26 / 33
26.月の影取る猿
しおりを挟む
*****
ーside王太子ー
「計画はこうだ、ミレーナ」
ホフマン伯爵の商会では、次々と目新しい商品を売り出し、向かう所、敵なしと聞く。国益にもつながる品物の数々…しかも、そのアイディアは、ヴィクターが出しているとの情報が手に入った。
そうであれば…ヴィクターの手柄を自分の物として偽証し、これを隣国の皇子、エヴァン・ラドクリフに伝える。皇子が信じるように仕向け、協力を促し、噂を広げていく。くく、ヴィクターの評判を地に落としたうえで、私の優秀さをアピールし地位を安泰なものとするのだ。
エヴァン・ラドクリフ皇子は、長けた人物であり、その協力を得られば計画は成功するに違いない。
「上手くいくでしょうか?」
「ああ、私に策がある。任せておけ!ミレーナもセレナの評判を落とす策を考えておいてくれ。」
「わ、わかりましたわ。」
*****
父上との謁見を終えた皇子に内密で話があると伝え、別室へ行く。計画通り、ヴィクターの性悪さを伝え、自分の従弟に手柄を取られた悔しさを演じる。なんとか、ヴィクターの罪を明らかにして罰を与え、奪われた手柄を取り戻したい、公の場で共にヴィクターを断罪してほしいと訴える。
「エヴァン・ラドクリフ皇子、君の助けが必要だ。」
「…証拠はあるのかい?」
くそ!一国の王太子が言っているのだ。すんなり信じればいいものの。まあ、いい。想定内だ。
「ああ、これを見てくれ。」
王宮の気弱な文官を脅し、私が先に考えていたかのように捏造した、企画書を渡す。
皇子は、それを黙って読み進め、最後の企画書に目を通すと、後ろの側近に渡した。
「私が君を助ける見返りは、用意してあると考えていいのかな?」
強欲な男め…だが、考えてある。はは、予定通りだ。
「将来的に君の皇位継承を助けるという約束をしよう」
どうやって助けるかは考えていないが…何とかなるだろう。第2皇子という身分。皇位に興味がないとは言わせない。隣国では、第1皇子と同じくらいの人気を誇るという。また、皇帝が皇太子を決めかねているという情報も手に入れてある。
皇子は一瞬考え込んだ後、笑みを浮かべた。
「面白い提案だな。そうだ、つい先日、レティシアの家でヴィクター・アルマンド公爵令息と話をする機会があってね。興味深いアイディアを聞いたところだったんだよ。」
何!もう会っていたのか!
「君は、一度に人や貨物を運ぶ乗り物を作ることは可能だと思うかい?」
「頑丈で大きな馬車のことでしょうか?」
なんだ、後ろの側近が、目を大きく開き、口元を隠したぞ?
「ああ、そうだ、その馬車のことだ」
「ああ、なんてことだ。そのアイディアも盗んだのだな。」
憤りをこらえているように振る舞う。
馬車だと?何も目新しくはないではないか。いや、しかし当たってよかった。
「あとは、夏を快適に涼しく過ごすためには、どうすればよいかという話もした」
「新しい避暑地の話ですね。今、候補地を検討中なのです。ああ、それも…」
残念でならないというように頭を振ってみる。どうせ当たっているのだろう?
「…なるほどよくわかった。この企画書は、私が責任をもって適切に対処しよう。」
よし!これで、計画への賛同が得られた。ミレーナに目で合図をする。ミレーナは頷き話始めた。
「…エヴァン・ラドクリフ皇子殿下、聞いてください。私の地位を狙うものが、恐ろしい陰謀を企て、巧妙に私を貶めるために行動しているのです。王宮のメイドたちの証言もあります。そう、ヴィクター様の婚約者のセレナです!どうか、悲劇を防ぐため、協力していただけないでしょうか。心からのお願いです。」
いいぞ、ミレーナ!皇子が、お前の美貌と涙に心を動かされ、話に耳を傾けているぞ。
「そうか、その話も含めて、措置をとろう。」
「そうか!感謝する」
*****
ーsideエヴァン皇子ー
「…思っていたより愚かな王太子と婚約者でしたね。エヴァン様。頑丈で大きな馬車…くくっ」
「ああ、本当だ。あの王太子の婚約者候補だっただなんて、レティシアとセレナ嬢が哀れだな。」
杜撰な策略に、笑いをこらえているレオナードと共に、もう一度王への謁見を申し込みにいく。
「あの程度の策略で、セレナに立ち向かおうなんて、あーははは、あの2人、身の程知らずにもほどがある。やばいな、命を縮めたぞ。」
とうとう笑いをこらえきれなくなったレオナードが、腹を抱えて笑い出した。口調が乱れているぞ、レオナード。まぁ、しょうがないか。
「はぁ…、仮にも王太子だぞ?無理に知ろうとする必要はないが、世の中のことを何も知らない、世間知らずのままでいるのはどうなのだろうか…」
私は兄である第1皇子と、とても仲が良いというのに。
ーside王太子ー
「計画はこうだ、ミレーナ」
ホフマン伯爵の商会では、次々と目新しい商品を売り出し、向かう所、敵なしと聞く。国益にもつながる品物の数々…しかも、そのアイディアは、ヴィクターが出しているとの情報が手に入った。
そうであれば…ヴィクターの手柄を自分の物として偽証し、これを隣国の皇子、エヴァン・ラドクリフに伝える。皇子が信じるように仕向け、協力を促し、噂を広げていく。くく、ヴィクターの評判を地に落としたうえで、私の優秀さをアピールし地位を安泰なものとするのだ。
エヴァン・ラドクリフ皇子は、長けた人物であり、その協力を得られば計画は成功するに違いない。
「上手くいくでしょうか?」
「ああ、私に策がある。任せておけ!ミレーナもセレナの評判を落とす策を考えておいてくれ。」
「わ、わかりましたわ。」
*****
父上との謁見を終えた皇子に内密で話があると伝え、別室へ行く。計画通り、ヴィクターの性悪さを伝え、自分の従弟に手柄を取られた悔しさを演じる。なんとか、ヴィクターの罪を明らかにして罰を与え、奪われた手柄を取り戻したい、公の場で共にヴィクターを断罪してほしいと訴える。
「エヴァン・ラドクリフ皇子、君の助けが必要だ。」
「…証拠はあるのかい?」
くそ!一国の王太子が言っているのだ。すんなり信じればいいものの。まあ、いい。想定内だ。
「ああ、これを見てくれ。」
王宮の気弱な文官を脅し、私が先に考えていたかのように捏造した、企画書を渡す。
皇子は、それを黙って読み進め、最後の企画書に目を通すと、後ろの側近に渡した。
「私が君を助ける見返りは、用意してあると考えていいのかな?」
強欲な男め…だが、考えてある。はは、予定通りだ。
「将来的に君の皇位継承を助けるという約束をしよう」
どうやって助けるかは考えていないが…何とかなるだろう。第2皇子という身分。皇位に興味がないとは言わせない。隣国では、第1皇子と同じくらいの人気を誇るという。また、皇帝が皇太子を決めかねているという情報も手に入れてある。
皇子は一瞬考え込んだ後、笑みを浮かべた。
「面白い提案だな。そうだ、つい先日、レティシアの家でヴィクター・アルマンド公爵令息と話をする機会があってね。興味深いアイディアを聞いたところだったんだよ。」
何!もう会っていたのか!
「君は、一度に人や貨物を運ぶ乗り物を作ることは可能だと思うかい?」
「頑丈で大きな馬車のことでしょうか?」
なんだ、後ろの側近が、目を大きく開き、口元を隠したぞ?
「ああ、そうだ、その馬車のことだ」
「ああ、なんてことだ。そのアイディアも盗んだのだな。」
憤りをこらえているように振る舞う。
馬車だと?何も目新しくはないではないか。いや、しかし当たってよかった。
「あとは、夏を快適に涼しく過ごすためには、どうすればよいかという話もした」
「新しい避暑地の話ですね。今、候補地を検討中なのです。ああ、それも…」
残念でならないというように頭を振ってみる。どうせ当たっているのだろう?
「…なるほどよくわかった。この企画書は、私が責任をもって適切に対処しよう。」
よし!これで、計画への賛同が得られた。ミレーナに目で合図をする。ミレーナは頷き話始めた。
「…エヴァン・ラドクリフ皇子殿下、聞いてください。私の地位を狙うものが、恐ろしい陰謀を企て、巧妙に私を貶めるために行動しているのです。王宮のメイドたちの証言もあります。そう、ヴィクター様の婚約者のセレナです!どうか、悲劇を防ぐため、協力していただけないでしょうか。心からのお願いです。」
いいぞ、ミレーナ!皇子が、お前の美貌と涙に心を動かされ、話に耳を傾けているぞ。
「そうか、その話も含めて、措置をとろう。」
「そうか!感謝する」
*****
ーsideエヴァン皇子ー
「…思っていたより愚かな王太子と婚約者でしたね。エヴァン様。頑丈で大きな馬車…くくっ」
「ああ、本当だ。あの王太子の婚約者候補だっただなんて、レティシアとセレナ嬢が哀れだな。」
杜撰な策略に、笑いをこらえているレオナードと共に、もう一度王への謁見を申し込みにいく。
「あの程度の策略で、セレナに立ち向かおうなんて、あーははは、あの2人、身の程知らずにもほどがある。やばいな、命を縮めたぞ。」
とうとう笑いをこらえきれなくなったレオナードが、腹を抱えて笑い出した。口調が乱れているぞ、レオナード。まぁ、しょうがないか。
「はぁ…、仮にも王太子だぞ?無理に知ろうとする必要はないが、世の中のことを何も知らない、世間知らずのままでいるのはどうなのだろうか…」
私は兄である第1皇子と、とても仲が良いというのに。
3,144
あなたにおすすめの小説
ご要望通り幸せになりますね!
風見ゆうみ
恋愛
ロトス国の公爵令嬢である、レイア・プラウにはマシュー・ロマウ公爵令息という婚約者がいた。
従姉妹である第一王女のセレン様は他国の王太子であるディル殿下の元に嫁ぐ事になっていたけれど、ディル殿下は噂では仮面で顔を隠さないといけないほど醜い顔の上に訳ありの生い立ちの為、セレン様は私からマシュー様を奪い取り、私をディル殿下のところへ嫁がせようとする。
「僕はセレン様を幸せにする。君はディル殿下と幸せに」
「レイア、私はマシュー様と幸せになるから、あなたもディル殿下と幸せになってね」
マシュー様の腕の中で微笑むセレン様を見て心に決めた。
ええ、そうさせていただきます。
ご要望通りに、ディル殿下と幸せになってみせますね!
ところでセレン様…、ディル殿下って、実はあなたが一目惚れした方と同一人物ってわかっておられますか?
※7/11日完結予定です。
※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観や話の流れとなっていますのでご了承ください。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?
Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる