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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
21、初恋は甘い味がした(ジェルマン視点)
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母は娘を欲しがっていた。
『ジェルマン。これ、あげるわ。可愛いでしょう?』
可愛い服に可愛い家具に可愛い人形。
母は俺に与えたが、どれもこれも俺には似合わなかった。
父や兄は困ったように笑って、無理して母に付き合わなくて良いと新しい俺に似合う男らしいものを買い与えてくれた。
『俺は好きなのに…』
母からもらったテディベアは剣の玩具に代わり、剣の玩具を握る自身を見て思う。
『似合わなければ。好きでもダメなの?』
好きでも周りに合わせて、周りが似合うと思うものを選ばなくてはいけない。
そこに俺の意志なんて…。
『ジェルマンさんの意志も大切です。ジェルマンさんはジェルマンさんが好きだと思える人と婚約するべきだと思います』
だからだろうか。
その言葉がやけに心に響いたのは。
きっと、本人にその気はなかっただろうが、その言葉は好きに生きて良いんだと言ってくれている気がした。
◇
「テディベアって、そうやって出来るんだっ…」
「ああ。ジェシルもこうやって。作った」
「凄い…。平面がどんどん立体になっていく。魔法みたいっ!」
まるでサファイアのような青い瞳が俺の手元を見て、キラキラと眩しく輝く。
テディベアばかりの俺の部屋でテディベアを抱いて隣に腰掛ける愛らしいその人は銀糸の髪を編み込んで一つにまとめて、お気に入りのロバ耳のアクセサリーを頭に付け、今日もひたすらに愛らしい。
今や《モアナの真珠》と社交界で、呼ばれる程に注目を集めているというのに、2年前から性格は変わらず、擦れるという事を知らない素直なラニ王子。
2年間。焦がれた相手が自身の部屋に居て、俺の事だけを見てくれている。
その事実だけでも舞い上がってしまって、夢のようだと卑怯にも思ってしまう。
結構。強引な手だった。
恩人に対して、軟禁してあわよくば、縁あって手に入れた3日で、手中に落としてしまおうと、画策した母を咎めようとせず、利用したというのにラニ王子は本当に俺だけを考えてくれている。
ー ああ。やはり。愛おしい
笑い掛ければ、それ以上の眩しい笑みで微笑み返してくれる。
本当の恋人になれたら、どれ程幸運か。
「ジェルマンは手先が器用なんだね。僕、流石に人形は縫えないな。服のほつれくらいらなテキトーに直すけど」
「ラニ王子は。裁縫が出来るのか。なら。きっと。人形も縫える」
「うーん。出来るかな?」
「手解きしようか?」
幸せな時間というのは何故こうも短く感じるのだろう。
一緒になって夢中に人形を作って、一緒に食事をして、庭で咲き誇るピンクのバラを見ながらデートをして。
愛しい貴方の姿をこの目に焼き付けて、気付けば2日はあっという間に過ぎていく。
「ごめんね。ジェルマン。やっぱり、僕はジェルマンの気持ちには答えられない」
その言葉が3日目の終わりを告げる。
「ごめん」
案外、その言葉をすんなりと受け止められたのは分かっていたからかもしれない。
叶わない事をあの合宿の時から分かっていた。
ピアノの前であの男に身を預けて座るラニ王子。
その姿はとても幸せそうで、一目見ただけで理解してしまった。
「僕。好きな人が居るんだ」
それでもその男は置いて去ってしまったから、自分にも少しはチャンスがあるのではないかと期待した。
「そうか」
「うん」
だから答えられないと告げるラニ王子の頰は薔薇色に染まり、その男を想い甘く笑う。
その甘い笑みはこの2日で見た笑顔の中でも愛おしく感じて、同時に自身にこの笑顔が向けられる事がない事を理解して寂しさが胸を埋め尽くす。
分かっていた事だ。
この3日間は言うなれば、ただの悪あがき。
ラニ王子をどうしても諦められない母とこの恋心を捨てられない俺の悪あがき。
「ジェルマン。ごめん」
申し訳なさそうに謝るラニ王子に良いんだと言葉を振り絞る。
しかし、何故かどうにも納得がいかないラニ王子が突拍子もない事を言い出すものだから悲しさも寂しさも吹っ飛ぶ。
「うん。だから、僕を殴って良いよ。振ったんだからね。こう…、一発スパンっと…」
覚悟は決まってるよと、震えながら目を閉じるものだから思わず、吹いてしまった。
何故、振ったら殴られる前提なのだろうか?
ー 貴方は本当に…
愛おしくてしょうがない。
しかし、振った責任を取ってくれるひとつだけ。
震える頰に手を添えて、その唇に触れた。
「へ?」
「あまり。気のある相手に情けをかけない方がいい。つけ込まれてしまう」
その唇は意外と薄くて、しかし、ほのかに甘い味がするような気がした。
初めて自分の意志でした初恋は甘い味がした。
『ジェルマン。これ、あげるわ。可愛いでしょう?』
可愛い服に可愛い家具に可愛い人形。
母は俺に与えたが、どれもこれも俺には似合わなかった。
父や兄は困ったように笑って、無理して母に付き合わなくて良いと新しい俺に似合う男らしいものを買い与えてくれた。
『俺は好きなのに…』
母からもらったテディベアは剣の玩具に代わり、剣の玩具を握る自身を見て思う。
『似合わなければ。好きでもダメなの?』
好きでも周りに合わせて、周りが似合うと思うものを選ばなくてはいけない。
そこに俺の意志なんて…。
『ジェルマンさんの意志も大切です。ジェルマンさんはジェルマンさんが好きだと思える人と婚約するべきだと思います』
だからだろうか。
その言葉がやけに心に響いたのは。
きっと、本人にその気はなかっただろうが、その言葉は好きに生きて良いんだと言ってくれている気がした。
◇
「テディベアって、そうやって出来るんだっ…」
「ああ。ジェシルもこうやって。作った」
「凄い…。平面がどんどん立体になっていく。魔法みたいっ!」
まるでサファイアのような青い瞳が俺の手元を見て、キラキラと眩しく輝く。
テディベアばかりの俺の部屋でテディベアを抱いて隣に腰掛ける愛らしいその人は銀糸の髪を編み込んで一つにまとめて、お気に入りのロバ耳のアクセサリーを頭に付け、今日もひたすらに愛らしい。
今や《モアナの真珠》と社交界で、呼ばれる程に注目を集めているというのに、2年前から性格は変わらず、擦れるという事を知らない素直なラニ王子。
2年間。焦がれた相手が自身の部屋に居て、俺の事だけを見てくれている。
その事実だけでも舞い上がってしまって、夢のようだと卑怯にも思ってしまう。
結構。強引な手だった。
恩人に対して、軟禁してあわよくば、縁あって手に入れた3日で、手中に落としてしまおうと、画策した母を咎めようとせず、利用したというのにラニ王子は本当に俺だけを考えてくれている。
ー ああ。やはり。愛おしい
笑い掛ければ、それ以上の眩しい笑みで微笑み返してくれる。
本当の恋人になれたら、どれ程幸運か。
「ジェルマンは手先が器用なんだね。僕、流石に人形は縫えないな。服のほつれくらいらなテキトーに直すけど」
「ラニ王子は。裁縫が出来るのか。なら。きっと。人形も縫える」
「うーん。出来るかな?」
「手解きしようか?」
幸せな時間というのは何故こうも短く感じるのだろう。
一緒になって夢中に人形を作って、一緒に食事をして、庭で咲き誇るピンクのバラを見ながらデートをして。
愛しい貴方の姿をこの目に焼き付けて、気付けば2日はあっという間に過ぎていく。
「ごめんね。ジェルマン。やっぱり、僕はジェルマンの気持ちには答えられない」
その言葉が3日目の終わりを告げる。
「ごめん」
案外、その言葉をすんなりと受け止められたのは分かっていたからかもしれない。
叶わない事をあの合宿の時から分かっていた。
ピアノの前であの男に身を預けて座るラニ王子。
その姿はとても幸せそうで、一目見ただけで理解してしまった。
「僕。好きな人が居るんだ」
それでもその男は置いて去ってしまったから、自分にも少しはチャンスがあるのではないかと期待した。
「そうか」
「うん」
だから答えられないと告げるラニ王子の頰は薔薇色に染まり、その男を想い甘く笑う。
その甘い笑みはこの2日で見た笑顔の中でも愛おしく感じて、同時に自身にこの笑顔が向けられる事がない事を理解して寂しさが胸を埋め尽くす。
分かっていた事だ。
この3日間は言うなれば、ただの悪あがき。
ラニ王子をどうしても諦められない母とこの恋心を捨てられない俺の悪あがき。
「ジェルマン。ごめん」
申し訳なさそうに謝るラニ王子に良いんだと言葉を振り絞る。
しかし、何故かどうにも納得がいかないラニ王子が突拍子もない事を言い出すものだから悲しさも寂しさも吹っ飛ぶ。
「うん。だから、僕を殴って良いよ。振ったんだからね。こう…、一発スパンっと…」
覚悟は決まってるよと、震えながら目を閉じるものだから思わず、吹いてしまった。
何故、振ったら殴られる前提なのだろうか?
ー 貴方は本当に…
愛おしくてしょうがない。
しかし、振った責任を取ってくれるひとつだけ。
震える頰に手を添えて、その唇に触れた。
「へ?」
「あまり。気のある相手に情けをかけない方がいい。つけ込まれてしまう」
その唇は意外と薄くて、しかし、ほのかに甘い味がするような気がした。
初めて自分の意志でした初恋は甘い味がした。
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