20 / 28
20
しおりを挟む
「なんじゃとっ!!?」
大臣の声で多くの人々が集まってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・っ」
他の兵士が水が入った革袋を持ってくると、戦場から帰ってきた兵士はこぼしながらも必死な顔で美味しそうに飲む。
「それは間違いないのかっ!?」
「はいっ・・・。これがリチャード王子からの書簡です」
兵士は懐から大事そうに書簡を取り出し、両手で大臣に献上する。大臣は封が確かにリチャードの物か、開けた跡がないか入念に確認した後、急いで封を開けて内容を読む。
「まさか・・・そんな・・・っ」
大臣はびっくりした顔をしていたけれど、その後は人が変わったかのように指示を出した。まず、この情報が他国はもちろん、ごく一部の人間以上に広がらないように情報統制をしていた。そんな大臣は私を見つけると、きりっとした目で見定めるかのように見たけれど、
「アリア様・・・ちょっとこちらへ」
大臣は私を人気のないところへと呼び出した。
大臣は私にむやみに他言しないようにときつく言った。もし、漏らせばリチャードの客人であっても殺さなければならないと真剣な目で大臣は私に忠告したので、私もその言葉を深く心に刻んで頷いた。
大臣は頭も回る人だったけれど、誠実な人で、私にどうしてか理由まで教えてくれた。
要約すると、ザクセンブルク公国にも、王家で私の国と同じように派閥争いがあるらしく、ザクセンブルク公国も近しい親族は一緒に王宮に住んでいるけれど、少し離れたところに住んでいる一部の親族は王位を狙っているらしい。
そして、追ってくるであろうワルタイト王国に対しての迎撃の準備水面下で始めた。
私にはどの人物がリチャードに近しい人なのか、敵になりうる存在なのか、全く見当もつかなかったけれど、大臣が何食わぬ顔をして話をするか、暗号とはいかないけれど、隠語を用いて会話するかなどで、なんとなくリチャードに近しい人なのか、そうでないのか察することができるようになった。
私やリチャードのように顔に出てしまう人間にはなかなか難しいことをできるこの大臣は優秀な人物なんだと、私は感服した。
そして、数日後、リチャードが帰ってきた。
父親を亡くしたリチャード。
心ここにあらず、といった彼の顔を見ているのは、痛々しくて見ていられなかった。
リチャードを迎えた大臣は、
「おかえりなさいませ」
と頭を下げて、細かいことは言わず、ただ書簡だけ献上した。
きっと、今のザクセンブルク公国の現状と自分がしておいたことを書きこんであるのだろう。
「それで・・・王は・・・っ」
私は大臣が強い人で傷つくこともなく、仕事を淡々とこなす責務に操られた人形のような人に感じていた。けれどそれは違って、大臣は仮面を被っていただけで、やはり長年仕えてきた国王のことはどうしても気になったらしく、無礼を承知でリチャードに懇願するように尋ねる。
すると、リチャードは後ろの兵士たちの少し先を見た。
その場所へ大臣は走り、その目線の先にあった棺で足を止める。
大臣が着くと、兵士たちがその棺を下げた。
「国王・・・っ」
大臣は大臣という責務の糸がプツンと切れて、感情人となってわんわん泣いていた。
あんな凛々しかった大臣が大泣きしている。
その姿はとても痛々しくもあり、みすぼらしくもあり、そして・・・美しかった。
「さぁ、さっさと歩けっ!!」
兵士たちが太い紐で縛った人物を連れて来た。
捕虜にしてはあまりにもみすぼらしい白髪の男。齢は老人に違いない。それもたった一人しか連れてきていないということはその男が、暗殺者なのだろう。私はその男を見る。
戦争は嫌いだけれど、暗殺なんて卑劣な行為をするのはもっと不義理で浅ましく、もっと嫌だ。
だって、私のお父様やお母様も事故に見せかけて、不意打ちで死んだのだとすれば、あまりに無念で許せないもの。
「うそ・・・っ」
私は憎むようにその男を見たけれど、縛り上げられた目つきの悪いその男と目が合い、びっくりした。
なぜなら、その暗殺者は、私が良く知る人物だった。
大臣の声で多くの人々が集まってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・っ」
他の兵士が水が入った革袋を持ってくると、戦場から帰ってきた兵士はこぼしながらも必死な顔で美味しそうに飲む。
「それは間違いないのかっ!?」
「はいっ・・・。これがリチャード王子からの書簡です」
兵士は懐から大事そうに書簡を取り出し、両手で大臣に献上する。大臣は封が確かにリチャードの物か、開けた跡がないか入念に確認した後、急いで封を開けて内容を読む。
「まさか・・・そんな・・・っ」
大臣はびっくりした顔をしていたけれど、その後は人が変わったかのように指示を出した。まず、この情報が他国はもちろん、ごく一部の人間以上に広がらないように情報統制をしていた。そんな大臣は私を見つけると、きりっとした目で見定めるかのように見たけれど、
「アリア様・・・ちょっとこちらへ」
大臣は私を人気のないところへと呼び出した。
大臣は私にむやみに他言しないようにときつく言った。もし、漏らせばリチャードの客人であっても殺さなければならないと真剣な目で大臣は私に忠告したので、私もその言葉を深く心に刻んで頷いた。
大臣は頭も回る人だったけれど、誠実な人で、私にどうしてか理由まで教えてくれた。
要約すると、ザクセンブルク公国にも、王家で私の国と同じように派閥争いがあるらしく、ザクセンブルク公国も近しい親族は一緒に王宮に住んでいるけれど、少し離れたところに住んでいる一部の親族は王位を狙っているらしい。
そして、追ってくるであろうワルタイト王国に対しての迎撃の準備水面下で始めた。
