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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
42、紡ぎゆく幸せの歌
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ふよふよと意識が夢の中を漂う。
身を寄せて、落ち着くラベンダーの香りを肺一杯に吸い込むと、チュッチュッと頭にキスが降ってきて、それがちょっと擽ったくて、思わず僕は笑みをこぼた。
「ラニ。おはよう」
「ふふっ。おはよ…」
「そんな可愛い顔を浮かべてると、また食べてしまうよ」
「ライならいーよ」
「全く。煽るのが上手いんだから」
掛かってたブランケットが持ち上がり、レーヴの朝の寒い外気が肌に触れ、身じろぐ。
僕の上から覆いかぶさり、ライが名残惜しそうに昨夜僕の身体に残した痕をなぞり、また増やしていく。
満足が行くまで痕を付けると、ライはベッドから起き上がり、朝の支度を始める。
漂い始めた朝食の匂いにお腹が鳴り、僕もむくりと起き上がる。
腰のだるさとお腹に残る甘いじくじくとした痺れと戦いながら身を起こす。
ああ。もうっ、股関節も痛い。立ちたくないなとベッドに伏せると、ライがベッド前のテーブルに朝食を運んで、僕を抱きかかえて、給餌する。
「ライ。腰痛い」
「ん。昨日は散々無理させたからね。今日は大事をとって休む?」
「や。まだ資料整理が終わってないんだよ。クリスと個人レッスンの約束もしてるし」
「またクリス…」
「…良からぬ事を考えてるでしょ。クリスは純粋に真面目に歌に向き合ってるだけだからね」
「どうだか…」
「クリスをいじめないでよね。嫉妬深くて可愛いライは好きだけど、大人げないライは嫌いだからね?」
「…………」
不服そうな顔で頷くライに苦笑する。
同じ指輪の輝く左手を絡めて、ライの唇に唇を重ねると、ライは機嫌を直して、離れた僕の唇に深くキスをした。
最早、朝の日課になりつつあるライの生徒達への嫉妬をなだめるキス。
ここから数分は僕をベッドから出したくないとごねるこのしょうのない人をなだめて、隙を見て腕から逃げ出すまでがセット。
服を着込んで、髪を整えて、結局、治らなかったロバ耳をいい感じにアクセサリーと同化させる。
「物語を壊しちゃったのが、いけなかったのかな…」
今日も元気に天に向かってぴょんっと伸びるロバ耳を摘んで、苦笑いを浮かべる。
月日は僕が学園から卒業して4年。
僕はモアナに帰る事はなく、教師として再雇用になってしまったライとともにこのミューズ学園で働いている。
ライの助手として、教師見習いとして。
「俺はラニを連れて誰も知り合いの田舎に引っ込むつもりだったのに…」
「しょうがないでしょ。学長に帰って来てって泣きつかれちゃったんだから。良かったね。教師として優秀で」
4年前。
ファルハ王は騎士達に捕縛され、物語は終わりを迎えた。
気付けば、エレンはフィルと結ばれていて、ファルハ王の所為で戦争寸前だったファルハ王国とレーヴ帝国は友好条約が結ばれていた。
ファルハ王国はファルハ王が捕縛されたその時にはもう王が変わっていて、国に帰ったルトゥフが新王になり、皇帝との間で条約にサインしていた。
「逆賊アサドゥ。新たなファルハの王として、貴様に沙汰を下す」
王になったルトゥフはとても立派で、恐れていた自身の兄に対しても毅然とした態度で、対峙していた。
アサドゥはそんなルトゥフを罵倒していたが、ルトゥフは意に介さなかった。
「アサドゥには犯罪奴隷として、光も届かぬ炭鉱で死ぬまで働き続ける事を命じる」
こうして物語は完全にシナリオから外れて、終わりを告げた。
晴れてフィル達も卒業して、自身達の道を歩み始めた(尚、途中離脱したリュビオは除く)。
フィルは第三皇子兼ヴァイオリン奏者として、各国を歌手となったエレンと周り、シルビオは騎士団長として騎士団を束ね、逃げようとしたエリオットはその補佐として外堀を埋められて。
そんなエリオットを引き抜こうとするルトゥフと一悶着あったりなかったり。
……まぁ、うん。大団円だね。大団円!!
