塩対応な悪役令嬢なのに、溺愛逆ハーレムって本当ですか?

夏乃みのり

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卒業パーティーの大ホールは、水を打ったように静まり返っていた。
学園の頂点に立つ三人の男たちからの、三者三様の、熱烈なプロポーズ。
その全てが、一人の令嬢、セレスティナ・フォン・ヴァイスハイトに向けられている。

誰もが、固唾を呑んで、彼女の答えを待っていた。
彼女が、この国の皇太子を選ぶのか。
荒々しい騎士を選ぶのか。
それとも、神秘的な魔術師を選ぶのか。

「さあ、セレスティナ様!」
ミレイナだけが、ハンカチを握りしめ、興奮を隠せないでいる。

その、視線が集中する中心で。
セレスティナは、ゆっくりと、動いた。

彼女は、騒がしい三人の男たち、その一人一人と、順番に、視線を合わせた。
アルフォンス。ギルバート。ルシアン。
そして、完璧な、寸分の狂いもない、優雅なカーテシー(淑女の礼)を、深く、深く、行なった。

それは、まるで、教科書から抜け出たような、完璧な所作だった。
三人の男たちは、思わず、息を呑んだ。
(彼女は、自分を選んだ)と、三人が、同時に、確信した。

「皆様」

鈴を転がすような、静かな声が、ホールに響く。
その声には、いつもの「面倒くささ」は、欠片も感じられなかった。
ただ、どこまでも、透明で、穏やかな響きだけがあった。

「大変、光栄な、お話を、ありがとうございます」

「ああ!」(アルフォンス)
「……フン」(ギルバート)
「(ククッ……)」(ルシアン)

「皆様のような、素晴らしい方々に、そのような、お言葉を頂戴できましたこと」
「わたくしの、一生の、名誉でございますわ」

完璧な、感謝の言葉。
アルフォンスは、勝利を確信し、手を差し伸べようとした。

だが、セレスティナは、ゆっくりと、顔を上げ、その赤い瞳で、会場の全てを見渡した。
そして、彼女は、告げた。
この面倒な学園生活を、耐え抜いた、彼女の、たった一つの、本当の「夢」を。

「ですが」

「わたくしの夢は、皇太子妃になることでも、騎士の妻になることでも、魔術師の研究対象(つれあい)になることでも、ございませんの」

「「「……え?」」」
三人の声が、ハモった。

セレスティナは、うっとりと、目を細めた。
まるで、最高の昼寝スポットを、見つけた時のような、心からの、幸福の表情で。

「わたくしの夢は」

「実家の、ヴァイスハイト公爵領の、その、片隅で」
「誰にも、邪魔されず」
「生涯、昼寝をして、暮らすことでございますの」

「「「…………」」」

「「「…………は?」」」

大ホールが、静寂に、包まれた。
三人のイケメンたちも、ミレイナも、周囲の生徒たちも、全員が、完璧に、固まった。

(……今、この令嬢、なんと言った?)
(……生涯、昼寝……?)

セレスティナは、自分の、輝かしい夢を、語り終え、満足げに、頷いた。

「(……ああ。言ったわ。これで、わたくしの意思は、伝わったはず)」
(わたくしは、あなたたちの、誰とも、結婚する気は、ありません)
(わたくしは、ただ、眠りたいだけなのです、と)

これこそが、彼女が、持てる全ての「礼節」と「誠意」を、総動員して、放った。
過去、最高に、丁寧な「塩対応」による「完全スルー」だった。

「……」
アルフォンスが、膝をついたまま、固まっている。
「……」
ギルバートが、口を、半開きにしている。
「……」
ルシアンが、美しい笑みのまま、硬直している。

(……よし。これで、わたくしも、帰れるわね)
セレスティナは、面倒事が、全て、終わったと、安堵の息をつき、この場を、立ち去ろうとした。

その、瞬間。

「(……ハッ!!)」

最初に、我に返ったのは、皇太子アルフォンスだった!

(そうか……! 彼女は、またしても、我々を、試している……!)
(『わたくしの夢(平穏な昼寝)を、守れないような、中途半端な覚悟なら、お断りですわ』と!)
(なんと、気高い……!)

「ならば!」
アルフォンスが、勢いよく、立ち上がった!

「(……え? なぜ、立ち上がるの?)」
セレスティナが、ギョッとして、振り返る。

「ならば、私が、君の領地へ行こう!」

「……は?」

「私が、次期国王として、ヴァイスハイト公爵領を、『王国一、平穏で、誰も、昼寝を、邪魔できない、聖域』に、してみせる!」
「(そして、その聖域で、君の寝顔を、生涯、守る!)」

「(……何を、言っているのかしら、この人……)」

「フン! 面白え!」
ギルバートも、獰猛な、笑みを、取り戻した!

「皇太子が、領地経営かよ! 似合わねえ!」
「『昼寝』の番人なら、俺の方が、適任だろうが!」

「……は?」

「俺も、行くぜ、セレスティナ!」
「お前の、その『片隅』とやらで、お前が、安心して、眠れるように、俺が、全ての、面倒事を、叩き斬ってやる!」

「(……だから、あなたが、一番の、面倒事ですのに……)」

「ククッ……! あはははは!」
最後に、ルシアンが、心の底から、愉快そうに、笑い出した!

「二人とも、分かっていない! 彼女は、ただ、眠りたいだけじゃない! 『誰にも、邪魔されず』……つまり、『知的で、静かな、環境』を、求めているんだ!」

「……は?」

「ならば、私の、出番だね!」
「私の、王宮の研究室ごと、君の領地の『片隅』に、移転させよう!」
「君の『生涯の昼寝』という、最高の研究テーマを、私は、間近で、生涯、観察させてもらうよ!」

「「「…………」」」

セレスティナは、完璧な無表情のまま、固まった。
三人のイケメンたちは、彼女の「丁寧な、お断り(塩対応スルー)」を。
「領地まで、ついてきても、よろしくてよ」という、「超高度な、お誘い」だと、盛大に、勘違いしたのだ。

「私が行く!」
「いや、俺だ!」
「いいや、私が、彼女の隣に、ふさわしい!」

再び、三人の男たちの、熱烈な、視線が、ぶつかり合う。

「きゃあああ! セレスティナ様! おめでとうございます!」
ミレイナが、感動の涙を、流していた。

「皆様、セレスティナ様を、追いかけて、領地まで、行かれるのですね! なんて、情熱的なんでしょう!」
「わたくし、聖女として、皆様の、その、熱い恋(勘違い)を、生涯、応援し続けますわ!」

「(……ミレイナさん。お願いだから、応援しないで……!)」

セレスティナは、自分に再び突き刺さる三対の熱量MAXの視線と一対の純粋すぎる応援の視線に包まれながら。
心の底から、絶望の溜息をついた。

「(……お願いですから、来ないでください……)」

悪役令嬢、セレスティナ・フォン・ヴァイスハイト。
彼女の、平穏な昼寝への道はまだまだ遠い。

彼女の、最高に面倒な日常は、どうやら生涯続きそうだ。
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