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第四章 闇の王国編
第二十五話 新たな旅立ち
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ロディアスの死から幾年。
ティアは魔界へ戻ることなく、人間の姿のまま、ひとり静かに生きていた。
80年近く、大きな街で暮らすことは無くただ、勇者の妻としての思い出と、愛する人を見送った寂しさを胸に、山間の家でひっそり暮らしていた。
ある日勇者ロディアスの後継者、ロイスがティアを訪ねて来た。
ロイスはロディアスの後継者にして、世界を守る若き勇者として覚醒した。
ロディアスは勇者継承の儀で持てる全てのスキルや経験をロイスに渡した。
彼はティアに声をかける。
「ティアさん。
久しぶりですね。
ロディアス師匠の事はお気の毒でした。
少し落ち着きましたか?」
「ロイス。
久しぶりね。
そうね。
ロディアスが亡くなって2年。
落ち着いたといえば落ち着いたかな。」
「あなたの事はロディアス師匠から聞かされてます。
俺が死んだら頼む!
と言い置かれましたけど。
あなたが人間でない事も知っています。
それを知った上でご相談があって来ました。」
「ロディアスたら、そんな事をあなたにお願いしてたの?
気にしなくて良いからね。
私、こう見えてかなり強いから。」
「ははは、そうですよね。
まあ、それはさて置き。
あなた方の功績を知る者はもう殆どいません。
ですが、ロディアス師匠は生前国王にティアさんの事を何とか人間界で平和に暮らせないかとお願いしていたらしく。
今頃になって国から住まいと報酬を出すと私を通じて連絡がありました。
是非、その家で住んでくれませんか?
師匠の願いでもありますし。」
「ロディアスがね。
分かったわ。
有り難く頂戴するわ。」
ロイスの言葉に背中を押され、ティアは再び人の営みへと戻る決意をする。
街で暮らす事になってティアは再び冒険者ギルドで働く事を考えている。
かつて幾度も訪れた場所で、今度は「新人受付嬢」として。
誰も彼女が80年前の戦乱を終わらせた勇者の妻だとは知らない。
そして、彼女自身もまた、ただの人間として静かに生きようとしていた。
ユスティティアの臣下たちも、それぞれの役割を果たしていた。
セリアは各国を巡り、異変を探る旅へ。
カインは魔界で分身体を補佐し、主の不在を支える。
ルシェルとリシェルは、いつも通りティアに寄り添う忠実な侍女として仕えていた。
国の計らいで、ティアたちには新しい家も与えられた。
静かな街の一角に、小さな庭付きの家。
そこから、再び物語は新しい展開を迎えていく。
ギルドの研修も終わり、新人受付嬢として、ティアの一日が始まった。
白いブラウスにネイビーのショートジャケット、膝上のプリーツミニスカート。足元は白いハイソックスに黒のパンプス、その甲には銀色のギルド紋章が輝いている。
またこの制服を着る日が来るとは思っていなかったが、着てみると本当に可愛い制服でテンションもマックスに上がる気分だった。
背中まで伸びる美しい金髪で清楚な制服に身を包んだ姿は、以前を知る者なら目を疑うかもしれない。
「おい、噂の新人さんってあの人か? すげえ美人じゃねえか!」
「受付に立ってるだけでギルドが華やぐな……」
「最近引っ越して来たらしいぜ?」
冒険者たちはひそひそと囁きながらも、依頼書を差し出すときには皆どこか緊張していた。
しかしティアはにこやかに微笑み、誰にでも丁寧に対応する。
その姿は、勇者の妻として歩んだ80年の経験が自然とにじみ出ているようだった。
――穏やかな、しかし確かに幸せな時間。
ロディアスと共に過ごした日々の延長のような、静かな暮らし。
だが、その日常は思わぬ報せによって破られる。
***
夜、仕事を終えたティアの家に、セリアが姿を現した。
久々に会う主の新しい家を見て、彼女は目を丸くする。
「……まさか、本当に人間の家を構えていらっしゃるとは。
しかも、国から与えられた立派なお住まいまで。」
「ふふ、いいでしょう?
