毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第二章 魔王と勇者

第九話 罪と試練

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世界は三つの層で構成される。
最上層──天界。
そこは白亜の城と無限の光に満ち、神々と天使が秩序を守護する地。
中層──地上。
人間、獣人、亜人が暮らし、多様な文明と文化を育む場所。
最下層──魔界。
深紅の大地と闇の海が広がり、強大な魔力と魔物が支配する世界。

かつて天界は三界すべてを統べていた。
だが長い年月の中で秩序は腐敗し、地上と魔界は鎖を断ち切った。
魔界は混沌の時代を経て、七柱の強者──**「七つの罪」を冠する魔王たち**によって均衡が保たれるようになった。

彼らの使命は征服ではなく、領土と民を護ること。
均衡を保ち、外敵──特に天界や地上からの侵攻に備えることこそが役目だった。



天界での回想

ユスティティアは今も、あの日の冷たさを忘れられない。
高天原の中央、白銀の法廷。
半透明の大理石の床に黄金の光が幾筋も差し込む中、並ぶのは白き羽根を持つ審問官たち。
最奥の玉座には、純白の王冠を戴く最高審問官リグラディウスが座していた。

「天の審問官、ユスティティア」
「……はい」

「汝は『神罰の権限』を越え、自らの判断で王族を裁いた」
「罪ある者を裁くことこそ、我らの役目では?」
「王族は天の秩序の象徴だ。その血を裁くは、王のみの権限」

彼女は一歩踏み出し、瞳を鋭く細めた。
「……もしその王が腐敗し、民を虐げるなら?」

「天の秩序を守るため、沈黙することも正義だ」

「いいえ、それは臆病と偽善の名で塗られた裏切りです」

法廷がざわめく中、傍らに立つ一人の天使が冷笑を浮かべた。
銀髪の男、アルセリオス──当時の同僚であり、彼女と幾度も審問を共にした者だ。

「……君は、いつもそうだな。正義に酔って破滅する」

「アルセリオス、あなたは……見て見ぬふりを選ぶのね」

リグラディウスの声が響く。
「汝を堕天させ、天の籍を抹消する」

光が途絶え、翼が裂かれ、天から落下する感覚。
白い羽根が炎に包まれ黒く焼け落ちていく瞬間、彼女は笑った。

「ならば私は……私の正義を貫くだけよ」

そうして地上に落ちるのと同時にユスティティアの魂は砕け散り、いく歳を経て違う世界で人間として生まれた。
その魂のカケラを抱きながらこの世界に魔物として転生したのだ。


黒玉宮・魔王会談

 深紅の絨毯が敷かれた広間には、七つの玉座が半円を描くように並んでいた。
 闇を裂くように差し込む燭台の光が、玉座に座る者たちの輪郭を浮かび上がらせる。

 中央に座るのは――憤怒の魔王、ユスティティア。
 紅蓮の瞳が、他の六柱をゆっくりと見渡す。
炎獄領アグナ・レギアを治める彼女は、裁きの剣を携え、ここにいる全員の沈黙を支配していた。

 右隣には、かつて天界で同僚だった傲慢の魔王、アルセリオス。
 黄金の威光を纏い、白金の鎧をきらめかせるその姿は、天使だった頃と何一つ変わらない。
 ――天界時代、私は彼と幾度も意見をぶつけた。
正義の意味を問うたあの日々が、今も胸に残っている。

「相変わらず、硬い表情だな、ユスティティア」
「必要な時だけ、笑えばいい」
 二人の短いやり取りに、他の魔王たちがわずかに視線を交わす。

 さらに隣、巨躯の男――強欲の魔王、ガルディアン。
 黄金領オルド・アウラムを守る彼は、財宝と知識を収集することに心血を注ぐ。
 彼の背後には、無数の魔具を収納した転移門が静かに揺れていた。

 反対側の席では、淡い紫のローブに身を包む怠惰の魔王、ミゼリスが欠伸を噛み殺している。
 時すら止めるその力は、今も彼の動かぬ瞳の奥に潜んでいた。
「……話を早く済ませてくれ。眠気が……」
 誰も咎めない。彼が本気を出せば、この会談の時間すら止まってしまうのだから。

