毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第四章 闇の王国編

第二十七話 ザザルン王国へ

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出発前のギルド

ギルドマスター室。
ロイスが書類を受け取り、ギルドマスターと硬い握手を交わす。

「……ティア嬢はこちらの管轄外になる。
派遣扱いで処理しておいたが、任務の詳細は各所には伏せてある。」
「助かります、ギルドマスター。」

一方、自宅ではティアがルシェルとリシェルに荷物を詰めてもらっている。
「ふふ、なんだか修学旅行に行く子みたいですね、主様」
「お姉様、余計なこと言わないで! 
ティア様は“学生潜入”なんですから、ある意味当たりですよ」

「…………もう、恥ずかしいったら。」ティアは頬を赤らめ、そっぽを向いた。

そこへセリアが姿を現す。
「準備は整いましたか?」
魔界からカインも合流いたしました。
護衛の剣士という設定で同行します。」

扉の影から現れたカインは、剣を腰に下げた凛々しい姿だった。
「護衛役か……悪くはない。
だがティア様の側に控えるというよりは、暴走を止める役に回りそうだな。」

「ちょっとカイン!」ティアが思わず抗議する。
ルシェルとリシェルはクスクス笑い、セリアは無言で肩をすくめた。



ザザルン王国へ

数日かけて陸路を進み、一行は国境を越え、海沿いの大きな港町へ辿り着く。

港には帆船が並び、潮風と共に異国の香りが漂っていた。
ロイスが帆船を指さしながら言う。
「あれが我々を運ぶ船です。
サザルンへ直行する唯一の航路になります。
普通は厳重な審査がいるのですが……今回は“王立学園への留学生”という名目で通されます。」

ティアは潮風に金髪をなびかせながら、どこか憂いのある目で海を見つめる。
「……いよいよね。サザルン王国、闇の王国か。」

ロイスは真剣な面持ちで頷いた。
「潜入は危険かもしれません。
でも、ティアさんが一緒ならきっと道は開けます。
僕はそう信じてます。」

セリアは視線を鋭く海の向こうに向け、カインは無言で剣の柄に手を置く。
そしてルシェルとリシェルは、そんな緊張感をよそに「船旅だ~!」と弾んだ声を上げていた。

こうしてティアとロイス一行は、サザルン王国へ――“闇の王国”の舞台へと歩みを進めた。


ティアは船室に戻り、ロイスが準備してくれたセーラータイプの制服に袖を通した。
真っ白な生地に紺の襟、赤と金のラインが映えて高貴な雰囲気を纏う。
ミニ丈のスカートに、学章の入った紺のハイソックス――。

ロイスが船室に入るなり目を丸くする。
「……こ、これは……似合いすぎて言葉が出ない……!」
ルシェルとリシェルは両手を合わせて歓声を上げた。
「きゃー! 主様、天使です!」
「いえ、これはもう天上の女神そのものです!」
セリアは顔を赤くして目を逸らしながら小さく呟いた。
「……やっぱり、ティア様は、何を着てもお美しい……」
ティアは「ありがとう。」と少し照れている。


その夜。
ティアとロイスが食堂で打ち合わせをしている間、船室に残ったセリアは机の上に畳まれていた制服をじっと見つめていた。

「……ちょ、ちょっとだけ……」
抑えきれない衝動に駆られ、セリアは制服を身に纏ってしまう。
鏡に映った自分を見て、思わず頬が赤くなる。
「……わ、私でも……似合って……」

そこへ船室の扉がガチャリと開いた。
「ただいま――」
帰ってきたティアが制服姿のセリアを見て、固まった。

数秒の沈黙。
セリアもまた固まる。
「……」
「……」

やがてティアは無言で踵を返し、バタンッ!と勢いよく扉を閉めた。

「し、主様ぁぁぁぁぁ!お許しをぉぉぉぉ!」
セリアの泣き叫ぶ声が船中に響き渡る。

異変を察してルシェルとリシェルが飛び込んできた。
「わぁ! セリアも着ちゃったんですか!」
「ずるいです! 私も着たかったです!」
「ちょっ……やめ……ひゃあぁぁぁぁ!」

