王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

13、じいちゃん、僕には貴方が分かりません

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「ラニ王子が誘拐されたらしいっ!」

「はぁ!? ラニ王子は今、城に隣接する後宮で保護(謹慎)中だろっ! なんで、そんな事になる!?」

「衛生兵っ! 衛生兵!! 城内意識不明者多数っ! 至急、救援求ム!!」

「テロ!? ファルハからの攻撃か?!」

「皇帝と第二皇子が倒れたっ! 宰相も瀕死らしい。誰か、第一皇子を呼べっ!!」

「あの人。出来た新居に婚約者引き摺り込んでもう6日は篭ってるそうだぞ」

「騎士団長はどうした!?」

「先方、モアナ産の酒瓶抱いてゴミの箱で意識を失ってる所を発見したそうです。未だ、意識不明」

「くそっ! 誰か、誰か、生き残った役職付きは居ないのかっ……」

騎士団の屯所がバタバタしている。
先輩達が右往左往してむっちゃくちゃ忙しそうにしている。

学園から突如呼び出されたエリオットこと、俺はもう既に帰りたいが、護衛対象2人が行方知れずなので帰るに帰れない。

どうしたもんか…。
チラチラ先輩達が懇願の眼差しで俺を見るんだが、まさか、俺に指揮を求めちゃいないよな…。

どうやって、うまく手を抜きつつ、2人を連れて帰るか。
はー、どうしたもんかなー。と腕を組むと後ろからいきなり蹴られた。


「エリオット・ルー。何をぼさっとしている」

この雑な俺への扱いとこの声はと、嫌々振り返るが、その光景にちょっと状況が分からなくて、目を瞬かせる。

シルビオ先輩がフィルバート殿下を姫抱きにしてる。
ちょっと訳が分からない。

しかも、今朝から謹慎中だったラニを迎えに行く気満々で元気にソワソワしてた筈のフィルバート殿下が何故かシルビオ先輩の腕の中で寝込んでる。
どうして…、どうしてそうなった。

「せ、先輩……」

「狼狽えるなっ! フィルバート殿下以外は酔っ払って寝こけてるだけだ。ファルハからの攻撃でもないっ。騎士団長はほっとけ。その内起きる」

サラッと自身の父親を見捨てて、シルビオ先輩はゲキを飛ばす。
その様に過干渉過保護でも、やはりこの人は騎士団長の器なのだなと思った。

「シルビオ様」

「俺達が今やるべき事は平常通りの城内守護及びにラニ王子の救出だ」

「ラ、ラニ王子は一体誰に拐われたのですか」

「犯人の特徴は筋肉質で、背は190弱。肌は褐色で、髪は白に近い銀。瞳の色は青。尚、城から帝都を北上中。第2第3小隊は犯人を追え!」

「老人…」

「侮るなよ。城から王子を拐うなんて、相当な手練れだ」

シルビオ先輩の言葉にゴクリッと唾を飲み、身を引き締めて、先輩達が走っていく。その顔は目的が定まり、イキイキしている。
しかし、俺はその場の空気に乗れなかった。寧ろ、シルビオ先輩の言葉の端々から気付いてはいけない事実に気付いて冷や汗が止まらない。

銀の髪に青い瞳って……。
んでもって、老人って。

ー モアナ…大王

完全にラニと同じ配色のその人。
ラニを拐った犯人はおそらくモアナ大王だ。

この男。それを敢えて濁して、先輩達をけしかけてる。
相手がモアナ大王だって知ったら萎縮するの分かってて、黙ってやがる。

「シルビオ先輩。俺はフィルバート殿下の看護兼護衛を」

「お前は第2、第3小隊の指揮を取れ。……生捕にしろ」

お前は分かってるよな? と言わんばかりの笑顔でシルビオ先輩は俺を生贄に出す。

嫌っすよ、先輩っ!
俺も道連れっすか!?






