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2 銀貨1枚
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まだ日が昇っていない時間、マリンは目を覚ます。
家の外にある井戸で水を汲み、顔を洗う。
冷え切った水はマリンの眠気を完全に飛ばす。
水面に映る自分の顔を覗き込みながらマリンは昨夜の夢のことを考えていた。
『ダメよ。この子はダメ』
夢でそんな言葉を聞いた。
とても優しい声、あれは誰の声だったんだろう。
気になるけどもう仕事に行かないと。
さぁ今日も頑張るぞ!
マリンが暗い道を歩くこと30分ほど、一軒の家が見えてきた。
扉を叩くと1人のおばさんがマリンを出迎えた。
彼女はこの近くの畑仕事をしており、マリンもそれを手伝っているのだ。
「おはようございます!!」
「おはようマリンちゃん。今日も朝早くから手伝ってもらってごめんね。頼りにしてるから」
「はい!」
マリンが手伝うのはジャガイモの収穫だ。
ジャガイモは冬の貴重な食糧で1つたりとも無駄には出来ない。
泥まみれになりながらマリンは丁寧にジャガイモの泥を落としていく。
マリンの真剣に働く姿を見て、おばさんが声を掛ける。
「それにしても本当にマリンちゃんは偉いね。早朝でも1回も遅刻せずに畑仕事を手伝って。おばさん本当に助かってるよ」
「私も畑仕事が出来て楽しいです。それにお野菜も分けていただけますし、ありがとうございます」
「いいのよ。形が悪かったり、痩せ細って市場に出せない奴だから」
マリンは畑仕事を手伝うことで野菜を貰っている。
しかしその野菜をマリンが食べることはない。
マリン達が住む村では一定の食料を税として村に納めないといけないのだ。
それはマリンも例外ではなく、むしろシーナの分も含めて税を納めなければいけないため、彼女が食べられるのは食堂の手伝いで余ったクズ野菜程度なのだ。
おばさんはそのことを知っていた。
そのため、お手伝いとして彼女を雇い、せめてこの村で暮らせるように野菜を分ける。
しかし、まだ幼い少女が自分の自由を割いて働く姿を見て、心が痛くなる。
そしてこんなに頑張るマリンを他所に、未だに家で寝ているだろうシーナに対し怒りが湧いてくる。
シーナが村の同世代の男のと遊んでいるところを何度か見たことがある。
その時に使っているお金はもちろんマリンが稼いだものだ。
何でこんなに頑張っているマリンちゃんが幸せになれないんだい。
せめてマリンちゃんだけでも助けてあげたい。
「マリンちゃん、うちの子にならないかい?そしたら今より楽に暮らせるよ?」
それがおばさんにできる精一杯だった。
マリンはそれを聞き少しの沈黙の後、口を開く。
「それはシーナも一緒にですか?」
「それは…」
「心配してくれてありがとうございます。でも私の家族はシーナしかいないんです。だから放っておけない」
それを聞き、おばさんは涙を流す。
何やってるんだい私は!
こんな小さい子に気を遣わせて。
マリンちゃんにはシーナを切り捨てるなんて出来るはずないのに!
畑仕事終わりにおばさんは1枚の銀貨を渡してきた。
「え?なんですかこれ?」
「マリンちゃん。さっきはごめんなさい。マリンちゃんの気持ちも考えないで酷いことを言っちゃった。だからこれを受け取って欲しいの」
銀貨1枚はマリンにとっては大金である。
それ1枚で昨日の夕食より何倍も豪華な物が5日は食べられるほど。
そんな大金をマリンは拒否する。
「そんな!?いいですよ。私は大丈夫ですから。それにこんな大金貰っても私はおばさんに何も恩返しできない…」
「違うのマリンちゃん。マリンちゃんにはこのお金を使ってゼラス教の教会で祝福を受けて欲しいの」
ゼラス教は国教であり、信徒は女神ヴィーナから祝福を賜ることができる。
祝福の効果は人それぞれ、しかしどの祝福も信徒を幸運へと導いているらしい。
ゼラス教の力が国中に広まっている理由はその祝福を信徒以外も受けることが出来るからである。
祝福を受けるために必要なお布施は銀貨1枚。
「私はマリンちゃんに幸せになってほしい。だからせめて村の教会で祝福を受けて。それくらいはいいわよね?」
「ありがとうおばさん!」
マリンは貰った銀貨を握り締め、その足で教会へと向かった。
家の外にある井戸で水を汲み、顔を洗う。
冷え切った水はマリンの眠気を完全に飛ばす。
水面に映る自分の顔を覗き込みながらマリンは昨夜の夢のことを考えていた。
『ダメよ。この子はダメ』
夢でそんな言葉を聞いた。
とても優しい声、あれは誰の声だったんだろう。
気になるけどもう仕事に行かないと。
さぁ今日も頑張るぞ!
マリンが暗い道を歩くこと30分ほど、一軒の家が見えてきた。
扉を叩くと1人のおばさんがマリンを出迎えた。
彼女はこの近くの畑仕事をしており、マリンもそれを手伝っているのだ。
「おはようございます!!」
「おはようマリンちゃん。今日も朝早くから手伝ってもらってごめんね。頼りにしてるから」
「はい!」
マリンが手伝うのはジャガイモの収穫だ。
ジャガイモは冬の貴重な食糧で1つたりとも無駄には出来ない。
泥まみれになりながらマリンは丁寧にジャガイモの泥を落としていく。
マリンの真剣に働く姿を見て、おばさんが声を掛ける。
「それにしても本当にマリンちゃんは偉いね。早朝でも1回も遅刻せずに畑仕事を手伝って。おばさん本当に助かってるよ」
「私も畑仕事が出来て楽しいです。それにお野菜も分けていただけますし、ありがとうございます」
「いいのよ。形が悪かったり、痩せ細って市場に出せない奴だから」
マリンは畑仕事を手伝うことで野菜を貰っている。
しかしその野菜をマリンが食べることはない。
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それはマリンも例外ではなく、むしろシーナの分も含めて税を納めなければいけないため、彼女が食べられるのは食堂の手伝いで余ったクズ野菜程度なのだ。
おばさんはそのことを知っていた。
そのため、お手伝いとして彼女を雇い、せめてこの村で暮らせるように野菜を分ける。
しかし、まだ幼い少女が自分の自由を割いて働く姿を見て、心が痛くなる。
そしてこんなに頑張るマリンを他所に、未だに家で寝ているだろうシーナに対し怒りが湧いてくる。
シーナが村の同世代の男のと遊んでいるところを何度か見たことがある。
その時に使っているお金はもちろんマリンが稼いだものだ。
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それがおばさんにできる精一杯だった。
マリンはそれを聞き少しの沈黙の後、口を開く。
「それはシーナも一緒にですか?」
「それは…」
「心配してくれてありがとうございます。でも私の家族はシーナしかいないんです。だから放っておけない」
それを聞き、おばさんは涙を流す。
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こんな小さい子に気を遣わせて。
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畑仕事終わりにおばさんは1枚の銀貨を渡してきた。
「え?なんですかこれ?」
「マリンちゃん。さっきはごめんなさい。マリンちゃんの気持ちも考えないで酷いことを言っちゃった。だからこれを受け取って欲しいの」
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祝福を受けるために必要なお布施は銀貨1枚。
「私はマリンちゃんに幸せになってほしい。だからせめて村の教会で祝福を受けて。それくらいはいいわよね?」
「ありがとうおばさん!」
マリンは貰った銀貨を握り締め、その足で教会へと向かった。
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