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17.物語より奇なり
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sideレティシア
「ほらみなさい、バレン。言った通りでしょ。どこが純粋なのよ」
ティーカップを持つ手を優雅に動かしながら、私は視線を花屋に向け続けた。バレンは、その声に苦笑しつつも肩をすくめる。
「……女って怖いんですね。怖いのはお嬢様だけだと思っていました」
「すべての女は恐ろしいのよ。心にとめておきなさい」
花屋が見えるカフェのテラスでお茶をいただきながら、平民二人の会話を観察する。まあまあの距離があるが、バレンも、読唇術ができるから何の問題もない。この光景を眺めながら、冷めきった視線を送る私は、どんな表情をしていただろう。
あっ! そうだわ。
「それはそうと、あなたこの前の報告書にスヴェイン様が私に買ったピアスのことを書いていなかったわね」
耳元で揺れるブルーサファイヤのピアスに軽く触れる。スヴェイン様が、「君の瞳の色によく似たアクセサリーに出会えたことは幸運だった」と微笑みながら渡してくれたものだ。
そのときの光景を思い出し、自然と顔に笑みが浮かんでしまう。
私にとって、スヴェイン様との出会いこそ幸運でしたわ!
あっ、いけない。バレンの返事を聞かずに、思い出し笑いをしていたようで、呆れた顔でこちらを見ている。
「……私は仕事のできる男ですよ。お嬢様、惚れた男のすべてを知っても幸せになるとは限りません。心にとめておいてください。そして、感激したのなら私の仕事を減らしてください」
「ええ、知らなかったから喜びもひとしおだったわ。でも、毎日の報告書は、しばらくあなた専門の仕事よ。引き続き頑張りなさい」
バレンはまたも肩をすくめた。
ここ数日、花屋をこの目で観察をした。
リリアは婚約者のいる騎士であるスヴェイン様に目をつけ、少しずつ距離を縮めようとしているのだ。
彼女が目指しているのは、愛ではなく、もっと現実的なものだろう。
夢を見るのは自由。想像も許そう。だが、手を出したらその時点で……終わりよ。
第二王子はよくお忍びで街へと出る。街を歩くたびに、彼女の視線がスヴェイン様に向けられるのを感じることがある。
微笑みながら、偶然を装って何度も接近するその姿に、冷ややかな思いがよぎる。彼女の作った花束をスヴェイン様が無邪気に受け取る光景も見た。だが、それらすべての花束は結局私の手に渡る。
素朴で純粋な花屋の顔をして、裏では計算高く、慎重に自分の存在を植え付けているのだ。
……許容の範囲は超えている。
彼女にとって、スヴェイン様は、自分の生活のためのただの駒。どうせ、内心でほくそ笑んでいるはずだ。自分の婚約者に恋をされるのはもちろん嫌だが、『恋なわけないじゃない』と言われるのも、なかなかに腹が立つ。
「おかしいですね。物語なら、お忍びの王子と平民の運命の出会い、真実の愛、王宮を巻き込んでの婚約解消!! なのに、現実とはつまらないものですね」
バレンがティーカップを持ち上げながら皮肉めいた声を出して笑う。
「現実は物語より奇なりではないということよ」
私もつられるように笑みを浮かべる。
「でも、そうね。いっそ王子を生贄にすればいいという手もあったわね」
「やめてあげてください。王子と婚約者、とても仲がいいことを知っているじゃないですか」
呆れ顔のバレンが眉を下げる。あなたが先に言ったんじゃない。
距離を縮め、スヴェイン様の婚約者の座をつかんだけど、心から望んでのこと、恋願ってのことよ。今さら、割り込ませるはずがない。
「リリア、”政略、それなりの関係”と言っていましたね。お嬢様が、頼み込んで婚約者にしてもらったようなものなのに、何も知らずに頑張って……かわいそうです」
全然かわいそうという顔をしていないバレンが言う。楽しんでるわね。
バレンのその言葉に、ふと懐かしい記憶が脳裏によぎる。私は、カップの縁を指でなぞりながら、小さく笑みを浮かべた。
「ほらみなさい、バレン。言った通りでしょ。どこが純粋なのよ」
ティーカップを持つ手を優雅に動かしながら、私は視線を花屋に向け続けた。バレンは、その声に苦笑しつつも肩をすくめる。
「……女って怖いんですね。怖いのはお嬢様だけだと思っていました」
「すべての女は恐ろしいのよ。心にとめておきなさい」
花屋が見えるカフェのテラスでお茶をいただきながら、平民二人の会話を観察する。まあまあの距離があるが、バレンも、読唇術ができるから何の問題もない。この光景を眺めながら、冷めきった視線を送る私は、どんな表情をしていただろう。
あっ! そうだわ。
「それはそうと、あなたこの前の報告書にスヴェイン様が私に買ったピアスのことを書いていなかったわね」
耳元で揺れるブルーサファイヤのピアスに軽く触れる。スヴェイン様が、「君の瞳の色によく似たアクセサリーに出会えたことは幸運だった」と微笑みながら渡してくれたものだ。
そのときの光景を思い出し、自然と顔に笑みが浮かんでしまう。
私にとって、スヴェイン様との出会いこそ幸運でしたわ!