 左奥には、暴食の魔王、グラトーラ。
 赤銅色の髪を振り乱し、椅子に腰掛けながら葡萄を丸ごと噛み砕く姿は豪快そのものだ。
「人間界の食糧事情……最近は面白い素材が増えてきたな」
 彼女の言葉には、食欲だけでなく、戦と支配への渇望も滲んでいた。

 その隣には、色欲の魔王、ヴェリアン。
 中性的な美貌の青年は、微笑だけで場の空気を柔らかく、そして甘く変えていく。
「人間界の王族を幾人か、すでに取り込んでおいた。情報は後で送る」
 軽い口調の裏には、計算し尽くされた策略が透けて見えた。

 最後に――嫉妬の魔王、イラエル。
 碧眼の青年は黒鏡を手に、ユスティティアを見据える。その視線には、ただの敵意ではない、執着にも似た感情が宿っていた。
「……今回も、君が動くのか」

「必要があれば、ね」
 互いの言葉は短く、それでいて火花を散らすような鋭さを帯びていた。

 七つの罪を冠する魔王たち。
 彼らは領土を奪い合うために集まったのではない。
 それぞれが守るべき領域と均衡を保つため――そして、人間界と魔界の境界を揺るがす新たな脅威に備えるために、ここにいる。

深紅の絨毯が広間を覆い、七つの玉座が半円を描くように並んでいる。
 燭台の炎が闇を裂き、魔王たちの影を長く伸ばしていた。

 中央に座すのは――憤怒の魔王、ユスティティア。
 紅蓮の瞳で他の六柱をゆっくりと見渡し、微かに笑みを浮かべる。

「――では、第一の議題ね。
私の“魔王位”について、皆さんの意見を伺いたいわ」

 傲慢の魔王、アルセリオスがすぐに前のめりになる。
「お前の力は認める。だが“継承”という形を取る以上、魔界全域の承認が必要だ」

「承認……そう、必要なら手順は踏むわ。
でも……力で押し通すことだって、できなくはないのよ?」
 ユスティティアの淡く微笑む口調に、暴食の魔王グラトーラが豪快に笑った。
「ははっ、いいじゃねぇか。あんたみたいな奴がいる方が、魔界も面白くなる」

 怠惰の魔王ミゼリスは、半眼のまま低く呟く。
「……面倒ごとは嫌いだが、あんたなら動く時は確実だ。俺は賛成だ」

 しかし色欲の魔王ヴェリアンは、艶やかな笑みを浮かべて首を横に振る。
「力だけでは均衡は保てないわ。あなたの“正義”が、私たちに牙を向けない保証はどこにあるの?」

 最後に嫉妬の魔王イラエルが冷ややかに言い放つ。
「反対だ。……君は感情に傾きすぎる。天界時代からそれは変わらない」

 ユスティティアは静かに視線を返し、少しだけ目を細める。
「……反対も賛成も、どちらでもいいわ。ただ――この椅子に座れるのは、力と意志を持つ者だけ。それが魔界の掟でしょう?」
 その一言に、議題はひとまず保留とされた。



「次の議題……人間界における“邪神教団”の動向についてね」

 強欲の魔王ガルディアンが、机上に魔術投影を浮かべる。
 そこには黒衣の集団が儀式を行う光景が映し出されていた。

「やつらは“邪神復活”を謳い、信者を増やしている。
いくつかの小国では既に政権に食い込んでいるようだ」
「馬鹿げてる……けれど、放置すれば均衡は崩れるわ」
ミゼリスがぼそりと呟く。

「面白いわね」
ヴェリアンが唇を吊り上げる。
「彼らを使えば、人間界の秩序なんて簡単に揺らぐわ」

「遊びじゃない。復活されれば我々も無傷では済まん」
アルセリオスが制す。

 ユスティティアは組んだ腕を解き、ゆっくりと立ち上がる。
「……なら、私が行くわ。人間界に潜入して、直接確かめる」

 数名の魔王がざわめく。
「直々に動くとは、何かもくろみがあるのか?」
ガルディアンが目を細めた。

「必要だからよ。
私の目で見て、私のやり方で判断する。
それだけのこと。」

ユスティティアの提案で会議は終わりを告げた。
誰も反対はしなかった。
どれほどの者なのか、魔王達はユスティティアに関心を注いでいる。

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