王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

3、僕は君が恐ろしい

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そんな! 酷いっと手を伸ばすが、ソッとその手をシルビオが取り、恐ろしい笑顔を浮かべて急いで歯を磨いた僕を座らせて、横に座る。

「さーて、ラニラニ。今日もいっぱいラニラニにお手紙届いてたよー」

「へー。ソーナンダ」

雲行きが一気に怪しくなり、僕はそそくさとブランケットの中に潜り込もうとするが、肩をガッと掴まれ、引き戻される。

「ガウィーン・クエン。ルーズベルト・ウィリアン。……あの例の男娼」

ニッコニッコのシルビオは手紙の送り主の名前を読み上げ、僕に一切の許可なく手紙を雑に開けていく。

一つ目の手紙からはびっくり箱のように開けた瞬間、飛び出す程詰め込まれた手紙。もう一つの手紙からは髪の毛1束。そして最後の手紙からは謎の白い粉が……。

「媚薬だね…」

「や…。きっと、小麦だよ。開けた瞬間に小麦がむわりと舞って『あらビックリ』……を狙った可愛いイタズラ……」

「うん。花街で出回っている即効性のある強力な媚薬だね」

にぃぃっこりと良い笑顔を浮かべるシルビオの口元はヒクヒクと引き攣っている。

「何が言いたいか分かるよね?」と、こてんと首を傾げて、ヒラヒラと今にも破れそうな透明な紙の中に入った白い粉を振る。

「ひとりでは?」

「……出歩か…ない?」

「知らない人と話す時には?」

「シルビオか、フィルに喋っても安全な人か聞く?」

「誰かと2人きりには?」

「な、ならない?」

「何故、全部疑問系なのかは、これ以上は指摘しないけど、これはラニラニの身の安全の為でもあるんだよ? これが守れない場合は夜会も閨の授業と同じく禁止せざるおえない」

笑顔が消え、真剣なシルビオの眼差しが僕をとらえる。

ゴクリッと、思わず喉が鳴る。
全てを見通すようなその紫紺の瞳に内心タラタラと冷や汗を掻きながら至極真剣な顔で反論する。

「えっ! いや。だって、夜会は僕が確固たる人脈を形成して身の安全を守る為だって言ってたよね」

「そうだね。ラニラニが夜会に出る目的はモアナ王国との架け橋として有用性を貴族達に示す為。でも、ラニラニ自身はそうじゃないよね? 《仮面の男爵》…。ラニラニは相当彼を気にして、毎回夜会の度に探してるよね?」

何でだろうね? と、首を傾げてみせるが、その顔に迷いはない。
そんなシルビオを前に内心冷や汗が滝のように止まらない。


僕は1年と数ヶ月。
大切な事だからもう一度いうが、ライモンド先生が消えてから大人になるべく、社会経験を積むようにしている。
夜会に出るのもその一環で、内心嫌だなーと思いつつも出席してる。

だけど、数ヶ月前からはやる気満々。

《仮面の男爵》
数ヶ月前から社交界に突如として現れた仮面を着けた貴人。
彼はある功績で皇帝から男爵位を賜り、領地を持たぬ男爵として彗星の如く現れた。

なんでも、皇帝を秘密裏に暗殺しようとしたファルハ人達及び、手引きした裏切り者の貴族を捕らえて皇帝に献上したらしい。

彼は何時いかなる時も仮面を外さない。
なんでも画面の下は醜い怪我があり、それを見せないようにしてるとか。

怪しい。とても、怪しい。
瞳の色すら分からない程、視界の狭い仮面を付けている時点で怪しい。
僕とフィルはこの《仮面の男爵》がライモンド先生なのではないかと、怪しんでる。

『……本人に直接聞いたら逃げるかな?』

『本物なら上手く交わした上で、捕まえる隙なく逃げ打つだろうな…』

1年間。皇族お抱えの暗部に追わせても尻尾すら掴ませなかったライモンド先生。
そして現れたなーんか怪しい男爵。

僕達は絶対にこの好奇を逃してはならない。
だから、それとなく、情報収集しつつ、お近付きになろうと、画策しているんだ。

そして、シルビオは僕が暗殺者であるライモンド先生を探す事自体やめさせたいらしい。


むぅっと口を尖らせて、フイッと顔を逸らすと、シルビオが溜息をつくと、僕を押し倒す。

いきなりの出来事に目をパチクリさせていると、何時もは冷静な紫紺の瞳をギラつかせ、僕の首筋に唇を寄せた。

「何何何何!? ちょっ、シルビオッ」

一体、なんの冗談? と、苦笑を零そうとした瞬間、チクッと肌をシルビオの唇に吸い上げられる。
驚愕して、何が何故こうなったか分からず、頭に大量のハテナを浮かべていると、またチュッと音を立てシルビオの唇が肌を吸い上げる。

「にゃ"っ!? まさか、さっきの媚薬!? いやいやいやいやっ! それでも僕に欲情はしないでしょ?! ねぇっ!?」

しかし、シルビオは答えない。
狼狽えている間にまたシルビオが唇を寄せ、痕を残していく。段々と怖くなり、肩を押し返すが、びくともしない。


「ラニ」

シルビオが僕の名を呼び、僕の顔に自身の顔を寄せる。
ギュッと怖くて目を瞑ると、シルビオは僕の額に口付けを落とした。

「ラニラニ。この手紙を送って来た輩はラニラニにこーゆー事をする気なんだよ? 抵抗の手段を持ってないラニラニはこうやって、すぐ食べられちゃうね」

耳元で諭すようにそう囁くと、シルビオは僕から身体を離し、ニッコリと感情の読めない笑顔で痕を付けた首筋を撫でた。

まだドッドッドッと激しく脈を打つ胸を必死に押さえ付け、僕の首筋を撫でるシルビオの手を掴み、にっこりと微笑み返した。

「この学園に通っている間は僕を食べられないように守ってくれるんでしょう?」

そう言い返しつつも内心全力でびびっている。
完全に虚勢を張りつつ、シルビオの様子を窺っているとシルビオは肩をすくめて、完全に僕から退いた。

「言うようになったね。確かにそうだけど、ひとりでフラッと消えられたら守れるものも守れないぢゃん」

そう痛い所をキチンと突いて、シルビオはお休みとやっと部屋から帰っていき、僕は脱力する。


「うぅ…。何故だ。何故、元々恐ろしい存在だったシルビオがより気の抜けない相手になっちゃったんだ!? 何処ッ! 何処で僕は間違えた??」

何度も何度も言ってるかもだけど、ライモンド先生が消えてから1年と数ヶ月。
とても色んな事が変わっていった。

あんなに皇子第一だったシルビオがあまりフィルと行動を共にしなくなった。
何故か僕といる事が多く、そして、より怖くなった。

「ほんっっと何故!?」

本気で理由が分からない。
フィル関連の何の思惑があって、今みたいな事をしてるのか分からない。

きっと何かの陰謀だとガクブルッしながら、僕は温かなベッドに安心を求めたのだった。
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