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7.真実は微笑む
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side フェリシア
「……アリーを、これ以上傷つけるな」
静けさを切り裂くように、エリオット様が低く、けれどはっきりと声を上げた。その眼差しは怒りと、どこか焦燥を帯びていた。
ヴィアが、ゆったりと紅茶を口に運び、答える。
「それは、私に向けられた言葉かしら?」
ヴィアの声は、“剣”のように鋭かった。そして、それに切られたのを理解していないエリオット様は、ぎゅっと拳を握り、愚かにも応じる。
「そうだ。オリヴィア。友達になれると喜んできたアリーに対してのこの仕打ち。いや、今のことだけではない。貴様がアリーにしてきたことを、私は黙って見過ごすつもりはないぞ」
彼の口から飛び出したのは、あまりにも唐突な“糾弾”だった。
「学院の教師にあることないこと吹き込み、アリーが学院で不利になるように仕向けていると聞いた。アリーに嫉妬しているのか? 公爵家の令嬢だからといって、そんな横暴が許されるとでも思っているのなら、大間違いだ!!」
まあ、台詞回しは上々ね。
ランス様、コンラッド様も続く。
「爵位が下の者に横暴な振る舞い。なんて浅ましい。アリーみたいに愛らしく振る舞っていれば、ランチにも誘ってやったのに」
「贈り物も、惜しまず渡したさ」
聞けば聞くほど、愚かね。“くれてやる”婚約者へ施しのつもりかしら。それを誇らしげに言えるとは、令息教育はどうなっているの?
「それだけじゃないわ!」
――来たわ。ヒロイン。
アリー様が目元をぬぐいながら、演技がかった震え声で言う。
「学院の階段から、私を突き落としたわ。あの時、後ろにいたのは――オリヴィア様、あなただわ!」
それが“真実”かのように語られる。
「そんな人間が婚約者だなんて、ぞっとする。オリヴィアこの際だからはっきり言っておく。この先、私から愛されるだなんて期待しないことだ」
エリオット様が、ヴィアに指を指し、高らかに告げる。
「クラリス、お前もだ」
「ああ、もちろんカルラ、君にも同じことが言えるぞ」
その言葉の矛先は、ヴィアだけに留まらない。クラリス様、カルラ様にもそれぞれの婚約者から次々と矢が放たれる。
けれど、ヴィアたちは誰一人として動じなかった。紅茶を静かに置き、視線を彼らに向けた。
「あなたたちの話には、矛盾が多すぎるわ」
指先ひとつ動かさず、ただその場に在るだけで、空気が凛と引き締まる。先ほどまで自信満々に言葉を放っていた彼らが、目に見えて怯むのがわかる。
本番と、茶番の違いが、ようやく理解できたかしら?
――と、その瞬間。
「……証拠があるのか?」
場を裂くような、低く威厳ある声。言葉というより、宣告だった。振り返った誰もが、息を呑む。
芝の向こうから現れたのは、ヴィアの父、ディルク・ヴァロワ公爵。
その佇まいには、飾り気も芝居じみた誇張もない。ただ、立っているだけで“屈服”を強いる圧。私でさえ、自然と膝を閉じ背筋が伸びたほどだった。
「……公爵、閣下……」
エリオット様の喉が、情けなく鳴った音が聞こえた。威勢よく怒鳴っていたのが嘘のように、顔色が抜け落ちている。
公爵は、まず娘に一瞥を送る。
それから、エリオット様に冷ややかに問いを放った。
「君は、我が娘、オリヴィアが他者を傷つけたと言うのか。――ならば、その根拠を示してもらおう」
