは一応。しましたが」
「あらら、ごめんなさい。調律に集中して聞こえていなかったわ」
「いえ。俺も。邪魔をしてしまったようで」
丁寧にライモンド先生の質問に答え、邪魔してしまった事への謝罪も口にしているというのにその表情は険しい。
しかし、ふと僕がさっきまで座っていたソファを見ると、眉間の皺が和らぎ、口元が少し緩んだ。
「ジェシルも居るのか」
優しい眼差しをソファにぽてんっと座るジェシルに向けるジェルマンに、本当にテディベアが好きなんだなと、思わず笑みを溢す。
「うん。だって、部屋で1人は寂しいでしょ?」
「そうだな。…良かったな。ジェシル」
ジェシルの頭を武骨な手でポンポンっと撫でる。
ジェシルの頭を撫でると、ジェルマンは僕の前まで来て、膝をついた。
「別れた後。崖から落ちたと人伝に聞いた。怪我の具合はどうだろうか?」
「良くなってきてるってお医者さんは言ってたよ」
「そうか。それは。本当に良かった」
ほんの少しだけ広角が上がり、僕の回復をジェルマンが喜んでくれている事が、ほとんど無表情だが、分かる。
「触れても?」
「は、はい?」
突如、ジェルマンに問われて、何をという意味で「はい?」と答えた。
しかし、やっぱり、それを了承に取られて、ジェルマンの手が頰に触れた。
頰に触れた手はやがて、痛ましげに包帯の巻かれた頭に触れた。
「崖から落ちたと。聞いた時。生きた心地がしなかった」
悲哀の混じった翡翠の瞳がこちらを見上げる。
その苦しそうな姿に心配かけてしまった事を申し訳なく思い、ライモンド先生の支えのもと、ジェルマンに向き直る。
「心配掛けて、御免なさい」
「いや。謝らないでくれ。貴方が無事なら俺は」
少し震えた声。
無表情だけど僕の無事を心の底から喜んでくれているジェルマンにありがとうの意味を込めて、微笑む。
「うん。心配してくれて、ありがとう」
僕の笑みにつられたのか、ジェルマンはとても頰を染め、ふわりと優しい笑みを浮かべた。
ジェルマンの話によると、僕が崖から落ちた事は箝口令が敷かれているそう。
肝試し以降、僕を見掛けなくなって心配して僕の護衛も兼ねているシルビオに僕の所在を聞いたそう。だが、教えてもらえず、もう1人の護衛のエリオットに詰め寄ったら曝露したらしい。エリオット……。
ジェルマンは終始、僕の怪我を気遣い、長居はしなかった。明日、お見舞いに来る時はお菓子を差し入れてくれると約束してくれたんだ。出来る大人だね。
「最後に一つだけいいか?」
「なに?」
「ラニ王子は。療養中であっても。お洒落を忘れないのだな。素敵だ」
「え…、は? おしゃれ??」
「そのロバ耳のアクセサリー。俺はとてもいいと思う。……アクセサリーではないのか?」
「「…………」」
「あ。あー。そ、そうね! とっても似合ってるわよね。ロバ耳のアクセサリー!!」
「あー! …あはは。アリガトー、このロバ耳のアクセサリーはとってもオキニイリナンダ」
最後にロバ耳がバレそうになる珍事はあったけど。
まー、大丈夫だよね??
だ、大丈夫だよね!?
そろそろ寝るのも飽きて、後2日で学外実習が終わりを迎える中、暇な僕はパタパタと意味もなく、ソファーの上で足を動かす。
そんな姿に苦笑しながらライモンド先生はその整えられた綺麗な手でピアノの白い鍵盤を打つ。
次に音楽隊で使う譜面の確認作業で弾いている筈なのに、ピアノを弾く姿とその音に色気を感じるのはおそらく、暇な僕の為だろう。
僕の為に全力で弾いてくれてるのだ。
今だって、少しでも気分転換になるようにと僕をベットから連れ出してくれている。
授業が終わり、みんなが来るまでやる事がない僕がついにテディベアのジェシルと対話し始めてしまったが故に気を遣って。
美しい調べに自然とフンフンッと鼻歌を乗せ、部屋から持ってきたジェシルとソファに寝転がる。
本当は歌詞を知っている曲だったから、歌いたくてムズムズしてる。
でも、やっぱり、歌うのが怖くて鼻歌で我慢した。
そんな僕を時折、調べを奏でるライモンド先生の夕陽色の瞳が映した。
僕を見つめるその表情は少し嬉しそうに微笑んでいるのに何処か寂しそうで胸がつきりと少し痛んだ。
「あら。ここの音おかしいわね」
ふと、調べが止み、ライモンド先生が鍵盤の一つを何度も弾きながら首を傾げた。
確かにその鍵盤が奏でる音だけ少しぼやけてる。
ライモンド先生はピアノの中を覗き、「あら。やっぱり」と呟いた。
「どうしたの?」
「ピアノが音を奏でる為に重要な弦が弛んでるのよ。…張り直して、調律しなきゃダメね。学園から工具、持って来てたかしら?」
「え? 先生、ピアノ直せるの? 直してるとこ、見たいっ!」
「いいわよ。…ただ転けないようにね?」
椅子から立ち上がり、僕の前まだ来るとライモンド先生はにっこりと僕に手を差し伸べた。
その手を取ると腰にするりとライモンド先生の腕が周り、僕が歩くのを補助する。
ピアノの長椅子に僕を座らせ、工具を手にするとピッタリと寄り添うように僕の隣に腰を下ろした。
蓋を開けられたピアノの中は銀色の線がまるでハープのように張り巡らされていた。
銀色の線はピアノ線と言って、金属で出来ているんだって。
鍵盤を弾くとこのピンっと張られたピアノ線が中のハンマーで叩かれ振動して、なんだかんだあって音が出るらしい。
なんだか良く分からないけど、凄いね!
