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あの中庭での「氷結事件」は、学園、いや、王国全体を揺るがす大事件となった。
氷漬けにされた闇の魔術結社の幹部三名は、騎士団によって厳重に回収された。
学園を覆っていた大結界が、たった一人の令嬢によって、一瞬で粉砕されたという事実は、トップシークレットとして、厳重に秘匿されることになった。
(……当然だわ。公表されたら、わたくしの昼寝時間が、なくなるもの)
だが、セレスティナの平穏は、戻ってこなかった。
「お嬢様! 学園長室から、三度目の、お呼び出しでございます!」
「……はぁ。まだ、いらしたの」
セレスティナは、自室のベッドの上で、布団を頭までかぶり、完璧な居留守を使っていた。
「『闇の魔術結社を退けた、最大の功労者』として、正式に、表彰式を執り行う、と……!」
「(……最悪だわ)」
セレスティナは、布団の中で、絶望に打ち震えた。
(表彰式? 人前に、引きずり出される、ということ?)
(スピーチをしろと? 感謝の言葉を述べろと?)
(面倒事の、フルコースじゃない……!)
「セレスティナ! いるんだろう!」
ドンドン! と、寮の扉が、乱暴に叩かれる。
(……ギルバート様ね。扉を壊したら、修繕費を請求するわよ)
「セレスティナ嬢! 君の、その偉大な功績を、讃える時が来たんだよ!」
(……ルシアン先生。あなたの、その熱狂的な視線が、一番、面倒ですの)
「セレスティナ! 開けてくれ! 私の愛する婚約者が、表彰される、晴れの舞台だ! 私が、エスコートしよう!」
(……皇太子殿下。あなたに、エスコートされるのが、一番、目立つのですけれど)
三人の男たちが、代わる代わる、彼女の部屋の前に、押しかけてくる。
あの一件以来、彼らの「熱量」は、異常なまでに、高まっていた。
「セレスティナ様! セレスティナ様!」
ミレイナの声まで、聞こえてくる。
「皆様! セレスティナ様は、きっと、あの大立ち回りで、魔力を使い果たし、お疲れなのですわ!」
「そっとしておいて、差し上げましょう!」
(……ミレイナさん。あなたが、唯一の、癒しだわ……)
セレスティナは、ミレイナの(勘違いした)擁護に、少しだけ、感謝した。
(……だが、甘いわ、ミレイナさん)
(わたくしが、疲れているのは、魔力を使ったからではない)
(あなたたち、面倒な人々の、相手をすることに、よって、よ)
「よし、分かった!」
アルフォンスが、何か、閃いたように、叫んだ。
「彼女は、謙虚すぎるあまり、表彰されることを、固辞しているに違いない!」
「(……正解だわ)」と、セレスティナが、布団の中で、頷く。
「だが、それでは、国の秩序が、保てん! 功績は、正しく、評価されねば!」
「フン。あいつが、素直に、出てくるタマかよ」
ギルバートが、面白そうに、笑う。
「ククッ。表彰台の上で、あの『面倒だ』という顔を、全校生徒に、見せてくれるのかな? 最高に、面白そうだ」
ルシアンの、不謹<em></em>な声もする。
(……だめだわ。何を、言っても、無駄ね)
セレスティナは、決意した。
(こうなれば……)
「マーサ」
彼女は、侍女を、小声で呼んだ。
「は、はい! お嬢様!」
「わたくし、今から、『病』に、なりますわ」
「……え?」
「それも、非常に、重い、重い、病に」
セレスティナは、ベッドから、ゆっくりと、身を起こした。
その顔は、いつも通りの、完璧な無表情。
だが、その赤い瞳には、「絶対に、表彰式という名の、面倒事を、回避する」という、鋼の意志が、宿っていた。
「お嬢様……。そ、それは、仮病、ということ、で……」
「わたくし、今日、一日中、眠くて、眠くて、仕方がありませんの」
「これは、きっと、あの一件で、わたくしの、繊細な、魔力回路が、傷ついた、後遺症に、違いありませんわ」
「名付けて、『傾国の(ただの)睡魔病』とでも、しておきましょうか」
「(……ただの、いつもの、お嬢様、では……)」
侍女は、そう、喉まで、出かかったが、必死で、飲み込んだ。
「というわけで、マーサ」
「わたくしは、本日、これより、『療養(昼寝)』に、入ります」
「学園長にも、殿下にも、『体調不良(訳:眠い)ですので』と、丁重に、お断りしておいて、ちょうだい」
「か、かしこまりました……!」
「ああ、それと」
セレスティナは、一枚の、便箋を、取り出した。
そこには、すでに、完璧な、美しい筆跡で、何かが、書かれていた。
「この手紙を、学園長経由で、皆様に、お渡しして」
「これは……?」
「わたくしの、『謙虚さ(面倒事の押し付け)』の、仕上げですわ」
セレスティナは、そう言うと、ふふん、と、珍しく、満足げな、笑みを浮かべた。
そして、今度こそ、本気で、深い眠りに、落ちるため、ベッドの、奥深くへと、潜り込んでいった。
