王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

37、フィルは僕の親枠なのかもしれない

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ファルハ王の船はレーヴ帝国の沖に停泊しているらしい。
逃げ出した僕達がいるのはレーヴ帝国の港町。
レーヴ帝国の帝都の隣街で、ファルハ王の船はここを砲撃するつもりなんだ。


既に皇帝にはファルハ王の動きは報告済みで、密かに町の自警団と騎士団達が自警団屯所に集まってた。


「フィルっち。フィルっちは王城に戻るべきだ」

自警団屯所で海図と睨めっこするフィルを前にシルビオはフィルバートの身を案じ、城に戻るように説得していた。

そんなシルビオの説得を前にフィルは首を横に振り、意志の通った翡翠の瞳でシルビオを射抜く。

「皇族が皇族としてあるのは民がいるからだろ。俺が逃げ篭ったら示しがつかん」


フィルは皇帝からこの情報を聞いた時、真っ先に自身が皇族として矢面に立つ事を進言したらしい。

真面目に真面目を重ねて、誰よりも皇族としての矜持を持つフィル。
皇族である自身が前に立つ事による士気向上と、後は単純に僕とエレンの安否を心配して駆けつけてくれていた。


「エリオットの話だと、ラニを拐ったのはファルハ人なんだろう」

「……エリオット・ルーの話では変な匂いが寮内に充満して、ラニ王子の護衛を先輩に任せて、煙の出所を追った結果。煙を焚いていたのがファルハ人だったっと聞いてるね」

「ラニを攫ったのが、ファルハ人。ないしは、あの例のハーフの女だとしたら。ラニもその船に乗ってる可能性が高い。ファルハ人攫われたと聞く、エレンも」

「フィルっち……」

「俺はアイツの世話係だからな! 全く、世話が掛かる」

フンッと強気に鼻を鳴らして、俺は仕方なくここに来てます感をわざと出すのは相変わらず。
本当はとっても心配してくれてるのに素直じゃないから捻くれた態度を取るのは2年経っても変わらない。


「だから、エレンに伝わらないんだって」

そう思わず、天井裏から苦言を呈すと、シルビオとフィルがギョッとする。
ライが僕を抱いて、天井裏からスタッと急に現れるものだから、フィルは腰を抜かし、シルビオはフィルを庇いながら抜剣した。

「な、な、な、何で天井から!?」

「んーとね。ライは正規じゃないから下手したら屯所の外に騎士に捕まっちゃうっていうから…」

「ラ、ラニ!?」

「ただいまフィル! 無事生還したよっ」

「あ、阿呆ッ!俺が、俺が、お前が攫われたって聞いてどれ程心配したか分かってるのか……」

僕的には大丈夫だよって意味で、いつも通りの軽いノリで返したのだが、フィルは僕を見つけた瞬間、泣き出してしまった。
怒られる事を想定していたので非常に困る。僕は頭を叩かれる覚悟で来たから、ちょっと困る。

「ごめんなさい」

「阿呆。お前の所為じゃない」

「え? じゃあ、僕はどうすればいいの…」

悪いから謝ったのに、謝るなとはこれ如何に。
困っていると、フィルは泣き笑いを浮かべながら優しい顔で、僕に近付く。
おそらく、感動の再会の場面だったのだろう。

正直、僕もフィルのその顔にホッとして涙目だった。
だが、フィルは僕の姿を見て、ピシリッと固まった。


「そ…の、首筋の跡はなんだ…」

震えた指でフィルは僕の首筋を指差す。
え? 首筋の跡って何??

僕が首を傾げると、僕とフィルのやりとりを見守っていたシルビオがぶわりっと殺気を纏い、にぃーっこりと怖い笑顔でライを睨む。

「そのラニラニの物とは思えないブカブカなシャツは目を瞑るとしても、何故ずっとラニラニを姫抱きにしたままなのですか、ライモンド教授? 降ろしてもらえますか」

「あら、ごめんなさいね。ラニちゃんは今、ひとりで立ってられない状態なのよ。ね?」

「う、うん。何故か朝から足腰に力が入らないんだ。だから、ライが僕を抱えてここまで連れてきてくれたんだよ」

「「……………」」

……2人の顔がとても怖い。
僕はタラタラと冷や汗を掻き、助けを求めてライを見やる。
ライは甘く優しい笑みを浮かべて、「大丈夫」と僕をあやすようにキスをした。

頰を染め、やっぱり、ライモンド先生寄りのライは優しいなとその甘いキスに浸っていると、フィルがシルビオから剣を奪った。

「おま、お前な…」

「ああ。ごめんなさいね? あまりに可愛かったものでつい…」

「フィルっち、その剣を返して。俺が今すぐコイツを叩き斬るからすぐ返して」

「お前がやってる事は立派な犯罪だ。きょ、教師が生徒に手を出すなんて…」

「あら。私はもう教師じゃないわよ。それにラニは婚約者だ。婚約者を可愛がるのは犯罪かな?」

「フィルっち。斬ろう。俺がコレを片付けるからその剣を返して、2人とも出て行こうか」

「ラニッ! やはり、そいつはやめとけ!! お前は絶対、悪い男に引っ掛かってる」

「うーん。でも、僕を全部あげる契約でライを雇ってるから…」

「悪い男所の話じゃないじゃないか…。全部あげる契約って…。何処の悪魔だ。そいつは!?」

「ラニラニ。そいつだけはやめて。もうこの際、ジェルマンでもいいから。その男だけはやめといて」


なんてこったい。
僕の保護者?、2人から出るわ出るわ反対の嵐。
なんならサラッと結婚を快諾した両親や、「ちゅーは14から。大人の夜の嗜みは本人の快諾ありで16から」と止めてるようで止めてない(ライ談)第一王子伯父さんよりも保護者してる。


そして、怒りを抑えて、剣を置いたフィルは僕をライから引っ剥がした。
子猫を守る親猫のように威嚇するフィルを前にライも流石に僕を大人しく離した。
「……親より親してる」と、僕の緩い両親をよく知るライはフィルのその姿に思わず言葉をこぼしていた。



「……で、お前達はファルハの船に居たんだよな」

僕を自身の隣に置いて、やっと安心したフィルは僕とライを近づけないように警戒しつつも、ライに問う。

「ええ。船の規模と船員の数。大砲の数も把握してるわ」

フィルはその情報を聞きつつ、ライを叩き斬る為に自身の剣を取り戻そうとするシルビオをひと睨みして、僕を見やった。

その目は聞こうか聞くまいか迷っている。
僕の心を心配して聞けずにいるんだろう。

「エレンも居たよ。エレンはファルハ王に捕まってる。ローレライとして」

フィルは僕の言葉に目を見開き、一度は生きてる事に安堵しつつも、苦しみに身を浸す。

「そうか…」

フィルは本当にエレンが好きだ。
多分、攻略対象の中でも純粋にエレンを想い続けているのはフィルだけ。
命は無事でも心と身体は無事だとは限らない。それをフィルは分かっている。
多分、どんな扱いを受けているかも…。

「ごめん」

そうついて言葉が口から溢れる。

「ラニ。お前の所為じゃ…」

「僕がローレライなんだ」

フィルの言葉を遮り、真実を告げる。
12年前。モアナで何があったのか。
エレンが何故、攫われたのかを。
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