船室の中は制服を巡って大騒ぎの大乱闘。

一方ティアは――
甲板をとぼとぼ歩きながら、夜風に髪をなびかせていた。
「……ほんと、うちの子たち、どうしてこうなのよ……」
と小さくため息をつくのだった。


次の朝。
潮風を浴びながら甲板に出たティアは、どこまでも続く水平線に目を細めていた。

その時――
空気が歪み、甲板に黒い光陣が走る。
次の瞬間、四人の覆面の男たちが転移してきた。

「……ふぅん、転移術式ね」
ティアは一歩も動じない。

男たちはティアを囲み、声を荒げた。
「この船に勇者が居るだろう!」

「ええ、居ますけど。
呼んできましょうか?」
あまりに落ち着いた返答に、男の一人が逆上する。

「ふん! 呼んでくるだと? 
ひ弱な女が何を余裕ぶってやがる!」

ティアが口を開きかけたその時――
「ティアさん、どうしました? 
朝ごはんですよ」
ロイスが甲板に現れた。

「ああ、ロイス。
この人たち、貴方に用があるみたいよ」

男たちはすぐさまロイスを睨み据えた。
「お前が勇者か!」

「そうだけど……何か用?」
ロイスが眉をひそめると同時に、四人は甲板に見たこともない術式を展開した。

ロイスとティアの足元に複雑な紋様が走り、淡い光が絡みつく。
「かかったな! 
動けまい! 
これは行動停止の術式だ!」
四人は勝ち誇ったように笑う。

ティアとロイスは顔を見合わせる。
ティアが肩をすくめて、淡々と尋ねた。
「ところで、あなたたちは何者なの?」

「ふふふ……闇の組織とだけ答えておこう。
死ぬ者に名乗る意味はない!」

「そう。
じゃあ、ロイス。
あとはお願いね」
ティアは何事もなかったかのように、すっと甲板を離れ、船室へ戻っていった。

「な、なぜ動ける!?」
「馬鹿な、術式が効かないだと!?」

ロイスは腰の剣を抜き、静かに呟いた。
「……もういいか?」

――閃光一閃。
次の瞬間、四人は呻き声を上げる暇もなく地面に崩れ落ちた。

ロイスは剣先を下ろし、倒れた者に問いかける。
「お前たちの目的は何だ。
誰に命じられた」

しかし、男たちの口から答えが漏れることはなかった。
毒が仕込まれていたのか、血を吐いて動かなくなっていく。

「……自決用の毒か。徹底してるな」
ロイスは眉をひそめた。

船室に戻り、ティアと合流する。
二人は簡潔に結論を出した。

――闇の組織。
――闇の王国。
両者の関係は未だ不明。
だが、この先に何が待ち受けるかは、予測すらできない。

船は静かに波を切り、ザザルン王国へと進んでいくのだった。

ザザルン王国の港が近づく。
水平線の向こうに見え始めた白い塔や街並みを目にしながら、ティアの胸には――不安と、そして小さな期待が同居していた。

「……船旅、か」

思わずこぼれた独り言に、懐かしい記憶が蘇る。
かつて、ロディアスと共に海を渡った日々。
表向きはダンジョン巡りの過酷な旅路だったが、船の中だけは穏やかな時間が流れていた。

甲板で二人きり、潮風を浴びながら笑い合ったこと。
食堂で、ロディアスが不器用に食器を並べて「今日は俺が給仕だ」とはしゃいでいたこと。
ティアを退屈させまいと、いつも新しい話題を探しては――その眼差しは、決してティアを離さなかった。

(あの人は、私を……笑顔にすることを、いつだって忘れなかった)

胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
だが、ティアは深呼吸して顔を上げた。

やがて、船は港へと静かに滑り込む。
喧騒と潮の匂いが一気に押し寄せ、甲板に歓声が響いた。

「――ザザルン王国」
ティアは小さく呟き、初めての国に足を踏み出す。
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