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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
33、勇敢な王子(ライモンド視点)
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モアナ王国は民は良くも悪くも善良で、争いを好まない。
したがって、モアナの歴史に血の歴史はない。
その優しくも厳しい海はモアナを守り、近隣国もそのモアナの自然とモアナ国民の人柄を愛した。
彼らは争い事に疎かった。
彼らは性根がヘドロのようにドロドロに腐り切っている人間がこの世には万といる事を知らなかった。
だからこそ、容易くファルハ王は王宮を占領出来た。
「俺のローレライをどこに隠した!!」
三日月のように反った剣を振り回し、ファルハ王は怒り狂う。
王宮にいたモアナの民もファルハ人もただその王の暴挙に怯えている。
ただ1人を除いて。
「ローレライは女神様だよ。慈悲深い、優しい優しい女神様。君は女神様に恋しちゃったのかな?」
そうラニに似た雰囲気の男、第一王子レヴァが自身に剣を向けるファルハ王相手に丸腰で、優しく語りかける。
「嵐の中で歌っていた銀色の髪で深い海のような青い瞳の少女の事だ。銀の髪に青い瞳はお前たち、モアナ王族の血筋だろう!」
「うん。確かにそれはモアナ王族の特徴だ。でもね、モアナ王族に女の子はいないんだよ。唯一の王女の妹は遠い国に随分前に嫁いでいないしね」
「嘘吐きめ! 俺からローレライを奪うか。アレは俺のものだ。アレは俺のものになる為に産まれてきた女だ」
「本当の事です、王よ。彼らは嘘などついていません。本当にモアナ王族に女性は居ません」
ファルハ王の側近もレヴァ第一王子の言葉を援護するようにファルハ王をそう宥めるが、ファルハ王は聞く耳を持たない。
血走った目で剣を振り回し、脅しの言葉を吐き続け、レヴァ第一王子は諭し続けた。
「ローレライを出せッ。あの女は俺のものだ」
「話し合おう。ファルハの王。剣を振り回すだけでは何も始まらない」
「隠し立てするというのならば、皆殺しだ。貴様らの妻子を貴様らの前で辱め、家族もろともバラバラに肉を引き裂き、海の藻屑にしてやるッ」
「俺は君の話が聞きたい。聞けば手伝える事があるかもしれない」
柱の影で少年はずっとファルハ王の様子をうかがっていた少年はそのファルハ王の物言いに初めて沸々と湧いてくる苛立ちに隠し持っていた暗器を握っていた。
あの男が言うローレライとはラニの事だ。
あの男も嵐の中で歌うあの女神のようなラニを目にして、恋慕の情を抱いたのだろう。
情欲に染まったギラギラとした鳶色の瞳が、ラニを探している。
あの瞳が少しでもラニを映すと考えただけで嫌悪感が湧いてくる。
あの浅黒い手がラニの真珠のように白い肌に触れると考えただけで途方もない程の苛立ちが身の内から溢れてくる。
今まで少年はここまで感情が豊かだった事はない。
彼は今まさに刃ではなく、ただの人間だった。
ただの人間として、任務は関係なく、口を開くたびにラニを穢す、あの男を黙らせたかった。
「ねぇ。ライ。なんであのオジサンは怒ってるの?」
突如、隣から聞こえた声に振り向く。
するとそこには海に釣りに行くと言っていたラニが、震える手で少年の手を握り、ファルハ王を見ていた。
目の前ではラニの伯父、第一王子レヴァが丸腰で剣を振るう男と対峙している。
よく見れば、先程まで居た、レヴァ以外にファルハ王の周りに居た人間は居なくなっていた。
ー 自分を囮にしたのか
第一王子レヴァは危機的状況だというのに微笑んだ。
こちらを横目で見て微笑み、「連れて逃げろ」と口を動かした。
しかし、一歩遅かった。
「伯父さんをいじめないでッ!!」
キッと幼い青い瞳がファルハ王を睨む。
小さな身体で前に立ちはだかり、一生懸命、大切な家族を守ろうとする。
普段は暗闇が怖くてひとりでトイレにも行けない癖に、小さいラニは勇敢だった。
「なんだ。このクソ餓鬼は!!」
「オジサンが文句があるのは僕でしょ? なんでレヴァ伯父さんをいじめるの? だって、この前の嵐の中で歌ったのは……」
ラニはとても勇敢だった。
聡く勇敢過ぎた。
ギラリッとランプの灯りを受け、白刃が光る。
ラニ目掛けて、ファルハ王はその剣を振り落とした。
「ラニッ! 危ないッ!!」
白刃が肉を切り裂き、ポタポタと床が赤く染まる。
座るようにへたり込んだラニの手や顔は赤く染まり、ラニは自身の膝に血まみれで倒れ込むレヴァの姿に一瞬、呆然として…。
「僕の…所為? 僕が助けたから、僕が……」
全てを悟ると、ラニは狂ったように泣き叫んだ。
「ーーーーーーーっ!!!」
それは心が壊れる音だった。
