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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
9、夜会はやっぱり、闇の世界
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「甥が…、甥が申し訳ありませんでした」
怒れるシルビオを前にフラント侯爵は僕に頭を深々と下げる。
フラント侯爵の甥だという事が今しがた判明したガーウィン・クエンはフラント侯爵家の使用人達に連れられて自身の家へと帰っていった。
「まさか。甥が招待状もなしに忍び込んでいたとは知らず……」
「あー。うん。それなら、しょうがないんじゃないかな。フラント侯爵は悪くな……」
「貴殿の甥はラニ王子に度々ストーカー行為を繰り返している要注意人物だと再三、注意した筈です」
「お、甥からはラニ王子のいちファンだとは聞いていたのだが…。遠くから愛でて手紙を送っているくらいなら可愛い話では」
「………。貴殿が甥を可愛がっているのはよく分かりました。もう一度、招待客リストを見せて頂けますか? 貴殿はどうやらラニ王子を軽視していらっしゃるようだ」
何かの手違いでガーウィン・クエンが夜会に潜り込んでいたのかと思ったらまさかの確信犯。
どうやら僕に謝っていたのは僕が御し易いと考えたからっぽい。
ー あ、コレ。もう参加出来ないヤツ…
不穏すぎる夜会に勿論、シルビオは僕をこのまま参加させてくれる訳がない。
しかし、フラント侯爵もめげない。
もう既に帰る気満々なシルビオを前に、もう一度招待客をシルビオに確認させて、不穏な人物は帰らせ、僕を参加させる気だ。
僕とシルビオをほぼ無理矢理、部屋へと案内して、シルビオを説得にかかる。
シルビオのあの笑顔的にほぼ説得は無理だと僕は思う。
しょうがないので、使用人のお兄さんに促されるままフッカフカな椅子に腰を掛け、夜会会場から聞こえる調べに耳を傾けた。
ー もう居るのかな…。《仮面の男爵》
そう心の中でぼやくと、会えない事が残念で、胸の辺りがギュッとなる。
ー ライモンド先生だったらいいな…
ぽすんっと頭を背もたれに預けて、会いたいなとギュッとした胸の辺りに手を重ねる。
会えたら今度は怯えない。
会えたら今度は怖がらせない。
会えたら……、今度こそ…。
「ラニラニ」
名を呼ばれて、見上げるとシルビオが僕の頰に手を添えて、まるでキスをするように耳元に唇を寄せた。
「シ、シルビオ?」
「ラニラニ。あの侯爵は怪しい。このまま帰してもらえそうにないから参加するフリをして帰るよ」
息が耳に掛かり、擽ったい。
今すぐ耳元で喋るのをやめてもらいたいが、内容が重要そうなのでむずむずしながら我慢する。
「だから、もう一度、約束してね。知らない人から出された食べ物は?」
「ん…ふっ。食べな…い」
「俺から?」
話す度に鼓膜まで吐息が掛かり、ゾクゾクする。
その感覚が少し怖くてシルビオの腕を掴むが、フッと耳に吐息を掛けられ、小さく悲鳴を上げた。
「俺から?」
「離れないっ。離れないって!」
「うん。いい子」
半泣きで再度誓わされ、もう分かったからやめてと耳を抑えると、苦笑して揶揄うように僕の額に唇を寄せた。
その光景をパクパクと何か言いたそうに口を開けて、真っ赤な顔でフラント侯爵がこちらを指差してる。
「どうしました? フラント侯爵」
「シ、シルビオ殿とラニ王子はどういったご関係で」
「ご想像にお任せしますよ」
そうフラント侯爵に意味深な笑顔を浮かべると、シルビオは拗ねてジトッとした目を向ける僕に「ごめんネ」と心にもない謝罪をして、フラント侯爵に招待客のリストを要求する。
「んー。ラニ王子は今回のフラント侯爵の夜会を楽しみにしてらしたので、こちらとしても出来れば参加したい」
「そ、そうですかっ! ならば、早く招待客を確認しましょう」
さぁさぁ、とフラント侯爵はシルビオに早く招待客リストを見るようにと急かす、シルビオはその様子に肩をすくめて、リストを見るふりを始める。
そんな2人の姿を「茶番だね」とぼんやりと眺めつつ、事が終わるのを待っていると、少し視界が霞んで目を擦る。
ー 眠い
耐えられない強い眠気に突如、襲われてカクンッと意識を手放す。
意識を手放す中、フラント侯爵とシルビオが床に倒れていたのは気の所為だろうか?
