毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第四章 闇の王国編

第二十八話 魔法学園

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港に着いたティアとロイスは、貴族風の衣装に着替え、臣下たちも従者やメイド服に身を包む。
現地で待っていたコーディネーターの案内で、彼らは黒塗りの車へと導かれた。

「……こ、これは何ですか?」
セリアが扉を見つめて固まる。

「馬車にしては……随分と鉄の匂いがします」
カインは眉をひそめ、ボディを軽く叩いてみる。ゴン、と鈍い音。

「きゃっ! 動きました!」
リシェルが思わず声を上げる。
車がエンジン音を立てて走り出した瞬間、全員の体がシートに押し付けられた。

「ま、魔物の仕業でしょうか!?」

「違うわよ!」ティアは慌てる二人をなだめつつ、目を丸くしたまま外を眺める。

ロイスは苦笑しながら口を開いた。
「打ち合わせでも話しましたが、ザザルン王国は魔道技術を産業の中心にしています。
この車も魔道動力で動いているんですよ」

窓の外を指さすと、そこには不思議な光景が広がっていた。
自動で動く歩道に、ひとりでに開閉するドア。
高層の建物の間を、光を帯びた箱が空中を移動している。

「……歩道が、勝手に流れている……」

「ドアが勝手に……っ!? あ、また勝手に閉じた!」
臣下たちが右往左往するのを見て、ティアは思わず吹き出しそうになる。

「ふふ……なるほど、馬車も顔負けね」

ロイスはそんなティアに笑みを返しつつ、説明を続けた。
「科学技術も優秀で、今回潜入する学園は、そうした魔道技術と科学を融合させた研究を行っています。
もちろん基礎的な魔法も学べますよ」

「……魔界の魔王会議よりも、よほど頭が痛くなりそうです」
カインがぼそりと呟き、ルシェルとリシェルがくすくす笑う。

そうして驚きと感嘆の連続のまま、車は学園寮の前に到着した。

ロイスは淡々と続けた。
「今回、僕は二年生に転入。
そしてティアさんは一年生になります。
以前も説明しましたが、僕たちはアインレット王国リブン侯爵家の兄妹という設定です。
必要な書類や学生用の身分証明端末はセリアさん達に預けてあるので、後ほど受け取ってください」

「……つまり、ロイスがお兄様になるのね。
わかってるわ」
ティアは真剣な顔で頷く。

ロイスは少し苦笑して肩をすくめる。
「まあ、見た目で言えば、ティアさんの方が明らかに若く見えますし……勝手にそのようにさせていただきました」

ティアは唇に指をあて、少し考えるように首を傾げた。
「じゃあ……ロイスは私を“ティア”と呼んでね。
私は“ロイスお兄様”って呼ぶのがいいかしら」

「ロイスで大丈夫ですよ。
呼び方はお任せします」

「ふふ、そう? 
でも……“お兄様”って呼ぶと何だか楽しいじゃない」
ティアが小悪魔のように笑うと、セリアたちは顔を見合わせ、そわそわした。

ティアはしばし沈黙し、ひとりで悩み始める。
「さて……学園ではどんなキャラで過ごそうかしら。
強気キャラ? 
それともお淑やか? 
……いっそシスコンキャラでもいいかも」

「……ティアさん、いや、ティア。
そこは勝手にシスコンを押しつけないでください」

「え~? 可愛い妹が“お兄様だいすき!”って言ったら、学園内で株が爆上がりすると思うのだけど?」

ロイスは額を押さえた。
「むしろ僕の胃が爆発しそうです……」

セリアは困ったように笑いながらも、少し羨ましげにティアを見つめていた。
ルシェルとリシェルは「シスコンキャラもいいかもね!」と小声で囁き合って、ティアの背中を煽る。

ひと通り話を終えるとティア達は降り立った。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の寮の管理人だった。

「お待ちしておりました。
アインレット王国リブン侯爵家のお二人ですね。
こちらが本日からお使いいただく寮になります」

そう言って案内されると、ティアはにこやかに微笑んで深々とお辞儀した。
「ご丁寧にありがとうございます。
お兄様と共に、この学園で学べることをとても光栄に思いますわ」

