異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)

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ぼっちと幼女と邪神

幼女と邪神とお風呂

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「おーし、頭洗うぞー」
「うん……」

 野菜を収穫していたとき、最後のじゃがいもにとどめを刺したミドリが、見事に土まみれになった。服も髪も、指の先まで、しっとりと土色に染まっている。
 湯気で曇る浴室の中、丸椅子にちょこんと座ったミドリの頭に、たっぷりと泡の乗った俺の手が滑る。髪の根元に指を入れるたび、ざりっと細かい砂粒が指先にひっかかる。まだ完全には落ち切ってないらしい。

 ミドリはシャンプーの最中に目を開けるのが怖いのか、両手でぎゅっと顔を覆っている。顔と耳だけ、真っ赤だ。

 そのうちシャンプーハットでも作ってやるか、と頭の片隅でぼんやり考える。

「流すぞー」

 シャワーの角度を少し調整し、頭頂から静かに湯をかける。ぬるめの湯が泡をさらっていき、白い流れが首筋を伝って背中へ落ちた。

 指先で軽く髪を梳き、泡残りがないか確かめる。ざらりとしていた感触がなくなり、ようやく地肌の柔らかさだけが指に残った。

 ミドリのボディタオルを手に取り、石鹸を擦りつけて丁寧に泡立てる。妖精からもらった布だけあって、相変わらず肌当たりがやたらといい。

(ほんと、この布は有効活用できてるな……)

 今度、暇なときにでも、礼の一つくらい言いに行くか。

「前向けー」

 声をかけると、ミドリが小さく頷き、きゅるんとした動きでくるりと前を向いた。
 初めて風呂に入れたときは、くすぐったさで身をよじらせていたが、今日は肩の力が抜けている。泡の感触にもかなり慣れてきたらしい。

 肩、腕、背中と、上から順に優しくこすっていく。ときどき指先に肋骨が当たるたび、出会った頃の痩せ細った身体を思い出す。今は肌にうっすらと丸みが出てきているのが、何より嬉しい。

 全身を洗い終えてシャワーで泡を流すと、ミドリの表情がわずかに緩んだ。
 大げさに笑うわけではないが、口元がほんの少しだけ上がる。
 それが、ミドリの「満足」のサインだ。

 ボディタオルを元の場所に戻し、今度は自分のタオルを手に取る。

「先湯船に浸かっててもいいぞ?」
「まつ……」

 即答だった。
 目元にうっすらと名残惜しさが滲んでいる。どうやら、ひとりで先に入るつもりはないらしい。

「そっか」

 苦笑しながら、自分の頭をざっと洗い上げ、体を手早くこすって流す。

 その間にも、風呂場の外から小さな足音と、もう少し重い足取りが近づいてきた。
 扉ごしに伝わる気配から、シロとクレバスが来たのがわかる。

 体を流し終え、ミドリと並んで湯船に向かう。

「あぁー……生き返るわ……」
「ふぅ……」

 湯に浸かった瞬間、全身の力がふわりと抜ける。
 ミドリは当然のように俺の前に回り込み、背中を預けてきた。小さな背中が胸のあたりにぴたりと収まる。

 身長がまだ足りず、ひとりで座ると首元まで浸かってしまうからだ。
 初めて風呂に入ったときは、お湯の感触を確かめるように固まっていたのに、今では当たり前のように寄りかかってくる。
 食事も安定してきたおかげか、抱き上げたときの重みも、ようやく「子供らしい」重さになってきた。

 のんびりと湯に浸かっていると――。

「突撃なのじゃー!」
「のじゃー!」

 勢いよく扉が開き、派手な宣言とともにシロとクレバスが飛び込んできた。

 シロはそのまま滑り込むように浴槽へダイブ。
 クレバスは一歩目を踏み出したところでぴたりと固まり、こちらを見て目を丸くする。

「お主……もう入っておったんか……」
「ああ。シロを洗うの頼んだぞ」
「たのまれた!!」

 クレバスが返事をする前に、シロが胸を張って答えた。
 元気が有り余ってるにもほどがある。

 なんだかんだで、クレバスはシロの面倒をよく見ている。
 勝手についてきた邪神だが、今となっては、かなり当たりの拾い物だったと言っていい――拾ってないけど。

 ほどよく体が温まってきたところで、俺は片手を湯の上にかざした。
 空間がわずかに揺らぎ、亜空間からお盆とコップ、冷えたジュースの入った瓶がするりと出てくる。

 なんちゃって晩酌タイムの始まりだ。

「飲むか?」
「のむ……!」

 ミドリが背中にもたれかかったまま、小さく手を上げる。
 魔力でコップの中に氷を生成し、からん、と涼しげな音が鳴る程度に転がしてから、リンゴもどきのジュースを注ぐ。

