王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

23、卑怯者

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久々のグルグル眼鏡先輩の姿と、なんでここにという驚きで僕は叫びそうになった。
しかし、グルグル眼鏡先輩は無情にも首を手早く僕を締め黙らせる。

「ぐるっ、ぐるしいっ…」

「シャーラップ! 夜中に叫んではダメでしょう。ラニ氏」

「そ、そこ?」

「まーったく、しょうがないですね。ラニ氏は!!」

久々だというのに容赦なく僕の首を絞めるその酷さは、本当にっ、まさに僕が知るグルグル眼鏡先輩だ。

グルグル眼鏡はやっと僕の首から手を離すと、「さとて、行きますか」と、自分の都合で僕の手をグイグイと引っ張る。
うん。相変わらず、僕の意思関係なし!

「え? どこに行くの?」

「エレンの下ですよ。今ならまだトゥルーエンドは間に合います」

「またトゥルーエンド?」

「そうです。急がなくては」

なら、エリオットとか、外にいる騎士にエレンの居場所を伝えるべきだ。
そうグルグル眼鏡先輩に提案するが、眼鏡先輩は首を横に振る。

「いーですか。コトは一刻を争います。あの例のファルハ人の悪役令嬢なのですが。あの女、事を急いで、シナリオより早く拐っていってしまったのですよ」

「シナリオより早く?」

グルグル眼鏡先輩は話しながら僕を窓まで連れて行くと、身軽に近くにあった木に飛び移り、来いと言わんばかりに手を差し出してくる。

部屋は3階。落ちたら打ち所が悪ければ死ぬ。
躊躇っていると、「突き落としますよ」と脅してくるので、大人しく手を取り、木に飛び移る。

「なんで、階段じゃダメなの!?」

「コトを急ぐと言ってるでしょうがっ! 本当にラニ氏は今まで何処に行ってたのですか!? 音楽祭の後から3日も居なくなってましたよねッ。どれだけわたくしが、気を揉んだことか…」

イライラ、イリイリしながらグルグル眼鏡先輩は僕を介助しながら木を降りる。
グルグル眼鏡先輩に掴まれている腕がとても痛い。

前をつかつかと手を引いて歩くグルグル眼鏡先輩の言動から苛立ちと焦っているように感じる。

嫌な感じだ。
ぞわりっと鳥肌が立ち、その時、初めてグルグル眼鏡先輩を怖いと感じた。







(フィルバート視点)


エレンが拐われてから3日が経つ。
今日。やっと手に入れた手掛かりのファルハ人のハーフの令嬢は騎士団屯所で尋問を受けているという。

2年前にラニを拐おうとしたあの女。
ファルハ王の護衛として、混ざっていたあの女。
やはり、あの2年前に暗部に追わせられていればという後悔を振り落とし、今度こそヘマはしないと自身に喝を入れる。


「フィルっち」

屯所につき、留置所に向かう道中、シルビオがあの女の牢がある留置所入り口前でこちらに手を振り、俺を呼ぶ。

「今、来たところか?」

「うん。ラニラニを寮に送った帰りでね。…やっと、2年前から引っ掻き回してくれた犯人との顔合わせだよ」

やれやれとやっとだよと、軽口を叩くものの、シルビオのその笑顔には怒りが滲んでいる。

誘拐未遂に、殺人未遂。
未だにまだケガの後遺症が残るラニの左手は少しは回復したものの缶の蓋も開けられない。
本人は一切気にしてないが、それでも…。

ー 許せる訳がない


沸々と湧いてくる怒りをぐっと胸の奥に仕舞い、シルビオとともに留置所の中へと入り、牢番に許可を取り、女のいる牢へと向かう。


「出しなさいよっ! 私はファルハの王妃になる女よ。私をこんな汚い所に閉じ込めた奴は全員っ、アサドゥ様が八つ裂きにするんだから!!」

「これは…」

「すみません、殿下。この女、ずっとこうでして」

女の牢の前に着く前からキャンキャンッと吠える女の金切り声が聞こえる。
ガシャガシャと鉄柵を揺らし、「全員八つ裂きにしてやるっ!」と、叫ぶその女を前に俺とシルビオは顔を見合わせた。

白い肌に鳶色の瞳。
女はまさにファルハ人とのハーフだ。
だが……。

「本当にこの女が首謀者として捕まったファルハのハーフの女か?」

「ええ。コイツです。騎士様が今朝捕えてきた。奴隷のファルハ人の母親とレーヴ貴族の父親を持ち、ファルハ王と繋がってるとタレコミがあった女です」


その女の様相は俺達が想像していたファルハの女とはかけ離れていた。

狐のように狡猾。
冷静に戦局を見定めて、引くだけの判断力と人を欺くだけの技能を持つ、厄介な女。
その女がコレ…か?


「……ルトゥフ王子が俺に忠告した女おそらく、コイツだと思う」

シルビオは額から汗が一筋流れる。

『私の母はレーヴ人よ』

2年前。
ラニを拐おうとした女は自身の母がレーヴ人だとそうラニに告げた。
父親ではなく、母親なのだ。







(ラニ視点)

怖いグルグル眼鏡先輩に連れられて、着いたのはあの古びた講堂だった。

あの夜にライモンド先生の正体を知ってしまったあの講堂。
ライモンド先生がいなくなってしまったいい思い出がないあの講堂。


「ねぇ、先輩。なんか、先輩変だよ。どうしたの!?」

講堂の中まで連れて来られて、グルグル眼鏡先輩はやっと歩みを止める。
やっぱり、なんだかグルグル眼鏡先輩の様子がおかしくて、一旦距離を取ろうと、歩みを止めた瞬間に手を思いっきり振り払った。

すると、その手はグルグル眼鏡先輩の頬をかすめ、グルグル眼鏡先輩の瓶底眼鏡に当たり、瓶底眼鏡が吹っ飛んだ。

「ご、ごめん」

ガシャンッと音を立て、瓶底眼鏡が床へと落ちる。
落ちた瓶底眼鏡を追っていた視線を謝りながらグルグル眼鏡先輩に戻した。


だが、戻した視線がとらえたそこにグルグル眼鏡先輩は居なかった。

鳶色の瞳が僕を見ていた。
グルグル眼鏡先輩ではなく、あのお姉さんの鳶色の瞳が僕を映していた。

「随分と酷い事をするじゃないですか。ラニ氏。…ああ。それともこう呼んだ方がいいですか?」

鳶色の瞳のお姉さんが落ちたグルグル眼鏡を拾い、グルグル眼鏡先輩と同じ言葉遣いで僕を非難し、ため息をついた。

「人を惑わし、魅了して、破滅へと導く卑怯な卑怯なローレライ様」
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