セリアも住めるくらい広いわよ。」
「それは有り難いですが、今日はそれどころではありません。」
セリアの声はいつになく硬かった。
ティアもすぐにただならぬ雰囲気を悟る。
「西の国、バザルトン王国が……滅びました。」
ティアは一瞬、言葉を失った。
バザルトン王国――豊かな海運で財を成し、交易で栄えた小国。
その国が、数日で壊滅。
「まさか……邪神教団の残党?」
「いいえ。
報告によれば、彼らは海を越えて現れたのです。軍事国家サザルン王国――人々は彼らをこう呼んでいます。
……『闇の王国』と。」
ティアの胸に、冷たいものが流れ込む。
平和の中で生きると決めたはずなのに、また世界は大きく揺れようとしていた。
次の日。
ティアの家を、若き勇者ロイスが訪ねてきた。
彼は扉を開けた瞬間から、真剣な眼差しをティアに向けていた。
「ティアさん。
実は――お願いがあります。」
「お願い?」
ティアは訝しげに眉を寄せる。
「もう知られているかもしれませんが。
バザルトン王国が滅んだ件です。」
「……ええ。」
ロイスは頷き、言葉を続ける。
「国王陛下からの依頼で、僕はサザルン王国に潜入します。
ですが、僕一人では不安です。
……ティアさん、どうか力を貸してください。」
ティアは一瞬目を細め、首を振った。
「なるべくなら人間界に関わり過ぎないようにしたいのだけど。
……あなたのような若い勇者がいる訳だし、私の出る幕じゃないわ。」
しかしロイスは引き下がらなかった。
「ロディアスさんが言っていました。
『もし僕が困ったら、助けてやってくれ』って。
僕は勇者として強くなりました。
でも、まだあなたの知恵や経験が必要なんです。」
ティアの胸がちくりと痛む。
亡き夫の言葉を持ち出されては、断れるはずもない。
「……ずるいわね。
ロディアスの名前を出すなんて。」
「それでもお願いします。」
長い沈黙のあと、ティアはため息をついた。
「……わかったわ。
ただし、一度だけだからね。」
ロイスの表情が明るくなった。
「ありがとうございます!
実は――潜入方法について、既に決まっています。」
ティアは少し嫌な予感を覚えた。
「……どんな方法なの?」
「サザルン王国には、王立魔法学園《フェルミナンス学園》という機関があります。
最近は他国の貴族や優秀な人材を、国費で全て学ばせているんです。僕らはそこに……学生として潜入します。」
ティアは盛大に目を見開いた。
「――学生っ!?」
ロイスは真剣に頷く。
「学園にはサザルン王国の貴族や有力者の子息も通っています。
その中でも第一王子のエルリン。
彼らに接触すれば、国の内情を探れるはずです。
しかも、学生なら怪しまれない。僕もティアさんも、若く見えますから大丈夫です。」
「だ、大丈夫じゃないわよ!
今さら学生だなんて……そんな恥ずかしいことできるわけないでしょう!」
ティアは思わず声を荒げた。
ロイスは苦笑しつつも、強い目を向ける。
「ティアさんにしか頼めないんです。」
ティアは頭を抱えた。
本当は断りたい。
だが、一度「行く」と言ってしまった手前、今さら翻せない。
なにより――ロディアスとの約束が胸を離れなかった。
「……はあ。仕方ないわね。
そこまで言うなら付き合ってあげる。」
ロイスの顔に安堵と感謝の色が広がる。
「ありがとうございます、ティアさん!
一緒なら心強いです!」
「……でも、本当に学生なんてやらされるのか。……ああ、嫌だ嫌だ。」
ティアは頬を赤らめ、誰にも聞こえないように小さくぼやいた。
ティアは魔界へ戻ることなく、人間の姿のまま、ひとり静かに生きていた。
80年近く、大きな街で暮らすことは無くただ、勇者の妻としての思い出と、愛する人を見送った寂しさを胸に、山間の家でひっそり暮らしていた。
ある日勇者ロディアスの後継者、ロイスがティアを訪ねて来た。
ロイスはロディアスの後継者にして、世界を守る若き勇者として覚醒した。
ロディアスは勇者継承の儀で持てる全てのスキルや経験をロイスに渡した。
彼はティアに声をかける。
「ティアさん。
久しぶりですね。
ロディアス師匠の事はお気の毒でした。
少し落ち着きましたか?」
「ロイス。
久しぶりね。
そうね。
ロディアスが亡くなって2年。
落ち着いたといえば落ち着いたかな。」
「あなたの事はロディアス師匠から聞かされてます。
俺が死んだら頼む!
と言い置かれましたけど。
あなたが人間でない事も知っています。
それを知った上でご相談があって来ました。」
「ロディアスたら、そんな事をあなたにお願いしてたの?
気にしなくて良いからね。
私、こう見えてかなり強いから。」
「ははは、そうですよね。
まあ、それはさて置き。
あなた方の功績を知る者はもう殆どいません。
ですが、ロディアス師匠は生前国王にティアさんの事を何とか人間界で平和に暮らせないかとお願いしていたらしく。
今頃になって国から住まいと報酬を出すと私を通じて連絡がありました。
是非、その家で住んでくれませんか?
