王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

38、賽は今、投げられる

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「つまり、エレンはラニの身代わりになる為に自ら捕まった」

僕の話を聞いたフィルは案外、静かに事実を受け止めていた。


「……俺がそう仕向けた。だけど、決断したのは本人だった。自ら、申し出て来た」

ライの話では僕が崖から落ちたあの日。
エレンは僕が意識朦朧としながらも口ずさんだメロディに僕がローレライなのではないか勘付いた。
そこでライは隠し通せないと踏んで、口止めと、僕に近付かないように警告したようだ。

エレンは自身で課された役割に気付き、音楽祭の前、自ら身代わりをかって出た。
僕から歌を習った時に、もう覚悟が出来てしまったんだろう。

そうやっとエレンの行動を理解して、納得していると隣からため息が聞こえた。


「何故、周りに頼ろうとしない?」

ため息を吐き、うんざりとした顔でフィルは僕達を見やる。

「極論が過ぎる。他の誰かに少しでも相談していれば、もう少しマシな打開策が打てただろうものを」

僕はそうだよっとライを見るが、ライはそういうところあるよなと僕を見ている。
シルビオもシルビオで僕達をそういう顔で見ているが、フィルがお前もだぞと呆れた顔でシルビオを見てる。

「報連相という言葉を知っているか!? お前達に足りないのは報連相だッ」

「えっ、俺も同罪なの?」

「お前は2年前のラニとの婚約の件忘れたとは言わせないぞ」

「え?? 僕との婚約が何!? 僕全く知らない!!」

シルビオはフィルからスッと目を逸らし、フィルも僕から目を逸らした。
僕はダンダンッとテーブルを叩いた。
報ッ、連ッ、相ッ!


むぅっとしつつも、僕はため息をひとつ付き、飲み込み。
僕は僕で今まで何も報連相してもらえなかった分の怒りを込めて、報連相させてもらう。


「じゃあ、存分に報連相せてもらうよ」

にっこりと笑いながら、乗りかかった船だから降りないでよ?と釘を刺した。







(鳶色の瞳のお姉さん視点)


何故、こんな事になったのだろう。
近付く事も許されず、今も偽のローレライに惑わされているだろう主人の扉に触れる。

わたくしは大好きだったゲームの世界に転生した筈だ。
わたくしはこの方を救う為に、きっとこの世界に記憶を持ったまま転生したのだ。

記憶を思い出したその日から、そう信じて物語を歩んできた。


わたくしのあの方はラスボスで、どのルートでも破滅を迎える。
ただ自身が一途に愛したローレライと結ばれたいという願いはどの世界線でも、叶わない。
儚い恋。


あの方はどのルートでも最後には処刑された。

レーヴ帝国の広場に置かれたギロチンに首を置かれて、ファルハ王はただもう一度会いたかったと願った。
青空の見つめ、同じ空の何処かにいる筈と誰もが幻だと偶像だと信じないファルハ王が唯一求めるあの嵐の中で見た女神の姿を瞼を閉じ、ただ想う。

主人公とヒーローに見つめられながら、狂王と民衆に罵られながら、最期に彼が聞いたのは愛したあの歌声。

ローレライの歌声が響き、ファルハ王はその鳶色の瞳がローレライを映し、初めてハラハラとその鳶色の瞳から感情が流れ出す。

『ああ。そこに居たのか。俺のローレライ』

彼は最期の最期に愛しいローレライと再開し、生涯を終える。

その悲しくも美しい最期にプレイヤーは涙した。

慈悲深きローレライ。
彼女はファルハ王の心を救ってくれたのだと。


ー 違う……

そんなの救いじゃない。
最期に現れるなら何故、最初から現れてやらなかった?
それは救いじゃない。慈悲なんかじゃないエゴだ。


ローレライが歌うのは作中で3回。
オープニングと音楽祭前にローレライの歌が完成せず悩んでいる主人公に歌った歌と、ファルハ王の処刑の時。

物語も全ルート覚えている。
自身の前世の死因は覚えてないけど、それだけは確実に覚えていた。

記憶を思い出したのは奴隷として父に買われたレーヴ人の母が死に、父がハーフの奴隷としてわたくしを競売に出した時。
偶々。競売にいらっしゃっていたあの方の瞳を見て、思い出した。

運命だと思った。


あの方に買われ、あの方のローレライの話を聞き、ゲームでは出てこなかったモアナ王国という国の名前を知り、ひとつの疑念がわたくしの中に産まれた。

何故、嵐の海で聞こえたローレライの歌が、レーヴ帝国で、流れたのか?
何故、ミューズ学園の中で、悩むエレンのもとにローレライの歌が聞こえたのか。

ー ローレライは学園に留学している?

そして、学園で見つけたのが、ロバ耳が生えたちんちくりんなモアナの王子だった。

何故、王子なのにゲームには出てこなかったのか?
隠しシナリオも全てやった筈だ。
ローレライの住む海の国の王子がこんな丁度いいタイミングで留学してきているのが偶々なんて事があり得るだろうか。

ー コイツかもしれない


どうやらこの王子も前世の記憶があるらしい。
ならば、同じ転生者として近付こう。
ああ、そういえばクリアしたルートの中でひとつ、ローレライを崇拝している攻略対象がいたな。

ライモンド・クェーバ。
彼は暗殺者で、ファルハ王を暗殺する為に乗り込んだ船で海難事故に遭っていて、ゲームの彼はローレライを偶像と言いつつも崇拝していた。

彼はゲームの中で、誰かを守っている描写が幾つかあった。
たしか、ライモンドルートでは、学園や町で刺客と思われるファルハ人を倒している戦闘シーンを主人公は目撃して、ライモンド・クェーバは教師ではなく、暗殺者だという事が主人公にバレるというものがある。
あれはエレンがファルハ王に目をつけられる前のイベントだった。だから、エレンではなく、別の誰かを守っていた。


すべての点と点が線で繋がる。
案の定。ラニを試しにファルハ人に襲わせれば、ライモンド・クェーバは助けに入った。

ー コイツだ。コイツで間違いない。

疑惑は確信へと変わり、邪魔になり得そうなライモンドを引き剥がして、後は証拠のみ。
ここまで来て、別人でしたはナシだ。
念には念をと、コイツが歌うのを待っていた。

だが、ローレライはやはり卑怯者だった。



「卑怯者…。そうだ。アイツは卑怯者だ」


そう自身の気持ちが揺らがないように自身に言い聞かせる。

ラニはあの方に斬られそうな私を庇ったのではないと。
きっと何か陰謀があったに違いないと。


震える自身の手を血が滲むまで握り、迷いを卑怯なローレライへの怒りに変えて。
そうして、ふと、聞こえて来た歌にわたくしは嘲笑う。ほら、卑怯者だったと。


海の向こう。
レーヴの港から聞こえる歌声に。
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