王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

4、皆んな、僕を置いて行く

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大人になるというのは僕が思っていたより、難しい事らしい。

モアナの伯父さん達は「歌って踊って酒飲んで寝れば大人になるさ」と、昼からお酒飲みながら、陽気に言ってた。
モアナの大人観念はとにかくゆるい。
だが、レーヴでは違うらしい。


先ずひとつ。礼儀作法をマスターする事。
2つ目は夜会に出て人脈を作る事。
3つ目はお仕事をする事(2つ目はこのお仕事で重要らしい)。
そして4つ目は……。


「えー。やだよ! 閨の授業なんていーよ」

「阿呆ッ。これは立派な大人になる為の大切な事だ。知識を知っておけば、そういうトラブルに巻き込まれるリスクも減る。いざ、結婚した初夜はお前、相手にリードしてもらう気かっ!」

「それはっ…、それは男としてなんか格好悪い……」

「だろうなッ!」

立派な大人はキチンとした貞操観念と余裕があってこそ。

そういうエッチな事を人から習うのは恥ずかしい。だが、いざという時に好きな人を前に任せっきりなのも男が廃る。


……と、いう事で、半年前の僕はと花街一の男娼だという人に教えを請うた。

本番は無し。
何故男娼がと言われると、既成事実を作られないように王族貴族は皆、男娼が最初相手らしい。怖いね、娼婦のお姉さんって…。

でも、成程。同性同士なら気負わないし、安心だねとも思った。


そして、ついにやって来たその日。
相手は男。本番なし。だが、それでも当日は緊張した。
花街一の男娼っていうからきっととても綺麗で高飛車な人が来るんだろうと思っていた。


だが、いい意味で期待は裏切られた。

来たのはとてもキレッキレの美人だけど、高飛車でなく、歳もフィル達とあまり変わらない優しいお兄さん。
「宜しくお願いします」と頭を下げたら、一瞬固まったが、「こちらこそ」と握手してくれた。

それでも緊張しいの僕を気遣って男娼のお兄さんは「お話しよう」とお話をしてくれた。

なんでも、エッチの基本はいきなり始めるのではなく、お話して相手の緊張をほぐして、そしてゆっくりと戯れるんだそう。

お兄さんとのお話は楽しくて、元々話す事自体好きな僕は水を得た魚のようにお兄さんに話しかけまくった。

その日はおしゃべりで終わり、次の日もおしゃべりで終わった。
きっと、エッチ前のお話はエッチする為にとても重要な事なんだろう。

おしゃべりは5日間続いた。
3日目にはお客さんから聞いた話ばかりしていたお兄さんが自身の身の上話をし始め、お兄さんはとても可愛い笑みを浮かべるようになった。

4日目になるとボディタッチが増え、5日目まで来ると、僕がお兄さん以外の人の事を話すのを嫌がるようになった。


これがエッチ前のお喋りの上等テク。

僕はナチュラルにお兄さんの技術が凄いと思った。
まるで、本当にお兄さんが僕に惚れてるんじゃないかと聞きたくなる匂わせに、僕はお兄さんのテクを絶対に覚えると決めた。

目指してやろうじゃないか!
ライモンド先生も思わず、逃げる事を忘れて惚ける色香漂う大人に!!


そうやる気満々で迎えた6日目。
「痛いのは最初だけだから」と、何故かお兄さんに押し倒され、訳が分からぬまま外で待機していたシルビオに救出されたのだった。


「一夜の夢を見せる男娼に一夜の夢を抱かせてどうする!?」

そうフィルにスパンッと頭を叩かれたが、僕が一体何をしたというんだ。

その日から閨の授業は禁止になり、よい子のための性教育という薄い小冊子を渡された。

酷いっ、子供扱いだっ!! と、抗議すれば…。

『ぢゃあ、フィルっちと婚約して、フィルっちに教育してもらう? それとも、オニーサンに教わりたいのかな?』

そう、にぃーっこり笑いながら、圧力を掛けてくるもんだから僕は黙らざるおえなかった。





「どう、シルビオの監視を掻い潜って、教わればいいと思う?」

コソッと耳元でルトゥフに相談すると、ルトゥフはゴホッと何も飲んでないのに咽せ、縋るようにエリオットを見た。

だが、エリオットはレーヴ帝国の歴史という重い本の中に隠した春画をとても真面目な顔で眺めている。
エリオットもまたシルビオの監視を掻い潜って、紳士を嗜んでる。

だが、捨てられた子犬のような目で助けを求めるルトゥフの目を前に欲望と友情で揺れている。

「エ、エリオット…」

「あー、うん。後、後もう少し」

「エリオットっ…」

「わーかったってぇ! そんな事、ルトゥフに言ったってしゃーないだろ、ラニ」

ついにはエリオットの悲痛な声に負け、バンッと春画とともに歴史本を閉じた。
その向かいの席では筆記係のケニーが僕たちのやりとりを見て、蹲って笑ってる。

「ふふふっ、あははっ!! 絶対、無理っ! シルビオ様は授業以外ラニにべったりだし。捕まって更に監視が酷くなって、ラニがフィルバート殿下に泣きつくまで想像しちゃったじゃん。あはははっ! ダメっ…だ。笑いが止まらないっ…くふふっ」

……いや、正しくは僕のルトゥフへの相談を盗み聞きして、笑ってた。

酷いっ! だから、真面目に聞いて、真っ当な意見をくれそうなルトゥフに相談したのにと憤慨するが、ケニーの笑いは止まらない。
先生にゴホンッと咳払いされて、ケニーは「ちょっと笑いを沈めてくる」と教室を出た。


今の時間は歴史の授業で、グループに分かれての各国の歴史を調べて討論会をする為の資料調べの時間。

僕はエリオット、ケニー、ルトゥフ、コンスタンチェと5人で、一番楽そうなレーヴ帝国の歴史について何を討論するか調べてる。
ついでにコンスタンチェは今、同じくレーヴ帝国の歴史を調べている班の偵察に行ってる。

調べている班の御令嬢を誑し込んで、情報をせしめてくると意気揚々とコンスタンチェは出陣していった。

ここ最近、男装の麗人がマイブームで夜会でも学園でも男装して、僕達より令嬢達にモテモテな彼女ならきっとやってくれるに違いない。


……おっと、脱線。さて、コンスタンチェの事は置いておいて。


「エリオットっ…。だってっ! だって、このままじゃ、いつまで経っても大人の男になれないよっ!!」

「ラニ…。俺だって、お前が可哀想だとは思ってんよ!! あんっの、過干渉の過保護がいる限り、在学中は無理ッ」

「そんなっ…」

ガクッと項垂れる僕の肩をエリオットが慰めるように叩き、そして……。

「まぁ、俺は先輩達に娼館連れてかれて、キレーなおねいさんで脱童貞したけどな」

「う、裏切り者ーッ!!」

「……だって、こっそり、娼館にも連れてけないじゃん、お前」

「あっ、俺も最近」

「ケニー…。ケニーまで…」

サラッと僕にトドメを刺し、やっと戻って来たケニーまで、一抜けしていた。
そして、顔をほんのり赤くして、サッと目を逸らしたルトゥフを僕は見逃さなかった。
ルトゥフ。君もかッ!!
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