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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
16、エレン・メローディア
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(エレン視点)
それは子供の頃の淡い初恋で、その歌声を聴きながら想いを馳せていた。
貴方は肌は何色だろう。貴方の目はどんな形でどんな色をしているのだろう。
髪の色は、背は、鼻の形は。
きっと優しい女神様だから優しい顔をしているんだろう。
恋と言ってもそれは崇拝に近い憧れで、12年前から聞こえなくなったあの日から貴方に近付きたい、会いたいと思いつつも会えない事は分かってた。
だって相手は神様だから。
きっとラニちゃんに最初に惹かれたのもそのいない神様を重ねていたから。
可愛くて可愛くてどっぷりハマったのはラニちゃん自身にだけど。
でも、奇跡は存在した。
それと同時に少し怖くなった。
夢から覚めてしまうような、暴いてはいけないものを暴いてしまうのではないかという怖さ。
でも、知ってしまえば戻れない。
知ってしまえばこの気持ちは溢れてしまうから。
◇
「だから…、だから、聞こえなくなったんだね」
ハラハラと空色の瞳から涙を流し、エレンが泣いている。
それは歓喜と不安が入り混じっていて、僕はそれがなんだか怖くなって、エレンに手を伸ばした。
ー 何故だろう。嫌な予感がする…
しかし、エレンは僕の手が届く前に譜面と文献を腕に抱き、「ありがとう」と涙ながらに微笑む。
「ラニちゃん。俺、この歌を音楽祭で歌うよ。だから、見に来て欲しい。聞いて欲しい。この歌には俺の全てがこもってるんだ。12年分の想いが全てこもってる」
まるで花が咲き乱れるような美しい笑みで身体に刻むように何度も何度も口ずさむ。
「ずっと聞いて欲しかったんだ。俺の歌を貴方に」
その姿は目が眩みそうな程、眩しくて、そのまま消えてしまいそうで、何で自分でもそんな事思ってるか分からなくて。
「早速、練習しなきゃ」
でも、そのエレンの姿はこれ以上にないんじゃないかってくらい幸せそうで。
喉に何か引っかかりながらも僕は夢に向かって走り去るエレンに何も言えなかった。
「卑怯者」
ただ去っていくエレンを見つめていると、地を這うような声が後ろから聞こえて、バッと振り返る。
そこにはグルグル眼鏡先輩が居て、とても冷たい表情で僕を見つめていた。
「……先輩は何を知ってるの?」
胸の中で膨らむ不安に理由が欲しくて、グルグル眼鏡先輩に答えを求める。
何か知ってるなら教えてほしい。
だけど、そんな僕をグルグル眼鏡先輩は鼻で笑い、呆れたように溜息をついた。
「何を知ってるかって? それはラニ氏が一番ご存知なのでしょう。この期に及んで知らないフリですか」
「知らないも何も分からないんだって。僕は何が卑怯なの? ねぇ、僕はっ……」
僕は本当にこの物語でモブなの?
「僕は何者なの?」
そう問えば、グルグル眼鏡先輩は「白々しい」と憎しみのこもった目で僕を見る。
「貴方には失望しましたよ」
そう言葉を残すとグルグル眼鏡先輩は僕の制止にも聞かずに、何処かへと去っていった。
◇
(フィルバート視点)
豊かな歌声が聴こえる。
それは今まで聞いた事のない歌で、何時もとは違い、子供のようにはしゃぐように歌っている。
あまりにも楽しそうに笑いながら歌うエレンは何時もよりも輝いて見えた。
その姿にきっと今日は徹夜だろうなと自身で食べようと思っていたサンドイッチもエレンの差し入れに追加した。
ー 暫く聴いたら帰るか
今日はラニがどうしても心配だというので、音楽室のソファーで寝るのではなく、寮の自身の部屋に帰る。
決して、本番で体調を崩しそうというラニの指摘に一理あるなと思ったのではない。俺の弟分であるアイツが心配だというから帰るのだ。
エレンが一曲歌い切るまで部屋の外で扉に背を預けて、耳を傾ける。
やはり、好きだなと再確認して思い出すのは初めてエレンに出会った時。
技術も中途半端でただがむしゃらに夕暮れまで音楽室で歌う姿。
思うように上手く歌えず、もう涙目なのにそれでも諦めずに歌い続ける。
今でこそ、奇跡の歌声と呼ばれているが、その歌声は血の滲むような努力があったから。