私にはどの人物がリチャードに近しい人なのか、敵になりうる存在なのか、全く見当もつかなかったけれど、大臣が何食わぬ顔をして話をするか、暗号とはいかないけれど、隠語を用いて会話するかなどで、なんとなくリチャードに近しい人なのか、そうでないのか察することができるようになった。
私やリチャードのように顔に出てしまう人間にはなかなか難しいことをできるこの大臣は優秀な人物なんだと、私は感服した。
そして、数日後、リチャードが帰ってきた。
父親を亡くしたリチャード。
心ここにあらず、といった彼の顔を見ているのは、痛々しくて見ていられなかった。
リチャードを迎えた大臣は、
「おかえりなさいませ」
と頭を下げて、細かいことは言わず、ただ書簡だけ献上した。
きっと、今のザクセンブルク公国の現状と自分がしておいたことを書きこんであるのだろう。
「それで・・・王は・・・っ」
私は大臣が強い人で傷つくこともなく、仕事を淡々とこなす責務に操られた人形のような人に感じていた。けれどそれは違って、大臣は仮面を被っていただけで、やはり長年仕えてきた国王のことはどうしても気になったらしく、無礼を承知でリチャードに懇願するように尋ねる。
すると、リチャードは後ろの兵士たちの少し先を見た。
その場所へ大臣は走り、その目線の先にあった棺で足を止める。
大臣が着くと、兵士たちがその棺を下げた。
「国王・・・っ」
大臣は大臣という責務の糸がプツンと切れて、感情人となってわんわん泣いていた。
あんな凛々しかった大臣が大泣きしている。
その姿はとても痛々しくもあり、みすぼらしくもあり、そして・・・美しかった。
「さぁ、さっさと歩けっ!!」
兵士たちが太い紐で縛った人物を連れて来た。
捕虜にしてはあまりにもみすぼらしい白髪の男。齢は老人に違いない。それもたった一人しか連れてきていないということはその男が、暗殺者なのだろう。私はその男を見る。
戦争は嫌いだけれど、暗殺なんて卑劣な行為をするのはもっと不義理で浅ましく、もっと嫌だ。
だって、私のお父様やお母様も事故に見せかけて、不意打ちで死んだのだとすれば、あまりに無念で許せないもの。
「うそ・・・っ」
私は憎むようにその男を見たけれど、縛り上げられた目つきの悪いその男と目が合い、びっくりした。
なぜなら、その暗殺者は、私が良く知る人物だった。
45
あなたにおすすめの小説
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです
柚木ゆず
ファンタジー
優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。
ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。
ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。
没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。
木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。
不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。
当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。
多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。
しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。
その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。
私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。
それは、先祖が密かに残していた遺産である。
驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。
そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。
それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。
彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。
しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。
「今更、掌を返しても遅い」
それが、私の素直な気持ちだった。
※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)
王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。
冬吹せいら
恋愛
ライロット・メンゼムは、令嬢に難癖をつけられ、王都を追放されることになった。
しかし、ライロットは、自分でも気が付いていなかったが、幸運の女神だった。
追放された先の島に、幸運をもたらし始める。
一方、ライロットを追放した王都には、何やら不穏な空気が漂い始めていた。
姉の代わりになど嫁ぎません!私は殿方との縁がなく地味で可哀相な女ではないのだから─。
coco
恋愛
殿方との縁がなく地味で可哀相な女。
お姉様は私の事をそう言うけど…あの、何か勘違いしてません?
私は、あなたの代わりになど嫁ぎませんので─。
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる