R-Face ~アンドロイドと人工知能と、策謀と日常と、そして時折昭和

kaonohito

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第8話 交錯

Chapter-45

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 ファミレス、よりは少し小洒落たレストランに、シータはアデウスとディートリンデを連れて入店してきていた。

「いらっしゃいませ」
「えーと、今……」

 コインパーキングにドミンゴを停めに行った朱鷺光について、シータが言うより早く、

「左文字様ですね、只今テーブルをご用意いたしますので」

 と、店員はそう言った。

「よろしくおねがいします。ああ、朱鷺光は今クルマ停めてきますんで」
「かしこまりました。それでは4名様ですね」

 シータが言うと、店員はシータ達を見て、そう言った。

「よろしくおねがいします」

 シータはそう言って。店員が店内に入っていくのを見送った。

「さすがトキヒロだね、こんな洒落たレストランに顔が利くとは」

 アデウスが言う。

「あれ、アレックスはこのお店初めてですか?」
「そうだね、以前に来た覚えはないかな」

 シータが気がついたようにそう言うと、アデウスは店内を見回すようにしながら、そう言った。

「ふーん、都内での会食のときにはよく使ってるお店なんですけどね」
「ふむ、彼らしいと言えば彼らしいのかな」

 シータとアデウスがそう話していると、カランカラン、と、ドアベルのついた扉を開けて、朱鷺光が入ってきた。

「ん、どうした?」
「ああ、今、席を用意してもらってるところ」

 朱鷺光がシータに問いかけると、シータはそう答えた。

「左文字様、お待たせしました。こちらのテーブルへどうぞ」

 店員が出てきて、朱鷺光達を席へと通す。

 朱鷺光とシータ、アデウスとディートリンデが並ぶかたちで、それぞれ向かい合って、座った。

「本日のメニューは、こちらになっておりますが」

 店員が、メニューリストを広げるようにして、朱鷺光達とアデウス達の間のテーブルの前に立った。

「じゃあ、俺は千葉しあわせ牛のヒレステーキにしてみるかな」
「なら、私もトキヒロと同じものをいただくとするか」

 朱鷺光が言うと、アデウスもそう言った。

「なぜ不思議そうな顔をしているのかね? 私はVegetarianでもなければVeganistでもないよ」

 朱鷺光がおやっという顔をすると、アデウスは悪戯っぽそうな表情でそう言った。

「いえ、アメリカ人が和牛ステーキを食べるものかなと」
「ハッハッハ、それこそ偏見と自嘲だと思うがね」

 朱鷺光の言葉に、アデウスは笑い飛ばすように言った。

「私は、この、デミグラスシチューの煮込みハンバーグを頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、私はお冷だけで結構です」

 ディートリンデが、メニューの写真を指さしながら言う。
 シータは、両手を振ってそう言った。

「かしこまりました。ワインのリストはこちらになりますが」

 店員は、食事のメニューに代わってワインリストを提示する。

「おっ、グラン蒼龍の新しいのが入ってるじゃない」
「朱鷺光!」

 リストにあった銘柄に朱鷺光が目の色を変えると、シータがその横から制するような声を出した。

「冗談だって、冗談」

 朱鷺光は、シータにそう言ってから、店員の方を向き直す。

「俺今日はクルマなんだわ」
「失礼しました。お連れ様はいかが致しますか」

 店員がアデウスの方を向く。

「なら、トキヒロが今色気を出した銘柄をいただこうか」
「そこまで高級ってほどのラベルじゃないですよ、俺は一流品だと思ってますが」

 アデウスの答えに、朱鷺光はアデウスの方を向き、そう言った。

「トキヒロが一流だと認めるなら、売価など大した問題ではないよ」

 アデウスは、冗談交じりにそう言った。

「かしこまりました。それではご用意いたします」

 店員はそう言って、厨房の方に歩いていった。

「ところでトキヒロ、いや、Dr.サモンジ」
「!」

 それまで、明るいアメリカ人というイメージだったアデウスが、急に表情を引き締めたので、朱鷺光も表情を引き締めるようにしてアデウスを見る。

「私は君に謝罪しなくてはならないことがある」
「なんの……ことでしょう?」

 真摯な態度で言うアデウスに対し、朱鷺光も真剣な表情ではいるものの、どのことを言っているのかとっさに理解できず、訊き返した。

「我々のTeamの人間が君のServerにAttackした事実だよ」
「ああ……まぁちょっと前の話なんで、忘れてました」

 アデウスは硬い表情のままだが、朱鷺光は、苦笑しながらそう言った。

「てっきり踏み台にでもされたのかと思ってましたが、アデウス博士の研究生が?」
「そういうことになるね。興味本位と言うか、君に敵対的な感情をもっている一部の人間が実行してしまった」

 申し訳無さそうに言うアデウスに対し、朱鷺光は軽くため息をつく。

「実害が出ていたら法的措置も考えましたけど、ま、あの程度ならハッカーなら、こんにちは程度の挨拶ですからねぇ、相手にしてたら、きりがないっちゅうか」

 朱鷺光は苦笑しながらそう言った。

 実際、UWDウィクター・ドーンドリア大学からの直接のクラックでは実害らしい被害は出ていない。朱鷺光のサーバに実際に進入してデータを抜き出したのは、あくまで波田町教授なのだ。

