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ぼっちと幼女と邪神
幼女と邪神と農作業
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「そんなことより、畑仕事始めるぞ」
「ほほう。逃げたの?」
「にげたー」
背後からの茶々をまとめて聞き流し、俺はひとつ息をついた。
別に逃げたわけじゃない。話を切り替えただけだ。
「シロとクレバスは右側の果物ゾーンを頼む」
「承知したのじゃ」
「収穫できそうなものがあれば採ってきて構わないからな」
「わーい!」
果物ゾーンは、今まで「食べてみて甘かったもの」だけを残して増やした場所だ。
色とりどりの実が、枝から下がったり地面すれすれで膨らんでいたりと賑やかに並んでいる。
この農業空間自体は、一辺十キロほどの閉じた世界だ。
曇りひとつない人工の空の下、地平線の向こうまで畝が続いているように見えるが、ちゃんと手を入れているのは入り口から一キロほどだけ。
奥のほうには、試験的に植えたまま放置している区画も多い。
種の周りだけ強烈な毒を持つ果物を見つけたこともあった。
うっかり多めに口にして、血を吐きながら痙攣して数分後に死んだのは、さすがに忘れられない。
復活してから、その品種は根こそぎ抜いた。
「俺とミドリは野菜ゾーンだな」
「やる……がんばる……!」
頭の上で、小さな拳がぎゅっと握られる。
疑似太陽からの光が降り注ぎ、土の匂いが微かに鼻をくすぐった。
しばらく歩き、まだ何も植えていない野菜ゾーンの一角まで進む。
「よし、この辺だな」
足を止め、魔力を練る。
土属性魔法を発動すると、地面がゆっくりと波打つように動き出した。
塊になっていた土が砕け、ひっくり返され、空気を含んで柔らかくなっていく。
耕された土に靴裏を押しつけると、ふかふかとわずかに沈んだ。
その上を滑るように、風魔法で種を運び、一定の間隔で落としていく。
重力魔法でほどよい深さまで沈め、水魔法で土の色が少しだけ濃くなる程度に湿らせる。
一通り作業が終わったところで、手を止めた。
「終了だ」
「おにいちゃ…!」
頭皮にじわりと痛みが走る。
ミドリが頬をふくらませ、俺の髪を指でつまんで引っ張っていた。
いつもの癖で、全部自分で片づけてしまったことにそこで気づく。
「ぼく、やる……! ゆった……!」
引っ張る力がすこしだけ強くなった。
言葉よりもよくわかる抗議だ。
「ごめんな。じゃあ一緒に収穫しようか?」
「ゆるす……」
短く答えると、髪から指が離れた。
収穫ができる区画まで歩く。
そこには、見慣れた葉の列が規則正しく並んでいた。
ここでは、前の世界で食べていた野菜に近づけるため、長い時間をかけて品種改良を繰り返してきた。
ニンジン、キャベツ、白菜、ピーマン、じゃがいも。
どれも今では、疑似太陽とこの土にすっかり馴染んでいる。
畝の端にある白菜の一つを軽く押してみる。
しっかり巻き、重さもある。今夜は鍋でも悪くない。
「おろして……」
額をとん、と叩かれた。
浮遊魔法でミドリの身体をふわりと浮かせ、そのまま地面に下ろす。
ミドリはすぐには動かず、見上げるようにこちらを見てきた。
「どれ、とる……?」
腰布の裾を小さくつまみ、首をこてんと傾げている。
その仕草に手が勝手に伸び、頭を軽く撫でた。
「この辺のは問題ないな。こうやって取るんだ」
ピーマンの実の根元をつまみ、ひねるようにして引き抜いて見せる。
ぷつんと小さな感触とともに、濃い緑の実が手のひらに収まった。
「……!」
ミドリの目がぱっと丸くなり、そのまま畝の前にしゃがみ込む。
まだぎこちない手つきで、ひとつずつピーマンを外し始めた。
亜空間からカゴを取り出し、収穫したものはそこに入れるよう伝える。
近くの畝には、蔓を伸ばしたスイカも並んでいた。表面を軽く叩くと、良さそうな音が返ってくる。二つほど選んで収穫しておく。
