愛する人のためにできること。

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図書室

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 昼休み、物語を知ってからは殿下に会いに行かなくなったのですることがなく、昼食を食べた後は校舎と少し離れた別館にある図書室へ入り浸っていた

 この学園の図書室はとても大きい。広さもそれなりにあり、部屋の中は円の形をしていて中央から上を見上げれば吹き抜けになっている。高さは10mくらいで3階まで存在し、奥には階段があってそこから登れるようになっている

 私は2階へ登ると物語小説が置かれているコーナーへ移動する。冒険小説が好きで、この間読んでいた本は2日で読み切ってしまった。なので新しいものを読もう、と背表紙に書かれているタイトルを眺め、たまに手に取る。
 すると、『ジャックとスザンヌの冒険2』と書かれた本が目に入りハッとする。とても好きな本なのに続きが出ているなんて知らなかったわ、とショックを受けつつ手に取ろうと思ったが、自分の身長で届くか届かないか微妙な高さに並べられているので少し戸惑う。
 登れる台がないか周りを探すが見当たらず、仕方がないと背伸びをして手を伸ばすが指が掠るだけで取れそうにない。
 どうしようと困っていると後ろから手が伸びて、私が取ろうとしている本をその手が取った
 誰だろうと振り返ると、私より少し目線の高い橙色の瞳と目があった

「あら、レイだったのですか。御機嫌よう」

「ああ。エミリアが取ろうとしていた本はこれであってるか?」

「ええ、ありがとうございます」

 私が軽くスカートをつまみ挨拶をすると、レイは本を差し出してくれる。それを笑顔で受け取ると、私についてくるようなので本を借りられるカウンターへ移動しながら小声で話しかけた

「レイはいつも図書館に来てないですわよね?何か探し物かしら?」

「いや?君が歩いている後姿を見かけたからなにしてるんだろうなーって追いかけてただけ」

「話しかけてくださればよかったのに」

「ちょっと尾行してみたかったんだよ」

 なんだそれはと内心呆れつつ、あのパーティーが終わってからのここ1カ月のことを思い出す
 レイとは同じ学年で隣のクラスだとパーティーで教えてもらった。せっかくだから会いに行こうかなと何度か隣のクラスを覗いていたのだが、彼はいつも大勢の人に囲まれていて話しかけづらく、あれ以来一度もあっていなかったのだ。
 殿下はーーと考えたところで思い出すと暗くなると、思い出せないようにレイに違う話題を振った


「それより、貴方はこの本の新刊が出ていたこと知っておられたのですか?」

「まあね」

「いつ出たかも知っておられます?」

「うん。えーと…3日くらい前かな」

「結構最近ですわね。教えてくださればよかったのに」

 私は少し口を膨らませながら言う。すると彼は少し困ったような口調で返してくる

「教えた方がいいかな、と思って会いに行ったけどいつも君は友人といて話しかけずらかったんだよ」

 会いに来てくれていたけど話しかけづらかったのは、どうやら自分だけではなかったらしい。
 私は思わず、膨れ面をやめて笑顔になる

「そうだったのですか。私も何度か会いに行ったのだけれど、貴方はいつも大勢の人に囲まれていて話しかけづらかったのです」

「俺は一応人気者なんでね」

「それ自分で言うことなのかしら」

 レイとの会話は家柄など、そういうのをあまり気にせず話せて気が楽だ。だから人気者なのかしらね、と考えながら本を借りる手続きを終えると、カウンターに座っている女性へ軽く頭を下げ図書室から離れた
 そこから離れたからか、ボリュームを普段通りに戻した彼が話しかけてくる

「借りる本、それだけでよかったのか?もうちょっと見なくてよかったか?」

 自分が来たことで気を使って早々と図書室を離れたのかと心配してくれているらしい。
 私はそんなことはない、と首を振って返す

「ええ。本の量が多いからどれが面白いのかわからないのです。いつもは時間をかけて探しているけれど今日はすぐに見つかったから」

「なるほどね。俺、放課後に図書室に行くことが多いから面白い本結構知ってるし、おススメ教えようか?」

「えっ、いいのかしら⁉︎」

 この間のパーティーでレイと本の話をしていた時、私と彼の本の趣味が合うことが発覚したためおススメするような本は絶対面白いのだろう。と嬉しくなり、またもや彼の両手をギュッと握って満面の笑みを浮かべてしまう
 廊下の角の先からガンッと音がして意識が戻る
感情に任せた行動を同じ人物に2度も起こすなんて、と恥ながらも両手を離して慌てて謝る

「あっ、申し訳ございません。2度も同じ行動を起こしてしまうなんて」

 ちらりとレイの表情を確認するが、なんとも思っていなさそうな顔をしていた
 私はホッと息を吐く

「俺は別に気にしてない。前回と今日喋ってて思ったんだけどさ、エミリアって感情に流されやすいのな」

「普段はそんなに流されやすい方ではないと思うのですけれど…レイが喋りやすいからかしら」

「急な褒め言葉ありがとう」

「別に褒めたかったわけじゃないですわ。単純に私が流されやすいだけの可能性もあります」

「それ、未来の王子妃としてどうなんだ」

「…まあ、これからですわ…」

 『未来の王子妃』という言葉に反応して心臓がドキリと鳴り、気の無い返事をしてしまう

 ーー本当に失格ね。感情に簡単に流されてしまうなんて、王子妃として相応しくないわ…だから殿下も…

 と考えたところで頭を振る
 今は友人が隣にいるのだ、気が沈んでいる場合ではないと

「それに、私は公爵令嬢ですもの。教育はしっかりと受けておりますし、心配ご無用ですわ」

「それとこれとは別だと思うけど」

「…まあ、先程言った通りこれからですの。感情に任せた行動はこれから直すのですわ!」

 外では明るく新しい話題を変えて話しながら、私は結局考えてしまう

 ーーだから。

 と、何度も何度も願い、誓った言葉をまた繰り返す

 殿下を諦められないのは、自分が一番よくわかっている

 ーーだから、殿下とリアトリスが笑い合っていようが何をしていようが、苦しみを抑えられたらいい。応援できたらいい。

 ーーだから、殿下が必要と言うまで婚約は解消しない。

 ーーだから、それまで、私は殿下の隣を歩きたい

 その気持ちを悟られないよう、私は笑顔で話す
 夏が明けてもまだ強い日差しで暑くなった廊下を歩きながら、明日から放課後に一緒に図書室に行こうと約束をして私はレイと別れた


 窓の外の青い空を眺めて呟く


「…会いたい」
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