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第2話:ようこそ、もふもふの里へ
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白銀の青年――ゼルに抱えられたまま、森を抜ける。
夕暮れの光が木々の隙間から差しこみ、彼の肩越しに見える景色は、どこか絵本のようだった。
「……あの、本当に歩けるんだけど」
「駄目だ」
間髪容れず返ってきた。
「なんで?」
「おまえは転ぶ」
「俺の運動能力低く設定されてないか!?」
ゼルは表情ひとつ変えない。でも腕の力は優しくて、抱えられていることにだんだん抵抗しづらくなってくる。
「……しっかりつかまってろ」
そう言われ、胸にぎゅっとしがみつくと、ゼルの耳がわずかに赤くなった気がした。
(え、この人……見た目クールだけど案外……?)
そんなことを考えているうちに、森がぱっと開ける。そこには――
丸太と石で作られた可愛い家々、煙突から上がる白い煙。あちこちに小さな灯りがともり、ちょうど夕食の時間らしい。
人狼だけじゃなく、獣人や精霊みたいな子たちも歩いていて、なんだか怖いような、でも考えようによっては、変装したハロウィンの祭りに来たような感じがあった。
俺を抱えて現れたゼルを、みんなが見て驚いた。
「おぉ、ゼル様がお戻りになった!」
「その腕の子……まさか、人間?」
「えっ、珍しい!いい匂いがする!」
ゼルが俺を抱え直し、ぼそりと言う。
「見せびらかしてないぞ」
「見せびらかしてるのはゼルさんじゃ……」
言い返す前に、数人の人狼が駆け寄ってきた。
「ゼル様、その子が……?」
「ああ。俺の番だ」
「ちょっ、また勝手に!!」
周囲が一気にざわめく。
「番!?ということは……」
「じゃあ触ってもいい?」
「ちょっと匂い嗅いでみたい……!」
「えっ!なに?嗅がないで!?」
慌ててゼルの胸に顔を埋めて隠れようとするとゼルは俺をひょいと抱き上げ直し――より密着させる。
「触るな。近づくな。見るな。」
「全部禁止なの!?独占欲すごい!!」
周りの人狼たちが苦笑していた。
「ゼル様、気に入りすぎですぞ……」
「ほんとだなぁ、いつも無表情なのに耳が赤いぞ?」
「耳!? 赤くなってるの!?」
俺が見ようとすると、ゼルはそっぽを向いた。その横顔の美しさに一瞬見惚れる。銀髪が揺れ、金の瞳が少しだけ揺らいだ。
「……行くぞ。家へ帰る」
「か、帰るってどこに!?」
「俺の家だ」
「えっ!待って!?」
人狼たちがくすくす笑いながら手を振る。
「まぁまぁ、人間の子。ゼル様は悪い奴じゃないから大丈夫」
「困ったことがあったらいつでも言いなよ」
「あと、もしゼル様から離れたくなったら――」
「離れない」
「ゼル様、全部聞いてた!!」
ゼルの腕は相変わらずしっかりと俺を抱えたままだ。
連れてこられた家は、木造で温かみのある、意外と普通の一軒家だった。中に入ると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。
「ここ……誰かと暮らしてたの?」
「いや。俺ひとりだ」
「ひとりで?じゃあ家事とかご飯とかは……」
「できる」
「……本当に?」
ゼルは微妙に目線をそらした。
(絶対怪しい……)
俺が部屋を見渡していると、ゼルがそっと俺のコートを脱がせてくる。
「ちょっ……いいよ自分でできるから!」
「倒れたばかりだ。無理はしない方がいい」
やさしいけれど距離が近い。気遣いなのに、心臓が落ち着かない。
「……腹は減っていないか?」
「少し……」
「すぐ作る。待っていろ」
そう言うとゼルはキッチンへ向かい、包丁とまな板の音が聞こえ始めた。
(なんだろ……この、安心感……)
暖炉の前に座っていると、眠気がふわりと襲ってきた。
そのとき。とすん、と何かに頭を乗せた。
「……え?」
気づけば、ゼルが獣形に戻り、俺の隣に横になっていた。白いふわふわの前脚でそっと俺を引き寄せる。
「な、なんで戻ってるの……?」
「おまえ、眠そうだ」
「いや眠いけど!でも枕にしていいってこと!?」
ゼルは嬉しそうに喉を鳴らした。
「……俺の毛並みは柔らかい」
「本当に柔らかいけど!!」
気づけば、俺は白狼の胸元に埋まっていた。あたたかくて、ふわふわで、まるで冬の毛布みたい。
(……やばい、安心する……)
ゆっくり瞼が落ちていく。
眠る前に聞こえたのは、ゼルのやわらかな声だった。
「……ユナ。ここはおまえの家だ。もう、ひとりにしない」
その言葉だけで、胸がぽかっと温かくなる。
こうして俺は――
もふもふと過保護と嫉妬が入り混じる生活の一夜を迎えた。
夕暮れの光が木々の隙間から差しこみ、彼の肩越しに見える景色は、どこか絵本のようだった。
「……あの、本当に歩けるんだけど」
「駄目だ」
間髪容れず返ってきた。
「なんで?」
「おまえは転ぶ」
「俺の運動能力低く設定されてないか!?」
ゼルは表情ひとつ変えない。でも腕の力は優しくて、抱えられていることにだんだん抵抗しづらくなってくる。
「……しっかりつかまってろ」
そう言われ、胸にぎゅっとしがみつくと、ゼルの耳がわずかに赤くなった気がした。
(え、この人……見た目クールだけど案外……?)