「君がそう言ってくれるならそれで構わないのだが」

 アデウスの表情は、まだ晴れない。

「ところで俺は、その……ディートリンデさんでしたっけ、その方を連れてきた理由がまだイマイチ理解できないのですが……」
「あ、ああ」

 朱鷺光が唐突にガラッと話題を変えたので、アデウスは少し狼狽えたような様子を見せる。

「?」

 シータが、不思議そうな表情をした。

「私のことはディーテとお呼びください」

 ディートリンデは、まずそう言うと、先程までの仏頂面から、少し愛想のある笑みを浮かべた。

「それで」

 朱鷺光は、ディートリンデの言葉に頷いてから、アデウスに視線を向ける。

「Project MELONPARKに携わっているとお聞きしましたが」
「ああ、今はServerのmaintenanceを主にしてもらっているよ」

 朱鷺光の問いかけに、アデウスはそう答える。

「システム管理者は、平城真帆子教授じゃ無いんですか?」

 朱鷺光は、そう訊ね返した。
 すると、アデウスがなにか答えようとするより早く、ディートリンデが口を開いた。

「私は、真帆子先輩の後輩技術者、ということになるかと思います。真帆子先輩は今、Project BAMBOOの方に取りかかりきりなので、システム全体のメンテナンスは私達が面倒見ている形になります」

「なるほど」

 朱鷺光は口元で軽く笑いながら、返す。

 アデウスの言葉に、朱鷺光は納得の声を出した。

「トキヒロ、君はマホコと接触した事があるのかい?」

 アデウスが朱鷺光に問い返してくる。

「俺の弟と妹、それに再従妹はとこが。それと、サンプリングの結果であるナホってA.I.とは、俺も面識があります」
「なるほど、そういう事か」

 朱鷺光は真顔で惚けてそう言ったが、アデウスは納得したように言う。

「さっきも言ったように今回のsymposiumはProject MELONPARKを表に出すものではなかったからね。マホコにはそちらの活動を優先してもらったかたちだ。結果的に我々とすれ違いになってしまったけどね」

「!」

 アデウスが苦笑交じりに言うと、シータが、軽くハッとしたような表情になるが、それに対して、朱鷺光が制するように目配せする。

 ──平城教授が今、左文字家うちに居ることを知っていて惚けているのか、そうではないのか。

 朱鷺光自身も一瞬怪訝に思ったが、その様子をすぐに消す。

「そういうわけで、トキヒロがProject MELONPARKに興味をもっているというのなら、ディーテを紹介しておくのも悪くないと思ったのだよ」
「なるほど」

 少し朗らかさを取り戻した様子で言うアデウスに、朱鷺光は納得の返事をした。

「それにしても、Project BAMBOOはなぜ日本で実施を?」
「アメリカでやると、悪意ある人間に過激思想を植え付けられる危険が高いからですね」

 朱鷺光が問いかけると、ディートリンデが答えた。

「トキヒロも知ってるだろう、Megatech Industrialsのprototype A.I.について」
「稼働1日で緊急停止させたやつですね。なるほど確かにアメリカじゃ危ないな」

 アデウスの言葉に、朱鷺光は肯定するように、ため息まじりに言った。

 その時、ちょうど、ウェイターが注文の品を持って現れた。

「おまたせしました、千葉しあわせ牛のヒレステーキになります」
「ああ、うん、こっち、と、そちらの男性の方」

 朱鷺光が、自分と、アデウスを指す。

「煮込みハンバーグの方も今お持ちいたしますので、少々お待ち下さい」

 ウェイターがそう言って、軽く会釈をして、厨房へと引き返していった。

「さーて、小難しい話は食事の後にしますか」

 朱鷺光が、そう言ってフォークとナイフを手に取ろうとする。

「すみません、ちょっと電話をしてきます」

 ディートリンデが、そう言って立ち上がった。
 そのまま、彼女は店の出入り口のあたりに立って、スマートフォンで通話を始めた。

「あ、ごめんなさい、私もちょっとメール打っとく。洗濯物とか姉さんにお願いしとくわ」

 シータが、そう言って、ピンクのスマートフォンを取り出し、メールを打ち始める。

 朱鷺光は少し手持ち無沙汰になりつつも、ディートリンデが通話を終えて帰ってくるのを、アデウスとともに待つ。

「おまたせしました、デミグラスシチューの煮込みハンバーグになります」
「あ、今ちょっと席を外してて、えっと、そっちのかたになります」

 やってきたウェイターに、朱鷺光は手で、ディートリンデの席を手で指す。

 朱鷺光が自分の料理に視線を戻しかけた時、朱鷺光のスマートフォンが、メールの着信音を鳴らした。

「あ、すみません、失礼」

 朱鷺光はそう言って、ポケットからスマホを取り出し、メッセージを見た。

『英語の会話。「指示通りに行動せよ」意味はわからないけどそういう趣旨の内容だった。学生同士の会話にしては、砕けた様子が一切なかった』

 それは、シータが惚けて朱鷺光のスマホに送ったメールだった。
 朱鷺光は、シータをちらりと見る。

 シータのネコミミはただの飾りではない。
 オムリンやファイは、聴力という意味では人間並みである。別に音響センサーも備えているが、人の会話の内容までも聞き取れる種のものではない。
 だが、シータは鋭指向性の高感度集音器を搭載しており、日常の聴力と切り替える事が可能になっていた。

 シータはディートリンデの電話の内容を盗聴し、その趣旨を朱鷺光にメールで報せたのだ。
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