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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
40、ローレライの歌声(ファルハ王視点)
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荒れ狂う海の中。
波に乗り、風に乗り、聞こえてくるのはローレライの歌声。
その歌声は跳ねるように踊るように自由に響き、海で遭難したもの達を勇気付ける。
大きな船を呑み込むほどの大きな波で粉々になった船の木片に縋るように情けなく身体を寄せ、刻々と体温が奪われる恐怖の中で見たそれを俺は一生忘れない。
船首に立つ白いヴェールと衣に身を纏った一人の子供。
嵐の中でも輝く宝石のような青い瞳を伏せ、その小さな口から奏でられる希望の歌。
まるでこの世のものではないような神秘的な光景に産まれた時から凍っていた筈の心の臓が震え、激しく脈を打った。
初めて愛したいと思った。
俺の、俺だけのローレライ。
そして、やっと手に入れた筈だった。
遠くから歌声が聞こえる。
跳ねるように踊るように響き渡り、船内にも届くその歌に嵐の中で見たローレライの姿が鮮明に思い浮かぶ。
嵐の中。歌うその姿に見惚れていると、宝石のような青い瞳がこちらを見た。
そして、目が合うと勇気付けるように微笑んだ。
合った目のその中には銀の花が咲き誇っていた。
「ローレライ…」
惹きつけられるようにその歌声を辿って部屋を出る。
雨が降り頻る中、デッキに出れば、まるであの日と同じ色の空で胸が高鳴る。
歌はレーヴ帝国の港町から聞こえていた。
「王よ。砲撃の準備が整いました」
俺の横に傅いた男が声が歌声を遮る。
「何時でも砲撃可能です」
そう得意げな声が癇に障り、眉間に皺を寄せた。
「誰の許可を得て、口を開いた?」
「わ、私は、準備が出来次第王から報告するようにと先刻指示を受けて…」
「誰が何時、今、口を開いて良いと許可した?」
「お待ちくださいっ。王。私は、私はただ貴方の命を…」
耳障りな音を剣でかき消し、怯え動けぬ愚鈍どもに指示を出す。
「上陸する。砲撃は中止だ」
無闇に砲撃すれば、あの街にいる俺のローレライが怪我をしてしまう。
あの街で俺を待つ愛いローレライを俺の腕の中に閉じ込めてしまわねば。
あの銀の花が咲く青い瞳が熱でとろりと溶け出して、俺しか映せない程にその身体を俺だけで満たして。
「偽物を連れて来い」
やっと手に入るという喜びと同時に、あの偽物に嫌悪感を抱く。
悍ましい事だ。あんな体の具合がいいだけの紛い物を俺のローレライとして愛でていたというなど。
部下に引き摺られるように連れてこられた、まともに立つこともままならない紛い物の喉元に剣を当てる。
「俺を謀ったな、紛い物」
腹立たしい。
こんな粗悪品を俺のローレライとして寵愛していたとは。
怯えたその空色の瞳に落胆する。
あの嵐の前でも怯まぬ美しい青い瞳がこんなものの訳がない。
「しかし、紛い物にしては名器ではあった。存分に楽しませてもらった例に恩情を掛けてやろう」
特別にこの場で首を落とすだけでにしてやると、剣を振り抜こうとした瞬間、剣が宙にまう。
ひとりのレーヴ人がその紫紺の瞳でこちらを睨む。
「先ずは大砲を抑えろ。砲撃させるな」
次々とレーヴ人が船に乗り込んでくる。
並走していた船達は小さな爆発とともに傾き、沈んでいく。
「シルビオ…」
そう呟く紛い物を紫紺の瞳で一瞥すると、こちらに剣を向け、レーヴ人の若造風情が俺に命令する。
「アサドゥ王。大人しく投降していただけますか?」
しかし、若造は所詮若造だ。
向けた剣は叩き落とされ、我が忠臣が割って入る。
「お逃げくださいアサドゥ様。小舟は用意してあります」
その先見の目で、忠臣まで上り詰めた元奴隷のその女は、スッと港の灯台を指差した。
「ローレライはあの灯台に居ますっ! あのモアナの王子が貴方のローレライです」
「まさかあのクソガキがローレライだったとはな。モアナ王族も小賢しい事をする」