これできっと僕のロバ耳も治る筈…。
なんて、意気揚々と僕は5年目のレーヴ帝国の春を迎える為にベッドに潜り込んだ。
異変に気付いたのは朝、寝ぼけ眼で鏡の前に座り、これでもかと付いた寝癖頭に櫛を通した時。
「? …あれ? 硬いな。そんな酷い寝相だったかな??」
全く櫛の通らない寝癖にそう疑問を抱きながらまだ半覚醒状態の頭で首を傾げる。
なんだろうとその酷い寝癖に触れ、髪とは思えない未知の感覚に意識が覚醒しきって、僕は絶望した。
ロバ耳は…、治んなかったんだ……。
「何故だ。物語が終わって4年も経つのに戻る兆しがないっ…」
すんっと鼻を鳴らし、未だに受け止めきれない事実に僕は肩を落とす。
ついでにこれも朝の日課になりつつある。
僕はまだ諦めきれてないんだ。
一生ロバ耳なんてイタ過ぎる。
ワッと顔を覆いつつも、昨日途中までやっていた資料整理に手を伸ばす。
資料は今年入って来た生徒の名簿だ。
またひとりの後令息をめぐって、恋愛バトルが繰り広げられている。
そして、《イベント》やら何やらこの学園では起き続けている。
「まさか、続編とか言わないよね……」
「どうしたの。ラニ」
嫌な予感にヒクヒクと顔をこわばらせる僕にライは朝食後のコーヒーを飲みながら、僕の座る椅子に腰掛ける。
僕用の甘ぁーいココアをコトンとドレッサーの前に置く。
そのココアをありがたく受け取って、苦笑を浮かべて、全てを諦めて肩をすくめる。
「いや、また一悶着ありそうだなって」
王子様の耳はロバの耳。
このロバの耳は何かのバグなのか、呪いなのかは分からない。
ただ、このロバ耳が生えてから全てがコロっと変わった気がする。
それが幸か不幸かは分からない。
だけど、少し狂った物語は続いていく。
新たな物語やアサドゥが炭鉱から逃げ出したり、鳶色の瞳のお姉さんが生きていたりと、これからも僕の人生は波乱だらけだけど、それはまた別の話。
「大丈夫。なんとかなるよ」
僕の不安にそうキッパリと答えるライはその夕陽色の瞳を細めて、幸せそうに笑う。
それを見ると、ロバ耳が生えた事への文句も消える。
波乱な人生でもロバ耳でもきっと、大丈夫じゃなくても大丈夫。
「そろそろ授業の時間だね。それが終わったら約束だったピアノの調律の仕方教えてね」
「分かった。調律の道具を用意しておくよ。その後は、調律の終わったピアノで次の音楽祭の曲の確認をしようか。歌ってくれる? ラニ」
「ふふんっ! ローレライと呼ばれた僕が直々に歌ってしんぜよう」
波乱でもロバ耳でも大丈夫でなくても、紡ぎ続ける幸せの歌。
2人で紡ぐ希望の歌。
ー end ー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまで、読んでいただきありがとうございました。
これにて物語は終了です。
お気に入り登録及び、しおり、エール、送ってくださった方、ここまでついて来てくださった方に感謝を込めて。
身を寄せて、落ち着くラベンダーの香りを肺一杯に吸い込むと、チュッチュッと頭にキスが降ってきて、それがちょっと擽ったくて、思わず僕は笑みをこぼた。
「ラニ。おはよう」
「ふふっ。おはよ…」
「そんな可愛い顔を浮かべてると、また食べてしまうよ」
「ライならいーよ」
「全く。煽るのが上手いんだから」
掛かってたブランケットが持ち上がり、レーヴの朝の寒い外気が肌に触れ、身じろぐ。
僕の上から覆いかぶさり、ライが名残惜しそうに昨夜僕の身体に残した痕をなぞり、また増やしていく。
満足が行くまで痕を付けると、ライはベッドから起き上がり、朝の支度を始める。
漂い始めた朝食の匂いにお腹が鳴り、僕もむくりと起き上がる。
腰のだるさとお腹に残る甘いじくじくとした痺れと戦いながら身を起こす。
ああ。もうっ、股関節も痛い。立ちたくないなとベッドに伏せると、ライがベッド前のテーブルに朝食を運んで、僕を抱きかかえて、給餌する。
「ライ。腰痛い」
「ん。昨日は散々無理させたからね。今日は大事をとって休む?」
「や。まだ資料整理が終わってないんだよ。クリスと個人レッスンの約束もしてるし」
「またクリス…」
「…良からぬ事を考えてるでしょ。クリスは純粋に真面目に歌に向き合ってるだけだからね」
「どうだか…」
「クリスをいじめないでよね。嫉妬深くて可愛いライは好きだけど、大人げないライは嫌いだからね?」
「…………」
不服そうな顔で頷くライに苦笑する。
同じ指輪の輝く左手を絡めて、ライの唇に唇を重ねると、ライは機嫌を直して、離れた僕の唇に深くキスをした。
最早、朝の日課になりつつあるライの生徒達への嫉妬をなだめるキス。
ここから数分は僕をベッドから出したくないとごねるこのしょうのない人をなだめて、隙を見て腕から逃げ出すまでがセット。
