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33.内緒 side ヴィンセント
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side ヴィンセント
シャルロットとエルミーヌから少し離れた場所で2人を見守る。
ああ、ロザリア王女も動き出したな。
「なあ、ヴィンセント。シャルロットが言っていた、『前にお話ししたこと』とは、なんなんだ?」
横に立つフリードが、ぽつりと呟く。
「ああ、あれか」
少し考え込むように目を細めた。
****
ー数日前、公爵家にてー
「お兄様、焦燥感に駆られる話と腹立たしい話、どちらを先に聞きたい?」
シャルロットが、笑みを浮かべながら私に問いかける。
「その二択しかないのか? いや……それは私が聞かなければならない話なのか?」
苦笑しつつも迷いを見せた。正直どちらも興味がない。
「もう、優柔不断ね」
シャルロットは肩をすくめ、決断を促す。
「分かった。じゃあ、さっきの焦燥感に駆られる話と腹立たしい話を順番に話してくれ」
後味が悪そうだな。
「じゃあ、一つ目。エルミーヌが、次の婚約者を自分で選べるという王命が出たわ」
「何だって!」
眉間に皺が寄る。エルミーヌが? 婚約者を? 自分で? 誰を選ぶ? もはや想い人が!?
「二つ目。エルミーヌの父である侯爵が、彼女に年上の伯爵との縁談を持ち掛けようとしていたの。しかも後妻よ」
「何だって!!!」
表情は瞬時に険しくなり、言葉を失った。よりによってエルミーヌを後妻? 年上っていくつ上だ?
「だからね、お父様と私が手を回したの。夜会の手伝いの褒賞として『婚約者を自分で選んでよい』という王命を取り付けたのよ」
「……シャルロット、やるな」
呆れつつも、妹の行動力には感心せざるを得ない。
「どう? 焦ったでしょ。そして腹も立ったわよね」
シャルロットは満足げに微笑んだ。
「そうだな……全くその通りだ」
シャルロットが、さらに詳しい説明を続ける。
「王族たちに、侯爵のやり方をほのめかしておいたから、いずれ借用に気付くと思ったけど。思ったより早く気付いて、上手く動いてくれそうですわ」
「……王家の動きに詳しいな」
「何年も王宮にいましたのよ私。そのくらいは当然よ。将来のことを考えたら手ごまになりそうな者、数名くらい準備してありますわ。情報は筒抜けです。ふふ、そのうち、その者たちは、ロザリア王女に譲りますけど」
シャルロットは視線を上げ、少し得意げに笑う。
王妃になろうとしていた妹だ。それくらいは当然か。
「時に、借用とはなんだ?」
「それはね、エルミーヌの婚約者候補としての予算を、侯爵が『借用』という名目で受け取っていたのよ」
「はぁ?」
侯爵は、本当にエルミーヌの父なのか!? エルミーヌの負担にしかならないではないか。
「まあ、正確に言えば王家のお金というより、公爵家のお金と言ってもいいのだけれど。それは別にいいわ。国王陛下たちは、それを返してもらう算段を立てていますのよ。ええ。もちろん、私の計算通りにね」
何だか頭が混乱してきた。
だが、確実にはっきりしているのは、何としてでもエルミーヌに婚約者をして選んでもらう。それだけだ。
「と、いうことで、お兄様は、どうするの?」
シャルロットが淡々と言い放つ。
「……どうとは?」
「やだ! 今更? 家族みんな、気付いていますわよ。お兄様がどうしたいかを」
「今、私が、頭の中に浮かべていたことだろうか?」
「ええ、何のことだか分かりませんけど、きっとその通りですわ」
シャルロットは、口元を隠すように笑みを浮かべる。
「協力してあげてもいいですわよ。形がどう変わっても、私はエルミーヌと家族になりたいのです」
シャルロットは、はっきりとした口調で言い切る。
「お母さまも、エルミーヌを娘にする気満々ですわ。もし侯爵が、国王陛下たちに追い詰められて爵位返上となれば、当然エルミーヌにも影響が及びます。そうなれば、公爵家の養子にするのが最善でしょうね」
彼女は私の顔をじっと見つめ、少し肩をすくめた。
「……その場合、早くしないと兄妹にされてしまいますわよ」
「それは困る」
即答し、深く息をついた。
シャルロットはその反応に小さく笑う。
「お兄様の浮き名が邪魔ですわね。それさえなければ、もっと簡単なのに」
…。
「想いが叶わないからと愚かな真似をしたものですね。でも、後腐れがないようにしていたことだけは、褒めてあげますわ」
シャルロットの口調は淡々としていたが、その視線は兄を見下すような鋭さを持っていた。……甘んじて受け入れよう。
「エルミーヌは、俺のことをどう思っているだろうか」
ふと零れ落ちた言葉に、シャルロットは小さく息を吐いた。
「脈がないとは申しませんわ。でも、私が知っている噂は、きっとエルミーヌも知っていると思ってくださいませ。払拭するには、お兄様の努力次第ですわね」
……。その現実を突きつけられ、目を閉じた。
「とにかく! 夜会では、皆がどう動くのか細心の注意をしなくてはいけません。特に侯爵と婚約者にさせようとしている伯爵が怒って何かしでかすとも限りませんし、私一人では守り切れない状況になりましたら、お兄様! お願いしますよ」
当然だ!!
