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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と
46、しょうのない奴ら(フィルバート視点)
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あの後、結局、無理がたたってラニは寝込んだ。
やっと、健やかに寝息を立て始めたラニを侍女やエリオットに任せ、人気のない寮裏で夜風に当たる。
すると、何処からともなく現れたシルビオが俺の横に座る。
「こーゆー人気のない所は避けて欲しいナ。フィルっち」
「安心しろ。お前とゆっくり話したいからここで待ってただけだ」
「話し? まぁ、俺もしとかなきゃいけない話があるから構わないけど」
「……学園内で不法侵入のファルハ人が居たのだろ?」
シルビオの要件を言い当ててやると、シルビオは目を瞬かせた。
その反応に初めてシルビオより先に立てた気がして、少し優越感があった。
ラニの話ではライモンドはファルハ人を吊るし、拷問した上で命を刈り取ったらしい。
「それでそのファルハ人達は?」
「今は騎士団の屯所で意識が戻り次第、聴取を取る予定。そのファルハ人の首にはまた糸で絞められた後が…」
「ちょっと待て! 生きてるのか?」
「? 合宿の時と一緒で、分かりやすい場所に気絶したファルハ人達を括り付けててね。本当に何者なのか…」
「そうか…。そうか。良かったっ…」
ライモンドは決して命を奪ってはいなかった。
その事実にホッとして、肩に入っていた力が抜ける。
そんな俺を見て、少し納得いかなそうな顔を見せたが、ふっと息を吐くと肩をすくめて見せた。
「フィルっちは優しいネ。敵に心を砕く必要はないよ。……それに学園にまで侵入したとなると内部にもう裏切り者がいる可能性があるね。ヒモ使いも警戒……」
「そのヒモ使いに関しては心配いらない。そいつの正体は……」
ライモンドだと口にしか掛けて、ふと、ある事に気付く。
合宿の時とライモンドは誰よりも早くラニのピンチに駆け付けた。
ラニを捕まえようとしたファルハ人を気絶させて、ラニを助けた。
お祭りで拐われ掛けた時も、ラニが初めてレーヴ帝国に来て、変態に襲われ掛けた時も、ライモンドが助けた。
叔母上がラニにジェルマンとの婚約を迫った時でさえも。
ー 成る程な。そういう事か
全てがパズルのように綺麗にパチリとはまり、思わず笑ってしまう。
「フィルっち?」
「そのヒモ使いはラニの護衛だ。モアナが用意した…な。モアナに事実確認の書簡でも送って聞いてみろ。全く、あの国は報連相も出来ないのかっ!」
「あのモアナが護衛?」
「消える訳がない。ったく! きちんと説明すれば全てが丸く収まったものを。ライモンドめ」
人には『ラニの歩幅に合わせろ』と説教した癖に全くしょうがない。
全く説明しないモアナとアホなライモンドに腹立たしさを覚えたが、同時に心底安心した。
大丈夫だ、ラニ。
アイツはお前を置いて消えたりなどしない。
確かに表からは消えてしまったが、きっと今も近くにはいる。
心配事が一つ消えると心が一気に軽くなる。
そして、もう一度、全てを最初から考えるともう一つのしょうもない事実に気付いて、本当にどいつとこいつもしょうがないと笑いが止まらない。
しこたま笑う俺に困惑するこのアホな友人をビシッと指差し、きちんと分かるように宣言する。
「俺はラニと婚約しない」
「フィルっち? でも、それじゃあ、ラニラニは…」
「アイツを守る方法なんて幾らでもある。お前だって分かってる筈だ。分かってて、敢えて、その方法を選んだ。お前には都合がよかったんだろ?」
そう問えば、目を丸くして。
即座にシルビオは否定する。
「俺はフィルバート殿下の臣下として」
「そうだな。お前の言った事は全て本心で事実だ。それを疑ってはいない」
