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紅い
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ーー焦っておられるのかしら
いつもより少し強引な気がする。歩調もいつもはゆっくり私に合わせてくれているが、少し早くて私は小走りで追いかける。手は繋がれたままで。
追いかけている間城の廊下をぐんぐんと進んでは角を曲がり、それを繰り返しているうちに見張りやメイドもいなくなり私が見たことのない部屋の一室へ連れ込まれる
婚約者とは言え未婚の男女が2人きりなのは如何なものかと思ったが、手をギュッと握られていて離れられそうにない。何より、私に殿下の手を振りほどくような真似はできないのだ。
「殿下?……っ」
部屋に連れ込まれドアを閉めた後、私の方に振り返り立ったまま動く気配がなく繋がれた手を見つめ声をかける。
黙って話しかけられるのを待っていると、突然手を引っ張られ抱き寄せられた
「で、殿下?どうかなされたのですか…?」
ドキドキと心臓の音が鳴り顔に熱が集まっていくのを感じ困惑と焦りで頭がうまく働かず、抱きしめられたまま動くことができない
殿下の胸に顔を押し当てられそこから聞こえる心臓の音を聞きながら黙っていると、急に頬に熱い吐息がかかり髪を掬い上げられキスされる
その瞬間、私の心臓がさらにうるさく爆発するんじゃないかと思うほどに鳴り響いてだんだん何が起こっているのかわからなくなる。
とりあえず離れた方がいいと思い、かろうじて動かせた震える手を殿下の胸へ押し当て離れようと試みる
しかし、力がうまく入らず離れられずにいると背中に回された腕にさらに力が入り、頭上からいつもより弱々しい声が聞こえてきた
「…ねえ」
「は、はい」
「…なんで僕を避けるの?」
きっと殿下は長期休暇が明けてからの話をしているのだろう。しかし明けてからもう3ヶ月は経っている。
リアトリスがいるし特に気にされていないと思っていたが、一応気にしてくれていたようだ
それに嬉しく思うが、悲しくもなる
ーーわかっている。それが王子としての正しい姿を取ろうとしての行動ということは。王子の婚約者が王子を避けるなんておかしい、だから心配している。
キスとか抱きしめるなどの行為は何を血迷っての行動かはわからないけど、愛情表現とかそういうのじゃない。
殿下が私を愛することは絶対にない。わかってる
彼が愛するのはリアトリスだけ
それは、絶対だから
「…避けてるつもりはございませんわ」
「でも最近学園の中でも休日も全く僕と会ってくれてないじゃないか」
「以前は自分勝手な行動をしすぎたと反省しておりますの。ですので、お会いするのは必要な時だけで良いかと判断いたしました」
「だからって3ヶ月も合わないのはおかしいでしょ?僕たち婚約者だよね?」
「…」
数ヶ月後にはそうではなくなると知っているから、何も言えない。黙り込んでいると少し緩んでいた腕にまた力が込められた。
「それに、最近アイツとばっか…」
「…殿下?」
「…」
最後の方は黙り込んでしまったのでなんだろうと声をかけてみるが、反応がない
そのまま数分間抱きしめられ続けお互い黙っていると、再び頭上からため息が漏れたあと声が聞こえてきた
「…とにかく、君は私のものだから。それだけは忘れないで」
「…?はい。わかりました」
よくわからないが念を押すように言われたのでとりあえず返事をした。
これで話は終わったのかな、と思い離れようとすると今度は私の首元に顔を埋めてくる
首にあたる髪がくすぐったいなと思っていると左の首元がチクリと痛み殿下が離れた
「まあ今回はこれくらいで許すよ」
「?は、はい」
さっきから何を言いたいのか何をしているのかよくわからないが、先程自分の頭を押し付けられていた殿下の胸の部分を見つめながら返事をする。
目を合わせず返事をしたことに納得がいかなかったのか頬に手を添え強制的に視線を合わせられた。その顔が鼻があたりそうなほどに近くて視線がぐらついてしまう
本当は目を逸らしたいけどその目が真剣に見えて逸らせない
また私の頬に熱が集まるのを感じた
「他の男にこういう行為、許しちゃダメだからね。エミリアは押しに弱いから心配なんだ」
「…はい」
ーーこういう行為を許すのは殿下だからです
そう言いたかったけど、グッと呑み込む
その台詞を言っても困った反応をされるだけだろう。
私はそのあと殿下に手を引かれて自分の送迎用の馬車へと向かった
馬車に乗り込む時、殿下は私の手を持ち上げるとキスをして
「またね、エミリア」
と顔は見るのが怖くてどういう表情をしていたのかはわからないけど甘くて優しさを含んだ声で見送ってくれた
今日の殿下は何度私を紅くさせれば気がすむのだろうか。距離感もおかしかった。と馬車の中で考える
ーーでも、絶対に自惚れてはいけない。
