【完結】あなたは、知らなくていいのです

楽歩

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26.月の影取る猿

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*****

ーside王太子ー



「計画はこうだ、ミレーナ」


ホフマン伯爵の商会では、次々と目新しい商品を売り出し、向かう所、敵なしと聞く。国益にもつながる品物の数々…しかも、そのアイディアは、ヴィクターが出しているとの情報が手に入った。
そうであれば…ヴィクターの手柄を自分の物として偽証し、これを隣国の皇子、エヴァン・ラドクリフに伝える。皇子が信じるように仕向け、協力を促し、噂を広げていく。くく、ヴィクターの評判を地に落としたうえで、私の優秀さをアピールし地位を安泰なものとするのだ。


エヴァン・ラドクリフ皇子は、長けた人物であり、その協力を得られば計画は成功するに違いない。

「上手くいくでしょうか?」

「ああ、私に策がある。任せておけ!ミレーナもセレナの評判を落とす策を考えておいてくれ。」


「わ、わかりましたわ。」



*****


父上との謁見を終えた皇子に内密で話があると伝え、別室へ行く。計画通り、ヴィクターの性悪さを伝え、自分の従弟に手柄を取られた悔しさを演じる。なんとか、ヴィクターの罪を明らかにして罰を与え、奪われた手柄を取り戻したい、公の場で共にヴィクターを断罪してほしいと訴える。


「エヴァン・ラドクリフ皇子、君の助けが必要だ。」


「…証拠はあるのかい?」


くそ!一国の王太子が言っているのだ。すんなり信じればいいものの。まあ、いい。想定内だ。


「ああ、これを見てくれ。」


王宮の気弱な文官を脅し、私が先に考えていたかのように捏造した、企画書を渡す。


皇子は、それを黙って読み進め、最後の企画書に目を通すと、後ろの側近に渡した。


「私が君を助ける見返りは、用意してあると考えていいのかな?」


強欲な男め…だが、考えてある。はは、予定通りだ。


「将来的に君の皇位継承を助けるという約束をしよう」

どうやって助けるかは考えていないが…何とかなるだろう。第2皇子という身分。皇位に興味がないとは言わせない。隣国では、第1皇子と同じくらいの人気を誇るという。また、皇帝が皇太子を決めかねているという情報も手に入れてある。


皇子は一瞬考え込んだ後、笑みを浮かべた。


「面白い提案だな。そうだ、つい先日、レティシアの家でヴィクター・アルマンド公爵令息と話をする機会があってね。興味深いアイディアを聞いたところだったんだよ。」


何!もう会っていたのか!



「君は、一度に人や貨物を運ぶ乗り物を作ることは可能だと思うかい?」

「頑丈で大きな馬車のことでしょうか?」


なんだ、後ろの側近が、目を大きく開き、口元を隠したぞ?



「ああ、そうだ、その馬車のことだ」

「ああ、なんてことだ。そのアイディアも盗んだのだな。」


憤りをこらえているように振る舞う。
馬車だと?何も目新しくはないではないか。いや、しかし当たってよかった。



「あとは、夏を快適に涼しく過ごすためには、どうすればよいかという話もした」

「新しい避暑地の話ですね。今、候補地を検討中なのです。ああ、それも…」


残念でならないというように頭を振ってみる。どうせ当たっているのだろう?


「…なるほどよくわかった。この企画書は、私が責任をもって適切に対処しよう。」


よし!これで、計画への賛同が得られた。ミレーナに目で合図をする。ミレーナは頷き話始めた。


「…エヴァン・ラドクリフ皇子殿下、聞いてください。私の地位を狙うものが、恐ろしい陰謀を企て、巧妙に私を貶めるために行動しているのです。王宮のメイドたちの証言もあります。そう、ヴィクター様の婚約者のセレナです!どうか、悲劇を防ぐため、協力していただけないでしょうか。心からのお願いです。」


いいぞ、ミレーナ!皇子が、お前の美貌と涙に心を動かされ、話に耳を傾けているぞ。


「そうか、その話も含めて、措置をとろう。」

「そうか!感謝する」



*****

ーsideエヴァン皇子ー



「…思っていたより愚かな王太子と婚約者でしたね。エヴァン様。頑丈で大きな馬車…くくっ」

「ああ、本当だ。あの王太子の婚約者候補だっただなんて、レティシアとセレナ嬢が哀れだな。」


杜撰な策略に、笑いをこらえているレオナードと共に、もう一度王への謁見を申し込みにいく。


「あの程度の策略で、セレナに立ち向かおうなんて、あーははは、あの2人、身の程知らずにもほどがある。やばいな、命を縮めたぞ。」


とうとう笑いをこらえきれなくなったレオナードが、腹を抱えて笑い出した。口調が乱れているぞ、レオナード。まぁ、しょうがないか。



「はぁ…、仮にも王太子だぞ?無理に知ろうとする必要はないが、世の中のことを何も知らない、世間知らずのままでいるのはどうなのだろうか…」


私は兄である第1皇子と、とても仲が良いというのに。
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