野菜の状態を見て回っていると、軽い足音が近づいてきた。
「おわった……!」
ピーマンの畝を見れば、実はすべてきれいに無くなっていた。
カゴの中には、山盛りになったピーマンがぎっしりと詰まっている。
「じゃあ次はこいつだ。こんな感じに採って、土を落として違うカゴに入れてくれ」
「いっぱいくっついてる……!」
じゃがいもの葉を掴んで引き抜いて見せると、土の中から根ごと芋がいくつも顔を出した。
ミドリも真似をして、根元を握りこんで足を踏ん張る。
根は深く、土もそこそこ固い。
しばらく唸りながら引っ張っていたが、茎はほとんど動かなかった。
「おにーちゃ……てつだって……!」
振り向いた顔には、ほんの少し汗が光っている。
「こうか?」
「ちがう……! うしろ……!」
正面からじゃなく、自分は先頭で抜きたいらしい。
ミドリの背後に回り込んで、腰のあたりをそっと支え、一緒に力を込める。
「んー……っ! ふわぁっ……!?」
「おっ?」
根が抜けた勢いで、ミドリの身体が後ろへと倒れ込んできた。
とっさに抱きとめるが、その拍子に跳ねた土が服や腕にまとわりつく。
見下ろせば、ミドリの髪にも細かい土がいくつもくっついていた。
「じゃりじゃりする…」
ミドリが腕をさすり、服の中の違和感を気にしている。
「この辺で切り上げて、先に風呂入るか?」
「そう、する……」
収穫したじゃがいもをまとめて亜空間にしまい、空間魔法で目の前に脱衣所へと繋がる扉を開く。
その前に、互いの服についた土を手で払った。ぱふん、と乾いた音を立てて土が舞い上がる。
「はい、ばんざーい」
「んっ……」
ミドリに両手を上げさせ、シャツをすっと脱がす。
脱いだシャツと、自分の腰布を魔導式洗濯機へ放り込んだ。
風呂場の扉を開けると、温かな湯気と木の香りが一気に押し寄せてくる。
農作業のあとでゆっくり浸かれるように、出かける前に湯は張っておいた。
ミドリもすべて脱ぎ終え、裸足のまま俺の隣に並ぶ。
肩が軽く触れ合った。
軽く息を吐き、濡れた床に足を滑らせないよう注意しながら、二人並んで浴室の中へ踏み入れた。
「ほほう。逃げたの?」
「にげたー」
背後からの茶々をまとめて聞き流し、俺はひとつ息をついた。
別に逃げたわけじゃない。話を切り替えただけだ。
「シロとクレバスは右側の果物ゾーンを頼む」
「承知したのじゃ」
「収穫できそうなものがあれば採ってきて構わないからな」
「わーい!」
果物ゾーンは、今まで「食べてみて甘かったもの」だけを残して増やした場所だ。
色とりどりの実が、枝から下がったり地面すれすれで膨らんでいたりと賑やかに並んでいる。
この農業空間自体は、一辺十キロほどの閉じた世界だ。
曇りひとつない人工の空の下、地平線の向こうまで畝が続いているように見えるが、ちゃんと手を入れているのは入り口から一キロほどだけ。
奥のほうには、試験的に植えたまま放置している区画も多い。
種の周りだけ強烈な毒を持つ果物を見つけたこともあった。
うっかり多めに口にして、血を吐きながら痙攣して数分後に死んだのは、さすがに忘れられない。
復活してから、その品種は根こそぎ抜いた。
「俺とミドリは野菜ゾーンだな」
「やる……がんばる……!」
頭の上で、小さな拳がぎゅっと握られる。
疑似太陽からの光が降り注ぎ、土の匂いが微かに鼻をくすぐった。
しばらく歩き、まだ何も植えていない野菜ゾーンの一角まで進む。
「よし、この辺だな」
足を止め、魔力を練る。
土属性魔法を発動すると、地面がゆっくりと波打つように動き出した。
塊になっていた土が砕け、ひっくり返され、空気を含んで柔らかくなっていく。
耕された土に靴裏を押しつけると、ふかふかとわずかに沈んだ。
その上を滑るように、風魔法で種を運び、一定の間隔で落としていく。
重力魔法でほどよい深さまで沈め、水魔法で土の色が少しだけ濃くなる程度に湿らせる。