俺の為である事。
ラニを守る為である事。
国のためである事。
それは全て本心で、シルビオは正しい。
だが、ひとつだけ間違ってる。
「俺を使ってラニを留められたとして、お前は絶対に後悔する。絶対だ」
シルビオが言った事は全て本心。
勿論、ラニに帰って欲しくない事も。
『ラニラニは帰るよ。そして、会えなくなる。こうやって、一緒にいられる日々は終わる』
おそらく、あの言葉は俺に向けられた言葉ではない。
俺がラニに向ける愛情とシルビオがラニに向ける愛情は同じではない。
『んー。それでも俺は良いんだけど。多分持ち帰った方が喜ぶと思うんだよねー』
『……今何処に居る?ラニは居なくなった君を探す為にあの場所に残って崖から落ちる羽目になったんだよ? 早くして。エレンはラニを殺す気?』
恋人がいた時すら恋人のこの字すら仕事に持ち込まないコイツが、何時だって冷静なコイツが唯一心乱され、振り回される。
唯一俺よりも優先する相手。
「フィルバート殿下?」
「お前らしくもないな、シルビオ・カヴァリエーレ。留めたいならお前の実力で留まりたいと思わせろ」
本当にしょうのない。
本当にラニをこの国から出したくないのは、この日々が終わって欲しくないと願ってるのはお前なんだろ?シルビオ。
まだ何を言われているか分からないと言わんばかりの表情を浮かべる友人の背をバシッと叩く。
もう10年以上の仲なのに初めてシルビオが前ではなく隣に立ってる気がした。
皮肉にもそれが嬉しくて、ずっと自身の肩に重くのしかかっていたものがスッと溶けていく。
「まぁ、頑張れ。俺も頑張るからさ」
まだなぜ背を叩かれたのか困惑し、背をさするシルビオがコチラを見て目を見開く。
まるで置いて行かれた子供のような心許ない顔で手を伸ばしてくる。
変な奴だ。
別にサヨナラする訳でもないのに。
ただ俺はここ16年間のモヤモヤしていた感情が全てが吹っ切れて、笑っているだけだというのに。
俺はこれからも凡人のフィルバートとして、やれる事をがむしゃらにやるだけだ。
ラニの事もエレンの事も自身の将来の事も全て。
やっと、健やかに寝息を立て始めたラニを侍女やエリオットに任せ、人気のない寮裏で夜風に当たる。
すると、何処からともなく現れたシルビオが俺の横に座る。
「こーゆー人気のない所は避けて欲しいナ。フィルっち」
「安心しろ。お前とゆっくり話したいからここで待ってただけだ」
「話し? まぁ、俺もしとかなきゃいけない話があるから構わないけど」
「……学園内で不法侵入のファルハ人が居たのだろ?」
シルビオの要件を言い当ててやると、シルビオは目を瞬かせた。
その反応に初めてシルビオより先に立てた気がして、少し優越感があった。
ラニの話ではライモンドはファルハ人を吊るし、拷問した上で命を刈り取ったらしい。
「それでそのファルハ人達は?」
「今は騎士団の屯所で意識が戻り次第、聴取を取る予定。そのファルハ人の首にはまた糸で絞められた後が…」
「ちょっと待て! 生きてるのか?」
「? 合宿の時と一緒で、分かりやすい場所に気絶したファルハ人達を括り付けててね。本当に何者なのか…」
「そうか…。そうか。良かったっ…」
ライモンドは決して命を奪ってはいなかった。
その事実にホッとして、肩に入っていた力が抜ける。
そんな俺を見て、少し納得いかなそうな顔を見せたが、ふっと息を吐くと肩をすくめて見せた。
「フィルっちは優しいネ。敵に心を砕く必要はないよ。……それに学園にまで侵入したとなると内部にもう裏切り者がいる可能性があるね。ヒモ使いも警戒……」
「そのヒモ使いに関しては心配いらない。そいつの正体は……」
ライモンドだと口にしか掛けて、ふと、ある事に気付く。
合宿の時とライモンドは誰よりも早くラニのピンチに駆け付けた。
ラニを捕まえようとしたファルハ人を気絶させて、ラニを助けた。
