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9.ソレイユの調教 side馬丁
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side馬丁
夕暮れの馬屋は、穏やかな時間が流れていた。干し草の香りが漂い、オレンジ色の光が厩舎を優しく照らしている。その奥、静かに首を振る一頭の馬と向き合う令嬢の姿が目を引く。
「あの令嬢、何者なんだ?」
馬の世話をしながら、俺は隣のアルフ爺に問いかけた。
「おお、スヴェイン隊長の婚約者様じゃ」
「いや、それは知ってる。そうじゃなくて……やっぱり隊長の婚約者ともなると、他の令嬢とは違うなって話だよ」
俺たちが見つめる先では、令嬢がソレイユのたてがみをそっと撫でていた。
ソレイユ――人見知りが激しく、滅多に人を寄せ付けない厩舎の問題児だ。それが今では、彼女の前でまるで忠実な相棒のように大人しくしている。
あの日、初めて彼女が馬屋に現れたとき、誰がこんな光景を想像しただろうか。
ー初日ー
令嬢は馬屋に入り、厩舎の端からソレイユをじっと観察していた。距離を置いて、静かにその動きを見つめるその姿は、俺の目には「馬を怖がっているよう」にも見えた。
まぁ、令嬢が馬の世話なんて無理だろうな。汚れるのを嫌がるに決まっている。
そんな風に高をくくっていたのだが……。
30分ほどたっただろうか。令嬢はゆっくりとソレイユの前に立つと、そっと手を伸ばした。その瞬間、ソレイユがまるで降伏するかのようにゆっくりと頭を下げたのだ。
令嬢は微笑み、ソレイユのたてがみを優しく撫でながら、何かを囁いているようだった。
はぁ、妖精のような方は、動物と心を通わせる魔法でも使えるのだろうかと、俺は思わず崇めたくなった。
ー2日目ー
驚くことに、あのソレイユが令嬢の手からエサを食べていた。俺は思わず声を掛けた。
「あのー、ご令嬢、すごいですね。ソレイユが人の手からエサを食べるなんて初めて見ましたよ」
令嬢はにっこりと微笑みながら答える。
「あら、ソレイユはお利口ですもの。どなたの手からでも食べますわ」
いやいや、そんなことがあるはずがない。俺も試しにエサを差し出したが、案の定ソレイユは顔を背けた。
「ソレイユ、だめよ」
その一言で、ソレイユは俺の手からエサを食べたのだ。信じられない光景に、俺は唖然とするばかりだった。
ー5日目ー
この数日間、令嬢がソレイユに掛ける言葉はほとんど決まっていた。
「ソレイユ」「だめ」「いい子」――基本、この三つだけだ。
なのに、それだけでソレイユがどんどん変わっていく。今では彼女の「だめ」の一声で、ソレイユはすぐに動きを止め、指示を待つようになっていた。俺までその声を聞くと引き締まる思いがするくらいだ。
「なあ、アルフ爺。これってどういうことなんだ?」
俺の質問に、アルフ爺は鼻で笑って答えた。
「まあ、少なくともお前には真似できんじゃろうな」
ー7日目ー
その日、スヴェイン隊長が戻ってきた。久しぶりに厩舎へ足を踏み入れた彼は、すっかり変わったソレイユの様子に驚愕していた。
「これはどういうことだ? あのソレイユが……こんなに従順に……?」
令嬢は微笑みながら頬を染め、言った。
「ソレイユにスヴェイン様のことをたくさんお話しましたの。きっと会えるのを楽しみにしていたんですわ」
……そんな様子は、なかった、と思うが……俺が見落としただけか?