あの入学当初の挫折を経て、今がある。
その諦めずに歌い続ける強さが羨ましくて。
好ましいと思っていたら、何時の間にかに好きになっていた。人柄を知れば知る程、愛しいと思っていた。
ー 重症だな
何度振られても諦めきれず、せめて、エレンが誰かと結ばれるまでは諦めたくなくて。
喋れただけで幸せで、触れられたらドキドキしつつも嬉しい。
しかし、エレン的には迷惑なのかもしれない。
いや、迷惑なんだろうな。
ははは、と渇いた笑いをこぼして、1人で勝手に落ち込む。
エレンの歌はラストスパートを迎えて、やがて優しい余韻を残して宙に消えていった。
サンドイッチを扉の前に置いて帰ろう。
そうコトリッとサンドイッチを床に置き、手紙を添えようとすると、はたとエレンが誰かと話している声が聞こえた。
誰と話しているのだろうと不思議に思い、首を傾げる。
盗み聞きは悪いと思いつつも、エレンが相手に少し声を荒げているので、心配になり、聞き耳を立てる。
しかし、中々と声は聞こえない。
エレンの声は時折聞こえるが、相手の声は一切聞こえてこない。
「貴方はこの為に俺を育てたんでしょう?」
やっと聞き取れた言葉はその言葉だけでは話の内容は理解できず、内容が分からないままエレンは誰かとの会話を終えた。
一体誰だと思考を巡らせていると、キィーと扉が開く音がして、空色の瞳と視線がかち合う。
マズイと距離を取ろうとしたが、俺の手からヒラヒラと添えようとした手紙が床に落ちる。
その手紙を空色の瞳が目で追い、床に置いてあるサンドイッチを見やり、目を見開いた。
驚いた顔も可愛いな、なんて見惚れているうちにエレンが俺が落とした手紙を拾い、開ける。
「『応援してます』…」
中身の内容を声に出して読み、少し丸っこいエレンの指が文字をなぞる。
パチクリと目を瞬かせて、俺を見るエレンに俺は焦って謎の言い訳を始める。
「その、それはだな。アレだ。アレ」
アレってなんだ!?
「アレだっ。今日はたまたま食堂はサンドイッチデーで、大量にサンドイッチが、あって、勿体無いからお前にも分けてやろうと思ってだな」
なんだサンドイッチデーって!!
そんなもんはない。言い訳にすらなってない。
頭の中で何故か呆れ顔のラニが「もう素直にいいなよ」と溜息をついた。
「何時も差し入れてくれてたのはフィルバート殿下だったんですか?」
頭の中のラニに反論する前にエレンにそう問われて何も言えずに顔を真っ赤にして俯く。
するとエレンはしゃがみ、サンドイッチに手を伸ばすと小さく一口、口にした。
「美味しい」
ふわりと優しく笑みを浮かべるエレンを前に、焦っていた事も忘れて見惚れる。
歌う時にはあれ程大きく開ける口をエレンは何時だって小さく開けて少しづつご飯を食べる。
前に「なんで、ばっくり食べないの? いっぱい食べた方が美味しいよ?」と口にソースを付けながら疑問を呈したラニにエレンは「少しづつ幸せを噛み締めて食べたい」と答えていた。
その慎ましさが愛らしくて、俺が持ってきたサンドイッチを美味しいと言ってくれた事が嬉しくて、俺も自然と笑っていた。
「初めはファンだったんだ。荒削りなエレンの歌をたまたま音楽室で聞いて、応援したいと思った。がむしゃらに努力する姿が眩しくて羨ましいと思った。だが、エレンをもう少し知りたいと思ううちに歌うエレンだけではなく、エレン自身に惚れていた」
それは初めてエレンに素直に気持ちを言えた瞬間だった。
ひねた事を言わず、ありのままの告白が出来た瞬間だった。
「エレンの歌が好きだ。努力家で真面目なのに何処か抜けてるエレンを愛おしいと思っている」
正真正銘きちんとした告白。
まぁ、何時もみたいに取り付く島もなく、フラれるのだろうが…。
しかし、エレンは中々言葉を返す事なく、少し不安になり、エレンを見やる。
エレンの頰はバラ色に染まっていた。耳まで真っ赤に染まって、空色の瞳を恥ずかしそうに逸らし、口元を楽譜で覆う。
「俺…。ずっと、フィルバート殿下を誤解してたかもしれません。貴方はそうやって、俺を揶揄ってるんだと思ってました。俺の事が気に食わないから……その」
その衝撃の告白に俺は何やってんだと少し前までの自信を呪った。
あれかっ! もしや、2年次のエレンへのやっかみからのいじめの主犯も俺だと思われていたのか!?
