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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
31、約束(???視点)
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「おはよう。ライ」
「ライ! マヒ伯父さんからフルーツもらったの! 分けっこしよ」
「ライ。僕が子守唄歌ってあげる。そしたらライもぐっすり眠れるよ!」
「ライ…。ぐすっ…、すんっ。お化けが怖くておトイレいけない」
「ライ」
「ライ!」
モアナで保護を受けて3日が経った。
もう自身が本当にライという名前ではないんじゃないかと勘違いする程にラニは5分に1回はライと少年の名を呼んだ。
手を繋ぐ事が好きなのか。
しがな一日中ラニは少年と手を繋ぐ。
寝る時は必ず隣。
『うふふ。ラニはライくんが大好きなのねー』
『ふふふっ。良かったなぁー、ラニ。ラニをよろしくねー、ライくん!』
普通は自身の子供が懐いている相手が暗殺者だったら、親が無理矢理にでも離すと思うのだが、ラニの親はやはりラニの親で容認されてしまった。
2人で微笑ましいものを見るような眼差しでこちらを見て、2人で顔を合わせて微笑み合う。
しかも、この両親、気付くとずっと手を繋いでいて、ぴったりとくっついて、微笑み合っている。
そして、横を見れば、ラニも少年にぴったりとくっ付いて、微笑んでいる。
まるで自身もラニの家族の輪に入っているような不思議な感覚に胸の辺りがふわふわとする。
その慣れない感情に少年は焦りを感じた。
自身が自身でなくなってしまうような不安。
命令されれば、ただ命を刈り取る刃として生きてきた自身の根底が壊れてしまうような…。
ー 命令を遂行しなければ…
刃としての最期の役目を果たさなければいけない。
暗殺に失敗したのなら任務を果たす方法はひとつ。
今日は一日中、分厚い曇に包まれて、月は出ない。
街灯がほぼないモアナ王国の夜は闇に溶け込みやすい。月が出ないなら尚更だ。
やるならば、今日。
ラニが寝静まった深夜。
◇
すぅすぅと寝息が聞こえる。
さっきまで子守唄を歌い続けていたラニが隣で力尽きて、幸せそうな顔で寝ている。
少年はその表情をじっと眺めて、そのとても柔らかい頰を撫でた。
自身でもこの無意味な行動の意味が分からない。
ただこの表情を見ていると、無性にその柔らかい頬に触れたくなり、ただじっと眺めていたくなる。
今日が終われば少年はここにはいられない。
もう二度とこのラニにも会う事はない。
そう思えば、つきりっと胸の辺りが痛んだ。
これも何故かは分からない。
ー 俺は刃だ…
そう自身に言い聞かせて、後ろ髪引かれながらも起こさぬように静かに起き上がる。
全てが初めての出来事で戸惑う。
何故、自身は離れる事を躊躇っているのだろう。
「ライは本当におねんねが嫌なんだね…」
ラニが深く眠りについていた筈だった。
しかし、そのサファイアの瞳でこちらを見ていた。
不可解な感情に振り回されて、戸惑う自身の顔を映していた。
「僕、知ってるんだよ。伯父さん達が言ってたから。ライは生きる気がないんだって。だから命を粗末にしちゃうんだって」
ラニはプクッと頰を膨らませて、僕は怒っているんだよと訴える。
何故、本当にモアナの人間にはここまでバレているのか。
少年は任務を遂行して自ら命を絶つつもりだった。
所詮は使い捨ての刃。
失敗した時点で命はない。
帰った所で待っているのは死。
ならば、任務を成功させて、刃として死にたい。
ラニを強制的に眠らせようと考えるが、ギュッと抱き締められて、首に手刀を入れようと振り上げた手がピタリッと止まる。
「ライはなんで死にたいの? 失いたくない大切なものはないの?」
失いたくない大切なもの。
そう問われて、少年は首を傾げる。
そんなもの少年にはない。
「俺は空っぽだ」
そう空っぽ。
暗殺の道具として、育てられ、それ以外のものはない。
少年を形成するものはそれしかない。
そう答えれば、ラニは「そっか…」と答えて、「うーん」と頭を捻る。
そして、なにかを思い付くとパッと笑顔で少年を向けた。
「じゃあ、僕をあげる。そしたら、空っぽじゃないよ」
名案だと言わんばかりにラニは頷き、ラニはぴょんっと立ち上がる。
ダッと壁にあるタンスまで走ると、あのヴェールを取りだす。
「結婚しよ、ライ。ライが空っぽなら僕がライを幸せで埋めるよ。そうしたら、死にたいなんて思わないでしょ? ね?」
確か結婚式では白い布を被ってた気がすると、うる覚えの知識をもとに、ライは僕の花嫁さんねと自身でヴェールを被った。
とても一方的で一方通行の約束。
暗い部屋の中。
ヴェールを被ったラニが分厚い雲間から現れた月の明かりに照らされる。
厚い雲に覆われて出ないはずだった月明かりに照らされて、白いヴェールは闇夜に映え、何処か幻想的に思えた。
