塩対応な悪役令嬢なのに、溺愛逆ハーレムって本当ですか?

夏乃みのり

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あのカオスな学園祭が終わり、数週間。
セレスティナの周囲は、ようやく、つかの間の静けさを取り戻していた。

(……ようやく、静かになったわ)

皇太子も、騎士も、魔術師も、学園祭の後処理や、それぞれの公務・訓練に追われ、ここ数日は、彼女の前に姿を現していない。

セレスティナは、学園の敷地内で新たに見つけた、最高の昼寝スポット――植物園の、一番奥にあるベンチで、優雅に微睡んでいた。

(この平穏が、永遠に続けばいいのに)

彼女が、至福の眠りに落ちようとした、その瞬間。

ピリッ、と。
肌を刺すような、不快な魔力の波動が、空気を震わせた。

(……何かしら)

セレスティナは、ゆっくりと目を開けた。
空は、青い。鳥の声も聞こえる。
だが、何かが、おかしい。

(……空気が、よどんでいる)

学園全体を覆っていた、正常な魔力の流れが、無理やり、別のものに「上書き」されている感覚。
高度な、広範囲結界。

(……面倒事の、匂いがするわ)

彼女の平穏な日常が、再び、音を立てて崩れ始めた。

同じ頃。
聖女ミレイナ・ハートは、中庭の大樹の下で、一人、力の制御訓練に励んでいた。

「(……私だって、いつまでも、セレスティナ様に守られてばかりじゃいられないわ!)」

彼女の、勘違いと憧れは、聖女の力を成長させる、良い燃料となっていた。

「(集中、集中……!)」
彼女が、両手を胸の前で組んだ、その時。

「――それが、聖女の力か。実に、かぐわしい」

冷たく、ねばつくような声が、背後からした。

「え?」

ミレイナが、驚いて振り返る。
そこには、いつの間に立っていたのか、黒いローブを目深にかぶった、三人の男たちがいた。

「(……誰?)」
生徒ではない。教師でもない。
その異様な立ち姿に、ミレイナの背筋が、ぞくりと冷たくなった。

「な、どちら様ですか……? ここは、関係者以外、立ち入り禁止ですよ!」

「関係者、だよ」
ローブの男の一人が、クツクツと喉を鳴らして笑った。

「我々は、君という『至宝』を、迎えに来たんだからね」

「……え?」

「ミレイナ・ハート嬢。この時代の、聖女よ」
リーダー格らしき男が、一歩、踏み出す。

「その、制御もままならぬ、若く、青い力を、我ら『闇の魔術結社』に、捧げてもらおうか」

「(闇の……結社……!)」
ミレイナは、顔を真っ青にした。
それが、おとぎ話ではなく、この国が、水面下でずっと戦ってきた、本物の「敵」の名前だと、知っていたからだ。

「ひっ……!」

「案ずるな。痛くはしない。ただ、君の『器』ごと、我々の偉大なる『主』の糧となってもらうだけだ」

黒いローブから、無数の「影の手」が、ミレイナ目掛けて、伸びてくる!

「いやああああああっ!」

ミレイナは、咄嗟に、聖女の力を解放した。
黄金の光が、影の手を、一瞬だけ、弾き返す!

「ほう……! まだ、抵抗するか。健気だね」

「だが、無駄だ」
男たちは、詠唱を始める。
学園全体を覆っていた結界が、さらに、その濃度を増した。

「くっ……! この反応は……!」
皇太子アルフォンスは、生徒会室で、異常な魔力振動に気づき、立ち上がった。
「結界!? 学園が、攻撃されているのか!」

「フン! どこの馬鹿だ!」
騎士科の訓練場でも、ギルバートが、剣を握り直していた。
「この魔力の感じ……ただ事じゃねえぞ!」

「……ククッ。招かれざる客、か」
ルシアンの研究室では、薬液の色が、不吉な紫に変わっていた。
「私のテリトリーを、荒らすとは。……いい度胸だ」

三人は、同時に、異変の中心地(中庭)へと、駆け出そうとした。

だが。

「なっ……!?」
アルフォンスは、生徒会室の扉が、魔術的な力で、開かなくなっていることに気づいた。
「(封印か!)」

「チッ! 認識阻害かよ!」
ギルバートは、中庭へ向かう道が、なぜか、同じ場所をループしていることに、舌打ちした。

「なるほど。広範囲・同時多発型の、空間結界か」
ルシアンは、研究室に仕掛けられた術式を、冷静に分析していた。
「……これを、この短時間で、学園全体に……? 相手は、かなりの手練れだね」

三人のイケメンたちは、それぞれ、自分たちの足止めを食らっていることに、焦りを覚えていた。

「(くそっ! ミレイナ嬢は!?)」
「(……まさか、狙いは、聖女か!)」
「(……ああ。まずいね。これは、間に合わないかもしれない)」

彼らが、それぞれの場所で、結界の解除を試みている間も、中庭では、絶望的な攻防が、続いていた。

「はぁ……はぁ……!」
ミレイナは、必死で、防御障壁を張り続ける。
だが、結社の幹部三人を相手に、力が、どんどん吸い取られていく。

「見事、見事。だが、それまでだ」

影の手が、ついに、ミレイナの障壁を突き破った。

「きゃっ!」

「捕らえた」
男が、ミレイナの首筋に、手をかけようとする。

(だ、誰か……! 助けて……!)
ミレイナの瞳に、涙が浮かぶ。

(セレスティナ、様……!)

その頃。
植物園のベンチで。
セレスティナは、面倒くさそうに、ゆっくりと、立ち上がっていた。

(……やはり、ただ事ではないわね)
(この陰湿で、粘つくような魔力……。間違いなく、『闇の魔術結社』の連中だわ)

彼女は、なぜか、ゲームの知識でもないのに、敵の正体を、正確に把握していた。

(……聖女の力が、目的ね)
(中庭にいる、ミレイナさんが、危ない)

セレスティナは、深く、深く、溜息をついた。

(……見過ごすか)
(……いや)

彼女の脳裏に、学園が、半壊する未来が、浮かんだ。

(ここで、ミレイナさんが攫われれば、後が、面倒だわ)
(皇太子殿下は、婚約者のわたくしにも、警護を強化するでしょう)
(ギルバートは、『俺が守る』とか言って、訓練場から、わたくしの教室まで、押しかけてくるに違いない)
(ルシアン先生は、『いい研究材料だ』とか言って、わたくしを、研究室に監禁しようとするかもしれない)

(……そして、何よりも)
(学園が戦場になれば、わたくしの、この貴重な昼寝スポットが、全て、破壊されてしまう)

「(……)」

セレスティナの赤い瞳が、すうっと、冷たい光を宿した。

(……それは、困るわ)
(わたくしの平穏な睡眠を、妨害するのは、許さない)

彼女は、スカートの埃を、軽く払い落とす。

(……仕方ないわね。少しだけ、お掃除の時間、かしら)

銀髪の悪役令嬢は、面倒くさそうに、しかし、確実な足取りで、決戦の地(中庭)へと、歩き出した。
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