「(……お嬢様。こういう時の、頭の回転だけは、本当に、規格外ですわね……)」
侍女は、呆れと、尊敬の、入り混じった溜息をつき、主の命令を、遂行するため、部屋を、後にした。
そして、表彰式、当日。
講堂は、異様な、熱気に、包まれていた。
学園を救った、謎のヒーロー(セレスティナ)の、晴れ姿を、一目見ようと、全校生徒が、集まっている。
壇上には、なぜか、アルフォンス、ギルバート、ルシアン、そして、ミレイナの四人が、並んで立っていた。
学園長が、困惑した、表情で、咳払いをした。
「えー……。本日、最大の功労者である、ヴァイスティナ……」
「(噛んだわ、あの人)」と、ルシアンが、小声で、呟く。
「セレスティナ・フォン・ヴァイスハイト嬢は……!」
「「「(……ゴクリ)」」」
会場が、固唾を呑む。
「……本日、体調不良(傾国の睡魔病)のため、欠席である!」
「「「「ええええええええ!?」」」」
講堂が、割れんばかりの、どよめきに、包まれた。
「そ、そんな!」
「一番、大事な人が、いない!?」
「さすが、セレスティナ様! ここでも、塩対応!」
壇上の三人の男たちも、三者三様の、反応を見せた。
「(やはり、固辞したか……! なんという、謙虚さ!)」と、アルフォンスが、感動に、打ち震える。
「(プッ……! マジかよ! 表彰式、サボりやがった! 面白え!)」と、ギルバートが、肩を、揺らす。
「(ククッ……! そう来たか! 表彰台より、睡眠を選ぶとは! 最高だ!)」と、ルシアンが、目を、細める。
「しかし!」
学園長が、一枚の、手紙を、高々と、掲げた。
「ヴァイスハイト嬢から、伝言を、預かっておる!」
「読み上げさせてもらうぞ!」
学園長は、その、美しい手紙を、朗読し始めた。
『この度の件、わたくしは、何も、しておりません』
「「「(嘘だ!)」」」
三人の男と、ミレイナの、心の声が、ハモった。
『全ては、聖女として、勇敢に、敵の注意を引きつけてくださった、ミレイナ・ハート様の、お力と』
「(え? わ、私!?)」
ミレイナが、目を、白黒させる。
『そして、誰よりも早く、結界の異常を察知し、駆けつけてくださった、アルフォンス皇太子殿下、ギルバート・アシュフォード様、ルシアン・ヴァーミリオン先生の、迅速な、ご対応の、賜物(たまもの)です』
「「「(((我々は、間に合わなかったのだが)))」」
三人の男たちの顔が、引きつる。
『わたくしに、向けられるべき、全ての賞賛は、この、勇敢なる、四名の皆様にこそ、ふさわしいと、信じております』
『わたくしは、皆様の、ご活躍の、陰ながらの、証人となれただけで、光栄ですわ』
「(…………)」
「(…………)」
「(…………)」
手紙が、読み上げられると、講堂は、一瞬の、静寂の後。
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
大歓声に、包まれた!
「なんて、謙虚な方なんだ!」
「そうだ! 聖女様も、殿下たちも、戦っていたんだ!」
「自分は、何もしていない、だと……! 美談すぎる!」
「そ、そんな! セレスティナ様!」
ミレイナは、感動で、涙ぐんでいた。
「(わ、私に、功績を……! あんなに、一人で、全部、片付けてしまったのに!)」
「(どこまで、謙虚で、クールで、お優しい方なの……!)」
彼女は、セレスティナから、押し付けられた「功績」を、ありがたく、勘違いして、頂戴した。
アルフォンス、ギルバート、ルシアンも、顔を見合わせた。
(……間に合わなかった、我々にまで、花を持たせるとは)
(……フン。どこまで、食えねえ女だ)
(……ククッ。面倒事を、全て、我々に、押し付けた、というわけだね)
だが、三人の、彼女への「熱量」は、その、完璧すぎる「塩対応(面倒事の押し付け)」によって、さらに、燃え上がってしまった。
その頃。
全ての面倒事を、ミレイナとイケメンたちに、完璧に、押し付けた、功労者、セレスティナは。
「(……ふぅ。静かになったわ)」
自室のベッドで、誰にも、邪魔されず、最高の、安堵の眠りに、落ちていた。
氷漬けにされた闇の魔術結社の幹部三名は、騎士団によって厳重に回収された。
学園を覆っていた大結界が、たった一人の令嬢によって、一瞬で粉砕されたという事実は、トップシークレットとして、厳重に秘匿されることになった。
(……当然だわ。公表されたら、わたくしの昼寝時間が、なくなるもの)
だが、セレスティナの平穏は、戻ってこなかった。
「お嬢様! 学園長室から、三度目の、お呼び出しでございます!」
「……はぁ。まだ、いらしたの」
セレスティナは、自室のベッドの上で、布団を頭までかぶり、完璧な居留守を使っていた。
「『闇の魔術結社を退けた、最大の功労者』として、正式に、表彰式を執り行う、と……!」
「(……最悪だわ)」
セレスティナは、布団の中で、絶望に打ち震えた。
(表彰式? 人前に、引きずり出される、ということ?)
