32 / 40
第八章:真の獣王と番
第三十一話:新しい国の形
しおりを挟む
第八章:真の獣王と番
第三十一話:新しい国の形
ライオネルとユリアンが、互いの命を賭して愛を確かめ合ってから、一月が過ぎた。
獣王国には、以前とは全く違う、新しい国の形が生まれつつあった。
力を失ったライオネルは、もはやかつてのように恐怖と絶対的なカリスマだけで国を支配する王ではなかった。彼は、玉座から降り、ユリアンや宰相グレン、そして時には若手の大臣たちとも円卓を囲んで議論を交わした。
その対話を重んじる姿勢と、長年の経験に裏打ちされた深い知性をもって国を導く姿は、まさに賢王と呼ぶにふさわしいものだった。
一方、ユリアンは、王の番として、そして実質的な国の共同統治者として、その能力を遺憾なく発揮していた。
彼の発案した、被災地への複数年にわたる減税措置や、これまで敵対していたセレスタとの間に、互いの特産品を交換する新しい交易路を開拓する計画は、民の生活を豊かにし、国に新たな活気をもたらした。
その穏やかで慈愛に満ちた人柄は、民衆から絶大な支持を集め、「聖なる番君」として、ライオネル以上の敬愛を集めるようになっていた。
「どうやら、俺よりも、お前の方が、よほど王に向いているらしいな」
ある日の午後、政務室で書類の山と格闘するユリアンの隣で、ライオネルは楽しそうにそう言って笑った。
「そんなことはありません。僕がこうして迷わずにいられるのも、あなたが隣で道を示してくれるからです」
ユリアンは、はにかみながら答える。二人の間には、もう何の壁もなかった。彼らは、王と番として、そして最高のパートナーとして、互いを支え合い、この国を導いていた。
ライオネルが、その深い知識と経験で国の大きな指針を定め、ユリアンが、その細やかな気配りと、常識にとらわれない斬新な発想で具体的な政策を実行していく。それは、力と慈愛、理性と感情が完璧に融合した、理想的な統治の形だった。
そんなある日、二人の元に、大神官セラフィオが訪れた。
「陛下、ユリアン様。お二人の魂を、正式に結びつける『誓約の儀式』の準備が整いました」
それは、ライオネルが戦地へ赴く前に、ユリアンに約束した、古の儀式。
神殿の聖獣たちの前で、二人の魂を永遠に結びつけ、ユリアンが名実ともに、この国の王妃となるための、最後の儀式だった。
「いよいよ、だな」
ライオネルは、ユリアンの手を固く握りしめた。ユリアンもまた、愛しい人の顔を見上げ、こくりと頷く。その青い瞳は、期待と、少しばかりの緊張にきらめいていた。
儀式は、三日後の満月の夜に、執り行われることになった。
その報せは、瞬く間に国中に広まり、獣王国は、まるで建国祭が再び訪れたかのような、祝祭の喜びに包まれた。
儀式の前日。
ユリアンは、一人で城のバルコニーに立っていた。
初めてこの城に来た日、ライオネルに冷たく拒絶された、あの謁見の間を静かに見下ろす。床に磨かれた大理石が、夕陽を反射して物悲しく光っていた。
(……あの時は、こんな未来が来るなんて、夢にも思わなかったな)
人質として、政略の駒として、絶望の中で始まった日々。
だが、あの冷徹な王の隠された優しさに触れ、その孤独を知り、そして、いつしか、どうしようもなく惹かれていた。
「何を、考えている?」
不意に、背後から温かい腕で抱きしめられた。その腕が、まるで世界で一番安全な場所のように感じられる。振り返るまでもない。愛しいライオネルの香りだ。
「……ここに来た、最初の日のことを……。
あなたが、僕を『番など認めぬ』と、拒絶した時のことを、思い出していました」
その言葉に、ライオネルは、ユリアンの肩に顔を埋め、苦しそうに息を吐いた。
「……すまなかった。あの時の俺は、愛することに臆病な、ただの子供だったんだ」
「いいえ。あの拒絶があったからこそ、今の僕たちがいるのです。だから、もう謝らないでください」
ユリアンは、ライオネルの腕の中で、そっと振り返ると、その唇に優しくキスをした。
「……明日の儀式が終われば、お前は、もうどこにも行けなくなるぞ。この国の王妃として、俺の番として、永遠に縛り付けられる」
ライオネルが、悪戯っぽく笑いながら言う。
「望むところです。
僕は、あなたという名の世界で一番甘い牢獄に永遠に囚われていたい」
ユリアンも、幸せそうに微笑み返した。
二人は、どちらからともなく、互いを強く抱きしめた。
明日、自分たちの魂は、永遠に一つになる。
拒絶から始まった、すれ違い続けた二人は今、ようやく揺るぎない幸せな日々を迎えようとしていた。
その夜、二人は、初めて出会った、あの深夜の書庫を訪れた。
月明かりだけが差し込む静寂の中、古いインクと羊皮紙の匂いに包まれながら、二人は互いの過去、現在、そして未来について、夜が明けるまで静かに語り合った。
それは、明日からの新しい人生を前にした、二人だけの、ささやかで、そして何よりも大切な、誓いの儀式だった。