私はパンッと自分の頬を両手で叩き、気合いを入れた
これから来る未来に向けて絶対に失敗しないと
いつもより少し強引な気がする。歩調もいつもはゆっくり私に合わせてくれているが、少し早くて私は小走りで追いかける。手は繋がれたままで。
追いかけている間城の廊下をぐんぐんと進んでは角を曲がり、それを繰り返しているうちに見張りやメイドもいなくなり私が見たことのない部屋の一室へ連れ込まれる
婚約者とは言え未婚の男女が2人きりなのは如何なものかと思ったが、手をギュッと握られていて離れられそうにない。何より、私に殿下の手を振りほどくような真似はできないのだ。
「殿下?……っ」
部屋に連れ込まれドアを閉めた後、私の方に振り返り立ったまま動く気配がなく繋がれた手を見つめ声をかける。
黙って話しかけられるのを待っていると、突然手を引っ張られ抱き寄せられた
「で、殿下?どうかなされたのですか…?」
ドキドキと心臓の音が鳴り顔に熱が集まっていくのを感じ困惑と焦りで頭がうまく働かず、抱きしめられたまま動くことができない
殿下の胸に顔を押し当てられそこから聞こえる心臓の音を聞きながら黙っていると、急に頬に熱い吐息がかかり髪を掬い上げられキスされる
その瞬間、私の心臓がさらにうるさく爆発するんじゃないかと思うほどに鳴り響いてだんだん何が起こっているのかわからなくなる。
とりあえず離れた方がいいと思い、かろうじて動かせた震える手を殿下の胸へ押し当て離れようと試みる
しかし、力がうまく入らず離れられずにいると背中に回された腕にさらに力が入り、頭上からいつもより弱々しい声が聞こえてきた
「…ねえ」
「は、はい」
「…なんで僕を避けるの?」
きっと殿下は長期休暇が明けてからの話をしているのだろう。しかし明けてからもう3ヶ月は経っている。
リアトリスがいるし特に気にされていないと思っていたが、一応気にしてくれていたようだ
それに嬉しく思うが、悲しくもなる
ーーわかっている。それが王子としての正しい姿を取ろうとしての行動ということは。王子の婚約者が王子を避けるなんておかしい、だから心配している。
キスとか抱きしめるなどの行為は何を血迷っての行動かはわからないけど、愛情表現とかそういうのじゃない。
殿下が私を愛することは絶対にない。わかってる
彼が愛するのはリアトリスだけ
それは、絶対だから
「…避けてるつもりはございませんわ」
「でも最近学園の中でも休日も全く僕と会ってくれてないじゃないか」
「以前は自分勝手な行動をしすぎたと反省しておりますの。ですので、お会いするのは必要な時だけで良いかと判断いたしました」
「だからって3ヶ月も合わないのはおかしいでしょ?僕たち婚約者だよね?」
「…」
数ヶ月後にはそうではなくなると知っているから、何も言えない。黙り込んでいると少し緩んでいた腕にまた力が込められた。
「それに、最近アイツとばっか…」
「…殿下?」
「…」
最後の方は黙り込んでしまったのでなんだろうと声をかけてみるが、反応がない
そのまま数分間抱きしめられ続けお互い黙っていると、再び頭上からため息が漏れたあと声が聞こえてきた
「…とにかく、君は私のものだから。それだけは忘れないで」
「…?はい。わかりました」
よくわからないが念を押すように言われたのでとりあえず返事をした。
これで話は終わったのかな、と思い離れようとすると今度は私の首元に顔を埋めてくる
首にあたる髪がくすぐったいなと思っていると左の首元がチクリと痛み殿下が離れた
「まあ今回はこれくらいで許すよ」
「?は、はい」
さっきから何を言いたいのか何をしているのかよくわからないが、先程自分の頭を押し付けられていた殿下の胸の部分を見つめながら返事をする。
目を合わせず返事をしたことに納得がいかなかったのか頬に手を添え強制的に視線を合わせられた。その顔が鼻があたりそうなほどに近くて視線がぐらついてしまう
本当は目を逸らしたいけどその目が真剣に見えて逸らせない
また私の頬に熱が集まるのを感じた
「他の男にこういう行為、許しちゃダメだからね。エミリアは押しに弱いから心配なんだ」
「…はい」
ーーこういう行為を許すのは殿下だからです
そう言いたかったけど、グッと呑み込む
その台詞を言っても困った反応をされるだけだろう。
私はそのあと殿下に手を引かれて自分の送迎用の馬車へと向かった
馬車に乗り込む時、殿下は私の手を持ち上げるとキスをして
「またね、エミリア」
と顔は見るのが怖くてどういう表情をしていたのかはわからないけど甘くて優しさを含んだ声で見送ってくれた
今日の殿下は何度私を紅くさせれば気がすむのだろうか。距離感もおかしかった。と馬車の中で考える
ーーでも、絶対に自惚れてはいけない。
私はパンッと自分の頬を両手で叩き、気合いを入れた
これから来る未来に向けて絶対に失敗しないと
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