その声は冷静だ。怒鳴りも威圧もしない。だが、そこには“逃げ場のない追及”があった。
エリオット様の唇が震える。
「そ、それは……アリーが言っていたんです。彼女は、嘘をつくような子じゃない……!」
弱い。弱いわ。
論理も、証拠もない。ただ、“信じたい”という感情だけが先走るその姿に、思わず私は小さく笑いそうになる。
「……証言だけか。では尋ねよう。オリヴィアが突き落としたという場所の、監視魔具の記録はあるのか? 他の目撃者は?」
それは詰問ではなく、“判決前の確認”だった。公爵の言葉に、ランス様とコンラッド様が青ざめた顔を見合わせる。
クラリス様は涼やかにまばたきし、カルラは微笑んでゆるく首をかしげる。
そして、公爵がさらに一歩前へ進む。
「それから、エリオット、君は誰の婚約者だったか。かばう人間が違うのではないか? ――ああ、『公爵家がそんなに偉いのか』と口にしたのも君だったな?」
その言葉に、エリオット様の顔が引きつる。
「偉いかどうかは、今さら私が言うことでもあるまい。だが、どれほどの“影響力”を持っているか――君たちには、近いうちに身をもって知ることになるだろう。許されるだなんて、期待しないことだ」
「……っ!!」
「そこの者たちもだ。娘とその友人に放った言葉、まとめて、きちんと責任を取ってもらう」
言葉にされた未来予告に、アリー様の肩が小さく震える。目元を覆おうとした指先は、“涙”の余韻を引きずったまま止まっていた。
顔が真っ青ね。
一方のヴィアは、何もなかったかのように、紅茶をもう一度口にする。
『公爵様がいるなんて、聞いてない! 卑怯だ!』
エリオット様が声を抑え、ヴィアに詰め寄るが、それはただの負け犬の遠吠え。
聞いていないから何だというのかしら?
そもそもここは公爵家。公爵様の代わりの多くの目や耳があり、起こったことすべてが必ず報告されるというのに。招かれておいて、あんな大声を出すからよ。
「私はお父様を呼んでいないわ。ただ、今日の茶会に彼女とあなたたちを招いた。そして、たまたまお父様が通りかかった。それだけよ」
言い訳も、誇張もない。ただ事実を語るその声音が、何よりも強かった。
ふふ――そう、ヴィアはただ、舞台を整え、座して待っていただけ。
「……アリーを、これ以上傷つけるな」
静けさを切り裂くように、エリオット様が低く、けれどはっきりと声を上げた。その眼差しは怒りと、どこか焦燥を帯びていた。
ヴィアが、ゆったりと紅茶を口に運び、答える。
「それは、私に向けられた言葉かしら?」
ヴィアの声は、“剣”のように鋭かった。そして、それに切られたのを理解していないエリオット様は、ぎゅっと拳を握り、愚かにも応じる。
「そうだ。オリヴィア。友達になれると喜んできたアリーに対してのこの仕打ち。いや、今のことだけではない。貴様がアリーにしてきたことを、私は黙って見過ごすつもりはないぞ」
彼の口から飛び出したのは、あまりにも唐突な“糾弾”だった。
「学院の教師にあることないこと吹き込み、アリーが学院で不利になるように仕向けていると聞いた。アリーに嫉妬しているのか? 公爵家の令嬢だからといって、そんな横暴が許されるとでも思っているのなら、大間違いだ!!」
まあ、台詞回しは上々ね。
ランス様、コンラッド様も続く。
「爵位が下の者に横暴な振る舞い。なんて浅ましい。アリーみたいに愛らしく振る舞っていれば、ランチにも誘ってやったのに」
「贈り物も、惜しまず渡したさ」
聞けば聞くほど、愚かね。“くれてやる”婚約者へ施しのつもりかしら。それを誇らしげに言えるとは、令息教育はどうなっているの?