(スピーチをしろと? 感謝の言葉を述べろと?)
(面倒事の、フルコースじゃない……!)
「セレスティナ! いるんだろう!」
ドンドン! と、寮の扉が、乱暴に叩かれる。
(……ギルバート様ね。扉を壊したら、修繕費を請求するわよ)
「セレスティナ嬢! 君の、その偉大な功績を、讃える時が来たんだよ!」
(……ルシアン先生。あなたの、その熱狂的な視線が、一番、面倒ですの)
「セレスティナ! 開けてくれ! 私の愛する婚約者が、表彰される、晴れの舞台だ! 私が、エスコートしよう!」
(……皇太子殿下。あなたに、エスコートされるのが、一番、目立つのですけれど)
三人の男たちが、代わる代わる、彼女の部屋の前に、押しかけてくる。
あの一件以来、彼らの「熱量」は、異常なまでに、高まっていた。
「セレスティナ様! セレスティナ様!」
ミレイナの声まで、聞こえてくる。
「皆様! セレスティナ様は、きっと、あの大立ち回りで、魔力を使い果たし、お疲れなのですわ!」
「そっとしておいて、差し上げましょう!」
(……ミレイナさん。あなたが、唯一の、癒しだわ……)
セレスティナは、ミレイナの(勘違いした)擁護に、少しだけ、感謝した。
(……だが、甘いわ、ミレイナさん)
(わたくしが、疲れているのは、魔力を使ったからではない)
(あなたたち、面倒な人々の、相手をすることに、よって、よ)
「よし、分かった!」
アルフォンスが、何か、閃いたように、叫んだ。
「彼女は、謙虚すぎるあまり、表彰されることを、固辞しているに違いない!」
「(……正解だわ)」と、セレスティナが、布団の中で、頷く。
「だが、それでは、国の秩序が、保てん! 功績は、正しく、評価されねば!」
「フン。あいつが、素直に、出てくるタマかよ」
ギルバートが、面白そうに、笑う。
「ククッ。表彰台の上で、あの『面倒だ』という顔を、全校生徒に、見せてくれるのかな? 最高に、面白そうだ」
ルシアンの、不謹<em></em>な声もする。
(……だめだわ。何を、言っても、無駄ね)
セレスティナは、決意した。
(こうなれば……)
「マーサ」
彼女は、侍女を、小声で呼んだ。
「は、はい! お嬢様!」
「わたくし、今から、『病』に、なりますわ」
「……え?」
「それも、非常に、重い、重い、病に」
セレスティナは、ベッドから、ゆっくりと、身を起こした。
その顔は、いつも通りの、完璧な無表情。
だが、その赤い瞳には、「絶対に、表彰式という名の、面倒事を、回避する」という、鋼の意志が、宿っていた。
「お嬢様……。そ、それは、仮病、ということ、で……」
「わたくし、今日、一日中、眠くて、眠くて、仕方がありませんの」
「これは、きっと、あの一件で、わたくしの、繊細な、魔力回路が、傷ついた、後遺症に、違いありませんわ」
「名付けて、『傾国の(ただの)睡魔病』とでも、しておきましょうか」
「(……ただの、いつもの、お嬢様、では……)」
侍女は、そう、喉まで、出かかったが、必死で、飲み込んだ。
「というわけで、マーサ」
「わたくしは、本日、これより、『療養(昼寝)』に、入ります」
「学園長にも、殿下にも、『体調不良(訳:眠い)ですので』と、丁重に、お断りしておいて、ちょうだい」
「か、かしこまりました……!」
「ああ、それと」
セレスティナは、一枚の、便箋を、取り出した。
そこには、すでに、完璧な、美しい筆跡で、何かが、書かれていた。
「この手紙を、学園長経由で、皆様に、お渡しして」
「これは……?」
「わたくしの、『謙虚さ(面倒事の押し付け)』の、仕上げですわ」
セレスティナは、そう言うと、ふふん、と、珍しく、満足げな、笑みを浮かべた。
そして、今度こそ、本気で、深い眠りに、落ちるため、ベッドの、奥深くへと、潜り込んでいった。
「(……お嬢様。こういう時の、頭の回転だけは、本当に、規格外ですわね……)」
侍女は、呆れと、尊敬の、入り混じった溜息をつき、主の命令を、遂行するため、部屋を、後にした。