力強く頷く。
「それで、お前は、婚約者にフリードを選ぶのか?」
シャルロットは一瞬目を見開き、次の瞬間には微笑を浮かべた。
「内緒ですわ」
彼女のその一言には、多くの意味が含まれているように感じた。
「選んでやれ。あんなにわかりやすく一途だぞ。かわいそうじゃないか」
「……お兄様。私は、想いには応えられない立場でしたのよ。なのに、あの一途さは、ある意味、残酷だったとは思いませんか?」
シャルロットは静かに立ち上がり、背を向けた。
「お兄様とは種類は違いますけれど、フリードも悪い男だと、私は思っておりますわ」
振り返った妹はなんとも言えない微笑を浮かべていた。私は、妹を見つめながら、何と言ってあげればいいのか答えの見えない思いを抱えていた。
『それでも、お前はフリードを選ぶだろうな』
出かかった言葉は飲み込んだ。
*****
ー現在、再び大広間にてー
視線を戻し、フリードを見る。
「だから何の話なんだ、教えてくれよ?」
「……内緒だ」
フリードの文句を聞きながら、胸には、さまざまな思いが渦巻いていた。
エルミーヌとシャルロットの笑顔を見つめ、彼女たちのこれからの幸せを願い、決意を新たにした。
シャルロットとエルミーヌから少し離れた場所で2人を見守る。
ああ、ロザリア王女も動き出したな。
「なあ、ヴィンセント。シャルロットが言っていた、『前にお話ししたこと』とは、なんなんだ?」
横に立つフリードが、ぽつりと呟く。
「ああ、あれか」
少し考え込むように目を細めた。
****
ー数日前、公爵家にてー
「お兄様、焦燥感に駆られる話と腹立たしい話、どちらを先に聞きたい?」
シャルロットが、笑みを浮かべながら私に問いかける。
「その二択しかないのか? いや……それは私が聞かなければならない話なのか?」
苦笑しつつも迷いを見せた。正直どちらも興味がない。
「もう、優柔不断ね」
シャルロットは肩をすくめ、決断を促す。
「分かった。じゃあ、さっきの焦燥感に駆られる話と腹立たしい話を順番に話してくれ」
後味が悪そうだな。
「じゃあ、一つ目。エルミーヌが、次の婚約者を自分で選べるという王命が出たわ」
「何だって!」
眉間に皺が寄る。エルミーヌが? 婚約者を? 自分で? 誰を選ぶ? もはや想い人が!?
「二つ目。エルミーヌの父である侯爵が、彼女に年上の伯爵との縁談を持ち掛けようとしていたの。しかも後妻よ」
「何だって!!!」
表情は瞬時に険しくなり、言葉を失った。よりによってエルミーヌを後妻? 年上っていくつ上だ?