エリオットがシルビオの暴挙に慄いている時。
僕はじいちゃんに小脇に抱えられて、入り組んだ帝都の下町を移動していた。

じいちゃんは地元民かと聞きたくなる程、土地勘があり、時折、知り合いらしき人達に声を掛けつつ、走り抜けていく。

「おー。エド、久しいな。げんきかぁー」

「じーさんっ! お陰さんで元気にやってるよ」

「がははっ。そりゃよかった」

「じ、じいちゃん…」

「おー、旦那っ。今日は可愛い子ちゃん連れてんのか。やるねぇ」

「どーだ。可愛いだろぅー。この可愛子ちゃんは俺の孫だ」

「じいちゃんっ!!」

僕を抱えて小走りしてるのに、無茶苦茶余裕で周囲と話しまくるじいちゃん(こう見えてモアナ大王)。
しかも、会話の感じ的に1日、2日の仲じゃない。
結構、頻繁にレーヴに遊びにきてるみたい……じゃなくて!!

「僕。旅には行けないよ!」

バタバタと取り敢えず腕から抜け出そうとするが、結構ガッチリで抜けない。
そんな僕をみて、じいちゃんはポリポリと頰を掻く。

「しかしなぁー。お前、声変わりしてないしなぁ」

「なんで今、声!?」

「成長したら声も自然と変わるもんだと思っとったから、気分転換も兼ねて留学に出したんだがぁ…」

どうしたもんかとじいちゃんは何故か眉を下げ、困り顔を浮かべる。

何故、今、声の事なんだろう。
気分転換って何のこと?


「ラニ。夢の獣は怖いか?」

「なんで…、獣の話?」

「その調子だと、家族以外の人前で歌うのもまだ出来ないか。…歌う事が好きだったのになぁ」

がさついた男らしい大きな手が優しく頰を撫で、寂しそうな顔をする。
なんでそんな顔をするんだろう。
その表情が時折、ライモンド先生が見せていたあの悲しそうな顔に似ている。

ー なんで……


ズキズキと頭が痛い。

ー なん…で

フッと景色が変わる。
今日は晴れていた筈なのに、雨が身体を打ち付けて、大風で靡いていた服は船に打ち付けた波で濡れて張り付いている。

しかし、急に雨も風も波も消え、目まぐるしく景色は変わっていく。

満天の星空に、優しい温もりに、夜に交わした一つの約束と誓い。

『ーーー。ーーーーーー』

そして景色は赤く染まり、ポタポタと垂れる赤い雫が全てを消し去っていく。



「ラニ」

ハッと名を呼ばれて、意識が戻る。
気付けば、震えて力の入らない身体をじいちゃんに支えられていた。
身体が寒い。びっしょりとかいた脂汗が体温を奪う。

『ラニ。夢の獣が怖いか』

怖い。とても怖い。
でも、それがとても嫌だ。
全部。夢の中の獣に邪魔されてる気がする。
ライモンド先生が消えたあの時だって、獣さえ怖くなければもう少し話せた筈。
そう思うと段々と腹が立ってくる。

「怖くないよ、獣なんてっ! 負けたくないっ」

迷惑な話だ。
たかが、夢の癖になんで僕の中に居座る?
僕は夢なんかに負けたくない。

「そうかぁー。まぁ、ぶつからなければ乗り越えられない波もあるしなぁ。それでこそ、海の男だ」

フラッフラな僕を前にじいちゃんは嬉しそうにニカッと笑う。

や、何の話?? 
あれ?そもそも、獣も歌も旅と何の関係が…。

「お前がぶつかる波は大きい波だぞ、ラニ。頑張れよぉー。ダメだったらじいちゃんがいつでも迎えに来てやるっ!」

「え? んん??」

「どーんと大船に乗ったつもりで立ち向かえ。…成長するもんだなぁ、あの甘えたが」

すっごい愉快そうにガッハッハと笑い、バシバシッ僕の背を叩く。
え? いや、ねぇ!? 比喩が多すぎて僕、じいちゃんが考えてる事、全く分かってないんだけど。


じいちゃんは1人で何かを満足すると、「じゃー、行ってくる」と何事もなかったかのように手を振って去って行った。
それこそ、風のようにビュオッと吹き抜けるように。

その後、涙目のエリオットに回収されて、僕、いや城にいた全員に疑問を残して去っていった。

果たしでモアナ大王は何がしたかったのか。
それはモアナ大王にしか分からない。
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