王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

7、ルトゥフ

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トゥルーエンド。
グルグル眼鏡先輩から新しく出て来た単語に僕は首を捻りながら考え込んでいた。

トゥルー。トゥルーって事は真実。
つまり、真実の終幕って事で、おそらく理解はOK。
だが、分からないのは何故、ハッピーではなく、トゥルーを目指すのか。

『何故。態々、それを頭の緩いお子ちゃまに話す必要があるのです? 駒は駒らしく、何も考えずに従って動きなさい。モブ如きが!』

『暴言だ。僕はグルグル眼鏡先輩の事、友達だと思ってるのに』

『シャラップ! わたくしにだって、友達を選ぶ権利くらいある』

『ひ、酷い…』

素直に聞けば、暴言しか返ってこなかった。
相変わらずの扱いの雑さだ。
まぁ、エレンにバッドエンドに向かって欲しくないから、駒は駒らしく動いて上げますけどね!


そう前向きに考えつつも、今まさに僕はピンチ。
なんたって、授業の途中で拉致られた事で、授業をサボってしまったんだ。しかも、怖い歴史学の先生の授業を。

しかも、今は休み時間。
最近は休み時間の度にシルビオが僕の安否を確認しにやってくるから、更にマズイ。

シルビオはフィルのように暴力にはうったえない。
だが、怖い笑顔で詰め寄られ、お仕置きと称して僕の生活に色々と条件を付けてくる。
そして、何時の間にかにそれが当たり前になって、受け入れていく自分が怖い。

「歴史学の先生には土下座。シルビオは……、ヨシ、逃げよう」

何がヨシなんだかは分からない。
でも、条件を付けられて、自由がなくなるのは嫌だ。

抗議を込めて、何処かに身を隠すんだと、クルリと踵を返すが、浅黒い手にトンッと肩を掴まれてガクリッと肩を落とす。

「ルトゥフ。僕、ちょっと用事が……」

「あの騎士が血眼で探してるから、是非ともその用事は後にして欲しい。……頼むから」

逃げようとする僕と是が非でも戻って欲しいルトゥフ。
僕達は2人ともシルビオが怖い。いや、ルトゥフは僕よりシルビオを恐れてる。

敵国ファルハの王子であるルトゥフは何かある度にいの一番に疑われる。
僕関連だと特に。

「分かったよ。帰るよ」と逃走を諦めて、教室に帰ろうとすると、またルトゥフが肩を掴む。
逃げないよっ!と文句を言おうと振り返ったが、ルトゥフの辛そうな顔に文句を胃の奥底に落とす。


「ラニは俺の事、友達だと思ってる?」

辛そうな顔で何を言い出すのかと思えば、今更ルトゥフにまでそんな事を言われてなんだか悲しくなる。僕達もう友達になって2年は経つんだけど…。

「少なくとも僕はルトゥフの事。友達だと思ってるよ」

そう返せば、ルトゥフは少し広角を上げたが、その顔は緊張の色に染まる。何度も言葉を飲み込もうとして、覚悟を決めたようにルトゥフは言葉を紡いだ。

「ラニの国ではっ…。ラニの国には、《魔の海域》という時折、大嵐になる海域があると聞いた。その海域では大きな船でも波に飲まれて、海難事故を起こす。俺の国の船も12年前にその海域でラニの国の人に助けてもらったと聞いている」

ギュッとルトゥフの僕の肩を掴む手に力が入る。

「ローレライは神では無く、ひとりの人間なのではないだろうか? 助け舟の船首に立ち、海で遭難した者への道標として歌う者をローレライとモアナでは呼んでいるんじゃないだろうか?」

そう問われて、またかと僕は内心溜息をついた。
確かにモアナの船乗りは魔の海域で遭難した船を助けに船を出す。
しかし、そんな話は聞いた事がない。

じっと僕の言葉を緊張しながらルトゥフは待っている。だけど、ルトゥフが欲しい言葉を答えを僕は持ってないと思う。

「少なくとも僕は人ではなくローレライは神だと思って生きてきたよ」

ローレライは海の神様。
それ以上でもそれ以下でもない。
首を横に振ると、ルトゥフは落胆するかと思ったが、肩の荷が下りたかのように安堵の笑みを溢した。

「そっか…。本当にラニは何も知らない。最初から何も引き出せやしなかった。……バカだな。俺は」

そう笑うルトゥフが不思議で目を丸くする。
そんな僕を見て、ルトゥフは苦笑して、僕の肩を掴んでいた手から力を抜く。

「俺はずっと君が憎かった。あの人の心を持たぬ兄上を助けた憎きローレライを君が知ってて隠してるのだと思ってた。情けない話、俺はローレライを兄上に献上する事で、自分だけ助かりたかったんだ」