ライモンド先生は中腰で弦の弛みを締め直すと、見た事のない不思議な道具を取り出して、ピアノの中のピンに当てる。
「ラニちゃん。そこの鍵盤、弾いて」
「これ?」
「もう少し右」
ライモンド先生の左手が僕の右手に重なり、誘導する。
すべすべで指一本一本が細く、綺麗なのにその手は僕より二回り大きい。
重なった大きいその手に包まれて、温かくてちょっと幸せだなと思っていると僕の指が鍵盤を弾いた。
「そう。上手。そのまま続けて」
ピアノに向けられる、いつになく真剣な眼差しは、男らしくてカッコ良く見える。
思わず、じっと見ていると僕の手に重なってた左手が僕の腰を掴み、さっきよりも身体が密着する。
ラベンダーの香りがする。
とても心地良いライモンド先生の匂い。
じんわりと伝わるライモンド先生の体温の規律よく脈打つ鼓動に目を細め、ポスンッとライモンド先生に頭を預けた。
「……ライモンド教授。失礼して。いいか?」
意識が夢の世界に傾いた瞬間。
突如、聞こえた声にビクリッと身を起こし、振り向く。
すると、扉の所でジェルマンが立っており、眉間に皺を寄せ、こちらを見ている。
「あら。何かようかしら?」
「こちらにラニ王子が。いらっしゃると聞き。お見舞いに。……ノックは一応。しましたが」
「あらら、ごめんなさい。調律に集中して聞こえていなかったわ」
「いえ。俺も。邪魔をしてしまったようで」
丁寧にライモンド先生の質問に答え、邪魔してしまった事への謝罪も口にしているというのにその表情は険しい。
しかし、ふと僕がさっきまで座っていたソファを見ると、眉間の皺が和らぎ、口元が少し緩んだ。
「ジェシルも居るのか」
優しい眼差しをソファにぽてんっと座るジェシルに向けるジェルマンに、本当にテディベアが好きなんだなと、思わず笑みを溢す。
「うん。だって、部屋で1人は寂しいでしょ?」
「そうだな。…良かったな。ジェシル」
ジェシルの頭を武骨な手でポンポンっと撫でる。
ジェシルの頭を撫でると、ジェルマンは僕の前まで来て、膝をついた。
「別れた後。崖から落ちたと人伝に聞いた。怪我の具合はどうだろうか?」
「良くなってきてるってお医者さんは言ってたよ」
「そうか。それは。本当に良かった」
ほんの少しだけ広角が上がり、僕の回復をジェルマンが喜んでくれている事が、ほとんど無表情だが、分かる。
「触れても?」
「は、はい?」
突如、ジェルマンに問われて、何をという意味で「はい?」と答えた。
しかし、やっぱり、それを了承に取られて、ジェルマンの手が頰に触れた。
頰に触れた手はやがて、痛ましげに包帯の巻かれた頭に触れた。
「崖から落ちたと。聞いた時。生きた心地がしなかった」
悲哀の混じった翡翠の瞳がこちらを見上げる。
その苦しそうな姿に心配かけてしまった事を申し訳なく思い、ライモンド先生の支えのもと、ジェルマンに向き直る。
「心配掛けて、御免なさい」
「いや。謝らないでくれ。貴方が無事なら俺は」
少し震えた声。
無表情だけど僕の無事を心の底から喜んでくれているジェルマンにありがとうの意味を込めて、微笑む。
「うん。心配してくれて、ありがとう」
僕の笑みにつられたのか、ジェルマンはとても頰を染め、ふわりと優しい笑みを浮かべた。
ジェルマンの話によると、僕が崖から落ちた事は箝口令が敷かれているそう。
肝試し以降、僕を見掛けなくなって心配して僕の護衛も兼ねているシルビオに僕の所在を聞いたそう。だが、教えてもらえず、もう1人の護衛のエリオットに詰め寄ったら曝露したらしい。エリオット……。
ジェルマンは終始、僕の怪我を気遣い、長居はしなかった。明日、お見舞いに来る時はお菓子を差し入れてくれると約束してくれたんだ。出来る大人だね。
「最後に一つだけいいか?」
「なに?」
「ラニ王子は。療養中であっても。お洒落を忘れないのだな。素敵だ」
「え…、は? おしゃれ??」
「そのロバ耳のアクセサリー。俺はとてもいいと思う。……アクセサリーではないのか?」
「「…………」」
「あ。あー。そ、そうね! とっても似合ってるわよね。ロバ耳のアクセサリー!!」
「あー! …あはは。アリガトー、このロバ耳のアクセサリーはとってもオキニイリナンダ」
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だ、大丈夫だよね!?
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