王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

42、その信頼が揺らぐ事はない

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      ※※  注意  ※※

後半。残酷な表現あり。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……なん…で…。なんでそんな事言うのっ?」

言われた言葉の意味が理解出来ず、やっと絞り出した言葉には怒りが滲んでいた。

「ライモンド先生は攻略対象でしょ? ライモンド先生はエレンの味方だよ。そりゃ、ちょっとセクハラ紛いな所もあるけど、ライモンド先生はいい先生だよッ! そんな…、危険人物みたいにッ」

「ラニ氏…」

「頼りになる先生で。音楽の先生として優秀だから学長からも信頼されてて…」

「ラニ氏ッ!」

ガッと痛い程肩を掴まれ、グルグル眼鏡先輩は目を覚ませと大きく身体を揺さぶられる。
キッと睨むが、グルグル眼鏡先輩は動じない。

「それは表向きに作られた仮初の姿なのです。確かにライモンド・クェーバは攻略対象の1人。ですが、暗い裏の姿を持っています」

「違うッ。違うよ…」

「ライモンド・クェーバは暗殺者です。人殺しで、潜伏する為の姿がライモンド・クェーバなのです」

なんて酷い事を言うんだろう。
だって、ライモンド先生はオネェで優しくて頼りになる大人で何時だって、僕を助けてくれる。

『大丈夫よ。もう大丈夫』

初めて出会った時に握ってくれたあの手の体温は今でも優しく記憶に残ってる。


「ライモンド先生は暗殺者なんかじゃない。ライモンド先生はライモンド先生だよ」

「貴方は騙されてるのです、ラニ氏。暗殺者は周囲を欺くもの…。辛くても現実を見てください。わたくしは貴方が死ぬのは見たくない」

怒りを押し込めて、なんとか理性で言葉を紡ぐ。
先輩は忠告してくれているんだ。
僕を心配して言ってくれてる。
だけど、やっぱり…。

「…ごめん、先輩。僕はそれだけは信じられない。僕は信じたい」

それでも僕は僕の知ってるライモンド先生を信じたい。
そう告げれば、頭を抱えて、グルグル眼鏡先輩はため息をついた。

「なら…。そこまで信じたいのならば、今日の晩、あの校舎の外れの古びた講堂に行きなさい。現実を見て、それでも信じると言うのなら、わたくしはもう止めません」

好きになさい…と、グルグル眼鏡先輩は呆れ顔で去っていく。
その姿を見送りながら胸の辺りをギュッと掴むと、ポンっと肩に手が置かれた。


「どーしたの、ラニラニ? 顔色が悪いよ」

何時の間にかに鍛錬を終えて、僕を迎えにきたシルビオが心配そうに僕の頰に触れる。

「……ちょっと、疲れただけ」

「そっか…。じゃー、もう、部屋に戻ろっか。…それと、ごめんね。俺、城に呼ばれたから、エリオットと交代したら明日の昼まで帰って来れないカモ」

「……うん」

「戻ろう」と差し出されたシルビオの手に手を重ねて、グルグル眼鏡先輩が去って行った方向を見る。
しかし、もう既にグルグル眼鏡先輩の姿はない。

ただ不安が纏わりつくように残り、その残した言葉が頭で何度も囁く。


『今日の晩』

今日の夜はシルビオはいない。

『あの校舎の外れの古びた講堂』

エリオットなら融通が効く。
きっと、この不安もすぐに拭い去れる。
きっと、また明日もライモンド先生の研究室で甘いココアを飲んで笑い合って…、それで……。



僕を部屋に送ったシルビオは何度も僕の様子を気にしつつも、緊急の用事だったようで走って行ってしまった。


「まー。学園内だし、いいんじゃね? 危ないのはナシな!」

エリオットは予想通り、シルビオと違ってすぐ了承してくれた。


「深夜から雨らしーから、降る前に早よ戻って来いよ」

「うん。ありがとう」



夜。すぐ帰るとエリオットに告げ、寮を抜け出す。

夜風は少し寒く、赤々と生い茂る葉に強く吹き付け、ハラリハラリと舞い落ちた葉が地面を赤く染めていく。

落ち葉の絨毯で赤く染まった地面を踏み締めて古びた講堂へと向かう足は重い。


「違う…。ライモンド先生はライモンド先生だ」

フッと息を吐き、今更行きたくないと駄々を捏ねる自身に苦笑する。

「偽りじゃないよ。例え、ライモンド先生がライモンド先生じゃなかったとしても、あの優しさは偽りじゃない」

だから例え、何があろうとも大丈夫。
気楽に行こう。
そう不安を全て息として追い出し、少し陰り始めた月夜を見上げた。


「あ"ぐっ……。ゔゔっ……」

雲間の月に照らされた古びた講堂の窓のステンドガラスが輝いている。
その美しいステンドガラスは一部、大きな黒い影に遮られ、描かれた女神様の姿は見えない。

黒い影は、やがて雲から出た月明かりに照らされて、もがき苦しむ人の姿へと変わった。

「ごがっ……」

その人は首の辺りを必死に掻き、暴れる。
宙に浮くその人…、彫りの深い顔の浅黒い肌の男の首には銀色の細い線が巻かれていて、その細い線は屋根の先端の天使の像にと巻かれてる。


「……そろそろ吐く気になったか? お前達のご主人様について」

そう誰かの声が聞こえた瞬間。
細い線が緩み、吊るされていた男の身体が地面に少し付く。
苦しげに上げる男のうめき声は幾重にも重なり、よく見れば、数人の男がその男と同様に木に吊るされていた。

「だずげて…」

「じらな"い"。なに"もじらな"い"」

「へぇ…。何も知らずに命に従ってたと?」

声が少し潰れ、必死に命乞いする男達は一点の闇を見つめる。
闇の中では双眼が怪しく光っている。

冷たく虫ケラを見るような目で男達をとらえるその双眼。

サラサラと紅茶色の髪が風に靡く。
靡いた髪を黒い革の手袋を抑え、その桜色の唇を歪めて嗤う。

「それは残念。知っていればその無駄な命にも価値が付いたのに」

クンッと地面についていた男達の身体が宙に舞う。
男達は銀色の線を取ろうともがいたが、やがてプツンッと糸の切れた人形のように動かなくなった。


強く夜風が吹いて動かなくなった男の身体が揺れる。
夕陽のように赤く美しい葉を夜風が散らしていく。

紅葉舞い散るの中、ふわりと紫煙が立ち昇る。

火をつけた煙草を桜色の唇で咥え、その夕陽色の瞳でどうでも良さそうに、動かなくなった男達はを映していた。

「ライ……モンド…先生?」

名を呼ばれて、こちらを見たライモンド先生の瞳は冷めているのに何処か獣のようにギラギラとして見えた。


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