お祭りで拐われ掛けた時も、ラニが初めてレーヴ帝国に来て、変態に襲われ掛けた時も、ライモンドが助けた。
叔母上がラニにジェルマンとの婚約を迫った時でさえも。
ー 成る程な。そういう事か
全てがパズルのように綺麗にパチリとはまり、思わず笑ってしまう。
「フィルっち?」
「そのヒモ使いはラニの護衛だ。モアナが用意した…な。モアナに事実確認の書簡でも送って聞いてみろ。全く、あの国は報連相も出来ないのかっ!」
「あのモアナが護衛?」
「消える訳がない。ったく! きちんと説明すれば全てが丸く収まったものを。ライモンドめ」
人には『ラニの歩幅に合わせろ』と説教した癖に全くしょうがない。
全く説明しないモアナとアホなライモンドに腹立たしさを覚えたが、同時に心底安心した。
大丈夫だ、ラニ。
アイツはお前を置いて消えたりなどしない。
確かに表からは消えてしまったが、きっと今も近くにはいる。
心配事が一つ消えると心が一気に軽くなる。
そして、もう一度、全てを最初から考えるともう一つのしょうもない事実に気付いて、本当にどいつとこいつもしょうがないと笑いが止まらない。
しこたま笑う俺に困惑するこのアホな友人をビシッと指差し、きちんと分かるように宣言する。
「俺はラニと婚約しない」
「フィルっち? でも、それじゃあ、ラニラニは…」
「アイツを守る方法なんて幾らでもある。お前だって分かってる筈だ。分かってて、敢えて、その方法を選んだ。お前には都合がよかったんだろ?」
そう問えば、目を丸くして。
即座にシルビオは否定する。
「俺はフィルバート殿下の臣下として」
「そうだな。お前の言った事は全て本心で事実だ。それを疑ってはいない」
俺の為である事。
ラニを守る為である事。
国のためである事。
それは全て本心で、シルビオは正しい。
だが、ひとつだけ間違ってる。
「俺を使ってラニを留められたとして、お前は絶対に後悔する。絶対だ」
シルビオが言った事は全て本心。
勿論、ラニに帰って欲しくない事も。
『ラニラニは帰るよ。そして、会えなくなる。こうやって、一緒にいられる日々は終わる』
おそらく、あの言葉は俺に向けられた言葉ではない。
俺がラニに向ける愛情とシルビオがラニに向ける愛情は同じではない。
『んー。それでも俺は良いんだけど。多分持ち帰った方が喜ぶと思うんだよねー』
『……今何処に居る?ラニは居なくなった君を探す為にあの場所に残って崖から落ちる羽目になったんだよ? 早くして。エレンはラニを殺す気?』
恋人がいた時すら恋人のこの字すら仕事に持ち込まないコイツが、何時だって冷静なコイツが唯一心乱され、振り回される。
唯一俺よりも優先する相手。
「フィルバート殿下?」
「お前らしくもないな、シルビオ・カヴァリエーレ。留めたいならお前の実力で留まりたいと思わせろ」
本当にしょうのない。
本当にラニをこの国から出したくないのは、この日々が終わって欲しくないと願ってるのはお前なんだろ?シルビオ。
まだ何を言われているか分からないと言わんばかりの表情を浮かべる友人の背をバシッと叩く。
もう10年以上の仲なのに初めてシルビオが前ではなく隣に立ってる気がした。
皮肉にもそれが嬉しくて、ずっと自身の肩に重くのしかかっていたものがスッと溶けていく。
「まぁ、頑張れ。俺も頑張るからさ」
まだなぜ背を叩かれたのか困惑し、背をさするシルビオがコチラを見て目を見開く。
まるで置いて行かれた子供のような心許ない顔で手を伸ばしてくる。
変な奴だ。
別にサヨナラする訳でもないのに。
ただ俺はここ16年間のモヤモヤしていた感情が全てが吹っ切れて、笑っているだけだというのに。
俺はこれからも凡人のフィルバートとして、やれる事をがむしゃらにやるだけだ。
ラニの事もエレンの事も自身の将来の事も全て。
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