酷く甘い匂いがする。
頭がクラクラするような甘い匂いで、身体中がゾワゾワと鳥肌が立って、鳥肌が立ってるのに火照るように身体は熱い。
強い眠気が薄れると、今まで感じた事のないムズムズとした感覚が身体を支配して、それが怖くてもがくけど、余計酷くなっていく。
「何…これ…」
ぐわんぐわんっと酷い頭痛に眩暈を起こしながら、助けを求めるように手を伸ばすと誰かが僕の手を握り、ホッと胸を撫で下ろす。
「シルビ…オ?」
そう名前を呼んでみたけど、僕の手を握った手はシルビオの手と違い、剣ダコがなくすべすべ。
「ダメですよ? 閨で他の男の名を呼んでは」
子供のおイタを叱るようにめっ!と、艶やかな人差し指が僕の唇に当てられる。
その聞き覚えある声に一気に血の気が引く。
マズイと身体を逃そうと、もがくがシーツが肌を掠めるたびにゾワゾワと背筋を未知の感覚がせり上がり、お腹の辺りに熱が溜まってく。
「ふふふっ、可愛い。綺麗な宝石みたいな瞳を潤ませて、白い肌をバラ色に染めて…。ラニ様の声はカナリアみたいに綺麗だから、きっと乱れて囀る声もとっても可愛いんでしょうね」
「……男娼…のお兄…さん?」
「ふふふっ。やっと、会えた。会わせてくださったガーウィン様には後で一緒に奉仕しましょうね。…ああ、ごめんなさい。閨で他の男の名は禁句でしたね」
僕の上に跨り、うっとりとした表情で僕を見る何時ぞやの男娼のお兄さん。
ー え? 嵌められた??
タラタラと冷や汗が止まらない。
ついでに謎のお腹の辺りの熱もおさまらない。
やはり、夜会は闇の世界で、僕には計り知れない思惑が渦巻いてるのかもしれない。
何がどうなって、こうなったのか。
今、分かる事はフラント侯爵が真っクロだったって事だね!?
怒れるシルビオを前にフラント侯爵は僕に頭を深々と下げる。
フラント侯爵の甥だという事が今しがた判明したガーウィン・クエンはフラント侯爵家の使用人達に連れられて自身の家へと帰っていった。
「まさか。甥が招待状もなしに忍び込んでいたとは知らず……」
「あー。うん。それなら、しょうがないんじゃないかな。フラント侯爵は悪くな……」
「貴殿の甥はラニ王子に度々ストーカー行為を繰り返している要注意人物だと再三、注意した筈です」
「お、甥からはラニ王子のいちファンだとは聞いていたのだが…。遠くから愛でて手紙を送っているくらいなら可愛い話では」
「………。貴殿が甥を可愛がっているのはよく分かりました。もう一度、招待客リストを見せて頂けますか? 貴殿はどうやらラニ王子を軽視していらっしゃるようだ」
何かの手違いでガーウィン・クエンが夜会に潜り込んでいたのかと思ったらまさかの確信犯。
どうやら僕に謝っていたのは僕が御し易いと考えたからっぽい。
ー あ、コレ。もう参加出来ないヤツ…
不穏すぎる夜会に勿論、シルビオは僕をこのまま参加させてくれる訳がない。
しかし、フラント侯爵もめげない。
もう既に帰る気満々なシルビオを前に、もう一度招待客をシルビオに確認させて、不穏な人物は帰らせ、僕を参加させる気だ。
僕とシルビオをほぼ無理矢理、部屋へと案内して、シルビオを説得にかかる。
シルビオのあの笑顔的にほぼ説得は無理だと僕は思う。
しょうがないので、使用人のお兄さんに促されるままフッカフカな椅子に腰を掛け、夜会会場から聞こえる調べに耳を傾けた。
ー もう居るのかな…。《仮面の男爵》
そう心の中でぼやくと、会えない事が残念で、胸の辺りがギュッとなる。
ー ライモンド先生だったらいいな…
ぽすんっと頭を背もたれに預けて、会いたいなとギュッとした胸の辺りに手を重ねる。
会えたら今度は怯えない。
会えたら今度は怖がらせない。
会えたら……、今度こそ…。
「ラニラニ」
名を呼ばれて、見上げるとシルビオが僕の頰に手を添えて、まるでキスをするように耳元に唇を寄せた。
「シ、シルビオ?」
「ラニラニ。あの侯爵は怪しい。このまま帰してもらえそうにないから参加するフリをして帰るよ」
息が耳に掛かり、擽ったい。
今すぐ耳元で喋るのをやめてもらいたいが、内容が重要そうなのでむずむずしながら我慢する。
「だから、もう一度、約束してね。知らない人から出された食べ物は?」
「ん…ふっ。食べな…い」
「俺から?」
話す度に鼓膜まで吐息が掛かり、ゾクゾクする。
その感覚が少し怖くてシルビオの腕を掴むが、フッと耳に吐息を掛けられ、小さく悲鳴を上げた。
「俺から?」
「離れないっ。離れないって!」
「うん。いい子」
半泣きで再度誓わされ、もう分かったからやめてと耳を抑えると、苦笑して揶揄うように僕の額に唇を寄せた。
その光景をパクパクと何か言いたそうに口を開けて、真っ赤な顔でフラント侯爵がこちらを指差してる。
「どうしました? フラント侯爵」
「シ、シルビオ殿とラニ王子はどういったご関係で」
「ご想像にお任せしますよ」
そうフラント侯爵に意味深な笑顔を浮かべると、シルビオは拗ねてジトッとした目を向ける僕に「ごめんネ」と心にもない謝罪をして、フラント侯爵に招待客のリストを要求する。
「んー。ラニ王子は今回のフラント侯爵の夜会を楽しみにしてらしたので、こちらとしても出来れば参加したい」
「そ、そうですかっ! ならば、早く招待客を確認しましょう」
さぁさぁ、とフラント侯爵はシルビオに早く招待客リストを見るようにと急かす、シルビオはその様子に肩をすくめて、リストを見るふりを始める。
そんな2人の姿を「茶番だね」とぼんやりと眺めつつ、事が終わるのを待っていると、少し視界が霞んで目を擦る。
ー 眠い
耐えられない強い眠気に突如、襲われてカクンッと意識を手放す。
意識を手放す中、フラント侯爵とシルビオが床に倒れていたのは気の所為だろうか?
酷く甘い匂いがする。
頭がクラクラするような甘い匂いで、身体中がゾワゾワと鳥肌が立って、鳥肌が立ってるのに火照るように身体は熱い。
強い眠気が薄れると、今まで感じた事のないムズムズとした感覚が身体を支配して、それが怖くてもがくけど、余計酷くなっていく。
「何…これ…」
ぐわんぐわんっと酷い頭痛に眩暈を起こしながら、助けを求めるように手を伸ばすと誰かが僕の手を握り、ホッと胸を撫で下ろす。
「シルビ…オ?」
そう名前を呼んでみたけど、僕の手を握った手はシルビオの手と違い、剣ダコがなくすべすべ。
「ダメですよ? 閨で他の男の名を呼んでは」
子供のおイタを叱るようにめっ!と、艶やかな人差し指が僕の唇に当てられる。
その聞き覚えある声に一気に血の気が引く。
マズイと身体を逃そうと、もがくがシーツが肌を掠めるたびにゾワゾワと背筋を未知の感覚がせり上がり、お腹の辺りに熱が溜まってく。
「ふふふっ、可愛い。綺麗な宝石みたいな瞳を潤ませて、白い肌をバラ色に染めて…。ラニ様の声はカナリアみたいに綺麗だから、きっと乱れて囀る声もとっても可愛いんでしょうね」
「……男娼…のお兄…さん?」
「ふふふっ。やっと、会えた。会わせてくださったガーウィン様には後で一緒に奉仕しましょうね。…ああ、ごめんなさい。閨で他の男の名は禁句でしたね」
僕の上に跨り、うっとりとした表情で僕を見る何時ぞやの男娼のお兄さん。
ー え? 嵌められた??
タラタラと冷や汗が止まらない。
ついでに謎のお腹の辺りの熱もおさまらない。
やはり、夜会は闇の世界で、僕には計り知れない思惑が渦巻いてるのかもしれない。
何がどうなって、こうなったのか。
今、分かる事はフラント侯爵が真っクロだったって事だね!?
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