手から力が抜けると、ずるずるとルトゥフは座り込み、僕を申し訳なさそうに見上げた。

「ごめん、ラニ。俺が君に近付いたのはローレライの情報を得る為だった。情報を引き出せない場合は信頼を得る程、親しくなって、騙して君を攫う気でもいた。……だから、君の友達になる資格なんかないんだ。いや、ケニーやコニー、エリオットの友達になる資格だってない」

そのルトゥフの言葉に少し衝撃を受けつつも、あらかたは2年前に曝露しうたっていたので今更でもある。
それでもやっぱり、悲しいものは悲しい。


「僕は……ルトゥフを本当に友達だと思ってるよ」

「うん。それはこの2年でよく分かってる。君が嘘をつくのが下手で最初から隠し事なんて出来ない事も。ファルハの王子ではなく、俺個人を友達として慕ってくれた事も。全部全部分かってる。分かってるんだっ……」

僕を見上げる鳶色の瞳が潤み、ホトホトと涙が床を濡らす。
泣くルトゥフが心配で手を伸ばすが、ルトゥフは僕の手をやんわりといなすと、首を横に振る。

「友達になりたかった」

「今からじゃダメなの?」

「ダメだよ、ラニ。自分のしようとした事には責任を取る。全てはそれからなんだ」

ルトゥフは自分で立ち上がると涙を拭い、不安そうな鳶色の瞳を僕に向けた。
不安そうなのにその瞳には強い意志が乗っていて、初めてルトゥフの瞳が僕個人を映した気がした。

「俺は討論会が終わったら国に帰る。もし、次に会えたら今度は俺からラニに友達になって欲しいと言うから、そうしたら……友達になってくれる?」

初めて僕個人を移したルトゥフから出た言葉。
それは別れの言葉。

「またね」は好き。また会えるから。
でも、「サヨナラ」は苦手。また会えるからどうか分からないから。

「泣かないでよ、ラニ」

「………『サヨナラ』は拒否するからね。『またね』なら許す」

「うん。ありがとう。『またね、ラニ』」


討論会の次の日。
本当にルトゥフは学園から居なくなった。

ルトゥフは学園から去る最後。
自ら苦手だったシルビオの下に出向き、何かを話していた。

何を話していたのか。
僕はシルビオに聞いたが、シルビオは決して教えてくれはしなかった。






(シルビオ視点)

敵国の王子ルトゥフ王子が国に帰った。
表向きは療養による休学。実際はレーヴ帝国に戦争を仕掛けようとファルハ王が躍起になってるこの機に乗じてファルハ王の目を盗んで自身の国に帰ったのだ。

流石。恩を仇で返す、ファルハ。
ラニは終始、ルトゥフ王子と別れるのを悲しんでいたが、ようやく悪縁が切れて、内心安堵している。

まぁ、そんな事を本人の前では口が裂けても言えないけどね。


人好きで、寂しがり屋のラニ。
きっと、寂しくて今日の夜は、あの銀色のテディベアを抱きしめて寂しさを紛らわせるのだろう。
大人になろうと必死だから意地を張って、テディベアで寂しさを紛らわせている事さえ、バレないようにひっそりと。

ー 大人になる必要なんてないのにね

別にラニはまだ子供のままで構わない。
このままずっと、ラニは何もできない知らない子供のまま守られていればいい。




『ファルハ人の母とレーヴ人の父を持つ混血の女。彼女は狂信的なファルハ王信者で、何を仕出かすか分からない。おそらく、帝都に居る』

そう去り際にルトゥフ王子の言葉を思い出し、さて、そちらはどう対処するかと、考えて違和感を覚える。

……」

2年前の拐われかけたラニの供述ではあの混血の女の母はレーヴ人だった筈。

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