「だからね、お父様と私が手を回したの。夜会の手伝いの褒賞として『婚約者を自分で選んでよい』という王命を取り付けたのよ」
「……シャルロット、やるな」
呆れつつも、妹の行動力には感心せざるを得ない。
「どう? 焦ったでしょ。そして腹も立ったわよね」
シャルロットは満足げに微笑んだ。
「そうだな……全くその通りだ」
シャルロットが、さらに詳しい説明を続ける。
「王族たちに、侯爵のやり方をほのめかしておいたから、いずれ借用に気付くと思ったけど。思ったより早く気付いて、上手く動いてくれそうですわ」
「……王家の動きに詳しいな」
「何年も王宮にいましたのよ私。そのくらいは当然よ。将来のことを考えたら手ごまになりそうな者、数名くらい準備してありますわ。情報は筒抜けです。ふふ、そのうち、その者たちは、ロザリア王女に譲りますけど」
シャルロットは視線を上げ、少し得意げに笑う。
王妃になろうとしていた妹だ。それくらいは当然か。
「時に、借用とはなんだ?」
「それはね、エルミーヌの婚約者候補としての予算を、侯爵が『借用』という名目で受け取っていたのよ」
「はぁ?」
侯爵は、本当にエルミーヌの父なのか!? エルミーヌの負担にしかならないではないか。
「まあ、正確に言えば王家のお金というより、公爵家のお金と言ってもいいのだけれど。それは別にいいわ。国王陛下たちは、それを返してもらう算段を立てていますのよ。ええ。もちろん、私の計算通りにね」
何だか頭が混乱してきた。
だが、確実にはっきりしているのは、何としてでもエルミーヌに婚約者をして選んでもらう。それだけだ。
「と、いうことで、お兄様は、どうするの?」
シャルロットが淡々と言い放つ。
「……どうとは?」
「やだ! 今更? 家族みんな、気付いていますわよ。お兄様がどうしたいかを」
「今、私が、頭の中に浮かべていたことだろうか?」
「ええ、何のことだか分かりませんけど、きっとその通りですわ」
シャルロットは、口元を隠すように笑みを浮かべる。
「協力してあげてもいいですわよ。形がどう変わっても、私はエルミーヌと家族になりたいのです」
シャルロットは、はっきりとした口調で言い切る。
「お母さまも、エルミーヌを娘にする気満々ですわ。もし侯爵が、国王陛下たちに追い詰められて爵位返上となれば、当然エルミーヌにも影響が及びます。そうなれば、公爵家の養子にするのが最善でしょうね」
彼女は私の顔をじっと見つめ、少し肩をすくめた。
「……その場合、早くしないと兄妹にされてしまいますわよ」
「それは困る」
即答し、深く息をついた。
シャルロットはその反応に小さく笑う。
「お兄様の浮き名が邪魔ですわね。それさえなければ、もっと簡単なのに」
…。
「想いが叶わないからと愚かな真似をしたものですね。でも、後腐れがないようにしていたことだけは、褒めてあげますわ」
シャルロットの口調は淡々としていたが、その視線は兄を見下すような鋭さを持っていた。……甘んじて受け入れよう。
「エルミーヌは、俺のことをどう思っているだろうか」
ふと零れ落ちた言葉に、シャルロットは小さく息を吐いた。
「脈がないとは申しませんわ。でも、私が知っている噂は、きっとエルミーヌも知っていると思ってくださいませ。払拭するには、お兄様の努力次第ですわね」
……。その現実を突きつけられ、目を閉じた。
「とにかく! 夜会では、皆がどう動くのか細心の注意をしなくてはいけません。特に侯爵と婚約者にさせようとしている伯爵が怒って何かしでかすとも限りませんし、私一人では守り切れない状況になりましたら、お兄様! お願いしますよ」
当然だ!!
力強く頷く。
「それで、お前は、婚約者にフリードを選ぶのか?」
シャルロットは一瞬目を見開き、次の瞬間には微笑を浮かべた。
「内緒ですわ」
彼女のその一言には、多くの意味が含まれているように感じた。
「選んでやれ。あんなにわかりやすく一途だぞ。かわいそうじゃないか」
「……お兄様。私は、想いには応えられない立場でしたのよ。なのに、あの一途さは、ある意味、残酷だったとは思いませんか?」
シャルロットは静かに立ち上がり、背を向けた。
「お兄様とは種類は違いますけれど、フリードも悪い男だと、私は思っておりますわ」
振り返った妹はなんとも言えない微笑を浮かべていた。私は、妹を見つめながら、何と言ってあげればいいのか答えの見えない思いを抱えていた。
『それでも、お前はフリードを選ぶだろうな』
出かかった言葉は飲み込んだ。
*****
ー現在、再び大広間にてー
視線を戻し、フリードを見る。
「だから何の話なんだ、教えてくれよ?」
「……内緒だ」
フリードの文句を聞きながら、胸には、さまざまな思いが渦巻いていた。
エルミーヌとシャルロットの笑顔を見つめ、彼女たちのこれからの幸せを願い、決意を新たにした。
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