ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

文字の大きさ
23 / 68

おはよう

しおりを挟む
 カインはシャーロットを地下にある隠し部屋へと運ぶと、部屋に置いてあるベッドへと寝かせた。

「さてと、ここからどうすりゃ良いかな」
 
 王女様の言う通り攫って地下に連れて来た。もう一つの依頼は、穢せ……だったな。
全くたいした王女様達だ。
仕事だから、やれと言われればもちろん実行する。
だが、私は眠っている女に手を出すことは好きじゃない。

それに……

「おかしいとは思っていたが、竜獣人の『花』とは聞いて無かったんだよなぁ、あの王女達最初から私の事を捨て駒にするつもりだったのか……」

 ただでさえ強い竜獣人の大切なものに手を出して、無事でいられる訳がない。
レイナルド公爵もガイア公爵も、当主一人で何十匹もの凶暴な魔獣を倒すのだ。普通の獣人が五人がかりで漸く一匹倒すあの魔獣を……。


 逃げ切れればいい方だな。

 彼女の仮面を外し、結われていた髪を解く。
……顔も体も割と好みだ、イヤ結構好きな方かも……。
既に攫って此処へ連れて来たんだ、このままでは碌な目にあわないだろう。それなら少しばかり美味しい思いをさせてもらうか。

 カインは、彼女の真紅のドレスに手をかけた。
腰の辺りまでドレスを一気に脱がせたところで、それ以上出来なくなった。
 
「下着に防御魔法付けるのか?……しかもスゲー強力」

 真紅のドレスを着ていた時は体に触る事が出来たのに、それを脱がせた途端に魔法が発動しやがった。どういう仕組みか知らないが、どちらにしろ今は指一本触れられなくなっている。

……さて、どうするか……





ーーーーーー*




ぶつぶつと誰かが話す声に意識が戻る。

「ん……」

 重い瞼を開いて体をなんとか起こした。

「……ここは?」

 ( さっきまでホールに居たのに……そういえば急に眠くなったんだ )

手元には私が着けていた仮面が落ちている。
まとめ上げていた髪もいつの間にか解けていて肩に触れた。

「やぁシャーロットちゃん、おはよう」

ハッとして声の方を見上げると、さっきまで一緒にいたカイン様が私を見下ろしている。

「うん、いいね。やっぱり私好みだ」
「……何を言っているの?」

訝しげに見る私に、彼はコップを差し出してくる。

「喉、渇いてない?」
「……渇いてません」

( この人、また何か飲ませるつもりなの? )

 彼は疑っている私の顔に気がついたようだ。

「ジュースだよ、今度は何も入れてない。……喉、渇いているはずだよ?さっきのアレ飲んだんだから」

彼の言う通り確かに喉はカラカラだった。
それに何故か体も熱い。
……でも

カイン様はさっきから私の体を見ている様だ。
…………?
はた、と自分の体に視線を移せば、ちゃんと着ていたはずのドレスは腰のあたりまではだけ胸の下着が見えていた。

「きゃあっ、どうしてっ⁈ 」
慌ててドレスを引っ張るが上手くいかず、そこにあった上掛けを体に巻き付けて身を隠した。
いまさらだけど……うっ……下着姿見られた。

「私が脱がせた途端に防御魔法が発動してさ、残念ながら君に触れなくなっちゃった」

……脱がせたと言った?

「どうして脱がせたのっ」
「そりゃあ、脱がせてする事は一つでしょ?」

信じられない! 私は彼に軽蔑の眼差しを向ける。

「ま、そんな顔しなくても未遂だし、魔法で触れなかったんだしさ、ほらジュースでも飲んでよ。ここに置くから」

コップに注がれたジュースをトレーに載せ、ベッドの上に置くとカイン様は少し離れた。

「どうぞ、体の為にも飲んだ方がいいよ。そのままだと息が苦しくなるかもしれない」

 体の為と言われ、私はコップを手に取った。分からないけれど一応匂ってみる。ぶどうのジュースの様で、他には何も変な匂いはしない。
……でも、大丈夫? 本当に?

「正真正銘のジュースだよ、神に誓ってもいい」
カイン様は祈るような仕草をする。


 強い喉の渇きに、私は恐る恐る口にした。
コクリと一口飲む。ちょうどいい甘さが体に沁み渡る。そのままコクコクと飲み進め喉を潤した。

「おいしい……」

「はぁ、良かった。信じてくれたんだ」
「えっ!」
「いや、違うそうじゃないよ、本物のジュースだから! ああ、やっぱり一度でも騙すと信じてもらえなくなるよね」

カイン様は「私も飲もう」と言うと、そこにある樽からコップに並々と注ぎ、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干す。

「それで……どうして私はここにいるの?」
「あー、頼まれたんだ」
「頼まれた?」
「そ、仕事でね」
「仕事? 子爵の?」

私が尋ねると彼はクスリと笑った。

「私は子爵ではないんだ」
「じゃあ……何?」

カイン様は自身の着けている仮面を外し素顔を見せた。短髪な黒髪。赤橙色の目が印象的な整った顔立ちの青年。踊った時は無かった銀の三日月型の耳飾りが、鈍い光を放っていた。