「それだけじゃないわ!」
――来たわ。ヒロイン。
アリー様が目元をぬぐいながら、演技がかった震え声で言う。
「学院の階段から、私を突き落としたわ。あの時、後ろにいたのは――オリヴィア様、あなただわ!」
それが“真実”かのように語られる。
「そんな人間が婚約者だなんて、ぞっとする。オリヴィアこの際だからはっきり言っておく。この先、私から愛されるだなんて期待しないことだ」
エリオット様が、ヴィアに指を指し、高らかに告げる。
「クラリス、お前もだ」
「ああ、もちろんカルラ、君にも同じことが言えるぞ」
その言葉の矛先は、ヴィアだけに留まらない。クラリス様、カルラ様にもそれぞれの婚約者から次々と矢が放たれる。
けれど、ヴィアたちは誰一人として動じなかった。紅茶を静かに置き、視線を彼らに向けた。
「あなたたちの話には、矛盾が多すぎるわ」
指先ひとつ動かさず、ただその場に在るだけで、空気が凛と引き締まる。先ほどまで自信満々に言葉を放っていた彼らが、目に見えて怯むのがわかる。
本番と、茶番の違いが、ようやく理解できたかしら?
――と、その瞬間。
「……証拠があるのか?」
場を裂くような、低く威厳ある声。言葉というより、宣告だった。振り返った誰もが、息を呑む。
芝の向こうから現れたのは、ヴィアの父、ディルク・ヴァロワ公爵。
その佇まいには、飾り気も芝居じみた誇張もない。ただ、立っているだけで“屈服”を強いる圧。私でさえ、自然と膝を閉じ背筋が伸びたほどだった。
「……公爵、閣下……」
エリオット様の喉が、情けなく鳴った音が聞こえた。威勢よく怒鳴っていたのが嘘のように、顔色が抜け落ちている。
公爵は、まず娘に一瞥を送る。
それから、エリオット様に冷ややかに問いを放った。
「君は、我が娘、オリヴィアが他者を傷つけたと言うのか。――ならば、その根拠を示してもらおう」
その声は冷静だ。怒鳴りも威圧もしない。だが、そこには“逃げ場のない追及”があった。
エリオット様の唇が震える。
「そ、それは……アリーが言っていたんです。彼女は、嘘をつくような子じゃない……!」
弱い。弱いわ。
論理も、証拠もない。ただ、“信じたい”という感情だけが先走るその姿に、思わず私は小さく笑いそうになる。
「……証言だけか。では尋ねよう。オリヴィアが突き落としたという場所の、監視魔具の記録はあるのか? 他の目撃者は?」
それは詰問ではなく、“判決前の確認”だった。公爵の言葉に、ランス様とコンラッド様が青ざめた顔を見合わせる。
クラリス様は涼やかにまばたきし、カルラは微笑んでゆるく首をかしげる。
そして、公爵がさらに一歩前へ進む。
「それから、エリオット、君は誰の婚約者だったか。かばう人間が違うのではないか? ――ああ、『公爵家がそんなに偉いのか』と口にしたのも君だったな?」
その言葉に、エリオット様の顔が引きつる。
「偉いかどうかは、今さら私が言うことでもあるまい。だが、どれほどの“影響力”を持っているか――君たちには、近いうちに身をもって知ることになるだろう。許されるだなんて、期待しないことだ」
「……っ!!」
「そこの者たちもだ。娘とその友人に放った言葉、まとめて、きちんと責任を取ってもらう」
言葉にされた未来予告に、アリー様の肩が小さく震える。目元を覆おうとした指先は、“涙”の余韻を引きずったまま止まっていた。
顔が真っ青ね。
一方のヴィアは、何もなかったかのように、紅茶をもう一度口にする。
『公爵様がいるなんて、聞いてない! 卑怯だ!』
エリオット様が声を抑え、ヴィアに詰め寄るが、それはただの負け犬の遠吠え。
聞いていないから何だというのかしら?
そもそもここは公爵家。公爵様の代わりの多くの目や耳があり、起こったことすべてが必ず報告されるというのに。招かれておいて、あんな大声を出すからよ。
「私はお父様を呼んでいないわ。ただ、今日の茶会に彼女とあなたたちを招いた。そして、たまたまお父様が通りかかった。それだけよ」
言い訳も、誇張もない。ただ事実を語るその声音が、何よりも強かった。
ふふ――そう、ヴィアはただ、舞台を整え、座して待っていただけ。
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