【完結】もちろん、私が解決いたします

楽歩

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7.励むのであれば

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 sideレティシア



 楽しくお話をし、帰ろうとしたとき、スヴェイン様が思いついたようにおっしゃった。


「そうだ! レティ。明日、学院は休みだろう? もしよければ訓練を見に来るというのはどうだろうか」


 風が穏やかに吹き抜け、柔らかな緑の香りが漂う中、彼の声はどこか楽しげだった。

 スヴェイン様の顔には、どこか誇らしげな表情が浮かんでいた。

 隊員たちのやる気が高まったのが、心底嬉しいのだわ。


「よろしいのですか? ふふ、時間は有り余っておりますわ。必ず行きます」


 スヴェイン様が少し苦笑しながら首をかしげた。


「はは、レティが忙しいのは、よく知っている。本当に大丈夫か?」


「はい!」


 どんなことがあっても絶対に行きますわ。脳内にお姿を焼き付けるためにも。

 さらに――そう、隊員たちに牽制もしなければ……。




 *****



 あの日




 近衛隊の訓練場の片隅、微かに響く剣の音と足音を背景に、スヴェイン様が、団長様に何やら真剣な表情で話している場面に偶然出くわした。




 もちろん、私がその場で声をかけるなど論外。

 男同士の話に淑女が横やりを入れるのは、礼儀に反しますもの。ただ、気になるのは確か。


 淑女として近くで聞き耳など恥ずかしい行為はできないから、遠くから静かに見守ることにした。 



 ふふ、読唇術をマスターしておいて、本当に良かったわ! もちろん、邪魔にならないよう、気配も完璧に消すわ。




 団長様の唇が動く。何を話しているのかしら?


『お前が必要だ』

 ……一体、何の話?


 ま、 まさか恋愛的なものではないでしょうね。団長様はスヴェイン様の従弟とはいえ、少々仲が良すぎる気がしていたのよね。スキンシップが多いし。

 男性同士の恋愛小説が流行している昨今、油断は禁物ですもの。何ならスヴェイン様の周りにいる人間すべてが敵。




 次の言葉に目を凝らす。スヴェイン様の口元が動く。


『訓練にも身が入っていない』


 なっ! スヴェイン様の指導を受けておきながら身が入っていないですって!?

 ……これは、団のトップである団長様の責任。 なのに、なぜそんなにヘラヘラしているのかしら。上司としての威厳が足りないわね。



 ん? 団長様が、何か言って……


『男が惚れる男』

 ……怪しい、怪しすぎるわ! 

 万が一、スヴェイン様に手をお出しになったら……消すわ。

 物理的に……、社会的の方がいいかしら。悩ましいけど、スヴェイン様に影響が出ないほうにするほうがいいわね。




 さらに追い打ちをかけるように、団長様がスヴェイン様の肩を組む姿が視界に入る。


『惚れられたいのは男ではなく女か?』

 ……さすがに限界。思わず殺気を漏らしてしまったわ。


 でも、次のスヴェイン様の一言で全てが吹き飛んだ。


『俺にはレティがいる』


 俺には……ふふふ。



 あっ! いけない。殺気に気付かれたのか、気が緩んだからなのか、スヴェイン様が、こちらに気付いてしまった。辺りを見回している。


 完璧な気配消しができないなんて、……まだまだ修行が足りないわね。




 しかし、目が合った瞬間、全てを忘れて、喜びのあまりその場を離れてスヴェイン様のもとへ向かった。




 スヴェイン様が私を、受け止めてくれる。ああ、今日は、よい日だわ。しかし、気になることはしっかり確認しておかないと。



「しないというより急に腹が痛くなったり、急用ができたりするみたいなんだ。ははは」


 噓でしょ……。訓練を「腹痛」などというつまらない言い訳で断る者たちがいるだなんて。信じられませんわ……。

 訓練こそ名誉。スヴェイン様がご指導くださるというのに、それを「ご褒美」と感じないとは、一体どんな感性をしているのかしら。


 軟弱者たちが。


 第2王子の近衛隊員ともあろう者が、そんな体たらくとは。


 ……ふ、ふふふ。

 スヴェイン様を悩ませたこと、必ず後悔させてあげるわ。


 隊員たちだけではなく実家――並びにその家業や取引先の情報は、すでに把握済み。弱みのない貴族なんておりませんわ。
 念のために調べ上げておいてよかった。備えあれば憂いなし。 





 とはいえ、一気に破滅させるわけにもいきませんわね。

 部下を失うのは、スヴェイン様にとっても負担でしょうから。



 ……ええ、心を入れ替え、しっかり訓練に励むのであれば、許してあげてもいいわ。



 さあ、邸へ戻り、資料と照らし合わせ、迅速かつ確実に計画を進めるわ。今日中に必ず終わらせる。




 *****



 ー訓練場にてー


「レティ、待っていたよ。さあ、こちらの日陰の席へ」

 スヴェイン様が、訓練場の見学席へとエスコートしてくれる。

 こちらに一瞥をくれた隊員たちが、明らかに背筋を伸ばしたのが見て取れますわ。



 気を引き締めたようね。



 各々真剣に打ち合っている。そうそう、それでこそ騎士のあるべき姿。ええ、殊勝な態度だわ。全く、騎士ならば、はじめからそうすればよろしいのに。スヴェイン様を見習ってほしいわね。


 しっかりと訓練に取り組んでいる様子ですけど、決して三日坊主になんかさせないわ。とりあえず含みを持って微笑んでおきましょう。




 ああ、スヴェイン様が訓練をつけるお姿、威厳と優しさを兼ね備えたその立ち居振る舞い――見惚れずにはいられませんわ。



 遠くからでもそのカリスマが伝わりますのに、そんな笑顔で手を振られたら……私の心臓が破裂してしまいそうですわ。





 ああ、全てに釘を刺すのは、一日がかりの大仕事でしたけど、頑張った甲斐がありましたわ。

 その日のスヴェイン様との時間が削られたことは辛かったですが、こんなに嬉しそうなお姿を見られましたもの。


 これでスヴェイン様は悩みなく、ご自身の任務に集中できるはずですわ。



 全ては、彼のために――そして私たちの未来のために。



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