塩対応な悪役令嬢なのに、溺愛逆ハーレムって本当ですか?

夏乃みのり

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学園祭、当日。
講堂は、開演前から立ち見が出るほどの大盛況だった。
王族や有力貴族も、貴賓席からこの一大イベントを見守っている。

「(……胃が痛いわ)」
舞台袖で、演出担当の教師が、青い顔で胃を押さえていた。
(皇太子が王子、騎士科のエースがドラゴン討伐、天才魔術師が本物の魔法で演出……。無事に終わるわけがない)

「セレスティナ様! 頑張ってくださいね!」
妖精役のミレイナが、興奮して飛び跳ねている。

「……はぁ。ミレイナさんこそ」
セレスティナは、豪華絢爛な姫君の衣装(非常に寝心地の良いシルク製)をまとったまま、大きな欠伸を噛み殺した。
(早く、眠るシーンにならないかしら……)

ブザーが鳴り、客席の照明が落ちる。
ついに、伝説(カオス)の舞台の幕が上がった。

冒頭、姫君の誕生シーン。
王様役と王妃様役が、熱の入った演技を見せる。
そして、セレスティナのセリフ。

「……まあ、嬉しいわ」

感情のこもらない、完璧な棒読み。
客席が、一瞬、ざわめいた。

「(……すごい)」
「(なんて、神秘的な姫君なんだ……)」
「(あの物憂げな表情は、自分の運命を予見しているに違いないわ!)」

観客は、セレスティナの「やる気のなさ」を、「高度な役作り」だと盛大に勘違いした。

そして、悪の魔女が登場する。
「呪われよ! 姫は、指を刺して死ぬのだ!」

その瞬間。
ルシアンが、舞台袖から、本物の魔術を放った。

ゴゴゴゴゴ……!

黒い霧が舞台を覆い、本物の(威力を抑えた)紫電が、魔女の杖からほとばしる!

「「「うおおおおおお!?」」」
観客は、そのあまりのリアリティに、椅子から転げ落ちそうになった。

「す、すごい演出だ!」
「本物の魔法みたいだぞ!」

「(……本当に、本物ですのよ)」
セレスティナは、面倒そうに、魔力の余波を肌で感じていた。

そして、ついに、呪いが発動するシーン。
セレスティナは、台本通り(嬉々として)舞台セットのベッドへと向かい、横たわった。

(……ああ。ようやく、眠れるわ)

彼女は、講堂に響き渡るBGMと、観客の熱気を、完璧な子守唄代わりにして。
わずか一分足らずで、本気の熟睡(ガチ寝)へと移行した。

物語は進む。
ルシアンが生成した「本物の茨」が、舞台を覆い尽くす。
(もちろん、ベッドの周りだけは、完璧な結界で守られている)

そこへ、ギルバート・アシュフォードが、訓練用の剣を手に、乱入した。
「うおおおお! 悪の竜よ! 姫は俺が守る!」

ハリボテのドラゴンに対し、ギルバートは、本気の剣技を叩き込む!
ルシアンが、それに合わせて、派手な炎と爆発の魔術効果(サービス)を追加する!

ドォォォン!

舞台が、本気で揺れた。

「「「すげえええええええ!!」」」
観客(主に男子生徒)は、ハリウッド映画ばりの戦闘シーンに、総立ちで熱狂した。

そして、ついに。
悪の竜(ボロボロのハリボテ)が倒れ、皇太子アルフォンスが、純白の王子衣装で、颯爽と登場する。

「(……ひどい有様だ)」
アルフォンスは、木っ端微塵になったドラゴンの残骸を見て、一瞬顔を引きつらせたが、すぐに完璧な王子の笑みに戻った。

「見事だ、勇者よ! 姫は、私が必ず目覚めさせてみせる!」

「「「きゃあああああ! 殿下ー!」」」
観客(主に女子生徒)の、割れんばかりの歓声。

アルフォンスは、本物の茨(ルシアンにチクチク刺されながら)をかき分け、ついに、眠るセレスティナのベッドへと、たどり着いた。

講堂が、静まり返る。
誰もが、固唾を呑んで、クライマックスを見守っていた。

舞台の照明が、眠る姫君(セレスティナ)を、神々しく照らし出す。
彼女は、もちろん、ガチで熟睡していた。
何の憂いもない、完璧に幸せそうな寝顔で。

「(……ああ、セレスティナ)」
アルフォンスは、その美しさに、本気で見惚れていた。

(学園中の前で、君にキスができる……! なんて、素晴らしい日だ!)

彼は、ゆっくりと、セレスティナの顔に、自分の顔を近づけていく。
あと、五センチ。三センチ。一センチ……。

まさに、二人の唇が触れようとした、その瞬間。

「(ん……)」

セレスティナが、むずがゆそうに、小さく身じろぎをした。

コテンッ。

彼女は、見事な寝返りを打ち、アルフォンスに、完璧な「後頭部」を向けた。

アルフォンスのキスは、空を切り、ふかふかの枕に、音もなく吸い込まれた。

「「「…………え?」」」
観客、全員が、固まった。

「(なっ……!?)」
アルフォンスも、唇を枕につけたまま、固まった。

(よ、避けられた!? 私のキスを!?)

その時。
講堂が静まり返ったせいで、姫君の衣装につけられた、高性能な小型マイクが、小さな、小さな音を拾ってしまった。

「(……ん……めんどぅ……な……)」

セレスティナの、本気の「寝言」だった。

「「「…………」」」

一秒。二秒。三秒。
講堂は、凍りついた。
アルフォンスは、顔を真っ赤にして、プルプルと震えている。

(『面倒』……だと……!?)

その静寂を、破ったのは、一人の女子生徒の、甲高い叫びだった。

「きゃあああああああ!! 見た!? 今の!!」

「え? え?」

「姫君が! 王子様のキスを、避けたわよ!」
「しかも! 『面倒な』って……!」

「な、なんてこと……!」
貴賓席の貴婦人たちが、扇で口元を隠す。

「(ガタッ!)」
ミレイナが、客席で立ち上がった。
「(そ、そうだったんだわ……! 王子様のキスさえも、『面倒』と一蹴する、気高き姫君……!)」

次の瞬間。
一人の生徒が、笑い出したのを皮切りに、講堂は、大爆笑と、割れんばかりの拍手喝采に包まれた。

「あはははは! 面白い!」
「なんだ、あの姫は! 新しすぎるぞ!」
「『塩対応姫』、爆誕だ!」
「王子様が、可哀想すぎる!」

「「「アンコール! アンコール!」」」

舞台袖で、教師は「(終わった……何もかも……)」と崩れ落ちていたが、予想外の観客の反応に「(え? なんで? ウケてるの!?)」と、混乱の極みに達していた。

アルフォンスは「(そ、そうか! これは、彼女流の、高度すぎる照れ隠し……! なんと愛おしい!)」と、無理やり自分を納得させた。

こうして、演劇『眠れる森の美女』は、主役の「ガチ寝」と「寝言」によって、学園史に残る「伝説の舞台(爆笑コメディ)」として、大成功を収めたのだった。

当のセレスティナ本人は。

「(……うるさいわね……。拍手も、笑い声も……。これだから、人前は面倒なのに……)」

観客の大喝采を、BGMにして。
彼女は、再び、深く、安らかな眠りの中へと、沈んでいった。
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