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第三章 邪神教団と魔王
第十九話 心の距離
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食事会の会場は、冒険者御用達の賑やかな酒場。
長いテーブルの中央に座るティアの隣――その席に座るだけで、ロディアスは背筋をカチコチに伸ばしていた。
「お、おお……いい店だな……あはは……」
笑顔を作ろうとするが、口角がひきつっていて、まるで筋肉が痙攣しているようだ。
向かいの席でワインを注ぎながらアリスは小声で呟く。
「(やばい……ロディアス、固まりすぎ……このままじゃティア引くんじゃ……)」
横ではマイクが肉の塊を豪快に切り分けて、
「いやー! ここの鹿肉は最高だぜ!」
と、空気を完全に読まないマイペースぶりを発揮している。
さらにその横でバレスティーは、ゆったりと杯を揺らしながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
「いやぁ、若いってのはいいなぁ……こうしてお互いを意識しあってるのを見ると、胸があったかくなるわい」
「誰と誰がですか!?」とアリスが即ツッコミを入れるが、バレスティーはただ「ふぉっふぉっ」と笑うだけ。
一方のティアはというと、私服ではなくギルド嬢の制服で参加していた。
仕事が忙しくて着替える時間も無かった。
普段のギルド嬢らしい微笑みを保ちながらも、内心は少し複雑だった。
(……ロディアス、凄く緊張してる。
こっちまで、緊張しちゃうじゃない。)
それでも、ロディアスがわざわざ誘ってくれた事が嬉しくないわけじゃない。
だから、あえて軽く話題を振ってみる。
「ロディアス。
今回の調査旅の途中で何か面白いことはあったの?」
「えっ、あっ……ああ! えーと、その……う、馬が……転んだ!」
「……え?」
「あ、いや、あの、その……話の流れで!」
ロディアスの意味不明な返答にアリスはテーブルの下で足をバタつかせ、マイクは「馬が転んだってなんだよ!」と大笑い。
バレスティーは「うむ、良い思い出話じゃ」と完全に楽しんでいた。
そんな騒がしい空気の中、ティアの胸の奥にはほんの少しだけ、温かい感情が芽生えていた。
(……まったく、緊張し過ぎ!)
テーブルの上には香ばしい肉の香り、湯気を立てるスープ、煌めくワイン。
笑い声と食器の触れ合う音が混ざり合い、賑やかで温かな空気が漂っていた。
ロディアスはまだ緊張を引きずりながらも、少しずつ会話に参加し始めている。
「でな、その時マイクが――」
「ちょっと待て、俺をネタにすんな!」
そんなやりとりにアリスも笑い、バレスティーは「若いのは元気じゃのう」と嬉しそうに頷いていた。
ティアも口元に笑みを浮かべ、頷きながら話を聞いていた。
けれど――心の奥底では、別の波が静かに揺れている。
(……楽しい。
でも……私が魔王だって、ロディアスは知らない)
(このまま隠していていいの? もし知ったら……勇者である彼は、私を斬らなきゃいけなくなるかもしれない)
進化して神魔族となった時、ティアは初めて「人の愛情」という感情に触れた。
それは温かく、けれど脆く、どう扱えばいいのかわからないほどに繊細なもの。
(この気持ちが……もし本当に、愛情なら――私は、ロディアスという勇者に……どこまで向き合えるんだろう)
皆が笑う輪の中、ティアも笑顔を見せながらも、その瞳の奥では答えの出ない問いが渦を巻いていた。
楽しさと不安が交じり合い、心の中で静かにせめぎ合う。
そんなティアの胸中など知る由もなく、ロディアスは真っ直ぐな眼差しで彼女に話しかけた。
「ティア……今日は、来てくれてありがとう」
――その一言が、彼女の迷いにまた新しい色を落としていった。
夜の街は昼間の喧騒を忘れたかのように静かで、石畳の上を照らす街灯が温かな光を落としていた。
ティアはギルドの制服姿のまま、コツ…コツ…と規則的な足音を響かせながら歩く。
先ほどまでの食事会の笑い声が耳に残っていて、自然と口元が緩む――が、その笑みはすぐに薄れていった。
(……あんなに楽しい時間、久しぶりだった)
(ロディアスは、あんなに真っ直ぐで……でも、あの人は勇者)
勇者と魔王――立場だけ見れば、相容れない存在。
それなのに、彼と話していると、そんな境界線が薄れてしまうような気がする。
(私は魔王……。)
(もしロディアスが真実を知ったら、どうするんだろう)
胸の奥で、先ほどの「ありがとう」という彼の声が蘇る。
優しい声色。温かい眼差し。
あの瞬間、自分の中の何かがふっとほどけたような感覚があった。
(……これは、ラストルが言ってた“愛情”なの?)