そんなことを考えているうちに、森がぱっと開ける。そこには――
丸太と石で作られた可愛い家々、煙突から上がる白い煙。あちこちに小さな灯りがともり、ちょうど夕食の時間らしい。
人狼だけじゃなく、獣人や精霊みたいな子たちも歩いていて、なんだか怖いような、でも考えようによっては、変装したハロウィンの祭りに来たような感じがあった。
俺を抱えて現れたゼルを、みんなが見て驚いた。
「おぉ、ゼル様がお戻りになった!」
「その腕の子……まさか、人間?」
「えっ、珍しい!いい匂いがする!」
ゼルが俺を抱え直し、ぼそりと言う。
「見せびらかしてないぞ」
「見せびらかしてるのはゼルさんじゃ……」
言い返す前に、数人の人狼が駆け寄ってきた。
「ゼル様、その子が……?」
「ああ。俺の番だ」
「ちょっ、また勝手に!!」
周囲が一気にざわめく。
「番!?ということは……」
「じゃあ触ってもいい?」
「ちょっと匂い嗅いでみたい……!」
「えっ!なに?嗅がないで!?」
慌ててゼルの胸に顔を埋めて隠れようとするとゼルは俺をひょいと抱き上げ直し――より密着させる。
「触るな。近づくな。見るな。」
「全部禁止なの!?独占欲すごい!!」
周りの人狼たちが苦笑していた。
「ゼル様、気に入りすぎですぞ……」
「ほんとだなぁ、いつも無表情なのに耳が赤いぞ?」
「耳!? 赤くなってるの!?」
俺が見ようとすると、ゼルはそっぽを向いた。その横顔の美しさに一瞬見惚れる。銀髪が揺れ、金の瞳が少しだけ揺らいだ。
「……行くぞ。家へ帰る」
「か、帰るってどこに!?」
「俺の家だ」
「えっ!待って!?」
人狼たちがくすくす笑いながら手を振る。
「まぁまぁ、人間の子。ゼル様は悪い奴じゃないから大丈夫」
「困ったことがあったらいつでも言いなよ」
「あと、もしゼル様から離れたくなったら――」
「離れない」
「ゼル様、全部聞いてた!!」
ゼルの腕は相変わらずしっかりと俺を抱えたままだ。
連れてこられた家は、木造で温かみのある、意外と普通の一軒家だった。中に入ると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。
「ここ……誰かと暮らしてたの?」
「いや。俺ひとりだ」
「ひとりで?じゃあ家事とかご飯とかは……」
「できる」
「……本当に?」
ゼルは微妙に目線をそらした。
(絶対怪しい……)
俺が部屋を見渡していると、ゼルがそっと俺のコートを脱がせてくる。
「ちょっ……いいよ自分でできるから!」
「倒れたばかりだ。無理はしない方がいい」
やさしいけれど距離が近い。気遣いなのに、心臓が落ち着かない。
「……腹は減っていないか?」
「少し……」
「すぐ作る。待っていろ」
そう言うとゼルはキッチンへ向かい、包丁とまな板の音が聞こえ始めた。
(なんだろ……この、安心感……)
暖炉の前に座っていると、眠気がふわりと襲ってきた。
そのとき。とすん、と何かに頭を乗せた。
「……え?」
気づけば、ゼルが獣形に戻り、俺の隣に横になっていた。白いふわふわの前脚でそっと俺を引き寄せる。
「な、なんで戻ってるの……?」
「おまえ、眠そうだ」
「いや眠いけど!でも枕にしていいってこと!?」
ゼルは嬉しそうに喉を鳴らした。
「……俺の毛並みは柔らかい」
「本当に柔らかいけど!!」
気づけば、俺は白狼の胸元に埋まっていた。あたたかくて、ふわふわで、まるで冬の毛布みたい。
(……やばい、安心する……)
ゆっくり瞼が落ちていく。
眠る前に聞こえたのは、ゼルのやわらかな声だった。
「……ユナ。ここはおまえの家だ。もう、ひとりにしない」
その言葉だけで、胸がぽかっと温かくなる。
こうして俺は――
もふもふと過保護と嫉妬が入り混じる生活の一夜を迎えた。
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