師匠の願いでもありますし。」
「ロディアスがね。
分かったわ。
有り難く頂戴するわ。」
ロイスの言葉に背中を押され、ティアは再び人の営みへと戻る決意をする。
街で暮らす事になってティアは再び冒険者ギルドで働く事を考えている。
かつて幾度も訪れた場所で、今度は「新人受付嬢」として。
誰も彼女が80年前の戦乱を終わらせた勇者の妻だとは知らない。
そして、彼女自身もまた、ただの人間として静かに生きようとしていた。
ユスティティアの臣下たちも、それぞれの役割を果たしていた。
セリアは各国を巡り、異変を探る旅へ。
カインは魔界で分身体を補佐し、主の不在を支える。
ルシェルとリシェルは、いつも通りティアに寄り添う忠実な侍女として仕えていた。
国の計らいで、ティアたちには新しい家も与えられた。
静かな街の一角に、小さな庭付きの家。
そこから、再び物語は新しい展開を迎えていく。
ギルドの研修も終わり、新人受付嬢として、ティアの一日が始まった。
白いブラウスにネイビーのショートジャケット、膝上のプリーツミニスカート。足元は白いハイソックスに黒のパンプス、その甲には銀色のギルド紋章が輝いている。
またこの制服を着る日が来るとは思っていなかったが、着てみると本当に可愛い制服でテンションもマックスに上がる気分だった。
背中まで伸びる美しい金髪で清楚な制服に身を包んだ姿は、以前を知る者なら目を疑うかもしれない。
「おい、噂の新人さんってあの人か? すげえ美人じゃねえか!」
「受付に立ってるだけでギルドが華やぐな……」
「最近引っ越して来たらしいぜ?」
冒険者たちはひそひそと囁きながらも、依頼書を差し出すときには皆どこか緊張していた。
しかしティアはにこやかに微笑み、誰にでも丁寧に対応する。
その姿は、勇者の妻として歩んだ80年の経験が自然とにじみ出ているようだった。
――穏やかな、しかし確かに幸せな時間。
ロディアスと共に過ごした日々の延長のような、静かな暮らし。
だが、その日常は思わぬ報せによって破られる。
***
夜、仕事を終えたティアの家に、セリアが姿を現した。
久々に会う主の新しい家を見て、彼女は目を丸くする。
「……まさか、本当に人間の家を構えていらっしゃるとは。
しかも、国から与えられた立派なお住まいまで。」
「ふふ、いいでしょう?
セリアも住めるくらい広いわよ。」
「それは有り難いですが、今日はそれどころではありません。」
セリアの声はいつになく硬かった。
ティアもすぐにただならぬ雰囲気を悟る。
「西の国、バザルトン王国が……滅びました。」
ティアは一瞬、言葉を失った。
バザルトン王国――豊かな海運で財を成し、交易で栄えた小国。
その国が、数日で壊滅。
「まさか……邪神教団の残党?」
「いいえ。
報告によれば、彼らは海を越えて現れたのです。軍事国家サザルン王国――人々は彼らをこう呼んでいます。
……『闇の王国』と。」
ティアの胸に、冷たいものが流れ込む。
平和の中で生きると決めたはずなのに、また世界は大きく揺れようとしていた。
次の日。
ティアの家を、若き勇者ロイスが訪ねてきた。
彼は扉を開けた瞬間から、真剣な眼差しをティアに向けていた。
「ティアさん。
実は――お願いがあります。」
「お願い?」
ティアは訝しげに眉を寄せる。
「もう知られているかもしれませんが。
バザルトン王国が滅んだ件です。」
「……ええ。」
ロイスは頷き、言葉を続ける。
「国王陛下からの依頼で、僕はサザルン王国に潜入します。
ですが、僕一人では不安です。
……ティアさん、どうか力を貸してください。」
ティアは一瞬目を細め、首を振った。
「なるべくなら人間界に関わり過ぎないようにしたいのだけど。
……あなたのような若い勇者がいる訳だし、私の出る幕じゃないわ。」
しかしロイスは引き下がらなかった。
「ロディアスさんが言っていました。
『もし僕が困ったら、助けてやってくれ』って。
僕は勇者として強くなりました。
でも、まだあなたの知恵や経験が必要なんです。」
ティアの胸がちくりと痛む。
亡き夫の言葉を持ち出されては、断れるはずもない。
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ロディアスの名前を出すなんて。」
「それでもお願いします。」
長い沈黙のあと、ティアはため息をついた。
「……わかったわ。
ただし、一度だけだからね。」
ロイスの表情が明るくなった。
「ありがとうございます!
実は――潜入方法について、既に決まっています。」
ティアは少し嫌な予感を覚えた。
「……どんな方法なの?」
「サザルン王国には、王立魔法学園《フェルミナンス学園》という機関があります。
最近は他国の貴族や優秀な人材を、国費で全て学ばせているんです。僕らはそこに……学生として潜入します。」
ティアは盛大に目を見開いた。
「――学生っ!?」
ロイスは真剣に頷く。
「学園にはサザルン王国の貴族や有力者の子息も通っています。
その中でも第一王子のエルリン。
彼らに接触すれば、国の内情を探れるはずです。
しかも、学生なら怪しまれない。僕もティアさんも、若く見えますから大丈夫です。」
「だ、大丈夫じゃないわよ!
今さら学生だなんて……そんな恥ずかしいことできるわけないでしょう!」
ティアは思わず声を荒げた。
ロイスは苦笑しつつも、強い目を向ける。
「ティアさんにしか頼めないんです。」
ティアは頭を抱えた。
本当は断りたい。
だが、一度「行く」と言ってしまった手前、今さら翻せない。
なにより――ロディアスとの約束が胸を離れなかった。
「……はあ。仕方ないわね。
そこまで言うなら付き合ってあげる。」
ロイスの顔に安堵と感謝の色が広がる。
「ありがとうございます、ティアさん!
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