 冷気が指先からじんわりと伝わってきた。

「ずっと持ってると冷たいから、飲まないときはこのお盆に置くんだぞ?」
「うん……!」

 コップを両手で包み込むように持ち、ミドリが小さく口をつける。
 喉がこくりと動き、ほっと息を吐く。くぴくぴと、幸せそうにジュースが減っていく。

 その様子を横目で見つつ、俺は別のお盆を出して、そちらに酒瓶を置いた。
 中身は自家製の米の酒だ。
 お盆の周囲に、こっそり結界を展開しておく。シロとミドリの手が届いても、触れないように。

「あー! ずるいー!」

 案の定、ジュースに気づいたシロが、湯の中から身を起こし、ミドリを指さして抗議の声を上げた。

 そのまま「とうっ」と掛け声をあげて浴槽のふちを蹴り、波を立てながらこっちに飛び込んでくる。

「ほれっ、シロの分だ」
「やったー!」

 シロの前にも、氷入りのジュースを注いだコップを出してやる。
 ミドリが少しだけ横にずれ、その空いたところにシロがすっぽり収まった。

 ……が、その背もたれ役には、クレバスでは少し高さが足りなかったらしい。
 シロはちゃっかり、俺の膝のほうに寄ってきている。

「妾の分はあるかのう……?」
「ないぞ」
「なんじゃと!?」
「嘘だ。ある」

 からかうように言いながら、酒のほうを指で示す。
 クレバスは「ほうほう」と意味ありげに頷きながら、俺の張った結界を堂々とすり抜け、酒瓶を掴み取った。

 面倒なのでツッコまないことにする。
 クレバスは自分のコップにとくとくと注ぎ、瓶を元の位置に戻してから、いつの間にか俺の左隣に腰を下ろした。

 シロとミドリはともかく、なぜお前まで当然のようにくっついてくるのか。
 肩が触れるほどの距離にぴったり張りついて座っている。もう酔ったのか、と一瞬思ったが、まだ一口も飲んでいない。

「クレバス」
「なんじゃ?」
「そんなにくっつく必要あるか?」
「お主から漏れてる神気を吸収しとるのじゃよ」

 ――今、聞き捨てならない単語が混じっていた気がする。

 俺から、神気。

 眉をひそめつつ、脳内でステータス画面を呼び出す。

―――――――――
名前:シュウ
種族:人神
Lv:8252
能力値
HP:表記不可
MP:表記不可
―――――――――

「あ?」

 見慣れた文字列の中に、見慣れない表記がひとつ。
 数百年前に確認したときは、たしか「人族?」みたいな微妙な書き方だったはずだ。

「妾と契りを結んだことによって種族が変化したと考えるのが適切かのう…」
「そんなことした覚えはないんだが……」
「この前寝ぼけて魂の盟約を結んでしまったんじゃ。すまんの」
「おい」

 さらっと爆弾を投げ込まれた。

 使い魔契約じゃなくて、魂の盟約。
 使い魔契約は主従関係で、主が死ねば契約も消える。
 対して魂の盟約は、立場は同等。輪廻をくぐって転生しても、契りはそのまま続く。
 その魂が存在する限り、切れない縁だ。

「妾みたいな信仰の薄れている邪神では存在を維持するのに自身の神気を消耗してしまっての…」
「維持できなかったらどうなるんだ?」
「消えてしまうのじゃ。唯一の神が死ぬ方法じゃの」

 神が死ぬ。
 それはつまり、魂ごと完全に消えてなくなるということだろう。

 この数日で、シロとミドリともすっかり打ち解けているクレバスが、ある日ふっと消える光景を想像してみる。
 ……うん、あまりいい絵面じゃない。

「そうか。特別に許そう」
「本当か!? ありがたいのう…お主の神気は心地よくての…」
「どうせ永遠に生き続けるんだ。神になろうと変わりはしないさ」
「……プロポーズか?」

 どこをどう解釈したらそういう方向に行くんだ、この邪神は。
 完全に色ボケの発想だ。

「さて、そろそろ夕飯の準備をするか」
「無視は寂しいのう!」
「きょうはなにー?」
「鍋だ」

 シロがぱぁっと顔を輝かせる。
 出汁をとって、肉を薄く切って、野菜も山ほど使う。さっき収穫したばかりのピーマンも、上手く紛れ込ませられそうだ。

 ジュースを飲み終えたシロとミドリを、それぞれ片腕で脇に抱え込み、そのまま湯から引き上げる。
 床に水滴が落ちないよう、足元にだけ軽く風魔法をかけてから、風呂場の扉を開けた。

 クレバス? 知らん。

「何故じゃ!? 浴槽から出れんのじゃが!??」

 背後から情けない悲鳴が上がる。
 湯船の周囲に張っておいた、簡易の結界がしっかり仕事をしているらしい。

 来たければ、自力で壊してから来ればいい。
 元世界神なら、そのくらい朝飯前だろう――たぶん。
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