「お早く!」
「ふんっ。大変大義であったぞ、お前の働きは」
そう褒めれば女は頰を染め、俺に斬りかかる騎士の前に喜んで身を盾にした。
波に乗り、風に乗り、聞こえてくるのはローレライの歌声。
その歌声は跳ねるように踊るように自由に響き、海で遭難したもの達を勇気付ける。
大きな船を呑み込むほどの大きな波で粉々になった船の木片に縋るように情けなく身体を寄せ、刻々と体温が奪われる恐怖の中で見たそれを俺は一生忘れない。
船首に立つ白いヴェールと衣に身を纏った一人の子供。
嵐の中でも輝く宝石のような青い瞳を伏せ、その小さな口から奏でられる希望の歌。
まるでこの世のものではないような神秘的な光景に産まれた時から凍っていた筈の心の臓が震え、激しく脈を打った。
初めて愛したいと思った。
俺の、俺だけのローレライ。
そして、やっと手に入れた筈だった。
遠くから歌声が聞こえる。
跳ねるように踊るように響き渡り、船内にも届くその歌に嵐の中で見たローレライの姿が鮮明に思い浮かぶ。
嵐の中。歌うその姿に見惚れていると、宝石のような青い瞳がこちらを見た。
そして、目が合うと勇気付けるように微笑んだ。
合った目のその中には銀の花が咲き誇っていた。
「ローレライ…」
惹きつけられるようにその歌声を辿って部屋を出る。
雨が降り頻る中、デッキに出れば、まるであの日と同じ色の空で胸が高鳴る。
歌はレーヴ帝国の港町から聞こえていた。
「王よ。砲撃の準備が整いました」
俺の横に傅いた男が声が歌声を遮る。
「何時でも砲撃可能です」
そう得意げな声が癇に障り、眉間に皺を寄せた。
「誰の許可を得て、口を開いた?」
「わ、私は、準備が出来次第王から報告するようにと先刻指示を受けて…」
「誰が何時、今、口を開いて良いと許可した?」
「お待ちくださいっ。王。私は、私はただ貴方の命を…」
耳障りな音を剣でかき消し、怯え動けぬ愚鈍どもに指示を出す。
「上陸する。砲撃は中止だ」
無闇に砲撃すれば、あの街にいる俺のローレライが怪我をしてしまう。
あの街で俺を待つ愛いローレライを俺の腕の中に閉じ込めてしまわねば。
あの銀の花が咲く青い瞳が熱でとろりと溶け出して、俺しか映せない程にその身体を俺だけで満たして。
「偽物を連れて来い」
やっと手に入るという喜びと同時に、あの偽物に嫌悪感を抱く。
悍ましい事だ。あんな体の具合がいいだけの紛い物を俺のローレライとして愛でていたというなど。
部下に引き摺られるように連れてこられた、まともに立つこともままならない紛い物の喉元に剣を当てる。
「俺を謀ったな、紛い物」
腹立たしい。
こんな粗悪品を俺のローレライとして寵愛していたとは。
怯えたその空色の瞳に落胆する。
あの嵐の前でも怯まぬ美しい青い瞳がこんなものの訳がない。
「しかし、紛い物にしては名器ではあった。存分に楽しませてもらった例に恩情を掛けてやろう」
特別にこの場で首を落とすだけでにしてやると、剣を振り抜こうとした瞬間、剣が宙にまう。
ひとりのレーヴ人がその紫紺の瞳でこちらを睨む。
「先ずは大砲を抑えろ。砲撃させるな」
次々とレーヴ人が船に乗り込んでくる。
並走していた船達は小さな爆発とともに傾き、沈んでいく。
「シルビオ…」
そう呟く紛い物を紫紺の瞳で一瞥すると、こちらに剣を向け、レーヴ人の若造風情が俺に命令する。
「アサドゥ王。大人しく投降していただけますか?」
しかし、若造は所詮若造だ。
向けた剣は叩き落とされ、我が忠臣が割って入る。
「お逃げくださいアサドゥ様。小舟は用意してあります」
その先見の目で、忠臣まで上り詰めた元奴隷のその女は、スッと港の灯台を指差した。
「ローレライはあの灯台に居ますっ! あのモアナの王子が貴方のローレライです」
「まさかあのクソガキがローレライだったとはな。モアナ王族も小賢しい事をする」
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「ふんっ。大変大義であったぞ、お前の働きは」
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