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25.露店巡り
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sideリディア
今日は学院外での活動がある。
特進クラスの生徒たちは、歴史ある聖堂を訪れ、講話を聞いた後、街へと繰り出し、露店を巡ることになっていた。学院が定めた社会勉強の一環であり、格式ばった勉学とは異なる実地での学びが求められる。
普段の生活で露店をまわることなど、まず無いに等しい。私たちは、ずっと露店巡りを楽しみにしていた。
「レオナード、この前の小テスト、覚えている? 今日は、私が気に入ったものを買ってくれる約束よ」
勝ち誇った笑みを浮かべながら振り返ると、レオナードはわざとらしく肩を落としてみせた。
「ああ、あの一問がなければ引き分けだったのに……」
彼はため息交じりにぼやくが、どこか楽しげでもある。ちなみにレオナードが勝ったら、一日”レオナード様”と呼ぶことになっていた。負けてもよかったのだけれど……ふふ。
「リディア、お前は俺の懐事情を知っていると信じているぞ」
「わかっているわ」
私はくすりと笑い、カタリナとともにアクセサリーの露店へと足を向ける。
石畳を踏みしめる音が心地よく響き、にぎやかな街の喧騒が耳に心地よい。店先にはさまざまな装飾品が並び、光を浴びた石がきらめいていた。
後ろから、レオナードとダリウスがゆったりとついてくる。
二人とも特に文句を言うこともなく、むしろ楽しんでいる様子だった。
そのとき、ある露店のネックレスが目に入った。私たちは自然と足を止める。
「お嬢さんたち、目が肥えてるね」
店主がにこりと笑いながら声をかける。並べられた品々の中でも、ひときわ美しく輝くネックレスを手に取り、私たちに見せた。
「他の店よりは割高だけど、これは本物の宝石だよ。加工をした時に出る小さな宝石を台座に隙間なく埋め込んでいるんだ。だから手頃な値段で提供できる」
「いいわね。リディア、これにしましょうよ」
カタリナが目を輝かせながら言う。その手にはすでにいくつかのネックレスが握られていた。
「カタリナのものは、私が買おう」
ダリウスが自然な仕草でそう言い、カタリナの持っているネックレスを覗き込む。
彼の手つきはどこか馴れていて、こうした買い物も珍しくはないのだろう。
「レオナードは、大丈夫?」
私は、ちらりと彼を見た。
「おいおい、俺はこれでも貴族の令息様だぞ。さすがにこのくらい、大丈夫だ。いくつ買うんだ?」
レオナードは少し得意げに笑う。懐事情は大丈夫そうね。
「一つで十分よ。ふふ」
その言い方がおかしく思わず笑ってしまった。再びネックレスに視線を落とす。
迷いながらも真剣に選んでいると、店主がふいに言った。
「選ぶなら直感を信じたほうがいい」
店主が得意気に言ったその言葉には妙な説得力があった。
「宝石とは、出会いだ。そして相性ももちろんある。何か願いを思い浮かべながら探すといい。ピンときたものが、お嬢さんたちの運命の宝石だろう」
「まあ! 素敵な考えね」
カタリナが感心したように言うと、店主は笑った。
「俺の嫁の受け売りだ。ははっ」
そう言いながら、照れくさそうに店主は鼻をかいた。
「リディア、どれにするんだ?」
隣に立ったレオナードが、少し身を屈めて覗き込む。
願い——その言葉に、胸が軋んだ。さっきまで輝いて見えていた宝石が、どれもこれも一瞬にして輝きを失ったようだった。
「……じゃあ、せっかくだから、レオナードに選んでもらおうかしら。ピンとくるものを選んで」
微笑みながら言うと、彼は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑って頷いた。
「おお、いいぞ。好みの色はあるか?」
「任せるわ」
「あー……、その、ブルーじゃなくていいのか?」
ブルー……
「……あまり好きな色ではないの。あっ、グリーンもやめて」
「ははっ、そうか」
急いで加えたその言葉に、レオナードは、可笑しそうに笑った。レオナードは真剣な表情になり、いくつものネックレスを手に取っては、慎重に選び始める。
やがて彼は、ひとつのネックレスを手に取る。
「これにする。どうだ?」
光が、宝石に反射して揺らめく。私は、受け取ったネックレスをじっと見つめる。レオナードが不安げにこちらを見る。
「他の物より高いわよ。・・・・・・本当にいいの?」
ちらりと彼を見上げると、レオナードは、気にも留めていないように笑っている。
「いいんだ、これで。ピンと来たんだ。お前を守ってくれるものだってな」
レオナードの言葉に、心が揺れる。ネックレスの宝石は静かに輝いていた。
