王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

文字の大きさ
82 / 119
終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

5、懐かしいメロディ

しおりを挟む
みんなが僕を置いて大人の階段を登っていく。

どうせ、フィルだって童貞じゃない。
シルビオは絶対で、リュビオは……。

リュビオは居なかった事にしよう。

これでエレンも主人公なのにいつの間にかに攻略者以外で脱童貞してたらやだなと、ふと、現実を見たくなくて、窓から外を見やる。
すると、何故か木の影に隠れて僕の教室の様子を窺うエレンの姿があった。


目が合い、ポカンッと思わず互いに固まる。
しかし、はたと正気に戻ったエレンがボボッと頬を林檎みたいに真っ赤にして、転けながら去っていく。

「「また…だ」」

「「また…だな」」

「また…だね」

そんなエレンをルトゥフ達と4人…、いや、帰って来たコンスタンチェと5人でなんとも言えない気持ちで見送る。

そして、取り敢えず情報過多なので、今はエレンの事は置いておいて、話に戻る。

「次の夜会までに大人の男…まではいかなくても、ある程度の知識を会得して向かい打ちたいっ」

「「無理だって」」

「あー、あれかい? 成程ね」

全否定する男3人(ルトゥフは苦笑い)。
そして、今まさに帰って来たばかりのコンスタンチェは僕の言葉と3人の様子を見て、状況を全て把握する。

勝ち取って来た情報をテーブルに置き、スマートに長い足を組みながら椅子に腰掛ける。
横髪を耳に掛け、肘を突きながらこちらに微笑みかける姿はもはや色男。

「今度のフラント侯爵の夜会にはあの《仮面の男爵》が来るそうだね。ふふっ。《仮面の男爵》の為に大人になりたいのかい? 一途な君は本当に可愛いらしい」

「……先に言っておくけど。一応、なんだ。もしもの時の為に奥の手として」


来週に来たるフラント侯爵の夜会。
そこにはなんと、社交場には未だ姿を現さない《仮面の男爵》が初めて公の場に出てくる。

この機会を逃しては成らず!
お近付きになって、あわよくば本物であるならば、間髪入れずに取っ捕まえねば。
だからこそ、逃走防止策を僕は身に付けなければならない。

やって見せるとグッと拳を握る。

「ハニートラップ…」と、ボソッとルトゥフがドン引きしてるが、僕は冗談ではなく、至って本気だ。
卑怯だろうが、卑劣だろうが、何だろうと僕は何が何でもライモンド先生を捕まえて見せる。


「色仕掛けか。思い切ったね…」

「そもそも、シルビオ様に監視されてる中、《仮面の男爵》に色仕掛けするスキはあるかな?」

「そこはもうシルビオ先輩に一服盛るしかないんじゃね?」

「ねぇ、シルビオが僕を邪魔する前提なの?」

「「「「………………」」」」

僕の素朴な疑問に無言でスッと目を逸らし、ルトゥフまでもが苦い顔で答えない。
え? 僕自らお近づきに行くのも、ダメなの??
フィルも乗り気なのに?

「……さぁーて。先生の目も怖い事だし、課題に戻るか」

「そーだな。コンスタンチェコニーの成果を確認して、対策を立てよう。おっ、ルトゥフ、その文献面白そう。流石。」

「そ、そうかな? ふふっ」

「じゃあ、ルトゥフの文献を主軸に考えるかい? ラニ、一緒に関係書籍を図書館に取りに行くとしよう。勿論、重い荷物は私が待とう」

「いや、コニー。そこは僕に任せようか」

盛大に僕の話は逸らされて、一抹の不安を覚えつつも、紳士過ぎるコンスタンチェのお供として、そそくさとついて行く。


勿論、本は全て僕が持ち、図書館から教室への帰り道。
僕は耳慣れた懐かしいメロディを聞いた。


跳ねるように踊るように風に乗って響くそのメロディは、女神ミューズの噴水から聞こえて来た。

キラキラと噴水の水飛沫が空で輝くように。
一音一音大切に大切に紡がれるその様は、まるで宝物を愛でるかのようで、噴水のヘリに座り、エレンはとても優しい顔をしていた。

それはとても僕からしたら不思議な光景だった。

だって、それはモアナでは船乗りが無事に岸に戻れるようにと船の上で歌う歌。
モアナ王国では誰でも知ってる船乗りの歌。


それなのにまるで、恋歌のように聞こえた。
歌詞のないメロディだけのその歌はまるで優しく愛を囁いているようでもあった。


「ラニ。どうしだんだい?」

コンスタンチェに声を掛けられ、ハッと我に帰る。

「何…でもない。ちょっと、ボーとしてただけ」

その途端、気不味くなって、そそくさとその場を後にした。
まるで、人のラブレターを盗み見たような気持ち。
見てはいけなかったものを見てしまったようなそんな気不味さ。


その後。気不味く思いながらも、スタスタと颯爽に歩いて行くコンスタンチェを後ろから追いながら教室に帰る最中、僕はグルグル眼鏡先輩に拉致られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...