第三十一話:新しい国の形
ライオネルとユリアンが、互いの命を賭して愛を確かめ合ってから、一月が過ぎた。
獣王国には、以前とは全く違う、新しい国の形が生まれつつあった。
力を失ったライオネルは、もはやかつてのように恐怖と絶対的なカリスマだけで国を支配する王ではなかった。彼は、玉座から降り、ユリアンや宰相グレン、そして時には若手の大臣たちとも円卓を囲んで議論を交わした。
その対話を重んじる姿勢と、長年の経験に裏打ちされた深い知性をもって国を導く姿は、まさに賢王と呼ぶにふさわしいものだった。
一方、ユリアンは、王の番として、そして実質的な国の共同統治者として、その能力を遺憾なく発揮していた。
彼の発案した、被災地への複数年にわたる減税措置や、これまで敵対していたセレスタとの間に、互いの特産品を交換する新しい交易路を開拓する計画は、民の生活を豊かにし、国に新たな活気をもたらした。
その穏やかで慈愛に満ちた人柄は、民衆から絶大な支持を集め、「聖なる番君」として、ライオネル以上の敬愛を集めるようになっていた。
「どうやら、俺よりも、お前の方が、よほど王に向いているらしいな」
ある日の午後、政務室で書類の山と格闘するユリアンの隣で、ライオネルは楽しそうにそう言って笑った。
「そんなことはありません。僕がこうして迷わずにいられるのも、あなたが隣で道を示してくれるからです」
ユリアンは、はにかみながら答える。二人の間には、もう何の壁もなかった。彼らは、王と番として、そして最高のパートナーとして、互いを支え合い、この国を導いていた。
ライオネルが、その深い知識と経験で国の大きな指針を定め、ユリアンが、その細やかな気配りと、常識にとらわれない斬新な発想で具体的な政策を実行していく。それは、力と慈愛、理性と感情が完璧に融合した、理想的な統治の形だった。
そんなある日、二人の元に、大神官セラフィオが訪れた。
「陛下、ユリアン様。お二人の魂を、正式に結びつける『誓約の儀式』の準備が整いました」
それは、ライオネルが戦地へ赴く前に、ユリアンに約束した、古の儀式。
神殿の聖獣たちの前で、二人の魂を永遠に結びつけ、ユリアンが名実ともに、この国の王妃となるための、最後の儀式だった。
「いよいよ、だな」
ライオネルは、ユリアンの手を固く握りしめた。ユリアンもまた、愛しい人の顔を見上げ、こくりと頷く。その青い瞳は、期待と、少しばかりの緊張にきらめいていた。
儀式は、三日後の満月の夜に、執り行われることになった。
その報せは、瞬く間に国中に広まり、獣王国は、まるで建国祭が再び訪れたかのような、祝祭の喜びに包まれた。
儀式の前日。
ユリアンは、一人で城のバルコニーに立っていた。
初めてこの城に来た日、ライオネルに冷たく拒絶された、あの謁見の間を静かに見下ろす。床に磨かれた大理石が、夕陽を反射して物悲しく光っていた。
(……あの時は、こんな未来が来るなんて、夢にも思わなかったな)
人質として、政略の駒として、絶望の中で始まった日々。
だが、あの冷徹な王の隠された優しさに触れ、その孤独を知り、そして、いつしか、どうしようもなく惹かれていた。
「何を、考えている?」
不意に、背後から温かい腕で抱きしめられた。その腕が、まるで世界で一番安全な場所のように感じられる。振り返るまでもない。愛しいライオネルの香りだ。
「……ここに来た、最初の日のことを……。
あなたが、僕を『番など認めぬ』と、拒絶した時のことを、思い出していました」
その言葉に、ライオネルは、ユリアンの肩に顔を埋め、苦しそうに息を吐いた。
「……すまなかった。あの時の俺は、愛することに臆病な、ただの子供だったんだ」
「いいえ。あの拒絶があったからこそ、今の僕たちがいるのです。だから、もう謝らないでください」
ユリアンは、ライオネルの腕の中で、そっと振り返ると、その唇に優しくキスをした。
「……明日の儀式が終われば、お前は、もうどこにも行けなくなるぞ。この国の王妃として、俺の番として、永遠に縛り付けられる」
ライオネルが、悪戯っぽく笑いながら言う。
「望むところです。
僕は、あなたという名の世界で一番甘い牢獄に永遠に囚われていたい」
ユリアンも、幸せそうに微笑み返した。
二人は、どちらからともなく、互いを強く抱きしめた。
明日、自分たちの魂は、永遠に一つになる。
拒絶から始まった、すれ違い続けた二人は今、ようやく揺るぎない幸せな日々を迎えようとしていた。
その夜、二人は、初めて出会った、あの深夜の書庫を訪れた。
月明かりだけが差し込む静寂の中、古いインクと羊皮紙の匂いに包まれながら、二人は互いの過去、現在、そして未来について、夜が明けるまで静かに語り合った。
それは、明日からの新しい人生を前にした、二人だけの、ささやかで、そして何よりも大切な、誓いの儀式だった。
238
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる