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30.ドナドナ
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ーside国王ー
「あら、仮病でしたか!?私はてっきり、生まれ持った病かと。危機が訪れたら安易で楽な道へと逃げる病。死ぬまで治らない不治の病…そうだわ、原因不明の不治の病。そういうことにしたらどうでしょう。」
「…ああ、そうだな。覚悟はできた。」
「仮病が治った後のことは、何も考えていないと思いますわ。そんな者が国王となり国が危機に陥ったら…考えただけでも恐ろしいこと、そうは思いませんか?」
冷たい視線と言葉が突き刺さる。
「わかった、静かで自然に囲まれたところで療養をさせる。クレスト地方はどうだろうか。」
緑豊かで人も少ない。商人もめったに訪れず、皆、自給自足に近い生活を送っている。
「ええ、賢明なご判断かと。病は治らないのですから、夜会に出る必要も着飾る必要もなく、ああ、お金も過剰に必要ないですわね。でも、想い合うミレーヌが傍で看病し、ずっと一緒にいてくれるのですもの今と変わりませんわ。地位やお金がなくても、幸せに暮らせるのではないでしょうか。」
「…ああ」
なぜこんなことに、何がいけなかったのか…
「親は私一人と甘やかし…王妃がいたら、違っていたのだろうか?」
一瞬の沈黙の後、セレナ嬢は静かに首を振った。
「王妃様…いえ、母がいないせいにするのは違うと思いますわ。」
「…そうか、そうだったな…」
深い後悔が押し寄せる。セレナ嬢の母はセレナ嬢が生まれてすぐ、儚く亡くなったのだった…。記憶にすらないだろう。
「私は、私のお母様が生きたこの国を捨てる気はありませんわ。もちろん、臣下としてこの国のために力を尽くすことはやぶさかではありません。そうですわね…妹君のご子息、幼いながら利発だと聞きました。陛下にはまだ頑張っていただくとして、幼いころからしっかりとした情操教育は、やはり大事だと思いますわよ。病を持ったものを更生させるより手っ取り早く安全策です。」
セレナ嬢は微笑を崩さず、楽しそうに続けた。
「まあ、そのようにがっかりなさらなくても、退位なさったらご一緒にという手もありますわね。ふふふ。」
…私に責任がないわけではない。私は、アレクに対し適切な支援や指摘、そして、親とし子への評価をきちんと行うべきだった。傍に寄り添って生きていくか…そうだな、切り捨てて終わりでは、あまりにも…
*****
ーsideミレーナー
外には一面の霧が広がっている。霧はまるで白いヴェールのように、静かに大地を包み、遠くの山々も霧に包まれ、ぼんやりとした輪郭だけが浮かび上がる。
心は重く、これから待ち受ける療養という名の日々に不安を覚えながら、馬車へ向かう。その時、馬車の近くに見慣れた2人を見つける。
「…セレナ、レティシア、なぜここに?」
人知れずアレク様と旅立とうと思っていたのに。
「あら、ミレーナを待ち伏せしてましたのよ、ふふ。私たち婚約者候補として共に学んだ仲ですもの。療養先、クレスト地方でしょう?遠く離れてしまうあなたを見送りに来たのですわ。ああ、もちろん王太子殿下のことも。」
華やかなドレスをまとった2人の微笑みには毒が含まれているようで、胸の内に冷たいものを感じた。
しかし、怒りもこみあげてくる。
「っ!セレナ!これは、あなたが仕組んだのでしょう。そうに決まっている。私たちの、私たちの幸せを返して!!」
声は震え、目には涙が浮かんでくる。
「あなたたちの幸せ?どうでもいいわ。私は私の幸せのために、あなたたちを犠牲にしてもちっとも構わないの。自らを省みず、私を蔑み陥れようとしたあなたたちを再び自分の人生に受け入れるという選択、私にはないわ。」
セレナの目には冷酷な光が宿っていた。
その時、もう一つの声が割り込んできた。どこか優しげで、しかし、どこか遠い存在のような心のこもらない響きの声。
「あらあら、そういうことを言わないのセレナ。ミレーナ、月日が経つとだんだんと忘れられていくわね、きっと。しだいに疎遠になる。寂しいわ」
*****
ーsideセレナー
『思ってもいないくせに!』『許せない!』無理やり乗せられた馬車の中で騒いでいる。好きなだけキーキー言うといいわ。王太子は病弱設定なのか全てを諦めたのか、魂が抜けたようになっている。一言も話さず、目も合わせず馬車に乗り込んだ。
ああ、見送りにヴィクター様をお誘いしなくてよかったわ。きっと、この姿を見たら後悔し、心を痛めてしまう。
王太子とミレーナをのせて、馬車が揺れる。
ふふ、遠ざかる馬車を見ながら、ヴィクター様から聞いた鉄道の話を思い出したわ。
2人とも私の敷いたレールの上に乗って、そのまま進んでいきなさい。
「あら、仮病でしたか!?私はてっきり、生まれ持った病かと。危機が訪れたら安易で楽な道へと逃げる病。死ぬまで治らない不治の病…そうだわ、原因不明の不治の病。そういうことにしたらどうでしょう。」
「…ああ、そうだな。覚悟はできた。」
「仮病が治った後のことは、何も考えていないと思いますわ。そんな者が国王となり国が危機に陥ったら…考えただけでも恐ろしいこと、そうは思いませんか?」
冷たい視線と言葉が突き刺さる。
「わかった、静かで自然に囲まれたところで療養をさせる。クレスト地方はどうだろうか。」
緑豊かで人も少ない。商人もめったに訪れず、皆、自給自足に近い生活を送っている。
「ええ、賢明なご判断かと。病は治らないのですから、夜会に出る必要も着飾る必要もなく、ああ、お金も過剰に必要ないですわね。でも、想い合うミレーヌが傍で看病し、ずっと一緒にいてくれるのですもの今と変わりませんわ。地位やお金がなくても、幸せに暮らせるのではないでしょうか。」
「…ああ」
なぜこんなことに、何がいけなかったのか…
「親は私一人と甘やかし…王妃がいたら、違っていたのだろうか?」
一瞬の沈黙の後、セレナ嬢は静かに首を振った。
「王妃様…いえ、母がいないせいにするのは違うと思いますわ。」
「…そうか、そうだったな…」
深い後悔が押し寄せる。セレナ嬢の母はセレナ嬢が生まれてすぐ、儚く亡くなったのだった…。記憶にすらないだろう。
「私は、私のお母様が生きたこの国を捨てる気はありませんわ。もちろん、臣下としてこの国のために力を尽くすことはやぶさかではありません。そうですわね…妹君のご子息、幼いながら利発だと聞きました。陛下にはまだ頑張っていただくとして、幼いころからしっかりとした情操教育は、やはり大事だと思いますわよ。病を持ったものを更生させるより手っ取り早く安全策です。」
セレナ嬢は微笑を崩さず、楽しそうに続けた。
「まあ、そのようにがっかりなさらなくても、退位なさったらご一緒にという手もありますわね。ふふふ。」
…私に責任がないわけではない。私は、アレクに対し適切な支援や指摘、そして、親とし子への評価をきちんと行うべきだった。傍に寄り添って生きていくか…そうだな、切り捨てて終わりでは、あまりにも…
*****
ーsideミレーナー
外には一面の霧が広がっている。霧はまるで白いヴェールのように、静かに大地を包み、遠くの山々も霧に包まれ、ぼんやりとした輪郭だけが浮かび上がる。
心は重く、これから待ち受ける療養という名の日々に不安を覚えながら、馬車へ向かう。その時、馬車の近くに見慣れた2人を見つける。
「…セレナ、レティシア、なぜここに?」
人知れずアレク様と旅立とうと思っていたのに。
「あら、ミレーナを待ち伏せしてましたのよ、ふふ。私たち婚約者候補として共に学んだ仲ですもの。療養先、クレスト地方でしょう?遠く離れてしまうあなたを見送りに来たのですわ。ああ、もちろん王太子殿下のことも。」
華やかなドレスをまとった2人の微笑みには毒が含まれているようで、胸の内に冷たいものを感じた。
しかし、怒りもこみあげてくる。
「っ!セレナ!これは、あなたが仕組んだのでしょう。そうに決まっている。私たちの、私たちの幸せを返して!!」
声は震え、目には涙が浮かんでくる。
「あなたたちの幸せ?どうでもいいわ。私は私の幸せのために、あなたたちを犠牲にしてもちっとも構わないの。自らを省みず、私を蔑み陥れようとしたあなたたちを再び自分の人生に受け入れるという選択、私にはないわ。」
セレナの目には冷酷な光が宿っていた。
その時、もう一つの声が割り込んできた。どこか優しげで、しかし、どこか遠い存在のような心のこもらない響きの声。
「あらあら、そういうことを言わないのセレナ。ミレーナ、月日が経つとだんだんと忘れられていくわね、きっと。しだいに疎遠になる。寂しいわ」
*****
ーsideセレナー
『思ってもいないくせに!』『許せない!』無理やり乗せられた馬車の中で騒いでいる。好きなだけキーキー言うといいわ。王太子は病弱設定なのか全てを諦めたのか、魂が抜けたようになっている。一言も話さず、目も合わせず馬車に乗り込んだ。
ああ、見送りにヴィクター様をお誘いしなくてよかったわ。きっと、この姿を見たら後悔し、心を痛めてしまう。
王太子とミレーナをのせて、馬車が揺れる。
ふふ、遠ざかる馬車を見ながら、ヴィクター様から聞いた鉄道の話を思い出したわ。
2人とも私の敷いたレールの上に乗って、そのまま進んでいきなさい。
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