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第二章 魔王と勇者
第十六話 募る思い
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ギルドの夕暮れ
夕陽がカウンター越しに差し込み、受付の帳簿に橙色の影を落とす。
ティアは書類を束ねながら、ロディアスが近づいてくるのを横目で見た。
「……明日の朝には出発だ」
その声はいつもより低く、短い。
ティアは顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
「そう。
じゃあ、しばらくは静かになるわね」
「……静かになって、寂しくならないか?」
その真っ直ぐな視線に、ティアはわずかに視線を逸らす。
「寂しい? あなた、自分を何様だと思ってるの」
口調は冷たく装ったが、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。
ロディアスは笑って、しかし真剣な声で言った。
「必ず戻る。約束だ」
その言葉が、何故か心に引っかかる。
ティアはわざと軽口で返した。
「ふん、無事に戻ったら……お茶ぐらいは奢ってあげるわ」
ロディアスの表情がぱっと明るくなる。
「よし、約束だな!」
彼が背を向けてギルドを出て行くのを見送りながら、ティアは自分でも信じられないほど小さく呟いた。
「……必ず、ね」
夜の路地裏にて
月明かりに照らされた石畳の通り。
仕事を終えたティアは、薄い外套を羽織って帰路についていた。ギルドの賑やかな声も遠く、街は眠りに入ろうとしている。
その時——空気が変わった。
肌を刺すような圧迫感。冷たく、重く、そして禍々しい気配が背後から迫る。
「……やっと見つけた」
振り返ると、漆黒の外套をまとった男が、闇の中に立っていた。
紅く光る双眸が、じっとティアを射抜く。
「邪神教団……」ティアは小さく呟いた。
男は笑う。
「我は四邪王の一人、オルガルド
勇者と仲睦まじくしている受付嬢……いや、“何かを隠している女”か」
「……何の話かしら」ティアは表情を崩さず答えるが、目だけは鋭く光る。
オルガルドは一歩踏み出し、愉快そうに口角を上げた。
「ふん……勇者の視線。あれは特別な者にしか向けぬ光だ。つまり……お前は勇者の“弱点”だ」
その瞬間、路地の上空から金色の閃光が降りる。
「ティア様!」
セリアの鋭い声と共に、彼女がオルガルドの前に立ちはだかる。
続いてカイン、そして双子の姉妹リシェルとルシェルが闇の中から現れ、四方を囲む。
オルガルドの紅い瞳が僅かに細められた。
「ほう……護衛付きか。やはり只者ではない」
そして——。
「何者だ!」
路地の入口から駆け込んできたロディアスの声が響く。
後ろには息を切らせた勇者パーティーの三人、アリス、マイク、バレスティーの姿。
オルガルドは、彼らを見て口元を歪めた。
「勇者ロディアス……面白い。
弱点を見つけたぞ」
その言葉を最後に、彼の身体は黒い霧となって掻き消えた。
残されたのは、張り詰めた空気と、胸の奥に沈む不穏な言葉。
——勇者の弱点。
ティアは、何故か胸の奥がざわつくのを感じた。
弱点だと言われて、否定するはずなのに……その言葉が妙に重く響く。
黒い霧が完全に消え去り、夜の静けさが戻る。
だが、その場に立つ全員の胸中には、先ほどの言葉が深く刻まれていた。
「ティア、大丈夫か!? 怪我はないか!?」
駆け寄ってきたロディアスが、息を荒げながら彼女の肩を掴む。
その瞳には、明らかな動揺と焦りが滲んでいた。
ティアは小さく首を振り、わざといつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……平気よ。
ほら、ちゃんと立ってるでしょう?」
「でも、あいつはお前を狙って——」
「ロディアス」
ティアは彼の言葉をやんわり遮った。
「私は大丈夫。
あなたはあなたの使命に集中して」
その言葉は柔らかいが、どこか決意を帯びた響きを持っていた。
ロディアスは、唇を噛み、何かを言いかけてやめる。
彼女の瞳の奥に、自分が立ち入ってはいけない壁のようなものを感じ取ったからだ。
「……わかった。でも、危ないことはするな」
「約束はできないわね」
ティアは冗談めかして笑うが、その笑みの奥には微かな影が差していた。
背後で、臣下たちが静かにロディアスの様子を観察していた。
彼がこれ以上ティアの内側に踏み込むことを、誰もが本能的に警戒している。
——勇者の弱点。
その言葉は、ティアの胸中で何度も繰り返されていた。
だが、それを顔には出さず、彼女は一歩ロディアスから距離を取った。
その夜、ギルド裏の小さな路地。
薄暗い影の中で、セリア、カイン、そして双子のリシェルとルシェルが顔を寄せ合っていた。
「……あの勇者、やっぱりティア様に気があるわね」
セリアが腕を組み、眉間に皺を寄せる。
「気があるなんてもんじゃない。あれはもう、尻尾振ってる犬だ」
カインがぼそっと呟くと、双子がくすくす笑った。
「ねぇ、いっそ脅して追い払えば?」
「ダメよ、そんなことしたらティア様が怒る」
「じゃあ……“偶然”落とし穴に落ちてもらうとか?」
「いや、それもバレるだろ」
リシェルとルシェルが提案を出すたびに、カインが即座に却下する。
その様子は、作戦会議というより、悪戯相談に近かった。
「……しかし、あいつが勇者だから厄介なのよ」
セリアが低く呟く。
「力もあって、真っ直ぐで……ああいうの、ティア様ちょっとだけ弱いからな」
カインの言葉に、全員が同時に「うーん」と唸った。
「じゃあ、こうしましょう」
セリアが扇子で口元を隠し、目を細める。
「我々で“勇者観察班”を作るのよ。
行動を逐一監視し、不審な接近を阻止する」
「わぁ、それ楽しそう」
「私たち、影から飛び出して『危険です!』って止める役ね」
双子が満面の笑みを浮かべると、カインは額を押さえた。
こうして、ティアの知らぬところで「勇者接近阻止作戦」が静かに始動したのだった——。
夕陽がカウンター越しに差し込み、受付の帳簿に橙色の影を落とす。
ティアは書類を束ねながら、ロディアスが近づいてくるのを横目で見た。
「……明日の朝には出発だ」
その声はいつもより低く、短い。
ティアは顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
「そう。
じゃあ、しばらくは静かになるわね」
「……静かになって、寂しくならないか?」
その真っ直ぐな視線に、ティアはわずかに視線を逸らす。
「寂しい? あなた、自分を何様だと思ってるの」
口調は冷たく装ったが、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。
ロディアスは笑って、しかし真剣な声で言った。
「必ず戻る。約束だ」
その言葉が、何故か心に引っかかる。
ティアはわざと軽口で返した。
「ふん、無事に戻ったら……お茶ぐらいは奢ってあげるわ」
ロディアスの表情がぱっと明るくなる。
「よし、約束だな!」
彼が背を向けてギルドを出て行くのを見送りながら、ティアは自分でも信じられないほど小さく呟いた。
「……必ず、ね」
夜の路地裏にて
月明かりに照らされた石畳の通り。
仕事を終えたティアは、薄い外套を羽織って帰路についていた。ギルドの賑やかな声も遠く、街は眠りに入ろうとしている。
その時——空気が変わった。
肌を刺すような圧迫感。冷たく、重く、そして禍々しい気配が背後から迫る。
「……やっと見つけた」
振り返ると、漆黒の外套をまとった男が、闇の中に立っていた。
紅く光る双眸が、じっとティアを射抜く。
「邪神教団……」ティアは小さく呟いた。
男は笑う。
「我は四邪王の一人、オルガルド
勇者と仲睦まじくしている受付嬢……いや、“何かを隠している女”か」
「……何の話かしら」ティアは表情を崩さず答えるが、目だけは鋭く光る。
オルガルドは一歩踏み出し、愉快そうに口角を上げた。
「ふん……勇者の視線。あれは特別な者にしか向けぬ光だ。つまり……お前は勇者の“弱点”だ」
その瞬間、路地の上空から金色の閃光が降りる。
「ティア様!」
セリアの鋭い声と共に、彼女がオルガルドの前に立ちはだかる。
続いてカイン、そして双子の姉妹リシェルとルシェルが闇の中から現れ、四方を囲む。
オルガルドの紅い瞳が僅かに細められた。
「ほう……護衛付きか。やはり只者ではない」
そして——。
「何者だ!」
路地の入口から駆け込んできたロディアスの声が響く。
後ろには息を切らせた勇者パーティーの三人、アリス、マイク、バレスティーの姿。
オルガルドは、彼らを見て口元を歪めた。
「勇者ロディアス……面白い。
弱点を見つけたぞ」
その言葉を最後に、彼の身体は黒い霧となって掻き消えた。
残されたのは、張り詰めた空気と、胸の奥に沈む不穏な言葉。
——勇者の弱点。
ティアは、何故か胸の奥がざわつくのを感じた。
弱点だと言われて、否定するはずなのに……その言葉が妙に重く響く。
黒い霧が完全に消え去り、夜の静けさが戻る。
だが、その場に立つ全員の胸中には、先ほどの言葉が深く刻まれていた。
「ティア、大丈夫か!? 怪我はないか!?」
駆け寄ってきたロディアスが、息を荒げながら彼女の肩を掴む。
その瞳には、明らかな動揺と焦りが滲んでいた。
ティアは小さく首を振り、わざといつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……平気よ。
ほら、ちゃんと立ってるでしょう?」
「でも、あいつはお前を狙って——」
「ロディアス」
ティアは彼の言葉をやんわり遮った。
「私は大丈夫。
あなたはあなたの使命に集中して」
その言葉は柔らかいが、どこか決意を帯びた響きを持っていた。
ロディアスは、唇を噛み、何かを言いかけてやめる。
彼女の瞳の奥に、自分が立ち入ってはいけない壁のようなものを感じ取ったからだ。
「……わかった。でも、危ないことはするな」
「約束はできないわね」
ティアは冗談めかして笑うが、その笑みの奥には微かな影が差していた。
背後で、臣下たちが静かにロディアスの様子を観察していた。
彼がこれ以上ティアの内側に踏み込むことを、誰もが本能的に警戒している。
——勇者の弱点。
その言葉は、ティアの胸中で何度も繰り返されていた。
だが、それを顔には出さず、彼女は一歩ロディアスから距離を取った。
その夜、ギルド裏の小さな路地。
薄暗い影の中で、セリア、カイン、そして双子のリシェルとルシェルが顔を寄せ合っていた。
「……あの勇者、やっぱりティア様に気があるわね」
セリアが腕を組み、眉間に皺を寄せる。
「気があるなんてもんじゃない。あれはもう、尻尾振ってる犬だ」
カインがぼそっと呟くと、双子がくすくす笑った。
「ねぇ、いっそ脅して追い払えば?」
「ダメよ、そんなことしたらティア様が怒る」
「じゃあ……“偶然”落とし穴に落ちてもらうとか?」
「いや、それもバレるだろ」
リシェルとルシェルが提案を出すたびに、カインが即座に却下する。
その様子は、作戦会議というより、悪戯相談に近かった。
「……しかし、あいつが勇者だから厄介なのよ」
セリアが低く呟く。
「力もあって、真っ直ぐで……ああいうの、ティア様ちょっとだけ弱いからな」
カインの言葉に、全員が同時に「うーん」と唸った。
「じゃあ、こうしましょう」
セリアが扇子で口元を隠し、目を細める。
「我々で“勇者観察班”を作るのよ。
行動を逐一監視し、不審な接近を阻止する」
「わぁ、それ楽しそう」
「私たち、影から飛び出して『危険です!』って止める役ね」
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