管理人は少し驚いたように瞬きをして、すぐに笑顔を浮かべる。
「……なんと礼儀正しい。
まさに名門リブン侯爵家のお嬢様だ」

(ふふ……完璧なお淑やかキャラ。
ここからが勝負よ!)
ティアは内心でガッツポーズを決めながらも、外見は優雅に振る舞っていた。

ロイスが苦笑いしつつ頷く。
「妹は人見知りですが、慣れればすぐに皆と打ち解けると思います。
どうぞよろしくお願いします」

「お兄様ぁ……」
ティアはうっとりとした視線でロイスを見上げ、そっと腕に触れる。
セリアは横で「ひぃっ……」と顔を赤くし、ルシェルとリシェルは肩を揺らしながら笑いをこらえていた。

管理人は「実に仲の良いご兄妹で」と微笑ましく受け取っている。

ティアは心の中で(よし!“お淑やかシスコン妹キャラ”、これで完璧!)と自画自賛していた。

寮内と学園敷地内では必ず制服着用が義務付けられている。
就寝前以外は制服なのだ。
ティアは身だしなみを整えると部屋を出た。
そして、やはり女子寮のトップに挨拶をしなくてはならない。
寮長には特別な執務室の様な部屋が用意されている。

ティアは制服のスカートを整え、緊張しながらドアをノックした。

「どうぞ」

中から澄んだ声が聞こえ、ティアはゆっくりドアを開ける。
部屋の中には、長い金髪をきちんとまとめた女性が座っていた。
姿勢は凛として、表情は落ち着いている。
まさに伯爵家の長女らしい風格だ。

「初めまして。
わたくし、リブン侯爵家の長女、ティア・リブンと申します。
本日より女子寮でお世話になりますので、ご挨拶に伺いました」

ティアは深々とスカートをつまみ、優雅なカーテシーをしてみせた。

マリーアンヌは少し目を見開き、すぐに穏やかな微笑みを浮かべる。
「まぁ……。
ご丁寧にありがとう。
わたくしはこの寮の寮長を務めております。
アーシェリー伯爵家のマリーアンヌと申します」

「お会いできて光栄ですわ、寮長様」

「ふふ、堅苦しい挨拶は抜きにしてくださって大丈夫。
ここでは同じ生徒同士、家の格式よりも協力と礼儀を重んじますから」

マリーアンヌはそう言いながらティアを椅子に勧め、紅茶を注いでくれた。

「それにしても……あなたのご兄弟仲は、随分と良いそうですね?」

「――ええ、お兄様はわたくしにとって世界で最も大切なお方ですの」

ティアはにっこりと微笑み、わざとらしく両手を胸の前で組んでみせる。

(キャラを徹底しなきゃ……!ここでぶれたら全部台無しだわ!)

マリーアンヌは一瞬きょとんとした後、くすりと上品に笑った。
「ふふ、可愛らしい妹さん。
寮生活でも、あなたならすぐに皆に好かれるでしょうね」

ティアは内心ホッとしつつも、(……シスコンキャラで突き抜けた方が、むしろ印象は良いかもしれないわね)と決意を固めるのだった。

ティアは制服のスカートを揺らしながら広間に足を踏み入れた。
そこは学生たちの憩いの場で、壁際の本棚や暖炉、大小さまざまなソファーが配置され、すでに多くの女子生徒たちが談笑していた。

「まあ、可愛い子が来たわよ」
「見ない顔ね、新入生かしら」

ちらちらと視線が集まり、ざわめきが広がる。

ティアはにこやかに一礼し、落ち着いた声で挨拶した。
「本日より寮でお世話になります、ティア・リブンと申します。
どうぞよろしくお願いいたしますわ」

その仕草は優雅で、自然と周囲の生徒たちの好奇心をくすぐる。

「リブン侯爵家って、あの……?」
「本当に? すごい家柄じゃない」
「でもすごく上品……」

噂好きの生徒たちがひそひそと話し合う。

ティアはにこやかに笑いながら、わざと声を弾ませるように言った。
「ええ、わたくしはお兄様とご一緒に、この学園で学ぶことになりましたの。
……お兄様は本当に素晴らしい方で、常にわたくしを導いてくださるのですわ」

(シスコンキャラを押し出すのよ、ティア!ブレては駄目!)

「まあ……!仲の良いご兄妹なのね」
「羨ましいわ、うちの弟なんてお菓子ばかり食べて……」
「わかる~!兄なんて部屋に入るなって怒鳴るばっかりよ」

場が一気に和み、笑いが広がっていった。
ティアは内心ほっとしつつも、
(よし、このキャラなら女子生徒の輪に自然に入れるわね)
と確信するのだった。
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