一通り作業が終わったところで、手を止めた。
「終了だ」
「おにいちゃ…!」
頭皮にじわりと痛みが走る。
ミドリが頬をふくらませ、俺の髪を指でつまんで引っ張っていた。
いつもの癖で、全部自分で片づけてしまったことにそこで気づく。
「ぼく、やる……! ゆった……!」
引っ張る力がすこしだけ強くなった。
言葉よりもよくわかる抗議だ。
「ごめんな。じゃあ一緒に収穫しようか?」
「ゆるす……」
短く答えると、髪から指が離れた。
収穫ができる区画まで歩く。
そこには、見慣れた葉の列が規則正しく並んでいた。
ここでは、前の世界で食べていた野菜に近づけるため、長い時間をかけて品種改良を繰り返してきた。
ニンジン、キャベツ、白菜、ピーマン、じゃがいも。
どれも今では、疑似太陽とこの土にすっかり馴染んでいる。
畝の端にある白菜の一つを軽く押してみる。
しっかり巻き、重さもある。今夜は鍋でも悪くない。
「おろして……」
額をとん、と叩かれた。
浮遊魔法でミドリの身体をふわりと浮かせ、そのまま地面に下ろす。
ミドリはすぐには動かず、見上げるようにこちらを見てきた。
「どれ、とる……?」
腰布の裾を小さくつまみ、首をこてんと傾げている。
その仕草に手が勝手に伸び、頭を軽く撫でた。
「この辺のは問題ないな。こうやって取るんだ」
ピーマンの実の根元をつまみ、ひねるようにして引き抜いて見せる。
ぷつんと小さな感触とともに、濃い緑の実が手のひらに収まった。
「……!」
ミドリの目がぱっと丸くなり、そのまま畝の前にしゃがみ込む。
まだぎこちない手つきで、ひとつずつピーマンを外し始めた。
亜空間からカゴを取り出し、収穫したものはそこに入れるよう伝える。
近くの畝には、蔓を伸ばしたスイカも並んでいた。表面を軽く叩くと、良さそうな音が返ってくる。二つほど選んで収穫しておく。
野菜の状態を見て回っていると、軽い足音が近づいてきた。
「おわった……!」
ピーマンの畝を見れば、実はすべてきれいに無くなっていた。
カゴの中には、山盛りになったピーマンがぎっしりと詰まっている。
「じゃあ次はこいつだ。こんな感じに採って、土を落として違うカゴに入れてくれ」
「いっぱいくっついてる……!」
じゃがいもの葉を掴んで引き抜いて見せると、土の中から根ごと芋がいくつも顔を出した。
ミドリも真似をして、根元を握りこんで足を踏ん張る。
根は深く、土もそこそこ固い。
しばらく唸りながら引っ張っていたが、茎はほとんど動かなかった。
「おにーちゃ……てつだって……!」
振り向いた顔には、ほんの少し汗が光っている。
「こうか?」
「ちがう……! うしろ……!」
正面からじゃなく、自分は先頭で抜きたいらしい。
ミドリの背後に回り込んで、腰のあたりをそっと支え、一緒に力を込める。
「んー……っ! ふわぁっ……!?」
「おっ?」
根が抜けた勢いで、ミドリの身体が後ろへと倒れ込んできた。
とっさに抱きとめるが、その拍子に跳ねた土が服や腕にまとわりつく。
見下ろせば、ミドリの髪にも細かい土がいくつもくっついていた。
「じゃりじゃりする…」
ミドリが腕をさすり、服の中の違和感を気にしている。
「この辺で切り上げて、先に風呂入るか?」
「そう、する……」
収穫したじゃがいもをまとめて亜空間にしまい、空間魔法で目の前に脱衣所へと繋がる扉を開く。
その前に、互いの服についた土を手で払った。ぱふん、と乾いた音を立てて土が舞い上がる。
「はい、ばんざーい」
「んっ……」
ミドリに両手を上げさせ、シャツをすっと脱がす。
脱いだシャツと、自分の腰布を魔導式洗濯機へ放り込んだ。
風呂場の扉を開けると、温かな湯気と木の香りが一気に押し寄せてくる。
農作業のあとでゆっくり浸かれるように、出かける前に湯は張っておいた。
ミドリもすべて脱ぎ終え、裸足のまま俺の隣に並ぶ。
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