(だとしたら、私は……)
ティアは立ち止まり、夜空を仰いだ。
星々が瞬くその光景は、人間界も魔界も関係なく、ただ美しくそこに在った。
その輝きが、彼女の迷いをさらに深くする。
やがてティアは小さく息をつき、再び歩き出した。
答えは出ないまま――けれど、心の奥ではもう、引き返せない何かが芽生えていることを、彼女は薄々感じていた。
翌日。
ティアはいつものようにギルドカウンターで依頼の受理と報告をこなしていた。
表情は普段通りの落ち着いた笑み――のはずだったが、内心では昨夜のことが何度もよみがえっていた。
(……まさか、こんなに引きずるとはね)
(顔を見たら、昨日の笑顔を思い出しそうで……)
そんな思考を振り払おうと書類を整理していると、ギルドの扉が勢いよく開かれる。
「おはよう、ティア!」
声の主は――ロディアス。
彼らしい爽やかな笑みを浮かべ、まっすぐに彼女のカウンターへと歩いてくる。
その後ろにはアリス、マイク、バレスティーの姿もあった。
「昨日は楽しかったな。
また……みんなで集まれたらいいなって思って」
「……そうだね。」
笑顔で返しながらも、ティアはほんの一瞬、視線を逸らした。
彼に悟られたくない――胸の奥のざわめきを。
「それと……」
ロディアスは少し照れたように頬をかきながら、声を潜める。
「……今度、また話せる時間が欲しい。
みんなじゃなくて、二人で」
一瞬、時が止まったような感覚。
ティアは反射的に、冗談めかしてかわそうとした。
「……ロディアス!調子に乗らないで。」
「えっと……その……」
慌てふためくロディアスに、アリスが呆れた顔でため息をつき、マイクが笑い、バレスティーが口元を押さえている。
ティアはそんな光景に思わず小さく笑ってしまった。
けれど、その笑みの裏で――彼女の胸の中には、昨夜から続くあの熱が静かに広がっていた。
長いテーブルの中央に座るティアの隣――その席に座るだけで、ロディアスは背筋をカチコチに伸ばしていた。
「お、おお……いい店だな……あはは……」
笑顔を作ろうとするが、口角がひきつっていて、まるで筋肉が痙攣しているようだ。
向かいの席でワインを注ぎながらアリスは小声で呟く。
「(やばい……ロディアス、固まりすぎ……このままじゃティア引くんじゃ……)」
横ではマイクが肉の塊を豪快に切り分けて、
「いやー! ここの鹿肉は最高だぜ!」
と、空気を完全に読まないマイペースぶりを発揮している。
さらにその横でバレスティーは、ゆったりと杯を揺らしながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
「いやぁ、若いってのはいいなぁ……こうしてお互いを意識しあってるのを見ると、胸があったかくなるわい」
「誰と誰がですか!?」とアリスが即ツッコミを入れるが、バレスティーはただ「ふぉっふぉっ」と笑うだけ。
一方のティアはというと、私服ではなくギルド嬢の制服で参加していた。
仕事が忙しくて着替える時間も無かった。
普段のギルド嬢らしい微笑みを保ちながらも、内心は少し複雑だった。
(……ロディアス、凄く緊張してる。
こっちまで、緊張しちゃうじゃない。)
それでも、ロディアスがわざわざ誘ってくれた事が嬉しくないわけじゃない。
だから、あえて軽く話題を振ってみる。
「ロディアス。
今回の調査旅の途中で何か面白いことはあったの?」
「えっ、あっ……ああ! えーと、その……う、馬が……転んだ!」
「……え?」
「あ、いや、あの、その……話の流れで!」
ロディアスの意味不明な返答にアリスはテーブルの下で足をバタつかせ、マイクは「馬が転んだってなんだよ!」と大笑い。
バレスティーは「うむ、良い思い出話じゃ」と完全に楽しんでいた。
そんな騒がしい空気の中、ティアの胸の奥にはほんの少しだけ、温かい感情が芽生えていた。
(……まったく、緊張し過ぎ!)