それは心が砕け散った瞬間だった。
その音が終わるとフッとラニは意識を失い、血の中に倒れた。
ラニは高熱を出し、1週間も意識が戻らず、眠り続けた。
したがって、モアナの歴史に血の歴史はない。
その優しくも厳しい海はモアナを守り、近隣国もそのモアナの自然とモアナ国民の人柄を愛した。
彼らは争い事に疎かった。
彼らは性根がヘドロのようにドロドロに腐り切っている人間がこの世には万といる事を知らなかった。
だからこそ、容易くファルハ王は王宮を占領出来た。
「俺のローレライをどこに隠した!!」
三日月のように反った剣を振り回し、ファルハ王は怒り狂う。
王宮にいたモアナの民もファルハ人もただその王の暴挙に怯えている。
ただ1人を除いて。
「ローレライは女神様だよ。慈悲深い、優しい優しい女神様。君は女神様に恋しちゃったのかな?」
そうラニに似た雰囲気の男、第一王子レヴァが自身に剣を向けるファルハ王相手に丸腰で、優しく語りかける。
「嵐の中で歌っていた銀色の髪で深い海のような青い瞳の少女の事だ。銀の髪に青い瞳はお前たち、モアナ王族の血筋だろう!」
「うん。確かにそれはモアナ王族の特徴だ。でもね、モアナ王族に女の子はいないんだよ。唯一の王女の妹は遠い国に随分前に嫁いでいないしね」
「嘘吐きめ! 俺からローレライを奪うか。アレは俺のものだ。アレは俺のものになる為に産まれてきた女だ」
「本当の事です、王よ。彼らは嘘などついていません。本当にモアナ王族に女性は居ません」
ファルハ王の側近もレヴァ第一王子の言葉を援護するようにファルハ王をそう宥めるが、ファルハ王は聞く耳を持たない。
血走った目で剣を振り回し、脅しの言葉を吐き続け、レヴァ第一王子は諭し続けた。
「ローレライを出せッ。あの女は俺のものだ」
「話し合おう。ファルハの王。剣を振り回すだけでは何も始まらない」
「隠し立てするというのならば、皆殺しだ。貴様らの妻子を貴様らの前で辱め、家族もろともバラバラに肉を引き裂き、海の藻屑にしてやるッ」
「俺は君の話が聞きたい。聞けば手伝える事があるかもしれない」
柱の影で少年はずっとファルハ王の様子をうかがっていた少年はそのファルハ王の物言いに初めて沸々と湧いてくる苛立ちに隠し持っていた暗器を握っていた。
あの男が言うローレライとはラニの事だ。
あの男も嵐の中で歌うあの女神のようなラニを目にして、恋慕の情を抱いたのだろう。
情欲に染まったギラギラとした鳶色の瞳が、ラニを探している。
あの瞳が少しでもラニを映すと考えただけで嫌悪感が湧いてくる。
あの浅黒い手がラニの真珠のように白い肌に触れると考えただけで途方もない程の苛立ちが身の内から溢れてくる。
今まで少年はここまで感情が豊かだった事はない。
彼は今まさに刃ではなく、ただの人間だった。
ただの人間として、任務は関係なく、口を開くたびにラニを穢す、あの男を黙らせたかった。
「ねぇ。ライ。なんであのオジサンは怒ってるの?」
突如、隣から聞こえた声に振り向く。
するとそこには海に釣りに行くと言っていたラニが、震える手で少年の手を握り、ファルハ王を見ていた。
目の前ではラニの伯父、第一王子レヴァが丸腰で剣を振るう男と対峙している。
よく見れば、先程まで居た、レヴァ以外にファルハ王の周りに居た人間は居なくなっていた。
ー 自分を囮にしたのか
第一王子レヴァは危機的状況だというのに微笑んだ。
こちらを横目で見て微笑み、「連れて逃げろ」と口を動かした。
しかし、一歩遅かった。
「伯父さんをいじめないでッ!!」
キッと幼い青い瞳がファルハ王を睨む。
小さな身体で前に立ちはだかり、一生懸命、大切な家族を守ろうとする。
普段は暗闇が怖くてひとりでトイレにも行けない癖に、小さいラニは勇敢だった。
「なんだ。このクソ餓鬼は!!」
「オジサンが文句があるのは僕でしょ? なんでレヴァ伯父さんをいじめるの? だって、この前の嵐の中で歌ったのは……」
ラニはとても勇敢だった。
聡く勇敢過ぎた。
ギラリッとランプの灯りを受け、白刃が光る。
ラニ目掛けて、ファルハ王はその剣を振り落とした。
「ラニッ! 危ないッ!!」
白刃が肉を切り裂き、ポタポタと床が赤く染まる。
座るようにへたり込んだラニの手や顔は赤く染まり、ラニは自身の膝に血まみれで倒れ込むレヴァの姿に一瞬、呆然として…。
「僕の…所為? 僕が助けたから、僕が……」
全てを悟ると、ラニは狂ったように泣き叫んだ。
「ーーーーーーーっ!!!」
それは心が壊れる音だった。
それは心が砕け散った瞬間だった。
その音が終わるとフッとラニは意識を失い、血の中に倒れた。
ラニは高熱を出し、1週間も意識が戻らず、眠り続けた。
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