【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩

文字の大きさ
32 / 46

32.助けてまいりますわ

しおりを挟む
 煌びやかな大広間では、シャンデリアの光がまばゆく、招待客たちが華やかな装いで会話を楽しんでいる。シャルロットが小声で囁く。



「聞いた? エルミーヌ。もっと早く3人で揃えられましたのに。ですって」



 シャルロットが、扇子を口元に当てながら、不思議そうに言う。

 今回も聞き間違いじゃなかったわ。



「確か、一度しかお会いしていないはずですよね?」


「その通りよ。それなのに、3人で揃えるなんて発想、すごいわね」


 言葉には驚きが込められていた。


「布には目をつけていましたけれど、ドレスにまで目を向けていたなんて話は聞いていませんでしたわ」


「だめね。理解できないものを、無理に理解しようとしないほうがいいわ」

 シャルロットがため息をつく。



「同感です。いくら考えてもわからないのですもの」

 静かに頷く。そういえば……


 大広間の少し離れた一角で席に座っているアンナ様。遠巻きに見ている来賓の視線を全く気にする様子もなく、じっと椅子に腰かけていた。
 周りにいるのはご友人かしら。


「アンナ様、どうしてずっと座っていらっしゃるのかしら」



 シャルロットに声を潜めて尋ねた。


「私が調べたところによれば、王太子の婚約者候補の者は、他の人とあまり接触できない、秘密保持のため決まった場所から動けないそうよ」


「そんな決まり、聞いたことありませんわ。でも……最近できたのでしょうか」


 シャルロットは、笑いをこらえるように、口元に扇子を当てた。


「妃たちのどちらかの指示かもしれないわ。動き回って何かやらかしたら困るというところでしょう」


 まあ……。


「それにしても、指示を守って大人しく座っていらっしゃるなんて。アンナ様、えらいですわね」

 意外だわ。

 シャルロットは、笑いを堪え切れない様子で言った。



「ふふふ、小さい子じゃないんだから。そう言われると、アンナって子。なんだか、可愛らしく見えてきたわ」




 *****


「楽しそうね。何のお話かしら」


 アンナ様の様子を2人で観察していると、不意にロザリア王女が現れた。彼女が私たちに近づくと、大広間の空気がわずかに張り詰めた。

 彼女の気品ある佇まいが自然と人々の視線を集める。


「ロザリア王女、あそこに座っているのが、噂のアンナ様ですわ」


 控えめに説明する。


「まあ、小動物みたいね」


 ロザリア王女はアンナの方をじっと見つめ、柔らかく笑う。



「王太子の好みって、あんな感じなのね」


 そう言って、口元を扇で隠すその仕草に、どこか余裕が漂っている。



「ロザリア王女、まさか、自信をなくされたのかしら?」


 シャルロットが軽く冗談めかして尋ねると、王女は微笑んで肩をすくめた。



「ふふ、私が同じ土俵に立つ必要なんてないでしょう?」



 彼女の言葉にも、余裕が感じられた。頼もしいわ。



「ふふ、ではロザリア王女、続いてあちらをご覧ください、我が国の王太子ですわ」


「あら、顔はいいわね」


 ええ、王族はみな、美形ですもの。王家の血を引く公爵家の方々も美しい。



「私が手配をしておいた南国訛りのかたが、王太子に話しかけています。打合せ通り、今がチャンスですわ」


 シャルロットが視線を向ける先では、一人の男性が王太子に近づいて話しかけている。



「まあ、おろおろしていらっしゃるわね」


「王太子は標準の共通言語しか話せませんもの。周囲をきょろきょろ……あら、あの目線。私たちに助けを求めているようにも見えますわ」


 シャルロットがくすりと笑う。


 恥ずかしい話だが、王太子の言語能力は限られている。彼が流暢に扱えるのは母国語と大陸共通言語だけ。

 一方で、シャルロットと私は三か国語を話し、ロザリア王女に至っては五か国語を操る。



「あらあら、じゃあ、私が助けてまいりますわ」


 ロザリア王女は軽やかに微笑む。



「第一印象は大事ですものね。まあ、任せてちょうだい」



 そう言い残すと、彼女は優雅な足取りで広間の中央へと向かった。

 その動きは緩やかで、けれど視線を引きつける確かな力を持っている。まるで彼女を中心に、宴席の空気が引き寄せられていくかのようだった。

 視線を集めながら進むその姿は、舞台の主役さながらだった。



 一方で、ロザリア王女がそばを離れると、私たちのところには待っていたかのように人々が集まり始めた。



「シャルロット様、エルミーヌ様! そのドレスのこと、ぜひお話を聞かせてくださいませ!」

「なんて素晴らしいデザインでしょう。とても斬新ですわ」

「ですが、このデザインを着こなすには、お二人のような完璧なプロポーションが必要ですわね!」


「この布……これは噂のシルクではありませんこと?  こんなにふんだんに使われているなんて!」

「もしや、仕入れに特別な伝手があるのでは?」



 次々と質問が飛び交い、二人を取り囲む。

 ちらりとシャルロットと目を合わせ、小さく微笑む。


「王太子のことはロザリア王女にお任せすればよろしいですわね」

「ええ。私たちは私たちの持ち場でしっかり務めましょう」


 息を合わせるように頷くと、それぞれ微笑みを浮かべ、貴婦人や令嬢たちへと向き直った。



「こちらのデザインには、少々工夫がございますの。お分かりになりますか?」


「もちろん、この布についても特別なお話がございますわ。お気に召したのでしたら、ぜひお聞きくださいませ」




 優雅な仕草で扇子を広げながら、話を始めた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

諦めていた自由を手に入れた令嬢

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。 これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。 実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。 自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...