王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

6、トゥルーエンド

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僕が崖から落ちた後。
エレンは元気に振る舞いつつも、何時もの元気はなかった。

幾ら気にしないでいいと声を掛けたって、それは逆にエレンを追い詰めるだけだから、僕は何事もなかったように何時も通りにエレンに接した。

しかし、エレンは段々とお昼にも来なくなり、やがて、お昼は食堂にも顔を出さなくなった。
だけど、ふとした時にエレンは遠くから僕を見てる。
時には何か言いたげに、時にはとても幸せそうに。
そして、目が合うとピューッと走っていなくなってしまう。






「ほんッとうにラニ氏はやらかしてくれますね!?」

「ッッ!!?  ~~~ッ!?」

いきなり後ろから現れたグルグル眼鏡先輩にとっ捕まり、気付けば、口に猿轡をかまされ、椅子に縛り上げられていた。

結構容赦なく縛られて、縄が体に食い込む。
痛いっ。痛いって、グルグル眼鏡先輩!!

痛くて涙目で、取り敢えず、縄を解いてくれと訴えるが、グルグル眼鏡先輩はどこ吹く風。
イリイリと歯軋りをして、ビシッと僕を指差してくる。

「私が言いたい事はひとつっ! 何故、フィルバーが音楽隊に入隊してるのですか!!」

そう問われて、首を傾げる。
何故と言われてもフィルが1年前に突如、音楽隊の試験を受けたんだとしか言いようがない。
無事にフィルは一発で合格して、いち音楽隊のひとりとして、僕達と別行動が多くなった。

なんでも、将来は王弟の仕事をしつつ、ヴァイオリン奏者としても活動したいんだってさッ!

そうグルグル眼鏡先輩に言い返したいが、猿轡の所為で反論出来ない。ねぇ、取り敢えず、縄とこの猿轡を取って!?


「フィルバートのルートではハッピエンドを迎えてから自身の本当の夢、ヴァイオリン奏者を目指し、エンディングでは皇族を辞め、ヴァイオリン奏者としてエレンと各地を旅するのですよ。何をすっ飛ばしてフィルバートだけエンディングを迎えようとしてるのですかッ」

「んーーッ! んーーーーッ!!」

「なんです? 言いたい事があるなら黙ってないで言えばいいじゃないですか!!」

「んんっ!!?」

まさに暴君とはこの事だ。
黙らした相手に黙るなとはこれ如何に。

グルグル眼鏡先輩はやれやれとため息を付き、更に食ってかかる。
え? 言いたい事はひとつだって言ってなかったっけ??

「大体、エレンもストーリが全然進まないじゃないですかっ! これから大事な大イベント《音楽祭》が始まるというのに、肝心なパートが回収出来てない。このままではファルハ王の飼い犬達に凌辱の末に食い殺されるバッドエンドまっしぐらじゃないですかっ!!」

「…………は?」

キィーッ!と叫ぶグルグル眼鏡先輩を前に僕はただ言葉を失う。

バッドエンド?
飼い犬に凌辱の末、食い殺され……。


思った以上にエグイ内容に真っ青になる。
その僕の表情を横目にグルグル眼鏡先輩は蔑むような視線で見やり、猿轡を取った。

「ローレライの歌。その歌の歌詞を求めて、エレンは、この音楽の最高峰であるミューズ学園に転入したとあの講堂で前に話したでしょう? 《音楽祭》の前にエレンはどのルートでも一つの手段で歌詞を手に入れ、音楽祭で憧れのローレライのように歌い上げる」

「一つの手段?」

「ええ。ローレライ自身が歌うのです」

その言葉に今度は困惑して言葉を失う。
グルグル眼鏡先輩は何を言ってるんだろう?
だって、ローレライは……。

「ローレライは海の女神様でしょ? いるかいないか分からない女神が歌うの?」

そんな、いるかいないか分からない者にエレンの命運が託されている。
確かにこの学園では度々、超常現象が起こる。
それでも運命を分ける大切なイベントが神頼みなんて……。

なんとか出来ないのか。
グルグル眼鏡先輩は僕の言葉にピクリッと眉を動かし、忌々しげにため息をついた。

「本当にローレライは空想上の存在だと思います?」

「先輩はローレライが存在するって言いたいの?」

「生きた神。……つまりはひとりの人間を神と崇拝しているのではないですか?」

じっとグルグル眼鏡先輩が瓶底眼鏡の奥から僕を見ている。

生きた神? そんな人が本当に存在しているんだろうか。
少なくとも僕は聞いた事はない。
僕が産まれたモアナではそんな人、居なかった。

「心当たりがあるの?」

そう問えば、グルグル眼鏡先輩は質問に質問で返してくる。

「ラニ氏こそ、心当たりはないのですか?」

心当たり? そんなものない。
レーヴ帝国に来てからも来る道中でもそんな話は聞いた事ない。

フルフルと首を横に振れば、またひとつため息を付いた。

「エレンを助けたいのなら、先ずはラニ氏がエレンの悩みを聞いてあげてください」

「僕? フィルとか攻略対象じゃなくて?」

「ええ。ラニ氏が…です」

何時もなら余計な事はするなというグルグル眼鏡先輩にしては意外なアドバイス。
先程までグルグル眼鏡先輩から感じて苛立ちがフッと消え、縄を優しく解く。
その口角は少し上がっていて、耳にボサボサの短い栗色の髪をかけると、僕よりも頭ひとつ小さい身体を屈めて、座る僕と目線を合わせる。

「物語をあるべき姿に正しく戻す。狂っていた筋書きは正され、トゥルーエンドを迎える」

「トゥルーエンド?」

「ええ。後、もう少し、後もう少しで物語は正しい結末を迎える」

いつに無く、そう嬉しそうに笑うグルグル眼鏡先輩を前に僕はただ戸惑う。

僕とグルグル眼鏡先輩が目指していたのはハッピーエンドだと今まで思ってた。
元々はバッドエンド以外ならなるように終わってロバ耳からオサラバしたいと思っていた僕とは違って、グルグル眼鏡先輩は最初からハッピーエンドを目指しているんだとそう思ってたんだ。
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