異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし

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一章・二人が出会いまして

『とても楽しい逃亡生活』

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 森の中を歩き続ける。
 空気がうまい!制約もない!俺は自由だ!!
 心のなかでスキップしながら一時間ほど歩いていると、記憶の通りに川を見付けた。

 この川は俺がさっきまで暮らしていた町、ハズル町へと続いている。
 そしてこの川をずっと遡っていくと、これから向かう街、ネクルスト街へと向かうことができる。

「ここで水を汲むの?」
「いんや、まだ汲まない。まだ水筒の水は減ってないから、減ったらな」
「ふーん」

 川の上流を見る。
 正直に遡ると森を抜けて道を歩くことになってしまう。
 道を歩くとどうしても町の連中と遭遇してしまう可能性が高い。
 さてどうしたもんか。

「…まだ早朝だし大丈夫か」

 人の往来はだいたい昼だ。

 川を横に進んでいく。
 小鳥がたくさん鳴いていて、ちょっとうるさい。
 けれどそれ抜きなら実に快適な環境だった。
 多分今がここにきて一番楽しい時間だ。
 やっぱり旅って良いな。
 思いきって逃げてきて正解だった。

「!」
「どうしたの?」
「しっ…」

 ドカドカと重そうな蹄の音が聞こえてくる。
 音を立てないようにゆっくり屈んで様子を伺う。

 ちょうど良い感じの岩があって良かった。
 その岩に身を隠しながら音の方向を確認すると、馬に乗ったセドナとボイドがいた。

「いたか!?」

 誰かに話しかけている。

 目を凝らすと、遠くから魔力消費の激しい飛行魔法でやってきたエリカに話し掛けていたようだ。
 普段疲れるー!とかいって全く使わなかったくせに。

「いなーい!もお!セドナに言われて東の道を封鎖してたのに、来る気配全く無いんですけどぉ!」
「はぁ!?じゃあまだ町中に居るってのかよ!」
「いや…どうだろう…」

 珍しくボイドが話し始めた。

「やつの隠れ家にも行ってみたが…、すでにもぬけの殻だった…」

 はぁ?こいつらやっぱり俺の洞窟も漁ったのか。最低だな。

 ボイドにセドナが詰め寄る。

「アレは見付けたのか!?」
「…いえ、小屋にも洞窟にもありません。きっとやつが今も持ち歩いているとしか」
「くそっ!あのやろう、木偶の坊の癖に最後まで手間を掛けさせやがって!! エリカ、そのまま道は封鎖!あとヤァドに北の道も封鎖しておくように言っておけ!」
「えええー!!もう疲れたよー!」
「このまま金の成る木を逃してたまるか!!」
「うー…、わかったわよぉ…」

 ブーブー文句を垂れながらエリカが町の方へと飛んでいく。
 セドナとボイドは向こう側を探すぞと馬を飛ばして去っていった。

「……まずい」
「ねぇ、今あの人達北の道も封鎖するって言ってたよね」
「ああ…」
「ターリャ達、捕まっちゃうの??」

 ターリャが不安げにしている。
 安心させないと。

「いいや、大丈夫だ。だけど、川を遡る作戦は止めるしかないな」

 とても残念だけど、捕まるリスクを少しでも減らさないと。
 それにしても、なんであいつらは俺をこんな必死で探してるんだ?
 アレっていうのも分からないし。

「よし、もう少し奥に行くぞ」
「うん」

 先程よりも周りの気配に気を付けながら奥へ奥へと進んでいく。
 ここまで足場が最悪だったら当然馬なんかでは来られないし、飛行魔法は心配だったけど、朝から使っているのなら今頃魔力切れでダウンしているだろう。
 心配しなくて良いと思うけど、あいつがコネ使って人を雇いだしたら困る。

(あいつ、ドケチで性格悪いけど、自分のためなら金を惜しまないんだよなぁ)

 良い性格してるぜ、ほんと。

「ん?」
「どうした?ターリャ」
「水の匂いがする」

 水の匂い!?

「方向は分かるか?」
「あっち」

 ターリャの指差す方向に向かう。
 すると、俺の耳にも水の音が聞こえてきた。

「ほんとにあった…」

 小さな小川がチョロチョロと流れている。
 小魚もいるし、この環境だと蜥蜴も蛇もたくさんいるだろう。
 ふっふっふっ。狩り放題だぜ。
 っと、その前に確認しないと。

「ん?え、なに?」

 鞄をおろして茂みに隠す。
 そしてターリャを下ろした。

「木に上って、位置を確認してくる。すぐ戻ってくるから座って待っててくれない?」
「う…うん」

 俺のマントを預けて、近くの木に登る。
 あっという間に頂上付近まで登ると、ハズル町と隣の町へ続く道を確認した。

「なるほど。こんなところにあったのか」

 普段は薬草師も来ない程の奥だ。
 妖魔も出やすいし、道もあるからわざわざここまで潜る人はいない。

 さて東の道はと視線を向けたら、柄の悪い取り巻きが彷徨いていた。
 良かった。あっちを選ばなくて。
 ここは森の中に隠れられるけど、向こうは小高い丘だからそうはいかない。
 運が良いな。

 北の道に視線を向けると、セドナとボイド。
 あそこを封鎖する感じか。

 コンパスで方向を確認して、木を降りた。

「だいたいの位置はわかった。行こうか」
「大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。問題ないよ」

 逃げることに掛けては、俺はプロだ。





 夜がきた。

「間一髪だったな」

 先程の光景を思い出す。

 コンパスを見ながら森を進んでる。
 小川は、メインの川と並走していた。
 最も小川は森の中を流れていたので草原の道を通らずに済んだ。
 道には東の道と同じく雇われたのかごろつきが居座っていた。
 ははは、無駄な苦労だったな。

「はぁー美味い」

 焼きトカゲチョー美味い!!
 笑いと蜥蜴が止まらない!!

「トキ嬉しそうだね」
「ふふふふふ。長年の夢が叶っているからね」
「じゃあ嬉しいね」

 ターリャも嬉しそうに笑いながらパンとチーズを食べている。
 明日は余裕が出るから果実も採ろう。
 あー!旅って楽しいいいい!!


 3日後。

 食べ物の問題も水の問題も解決!
 おまけに。

「もう平気そうだな。どう?」

 地面で軽く足踏みしているターリャ。
 何度も踏んで確かめてる。

「全然いたくない!トキは凄いよ!」
「いやいや」
「たくさん薬の草知ってるし、何でも食べられるし!ターリャもトカゲ食べれるようになりたい!」
「いや、ターリャは女の子だからトカゲは食べちゃいけません」
「えええ…」

 そんな残念そうにしてもダメ!

「うーん、でも靴がないからなぁ。とりあえず街に着くまではおぶさってて」
「わかった」

 そうして翌日、ターリャが「あれ?」と遠くを見ながら声をあげた。

「ねぇ、トキ」
「ん?」
「あれ」

 ターリャに指差された方向に目を向けると、馬車が溝に嵌まっていた。
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