あっ、いけない。バレンの返事を聞かずに、思い出し笑いをしていたようで、呆れた顔でこちらを見ている。
「……私は仕事のできる男ですよ。お嬢様、惚れた男のすべてを知っても幸せになるとは限りません。心にとめておいてください。そして、感激したのなら私の仕事を減らしてください」
「ええ、知らなかったから喜びもひとしおだったわ。でも、毎日の報告書は、しばらくあなた専門の仕事よ。引き続き頑張りなさい」
バレンはまたも肩をすくめた。
ここ数日、花屋をこの目で観察をした。
リリアは婚約者のいる騎士であるスヴェイン様に目をつけ、少しずつ距離を縮めようとしているのだ。
彼女が目指しているのは、愛ではなく、もっと現実的なものだろう。
夢を見るのは自由。想像も許そう。だが、手を出したらその時点で……終わりよ。
第二王子はよくお忍びで街へと出る。街を歩くたびに、彼女の視線がスヴェイン様に向けられるのを感じることがある。
微笑みながら、偶然を装って何度も接近するその姿に、冷ややかな思いがよぎる。彼女の作った花束をスヴェイン様が無邪気に受け取る光景も見た。だが、それらすべての花束は結局私の手に渡る。
素朴で純粋な花屋の顔をして、裏では計算高く、慎重に自分の存在を植え付けているのだ。
……許容の範囲は超えている。
彼女にとって、スヴェイン様は、自分の生活のためのただの駒。どうせ、内心でほくそ笑んでいるはずだ。自分の婚約者に恋をされるのはもちろん嫌だが、『恋なわけないじゃない』と言われるのも、なかなかに腹が立つ。
「おかしいですね。物語なら、お忍びの王子と平民の運命の出会い、真実の愛、王宮を巻き込んでの婚約解消!! なのに、現実とはつまらないものですね」
バレンがティーカップを持ち上げながら皮肉めいた声を出して笑う。
「現実は物語より奇なりではないということよ」
私もつられるように笑みを浮かべる。
「でも、そうね。いっそ王子を生贄にすればいいという手もあったわね」
「やめてあげてください。王子と婚約者、とても仲がいいことを知っているじゃないですか」
呆れ顔のバレンが眉を下げる。あなたが先に言ったんじゃない。
距離を縮め、スヴェイン様の婚約者の座をつかんだけど、心から望んでのこと、恋願ってのことよ。今さら、割り込ませるはずがない。
「リリア、”政略、それなりの関係”と言っていましたね。お嬢様が、頼み込んで婚約者にしてもらったようなものなのに、何も知らずに頑張って……かわいそうです」
全然かわいそうという顔をしていないバレンが言う。楽しんでるわね。
バレンのその言葉に、ふと懐かしい記憶が脳裏によぎる。私は、カップの縁を指でなぞりながら、小さく笑みを浮かべた。
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