「ある時は子爵、またある時は行商人、偶に貴族の奥様方のお相手もする、いわゆる何でも屋だよ。いなくなった猫を探したりね」

「何でも屋?」
「そう」
「そんな人がどうして王女様のお茶会にいたの?」

「王女様達から依頼が来たんだ、君を攫って悪戯しろって、報酬も多くてさ。まさか相手が竜獣人の『花』とは聞かされてなかったけどね」

「あなた獣人なの?『花』の事どうしてしって……」
「ああ、私? そうだよ豹獣人……って、あれ?さっきのは只のジュースだよ?」

あれ?
あれって何?
なんだろう……体がふわふわしてきた。
ふわふわするけど、体は熱いまま……


それに……何だか楽しい気持ちがする。


「豹獣じん、なの……ね」

「どうかした? シャーロットちゃん、顔赤いよ? 目も蕩けちゃってる……」

 
 うーん、なんだろう……

……急にすごく面白くなってきた。
何が面白いのか分からないけど、カイン様のキレイな顔も面白い。コッチを見てるのも面白い。
髪も短くて面白い。エスターみたいに長くない。
短い……髪

「うふふふふ……かみ、みじかいねぇ……」

カイン様は目を見開いて私を見ている。
どうしたのかしら?

「君、もしかして酔っ払ってる? まさかぶどうのジュースで酔っ払うなんて……プッ……あははっ!」

「なにが……おかしーのっ!」
ぷうっと頬を膨らませ睨む私を見て、カイン様はさらに笑った。
( 何で私はこうも初対面の人に笑われるのかしら )

「ごめん、もしかしたら最初に飲ませた薬が影響したのかもしんねぇ……うはははっ!」

「わーわないでっ!」

カイン様はお腹を抱えて笑っていた。

「体質的に弱いのかも知れないね、偶にいるらしいからジュースでも酔っ払ってしまう人……でもねぇ」

「よってないれす」

ちょっと言葉は変だけど、意識はしっかりしてるもの。

カイン様は私をみて何だか悶えている。

「あー酔っ払ってんのかわいいなぁ! 触りてぇ、でも触るとヤベーしなぁ」
「さわる?」
何を触るんだろう? そう思ってカイン様に聞く。

「うん、楽しいことしてみようか?シャーロットちゃん」
私を見る赤橙色の目が、ギラギラと光っている様だ。

「いやっ!」

何を言っているのかしらこの人。
触っていいのはエスターだけなのに。
私はプイッとそっぽを向いた。

「ふふっ……体は熱くない? 全部脱いじゃえば涼しくなるよ?」

……確かに体は熱い。
全部脱げは涼しくなる?

「ぬぐ?」
首を傾げてカイン様を見る

「……いや」

それまで笑っていた彼はなぜか困惑した様な顔になった。

「うそ、脱いじゃダメだよ」

私に少し近づいて目を細める。

「そんなに純真な顔されちゃったら何も出来ないな、こんな事ならドレスを剥ぐ前にキスぐらいしておけばよかった」

「ダメよ、キチュはエシュターだけらの」

そう言う私にカイン様はクスリと笑った。

「エシュター? エスター令息の事?」
「エシュターはだーいしゅきなひとれす」
「そっかー、そうだね。キスは好きな人とした方がいいね」

カイン様は空のコップに何かを注ぎトレーに置いた。

「これは水だよ、まだ喉渇いているでしょ? 水を飲めば酔いは早めに醒めるから」
「んー」

 まだ喉が渇いていた私はコップを手に取り少しずつ飲んでいく。
それを確認したカイン様は安心した様に微笑んだ。

「それでは、私は帰るよ。この分だと王女様達は報酬をくれなさそうだし、このままではレイナルド公爵に見つかってコテンパンにやられちゃうしね」

「やられちゃう?」
「うん、君を攫ってしまったからね。だから私は行く、実はここに抜け道見つけていたんだ。私の仕事は何が起こるか分からないからね、下調べは大切なんだよ」

カイン様は床の一部を持ち上げた。そこには下へと続く階段が見える。

「じゃあね、シャーロットちゃん」

「どこいくの? あたちは?」

「もうすぐ迎えが来るから待ってなよ。大丈夫、君が一番会いたい人の筈だから」

 彼はじゃあ、と手を振り階段を降りていった。床は元の様に閉じられて、入り口がどこにあるのか分からなくなった。


「なんだったの……かなーっ?」

 注いでもらった水を飲み干しコップを置いた。

喉の渇きは大分収まったみたい。
でも体は熱いまま。
何だかまだふわふわする。
楽しい気持ちも続いているけど……

パタンとそのままベッドに横になった。

ひんやりしたシーツの感触が気持ちいい。




「エシュター……」


 エスターを思いながら、いつの間にか私はまた眠ってしまった。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

処理中です...