服を着込んで、髪を整えて、結局、治らなかったロバ耳をいい感じにアクセサリーと同化させる。
「物語を壊しちゃったのが、いけなかったのかな…」
今日も元気に天に向かってぴょんっと伸びるロバ耳を摘んで、苦笑いを浮かべる。
月日は僕が学園から卒業して4年。
僕はモアナに帰る事はなく、教師として再雇用になってしまったライとともにこのミューズ学園で働いている。
ライの助手として、教師見習いとして。
「俺はラニを連れて誰も知り合いの田舎に引っ込むつもりだったのに…」
「しょうがないでしょ。学長に帰って来てって泣きつかれちゃったんだから。良かったね。教師として優秀で」
4年前。
ファルハ王は騎士達に捕縛され、物語は終わりを迎えた。
気付けば、エレンはフィルと結ばれていて、ファルハ王の所為で戦争寸前だったファルハ王国とレーヴ帝国は友好条約が結ばれていた。
ファルハ王国はファルハ王が捕縛されたその時にはもう王が変わっていて、国に帰ったルトゥフが新王になり、皇帝との間で条約にサインしていた。
「逆賊アサドゥ。新たなファルハの王として、貴様に沙汰を下す」
王になったルトゥフはとても立派で、恐れていた自身の兄に対しても毅然とした態度で、対峙していた。
アサドゥはそんなルトゥフを罵倒していたが、ルトゥフは意に介さなかった。
「アサドゥには犯罪奴隷として、光も届かぬ炭鉱で死ぬまで働き続ける事を命じる」
こうして物語は完全にシナリオから外れて、終わりを告げた。
晴れてフィル達も卒業して、自身達の道を歩み始めた(尚、途中離脱したリュビオは除く)。
フィルは第三皇子兼ヴァイオリン奏者として、各国を歌手となったエレンと周り、シルビオは騎士団長として騎士団を束ね、逃げようとしたエリオットはその補佐として外堀を埋められて。
そんなエリオットを引き抜こうとするルトゥフと一悶着あったりなかったり。
……まぁ、うん。大団円だね。大団円!!
これできっと僕のロバ耳も治る筈…。
なんて、意気揚々と僕は5年目のレーヴ帝国の春を迎える為にベッドに潜り込んだ。
異変に気付いたのは朝、寝ぼけ眼で鏡の前に座り、これでもかと付いた寝癖頭に櫛を通した時。
「? …あれ? 硬いな。そんな酷い寝相だったかな??」
全く櫛の通らない寝癖にそう疑問を抱きながらまだ半覚醒状態の頭で首を傾げる。
なんだろうとその酷い寝癖に触れ、髪とは思えない未知の感覚に意識が覚醒しきって、僕は絶望した。
ロバ耳は…、治んなかったんだ……。
「何故だ。物語が終わって4年も経つのに戻る兆しがないっ…」
すんっと鼻を鳴らし、未だに受け止めきれない事実に僕は肩を落とす。
ついでにこれも朝の日課になりつつある。
僕はまだ諦めきれてないんだ。
一生ロバ耳なんてイタ過ぎる。
ワッと顔を覆いつつも、昨日途中までやっていた資料整理に手を伸ばす。
資料は今年入って来た生徒の名簿だ。
またひとりの後令息をめぐって、恋愛バトルが繰り広げられている。
そして、《イベント》やら何やらこの学園では起き続けている。
「まさか、続編とか言わないよね……」
「どうしたの。ラニ」
嫌な予感にヒクヒクと顔をこわばらせる僕にライは朝食後のコーヒーを飲みながら、僕の座る椅子に腰掛ける。
僕用の甘ぁーいココアをコトンとドレッサーの前に置く。
そのココアをありがたく受け取って、苦笑を浮かべて、全てを諦めて肩をすくめる。
「いや、また一悶着ありそうだなって」
王子様の耳はロバの耳。
このロバの耳は何かのバグなのか、呪いなのかは分からない。
ただ、このロバ耳が生えてから全てがコロっと変わった気がする。
それが幸か不幸かは分からない。
だけど、少し狂った物語は続いていく。
新たな物語やアサドゥが炭鉱から逃げ出したり、鳶色の瞳のお姉さんが生きていたりと、これからも僕の人生は波乱だらけだけど、それはまた別の話。
「大丈夫。なんとかなるよ」
僕の不安にそうキッパリと答えるライはその夕陽色の瞳を細めて、幸せそうに笑う。
それを見ると、ロバ耳が生えた事への文句も消える。
波乱な人生でもロバ耳でもきっと、大丈夫じゃなくても大丈夫。
「そろそろ授業の時間だね。それが終わったら約束だったピアノの調律の仕方教えてね」
「分かった。調律の道具を用意しておくよ。その後は、調律の終わったピアノで次の音楽祭の曲の確認をしようか。歌ってくれる? ラニ」
「ふふんっ! ローレライと呼ばれた僕が直々に歌ってしんぜよう」
波乱でもロバ耳でも大丈夫でなくても、紡ぎ続ける幸せの歌。
2人で紡ぐ希望の歌。
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