そして、表彰式、当日。
講堂は、異様な、熱気に、包まれていた。
学園を救った、謎のヒーロー(セレスティナ)の、晴れ姿を、一目見ようと、全校生徒が、集まっている。
壇上には、なぜか、アルフォンス、ギルバート、ルシアン、そして、ミレイナの四人が、並んで立っていた。
学園長が、困惑した、表情で、咳払いをした。
「えー……。本日、最大の功労者である、ヴァイスティナ……」
「(噛んだわ、あの人)」と、ルシアンが、小声で、呟く。
「セレスティナ・フォン・ヴァイスハイト嬢は……!」
「「「(……ゴクリ)」」」
会場が、固唾を呑む。
「……本日、体調不良(傾国の睡魔病)のため、欠席である!」
「「「「ええええええええ!?」」」」
講堂が、割れんばかりの、どよめきに、包まれた。
「そ、そんな!」
「一番、大事な人が、いない!?」
「さすが、セレスティナ様! ここでも、塩対応!」
壇上の三人の男たちも、三者三様の、反応を見せた。
「(やはり、固辞したか……! なんという、謙虚さ!)」と、アルフォンスが、感動に、打ち震える。
「(プッ……! マジかよ! 表彰式、サボりやがった! 面白え!)」と、ギルバートが、肩を、揺らす。
「(ククッ……! そう来たか! 表彰台より、睡眠を選ぶとは! 最高だ!)」と、ルシアンが、目を、細める。
「しかし!」
学園長が、一枚の、手紙を、高々と、掲げた。
「ヴァイスハイト嬢から、伝言を、預かっておる!」
「読み上げさせてもらうぞ!」
学園長は、その、美しい手紙を、朗読し始めた。
『この度の件、わたくしは、何も、しておりません』
「「「(嘘だ!)」」」
三人の男と、ミレイナの、心の声が、ハモった。
『全ては、聖女として、勇敢に、敵の注意を引きつけてくださった、ミレイナ・ハート様の、お力と』
「(え? わ、私!?)」
ミレイナが、目を、白黒させる。
『そして、誰よりも早く、結界の異常を察知し、駆けつけてくださった、アルフォンス皇太子殿下、ギルバート・アシュフォード様、ルシアン・ヴァーミリオン先生の、迅速な、ご対応の、賜物(たまもの)です』
「「「(((我々は、間に合わなかったのだが)))」」
三人の男たちの顔が、引きつる。
『わたくしに、向けられるべき、全ての賞賛は、この、勇敢なる、四名の皆様にこそ、ふさわしいと、信じております』
『わたくしは、皆様の、ご活躍の、陰ながらの、証人となれただけで、光栄ですわ』
「(…………)」
「(…………)」
「(…………)」
手紙が、読み上げられると、講堂は、一瞬の、静寂の後。
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
大歓声に、包まれた!
「なんて、謙虚な方なんだ!」
「そうだ! 聖女様も、殿下たちも、戦っていたんだ!」
「自分は、何もしていない、だと……! 美談すぎる!」
「そ、そんな! セレスティナ様!」
ミレイナは、感動で、涙ぐんでいた。
「(わ、私に、功績を……! あんなに、一人で、全部、片付けてしまったのに!)」
「(どこまで、謙虚で、クールで、お優しい方なの……!)」
彼女は、セレスティナから、押し付けられた「功績」を、ありがたく、勘違いして、頂戴した。
アルフォンス、ギルバート、ルシアンも、顔を見合わせた。
(……間に合わなかった、我々にまで、花を持たせるとは)
(……フン。どこまで、食えねえ女だ)
(……ククッ。面倒事を、全て、我々に、押し付けた、というわけだね)
だが、三人の、彼女への「熱量」は、その、完璧すぎる「塩対応(面倒事の押し付け)」によって、さらに、燃え上がってしまった。
その頃。
全ての面倒事を、ミレイナとイケメンたちに、完璧に、押し付けた、功労者、セレスティナは。
「(……ふぅ。静かになったわ)」
自室のベッドで、誰にも、邪魔されず、最高の、安堵の眠りに、落ちていた。
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