どちらかというとあの頃のコンスタンチェには止めろ、迷惑だとは言っていたのだが…。
ー か、過去は過去だ。やっと誤解は解けたんだ…
中々と自身でも無理のあるポジティブな言葉で自身を肯定しつつ、苦笑いが止まらない。
本当に、本当に何やってんだ…。
しかし、照れるエレンは可愛い。
照れる空色の瞳が俺を映す。
何時もと違う視線に1人で俺は舞い上がって…。
「フィルバート殿下は優しい人です。俺なんかじゃ、とても釣り合わない程」
やはり、フラれたかと肩を落とす。
折角、スタート地点にたてたんだ。また、いい所を見せて、チャレンジしよう。
そうエレンを見やるがその瞳は俺を見ているのにもう俺を映してないように見えた。
「俺は、敬愛している人がいます。その人の為にこの命を燃やしたい。だから、殿下の気持ちには応えられません」
失恋。
そう思えたら素直に落ち込めたのかもしれない。
しかし、エレンのその真っ直ぐすぎるその瞳に危ういものを感じて、エレンの肩を掴んだ。
「…エレン。それは、その命の燃やした先に何がある。お前はその敬愛する人物の為に生きた先で幸せになれるのか?」
正直、エレンが他の誰かと結ばれるなんて本当は考えたくない。
だが、それでもそうなるなら勿論、エレンが幸せにならなければ許さない。
エレンは何も応えず、ただ幸せそうに笑った。
「とっても幸せですよ。その為に俺がいるのだから」
それは子供の頃の淡い初恋で、その歌声を聴きながら想いを馳せていた。
貴方は肌は何色だろう。貴方の目はどんな形でどんな色をしているのだろう。
髪の色は、背は、鼻の形は。
きっと優しい女神様だから優しい顔をしているんだろう。
恋と言ってもそれは崇拝に近い憧れで、12年前から聞こえなくなったあの日から貴方に近付きたい、会いたいと思いつつも会えない事は分かってた。
だって相手は神様だから。
きっとラニちゃんに最初に惹かれたのもそのいない神様を重ねていたから。
可愛くて可愛くてどっぷりハマったのはラニちゃん自身にだけど。
でも、奇跡は存在した。
それと同時に少し怖くなった。
夢から覚めてしまうような、暴いてはいけないものを暴いてしまうのではないかという怖さ。
でも、知ってしまえば戻れない。
知ってしまえばこの気持ちは溢れてしまうから。
◇
「だから…、だから、聞こえなくなったんだね」
ハラハラと空色の瞳から涙を流し、エレンが泣いている。
それは歓喜と不安が入り混じっていて、僕はそれがなんだか怖くなって、エレンに手を伸ばした。
ー 何故だろう。嫌な予感がする…
しかし、エレンは僕の手が届く前に譜面と文献を腕に抱き、「ありがとう」と涙ながらに微笑む。
「ラニちゃん。俺、この歌を音楽祭で歌うよ。だから、見に来て欲しい。聞いて欲しい。この歌には俺の全てがこもってるんだ。12年分の想いが全てこもってる」
まるで花が咲き乱れるような美しい笑みで身体に刻むように何度も何度も口ずさむ。
「ずっと聞いて欲しかったんだ。俺の歌を貴方に」
その姿は目が眩みそうな程、眩しくて、そのまま消えてしまいそうで、何で自分でもそんな事思ってるか分からなくて。
「早速、練習しなきゃ」
でも、そのエレンの姿はこれ以上にないんじゃないかってくらい幸せそうで。
喉に何か引っかかりながらも僕は夢に向かって走り去るエレンに何も言えなかった。
「卑怯者」
ただ去っていくエレンを見つめていると、地を這うような声が後ろから聞こえて、バッと振り返る。
そこにはグルグル眼鏡先輩が居て、とても冷たい表情で僕を見つめていた。
「……先輩は何を知ってるの?」
胸の中で膨らむ不安に理由が欲しくて、グルグル眼鏡先輩に答えを求める。
何か知ってるなら教えてほしい。
だけど、そんな僕をグルグル眼鏡先輩は鼻で笑い、呆れたように溜息をついた。
「何を知ってるかって? それはラニ氏が一番ご存知なのでしょう。この期に及んで知らないフリですか」
「知らないも何も分からないんだって。僕は何が卑怯なの? ねぇ、僕はっ……」
僕は本当にこの物語でモブなの?