「ふふ、きれいなアメジストだわ」
「そうだろ?」
レオナードは満足げに微笑んだ。
今日は学院外での活動がある。
特進クラスの生徒たちは、歴史ある聖堂を訪れ、講話を聞いた後、街へと繰り出し、露店を巡ることになっていた。学院が定めた社会勉強の一環であり、格式ばった勉学とは異なる実地での学びが求められる。
普段の生活で露店をまわることなど、まず無いに等しい。私たちは、ずっと露店巡りを楽しみにしていた。
「レオナード、この前の小テスト、覚えている? 今日は、私が気に入ったものを買ってくれる約束よ」
勝ち誇った笑みを浮かべながら振り返ると、レオナードはわざとらしく肩を落としてみせた。
「ああ、あの一問がなければ引き分けだったのに……」
彼はため息交じりにぼやくが、どこか楽しげでもある。ちなみにレオナードが勝ったら、一日”レオナード様”と呼ぶことになっていた。負けてもよかったのだけれど……ふふ。
「リディア、お前は俺の懐事情を知っていると信じているぞ」
「わかっているわ」
私はくすりと笑い、カタリナとともにアクセサリーの露店へと足を向ける。
石畳を踏みしめる音が心地よく響き、にぎやかな街の喧騒が耳に心地よい。店先にはさまざまな装飾品が並び、光を浴びた石がきらめいていた。
後ろから、レオナードとダリウスがゆったりとついてくる。
二人とも特に文句を言うこともなく、むしろ楽しんでいる様子だった。
そのとき、ある露店のネックレスが目に入った。私たちは自然と足を止める。
「お嬢さんたち、目が肥えてるね」
店主がにこりと笑いながら声をかける。並べられた品々の中でも、ひときわ美しく輝くネックレスを手に取り、私たちに見せた。
「他の店よりは割高だけど、これは本物の宝石だよ。加工をした時に出る小さな宝石を台座に隙間なく埋め込んでいるんだ。だから手頃な値段で提供できる」
「いいわね。リディア、これにしましょうよ」
カタリナが目を輝かせながら言う。その手にはすでにいくつかのネックレスが握られていた。
「カタリナのものは、私が買おう」
ダリウスが自然な仕草でそう言い、カタリナの持っているネックレスを覗き込む。
彼の手つきはどこか馴れていて、こうした買い物も珍しくはないのだろう。
「レオナードは、大丈夫?」
私は、ちらりと彼を見た。
「おいおい、俺はこれでも貴族の令息様だぞ。さすがにこのくらい、大丈夫だ。いくつ買うんだ?」
レオナードは少し得意げに笑う。懐事情は大丈夫そうね。
「一つで十分よ。ふふ」
その言い方がおかしく思わず笑ってしまった。再びネックレスに視線を落とす。
迷いながらも真剣に選んでいると、店主がふいに言った。
「選ぶなら直感を信じたほうがいい」
店主が得意気に言ったその言葉には妙な説得力があった。
「宝石とは、出会いだ。そして相性ももちろんある。何か願いを思い浮かべながら探すといい。ピンときたものが、お嬢さんたちの運命の宝石だろう」
「まあ! 素敵な考えね」
カタリナが感心したように言うと、店主は笑った。
「俺の嫁の受け売りだ。ははっ」
そう言いながら、照れくさそうに店主は鼻をかいた。
「リディア、どれにするんだ?」
隣に立ったレオナードが、少し身を屈めて覗き込む。
願い——その言葉に、胸が軋んだ。さっきまで輝いて見えていた宝石が、どれもこれも一瞬にして輝きを失ったようだった。
「……じゃあ、せっかくだから、レオナードに選んでもらおうかしら。ピンとくるものを選んで」
微笑みながら言うと、彼は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑って頷いた。
「おお、いいぞ。好みの色はあるか?」
「任せるわ」
「あー……、その、ブルーじゃなくていいのか?」
ブルー……
「……あまり好きな色ではないの。あっ、グリーンもやめて」
「ははっ、そうか」
急いで加えたその言葉に、レオナードは、可笑しそうに笑った。レオナードは真剣な表情になり、いくつものネックレスを手に取っては、慎重に選び始める。
やがて彼は、ひとつのネックレスを手に取る。
「これにする。どうだ?」
光が、宝石に反射して揺らめく。私は、受け取ったネックレスをじっと見つめる。レオナードが不安げにこちらを見る。
「他の物より高いわよ。・・・・・・本当にいいの?」
ちらりと彼を見上げると、レオナードは、気にも留めていないように笑っている。
「いいんだ、これで。ピンと来たんだ。お前を守ってくれるものだってな」
レオナードの言葉に、心が揺れる。ネックレスの宝石は静かに輝いていた。
「ふふ、きれいなアメジストだわ」
「そうだろ?」
レオナードは満足げに微笑んだ。
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