ソレイユは令嬢の声に従い、隊長を見つめていた。
きっと、令嬢が大切にしている人だと理解したのだろう。馬は頭が良いからな。
ソレイユのたてがみを撫でる隊長の表情には、どこか憂いが消えていた。それを見た俺は、なんとなく安心した。
……これで良い。きっと、これで良いのだ。うん。
夕暮れの馬屋は、穏やかな時間が流れていた。干し草の香りが漂い、オレンジ色の光が厩舎を優しく照らしている。その奥、静かに首を振る一頭の馬と向き合う令嬢の姿が目を引く。
「あの令嬢、何者なんだ?」
馬の世話をしながら、俺は隣のアルフ爺に問いかけた。
「おお、スヴェイン隊長の婚約者様じゃ」
「いや、それは知ってる。そうじゃなくて……やっぱり隊長の婚約者ともなると、他の令嬢とは違うなって話だよ」
俺たちが見つめる先では、令嬢がソレイユのたてがみをそっと撫でていた。
ソレイユ――人見知りが激しく、滅多に人を寄せ付けない厩舎の問題児だ。それが今では、彼女の前でまるで忠実な相棒のように大人しくしている。
あの日、初めて彼女が馬屋に現れたとき、誰がこんな光景を想像しただろうか。
ー初日ー
令嬢は馬屋に入り、厩舎の端からソレイユをじっと観察していた。距離を置いて、静かにその動きを見つめるその姿は、俺の目には「馬を怖がっているよう」にも見えた。
まぁ、令嬢が馬の世話なんて無理だろうな。汚れるのを嫌がるに決まっている。
そんな風に高をくくっていたのだが……。
30分ほどたっただろうか。令嬢はゆっくりとソレイユの前に立つと、そっと手を伸ばした。その瞬間、ソレイユがまるで降伏するかのようにゆっくりと頭を下げたのだ。
令嬢は微笑み、ソレイユのたてがみを優しく撫でながら、何かを囁いているようだった。
はぁ、妖精のような方は、動物と心を通わせる魔法でも使えるのだろうかと、俺は思わず崇めたくなった。
ー2日目ー
驚くことに、あのソレイユが令嬢の手からエサを食べていた。俺は思わず声を掛けた。
「あのー、ご令嬢、すごいですね。ソレイユが人の手からエサを食べるなんて初めて見ましたよ」
令嬢はにっこりと微笑みながら答える。
「あら、ソレイユはお利口ですもの。どなたの手からでも食べますわ」
いやいや、そんなことがあるはずがない。俺も試しにエサを差し出したが、案の定ソレイユは顔を背けた。
「ソレイユ、だめよ」
その一言で、ソレイユは俺の手からエサを食べたのだ。信じられない光景に、俺は唖然とするばかりだった。
ー5日目ー
この数日間、令嬢がソレイユに掛ける言葉はほとんど決まっていた。
「ソレイユ」「だめ」「いい子」――基本、この三つだけだ。
なのに、それだけでソレイユがどんどん変わっていく。今では彼女の「だめ」の一声で、ソレイユはすぐに動きを止め、指示を待つようになっていた。俺までその声を聞くと引き締まる思いがするくらいだ。
「なあ、アルフ爺。これってどういうことなんだ?」
俺の質問に、アルフ爺は鼻で笑って答えた。
「まあ、少なくともお前には真似できんじゃろうな」
ー7日目ー
その日、スヴェイン隊長が戻ってきた。久しぶりに厩舎へ足を踏み入れた彼は、すっかり変わったソレイユの様子に驚愕していた。
「これはどういうことだ? あのソレイユが……こんなに従順に……?」
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「ソレイユにスヴェイン様のことをたくさんお話しましたの。きっと会えるのを楽しみにしていたんですわ」
……そんな様子は、なかった、と思うが……俺が見落としただけか?
ソレイユは令嬢の声に従い、隊長を見つめていた。
きっと、令嬢が大切にしている人だと理解したのだろう。馬は頭が良いからな。
ソレイユのたてがみを撫でる隊長の表情には、どこか憂いが消えていた。それを見た俺は、なんとなく安心した。
……これで良い。きっと、これで良いのだ。うん。
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