「僕は何者なの?」
そう問えば、グルグル眼鏡先輩は「白々しい」と憎しみのこもった目で僕を見る。
「貴方には失望しましたよ」
そう言葉を残すとグルグル眼鏡先輩は僕の制止にも聞かずに、何処かへと去っていった。
◇
(フィルバート視点)
豊かな歌声が聴こえる。
それは今まで聞いた事のない歌で、何時もとは違い、子供のようにはしゃぐように歌っている。
あまりにも楽しそうに笑いながら歌うエレンは何時もよりも輝いて見えた。
その姿にきっと今日は徹夜だろうなと自身で食べようと思っていたサンドイッチもエレンの差し入れに追加した。
ー 暫く聴いたら帰るか
今日はラニがどうしても心配だというので、音楽室のソファーで寝るのではなく、寮の自身の部屋に帰る。
決して、本番で体調を崩しそうというラニの指摘に一理あるなと思ったのではない。俺の弟分であるアイツが心配だというから帰るのだ。
エレンが一曲歌い切るまで部屋の外で扉に背を預けて、耳を傾ける。
やはり、好きだなと再確認して思い出すのは初めてエレンに出会った時。
技術も中途半端でただがむしゃらに夕暮れまで音楽室で歌う姿。
思うように上手く歌えず、もう涙目なのにそれでも諦めずに歌い続ける。
今でこそ、奇跡の歌声と呼ばれているが、その歌声は血の滲むような努力があったから。
あの入学当初の挫折を経て、今がある。
その諦めずに歌い続ける強さが羨ましくて。
好ましいと思っていたら、何時の間にかに好きになっていた。人柄を知れば知る程、愛しいと思っていた。
ー 重症だな
何度振られても諦めきれず、せめて、エレンが誰かと結ばれるまでは諦めたくなくて。
喋れただけで幸せで、触れられたらドキドキしつつも嬉しい。
しかし、エレン的には迷惑なのかもしれない。
いや、迷惑なんだろうな。
ははは、と渇いた笑いをこぼして、1人で勝手に落ち込む。
エレンの歌はラストスパートを迎えて、やがて優しい余韻を残して宙に消えていった。
サンドイッチを扉の前に置いて帰ろう。
そうコトリッとサンドイッチを床に置き、手紙を添えようとすると、はたとエレンが誰かと話している声が聞こえた。
誰と話しているのだろうと不思議に思い、首を傾げる。
盗み聞きは悪いと思いつつも、エレンが相手に少し声を荒げているので、心配になり、聞き耳を立てる。
しかし、中々と声は聞こえない。
エレンの声は時折聞こえるが、相手の声は一切聞こえてこない。
「貴方はこの為に俺を育てたんでしょう?」
やっと聞き取れた言葉はその言葉だけでは話の内容は理解できず、内容が分からないままエレンは誰かとの会話を終えた。
一体誰だと思考を巡らせていると、キィーと扉が開く音がして、空色の瞳と視線がかち合う。
マズイと距離を取ろうとしたが、俺の手からヒラヒラと添えようとした手紙が床に落ちる。
その手紙を空色の瞳が目で追い、床に置いてあるサンドイッチを見やり、目を見開いた。
驚いた顔も可愛いな、なんて見惚れているうちにエレンが俺が落とした手紙を拾い、開ける。
「『応援してます』…」
中身の内容を声に出して読み、少し丸っこいエレンの指が文字をなぞる。
パチクリと目を瞬かせて、俺を見るエレンに俺は焦って謎の言い訳を始める。
「その、それはだな。アレだ。アレ」
アレってなんだ!?