白いヴェールを自分であげ、小さな唇が少年の唇に触れる。
「これで僕達夫婦だね!」
満足げにラニが笑い、ぴとっとくっ付いた。
「ライ! マヒ伯父さんからフルーツもらったの! 分けっこしよ」
「ライ。僕が子守唄歌ってあげる。そしたらライもぐっすり眠れるよ!」
「ライ…。ぐすっ…、すんっ。お化けが怖くておトイレいけない」
「ライ」
「ライ!」
モアナで保護を受けて3日が経った。
もう自身が本当にライという名前ではないんじゃないかと勘違いする程にラニは5分に1回はライと少年の名を呼んだ。
手を繋ぐ事が好きなのか。
しがな一日中ラニは少年と手を繋ぐ。
寝る時は必ず隣。
『うふふ。ラニはライくんが大好きなのねー』
『ふふふっ。良かったなぁー、ラニ。ラニをよろしくねー、ライくん!』
普通は自身の子供が懐いている相手が暗殺者だったら、親が無理矢理にでも離すと思うのだが、ラニの親はやはりラニの親で容認されてしまった。
2人で微笑ましいものを見るような眼差しでこちらを見て、2人で顔を合わせて微笑み合う。
しかも、この両親、気付くとずっと手を繋いでいて、ぴったりとくっついて、微笑み合っている。
そして、横を見れば、ラニも少年にぴったりとくっ付いて、微笑んでいる。
まるで自身もラニの家族の輪に入っているような不思議な感覚に胸の辺りがふわふわとする。
その慣れない感情に少年は焦りを感じた。
自身が自身でなくなってしまうような不安。
命令されれば、ただ命を刈り取る刃として生きてきた自身の根底が壊れてしまうような…。
ー 命令を遂行しなければ…
刃としての最期の役目を果たさなければいけない。
暗殺に失敗したのなら任務を果たす方法はひとつ。
今日は一日中、分厚い曇に包まれて、月は出ない。
街灯がほぼないモアナ王国の夜は闇に溶け込みやすい。月が出ないなら尚更だ。
やるならば、今日。
ラニが寝静まった深夜。
◇
すぅすぅと寝息が聞こえる。
さっきまで子守唄を歌い続けていたラニが隣で力尽きて、幸せそうな顔で寝ている。
少年はその表情をじっと眺めて、そのとても柔らかい頰を撫でた。
自身でもこの無意味な行動の意味が分からない。
ただこの表情を見ていると、無性にその柔らかい頬に触れたくなり、ただじっと眺めていたくなる。
今日が終われば少年はここにはいられない。
もう二度とこのラニにも会う事はない。
そう思えば、つきりっと胸の辺りが痛んだ。
これも何故かは分からない。
ー 俺は刃だ…
そう自身に言い聞かせて、後ろ髪引かれながらも起こさぬように静かに起き上がる。
全てが初めての出来事で戸惑う。
何故、自身は離れる事を躊躇っているのだろう。
「ライは本当におねんねが嫌なんだね…」
ラニが深く眠りについていた筈だった。
しかし、そのサファイアの瞳でこちらを見ていた。
不可解な感情に振り回されて、戸惑う自身の顔を映していた。
「僕、知ってるんだよ。伯父さん達が言ってたから。ライは生きる気がないんだって。だから命を粗末にしちゃうんだって」
ラニはプクッと頰を膨らませて、僕は怒っているんだよと訴える。
何故、本当にモアナの人間にはここまでバレているのか。
少年は任務を遂行して自ら命を絶つつもりだった。
所詮は使い捨ての刃。
失敗した時点で命はない。
帰った所で待っているのは死。
ならば、任務を成功させて、刃として死にたい。
ラニを強制的に眠らせようと考えるが、ギュッと抱き締められて、首に手刀を入れようと振り上げた手がピタリッと止まる。
「ライはなんで死にたいの? 失いたくない大切なものはないの?」
失いたくない大切なもの。
そう問われて、少年は首を傾げる。
そんなもの少年にはない。
「俺は空っぽだ」
そう空っぽ。
暗殺の道具として、育てられ、それ以外のものはない。
少年を形成するものはそれしかない。
そう答えれば、ラニは「そっか…」と答えて、「うーん」と頭を捻る。
そして、なにかを思い付くとパッと笑顔で少年を向けた。
「じゃあ、僕をあげる。そしたら、空っぽじゃないよ」
名案だと言わんばかりにラニは頷き、ラニはぴょんっと立ち上がる。
ダッと壁にあるタンスまで走ると、あのヴェールを取りだす。
「結婚しよ、ライ。ライが空っぽなら僕がライを幸せで埋めるよ。そうしたら、死にたいなんて思わないでしょ? ね?」
確か結婚式では白い布を被ってた気がすると、うる覚えの知識をもとに、ライは僕の花嫁さんねと自身でヴェールを被った。
とても一方的で一方通行の約束。
暗い部屋の中。
ヴェールを被ったラニが分厚い雲間から現れた月の明かりに照らされる。
厚い雲に覆われて出ないはずだった月明かりに照らされて、白いヴェールは闇夜に映え、何処か幻想的に思えた。
白いヴェールを自分であげ、小さな唇が少年の唇に触れる。
「これで僕達夫婦だね!」
満足げにラニが笑い、ぴとっとくっ付いた。
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