テーブルの上には香ばしい肉の香り、湯気を立てるスープ、煌めくワイン。
笑い声と食器の触れ合う音が混ざり合い、賑やかで温かな空気が漂っていた。
ロディアスはまだ緊張を引きずりながらも、少しずつ会話に参加し始めている。
「でな、その時マイクが――」
「ちょっと待て、俺をネタにすんな!」
そんなやりとりにアリスも笑い、バレスティーは「若いのは元気じゃのう」と嬉しそうに頷いていた。
ティアも口元に笑みを浮かべ、頷きながら話を聞いていた。
けれど――心の奥底では、別の波が静かに揺れている。
(……楽しい。
でも……私が魔王だって、ロディアスは知らない)
(このまま隠していていいの? もし知ったら……勇者である彼は、私を斬らなきゃいけなくなるかもしれない)
進化して神魔族となった時、ティアは初めて「人の愛情」という感情に触れた。
それは温かく、けれど脆く、どう扱えばいいのかわからないほどに繊細なもの。
(この気持ちが……もし本当に、愛情なら――私は、ロディアスという勇者に……どこまで向き合えるんだろう)
皆が笑う輪の中、ティアも笑顔を見せながらも、その瞳の奥では答えの出ない問いが渦を巻いていた。
楽しさと不安が交じり合い、心の中で静かにせめぎ合う。
そんなティアの胸中など知る由もなく、ロディアスは真っ直ぐな眼差しで彼女に話しかけた。
「ティア……今日は、来てくれてありがとう」
――その一言が、彼女の迷いにまた新しい色を落としていった。
夜の街は昼間の喧騒を忘れたかのように静かで、石畳の上を照らす街灯が温かな光を落としていた。
ティアはギルドの制服姿のまま、コツ…コツ…と規則的な足音を響かせながら歩く。
先ほどまでの食事会の笑い声が耳に残っていて、自然と口元が緩む――が、その笑みはすぐに薄れていった。
(……あんなに楽しい時間、久しぶりだった)
(ロディアスは、あんなに真っ直ぐで……でも、あの人は勇者)
勇者と魔王――立場だけ見れば、相容れない存在。
それなのに、彼と話していると、そんな境界線が薄れてしまうような気がする。
(私は魔王……。)
(もしロディアスが真実を知ったら、どうするんだろう)
胸の奥で、先ほどの「ありがとう」という彼の声が蘇る。
優しい声色。温かい眼差し。
あの瞬間、自分の中の何かがふっとほどけたような感覚があった。
(……これは、ラストルが言ってた“愛情”なの?)
(だとしたら、私は……)
ティアは立ち止まり、夜空を仰いだ。
星々が瞬くその光景は、人間界も魔界も関係なく、ただ美しくそこに在った。
その輝きが、彼女の迷いをさらに深くする。
やがてティアは小さく息をつき、再び歩き出した。
答えは出ないまま――けれど、心の奥ではもう、引き返せない何かが芽生えていることを、彼女は薄々感じていた。
翌日。
ティアはいつものようにギルドカウンターで依頼の受理と報告をこなしていた。
表情は普段通りの落ち着いた笑み――のはずだったが、内心では昨夜のことが何度もよみがえっていた。
(……まさか、こんなに引きずるとはね)
(顔を見たら、昨日の笑顔を思い出しそうで……)
そんな思考を振り払おうと書類を整理していると、ギルドの扉が勢いよく開かれる。
「おはよう、ティア!」
声の主は――ロディアス。
彼らしい爽やかな笑みを浮かべ、まっすぐに彼女のカウンターへと歩いてくる。
その後ろにはアリス、マイク、バレスティーの姿もあった。
「昨日は楽しかったな。
また……みんなで集まれたらいいなって思って」
「……そうだね。」
笑顔で返しながらも、ティアはほんの一瞬、視線を逸らした。
彼に悟られたくない――胸の奥のざわめきを。
「それと……」
ロディアスは少し照れたように頬をかきながら、声を潜める。
「……今度、また話せる時間が欲しい。
みんなじゃなくて、二人で」
一瞬、時が止まったような感覚。
ティアは反射的に、冗談めかしてかわそうとした。
「……ロディアス!調子に乗らないで。」
「えっと……その……」
慌てふためくロディアスに、アリスが呆れた顔でため息をつき、マイクが笑い、バレスティーが口元を押さえている。
ティアはそんな光景に思わず小さく笑ってしまった。
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