「アレだっ。今日はたまたま食堂はサンドイッチデーで、大量にサンドイッチが、あって、勿体無いからお前にも分けてやろうと思ってだな」
なんだサンドイッチデーって!!
そんなもんはない。言い訳にすらなってない。
頭の中で何故か呆れ顔のラニが「もう素直にいいなよ」と溜息をついた。
「何時も差し入れてくれてたのはフィルバート殿下だったんですか?」
頭の中のラニに反論する前にエレンにそう問われて何も言えずに顔を真っ赤にして俯く。
するとエレンはしゃがみ、サンドイッチに手を伸ばすと小さく一口、口にした。
「美味しい」
ふわりと優しく笑みを浮かべるエレンを前に、焦っていた事も忘れて見惚れる。
歌う時にはあれ程大きく開ける口をエレンは何時だって小さく開けて少しづつご飯を食べる。
前に「なんで、ばっくり食べないの? いっぱい食べた方が美味しいよ?」と口にソースを付けながら疑問を呈したラニにエレンは「少しづつ幸せを噛み締めて食べたい」と答えていた。
その慎ましさが愛らしくて、俺が持ってきたサンドイッチを美味しいと言ってくれた事が嬉しくて、俺も自然と笑っていた。
「初めはファンだったんだ。荒削りなエレンの歌をたまたま音楽室で聞いて、応援したいと思った。がむしゃらに努力する姿が眩しくて羨ましいと思った。だが、エレンをもう少し知りたいと思ううちに歌うエレンだけではなく、エレン自身に惚れていた」
それは初めてエレンに素直に気持ちを言えた瞬間だった。
ひねた事を言わず、ありのままの告白が出来た瞬間だった。
「エレンの歌が好きだ。努力家で真面目なのに何処か抜けてるエレンを愛おしいと思っている」
正真正銘きちんとした告白。
まぁ、何時もみたいに取り付く島もなく、フラれるのだろうが…。
しかし、エレンは中々言葉を返す事なく、少し不安になり、エレンを見やる。
エレンの頰はバラ色に染まっていた。耳まで真っ赤に染まって、空色の瞳を恥ずかしそうに逸らし、口元を楽譜で覆う。
「俺…。ずっと、フィルバート殿下を誤解してたかもしれません。貴方はそうやって、俺を揶揄ってるんだと思ってました。俺の事が気に食わないから……その」
その衝撃の告白に俺は何やってんだと少し前までの自信を呪った。
あれかっ! もしや、2年次のエレンへのやっかみからのいじめの主犯も俺だと思われていたのか!?
どちらかというとあの頃のコンスタンチェには止めろ、迷惑だとは言っていたのだが…。
ー か、過去は過去だ。やっと誤解は解けたんだ…
中々と自身でも無理のあるポジティブな言葉で自身を肯定しつつ、苦笑いが止まらない。
本当に、本当に何やってんだ…。
しかし、照れるエレンは可愛い。
照れる空色の瞳が俺を映す。
何時もと違う視線に1人で俺は舞い上がって…。
「フィルバート殿下は優しい人です。俺なんかじゃ、とても釣り合わない程」
やはり、フラれたかと肩を落とす。
折角、スタート地点にたてたんだ。また、いい所を見せて、チャレンジしよう。
そうエレンを見やるがその瞳は俺を見ているのにもう俺を映してないように見えた。
「俺は、敬愛している人がいます。その人の為にこの命を燃やしたい。だから、殿下の気持ちには応えられません」
失恋。
そう思えたら素直に落ち込めたのかもしれない。
しかし、エレンのその真っ直ぐすぎるその瞳に危ういものを感じて、エレンの肩を掴んだ。
「…エレン。それは、その命の燃やした先に何がある。お前はその敬愛する人物の為に生きた先で幸せになれるのか?」
正直、エレンが他の誰かと結ばれるなんて本当は考えたくない。
だが、それでもそうなるなら勿論、エレンが幸せにならなければ許さない。
エレンは何も応えず、ただ幸せそうに笑った。
「とっても幸せですよ。その為に俺がいるのだから」
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